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救世の召喚者  作者: 五月 和月
36/51

36 竜人族の里


今日もお読み下さりありがとうございます!

「先程の無礼、改めてお詫びします。お三方ともお怪我はございませんか?」


 キーラ・マキシミリアに、正確にはユナに転移で連れて行かれた場所で改めて聞かれた。


 ここは三方が素通しになった東屋のような建物。床は濃い茶色の板張りで天井は高い。通り抜ける風が心地よく感じる。


 唯一壁がある方に置かれた、植物の蔓で出来た大きな椅子にキーラが座っている。その左右には先程の守り人とは違う、落ち着いているが油断のない目をした男たちが立っていた。


 俺たちはキーラの向かいに置かれた、これも蔓を編んで作られたソファに腰掛けている。座面と背中にクッション素材が使われているので、見た目からは想像できない程座り心地が良い。


「俺たちは大丈夫です。それより、怪我をさせたし剣も折ってしまった。すみません」


「お気になさらず。先程使ったのは治癒魔法ですか?」


「いえ、再生魔法とでも言いますか。対象の時間を少し戻す魔法です。俺は『リワインド』と勝手に呼んでます」


「時間を戻す・・・?そのような事が可能なのですか?」


「ええ。治癒魔法が使えればそっちの方が遥かに便利だと思いますが・・・俺には治癒が使えなくて」


 本当のところは、治癒魔法を使おうとして偶然再生魔法が使えるようになっただけなのだけど。


 何回目の召喚か忘れたが、一緒に居た者が怪我をして、治癒魔法を使える者が居なかった。過去に見た治癒魔法を思い浮かべ、傷が塞がるのをイメージしながら魔法を掛けたら傷が塞がった。


 その時は、俺も治癒魔法が使えるようになったと喜んだ。しかし、後日病気の人に掛けてもあまり効果がなかった。多少具合が良くなる程度で。


 それからしばらくして、うっかり落として壊してしまった花瓶に慌てて同じ魔法を掛けてしまったところ見事に花瓶が再生した。それから色々試してみて、どうやら対象の時間を少し戻しているらしいと分かった。


「魔力の消費が半端ないので・・・怪我や病気の治療には治癒魔法の方が遥かに優秀だと思いますよ」


「そうなのですね・・・そのような魔法は初めて見ました」


「ところで、俺に話があるそうで・・・」


「そうです、ユウト・マキシミリア。あなたは、次の族長候補の一人なのです」


 俺の腕に置かれたルルの右手にきゅっ!と力が入る。


「候補と言う事は他にも居るって事ですね。俺は異世界から来たばかりで、竜人族の事は何も知りません。だからそういう話でしたらお断りします」


 ルルの隣で立って話を聞いていたユナが俺をキっ!と睨むのが視界の端に映った。


「まぁ、そう言うのも分かります。まずはあなたの両親の事を話さなければならないでしょう。それから決めても遅くはないと思いませんか?」


 そう穏やかに言われると無碍に断れない。両親の事にも興味がある。


「分かりました。聞かせて下さい、両親の事」


 それからキーラは俺の両親の事を教えてくれた。





 父、リクト・マキシミリア。母、ユイ・プラウドリア。


 リクトは、竜人族の始祖、ドラグノイド・マキシミリアの直系としては千年ぶりに生まれた男子だった。


 竜人族は長命だが繁殖力が弱いという欠点がある。更に、マキシミリアの直系は男子に恵まれる事が少ない。


 里はリクトの誕生に大いに沸いたと言う。始祖の血を絶やさない事は、竜人族の使命の一つだから。


 生まれた時から大事にされ、期待されたリクトだったが、優しく真面目、そして強い青年に成長した。そしてユイと恋に落ちる。


 二人の子供が期待され始めた頃、里を襲う者が現れた。外部から分からない筈の里に易々と侵入したそれらは、神の眷属を名乗り、リクトの命を寄こせと言って来た。


 それら神の眷属たちは、ユルムントの精霊の力を宿し、人外の力を振るった。竜人族は多くの死者を出したが、突如現れた始祖が神の眷属を退けた。


「ちょ、ちょっと待って!竜人族の始祖って、その時まだ生きてたんですか!?」


「はい。今もご存命ですよ。ユウト、あなたも既に会っています」


 今も生きてる?しかも会ってるって?


 俺の頭の中で色んな顔が次々に映し出される。そして、ある人物の所でぴたっと止まった。黒髪をオールバックに固めて金色の瞳をした、およそ人とは思えない威圧感を放つ男。


「黒竜・・・?」


「この里以外ではそう呼ばれていらっしゃるようですね」


「えーと・・・竜人族は皆、竜に変身できるんですか?」


「いいえ、まさか!始祖様は門外不出の儀式を行って竜化を獲得されたのです。寿命を伸ばし、この里とこの世界を守るために」


「寿命を・・・その、始祖様はどれくらいのお歳で?」


「正確には存じません。恐らく三~四万年ではないかと」


「四万!?」


 俺は思わずアスタを見た。アスタは腕組みをして目を閉じている。


 四万年も生きるなんて、そんな事が可能なのか?可能だとして、そんなに長く生きるってどんな気持ちなんだろう・・・


「話をあなたの両親に戻しましょう」


 その後も里は神の眷属によって何度も襲われた。その度に始祖が退けてくれたらしい。


 そしてリクトは、これ以上里に被害を出さぬ為、神の眷属の力が及ばない異世界への転移を決意した。


「召喚が行われる時、ユルムントと異世界の間で次元の扉が開きます。それを利用すれば、こちらから向こうへ転移出来るのです」


 とは言え、それは誰にでも出来るような事ではなかった。竜人族の強靭な肉体と、始祖の膨大な魔力を借りる事で成し得たらしい。


「それが今から七十八年前の出来事です」


 七十八年前と言えば、日本では太平洋戦争の只中だ。なるほど、戦中戦後の混乱で日本人の戸籍を手に入れたと考えれば納得も行く。


 その後はどのように誤魔化していたのかは分からない。周囲の人と同じようには歳をとらない二人。住む場所を変え、もしかしたら一度死んだ事にして・・・


「ユウト。あなたを召喚した召喚陣は、本当はリクトとユイを召喚するためのものだったのです」


「そうだったのか・・・両親は死んだから・・・俺が・・・」


 何とも言えない複雑な気持ち。この人たちは、俺ではなく父さんと母さんに会いたかったのだ。二人が死んだ事を知らないから、その二人の為に召喚陣に魔力を込めた。それに呼応して召喚されたのが俺だったと言う訳だ。


「そうですか・・・リクトとユイは・・・」


「はい、三十四年前に。事故で亡くなりました」


「それは・・・あなたも辛かったでしょうね。私は・・・リクトは私の息子なのですよ」


「父さんが息子・・・って事は、俺の・・・」


「お婆ちゃんと呼ぶのは許しませんよ?まだそんな歳ではないのだから」


 キーラが微笑みながら俺に慈しみの目を向ける。そう言われても実感は湧かない。ずっと天涯孤独だと思って生きて来たのだから、突然「私があなたのおばあちゃんよ」と言われてもなぁ。


 と、隣のルルが突然立ち上がった。


「は、はじめまして!ルルアージュと申します。ルルと呼んで下さい。ユウト様の、その、妻になります。よろしくお願いいたします」


 上体を九十度折り曲げて最敬礼をするルル。キーラはそんなルルを微笑んだまま見ている。


「まぁ。ルルさん、こちらこそよろしくね」


 ルルがガバっ!と上体を起こし、満面の笑顔になる。


「そちらのお嬢さんとはどんなご関係なのかしら?」


 キーラがアスタを見ているが、アスタは相変わらず腕組みして目を閉じたままだ。


「キーラ様、こちらは次元の神、ディアスタシス様です」


 ユナが代わりに答えた。


「まぁ!ディアスタシス様、お初にお目にかかります。竜人族の族長、キーラ・マキシミリアでございます。なぜ下界でユウトとご一緒に?」


 アスタが腕組みを解き、ようやく目を開けた。


「ま、まあ・・・成り行きじゃな。下界に来た訳はいずれ時が来れば語るとしよう」


 うーん。なんだかアスタらしくない。出来るだけ関わりたくないというような雰囲気を感じる。


「後ほど、心ばかりの宴を用意しておりますので、しばしお待ちを。それでユウト、族長候補の件はどうですか?」


「両親の事を教えてくれたのには感謝します。でも、それとこれは別だ。さっきも言った通り、俺はこの世界に来たばかりで、自分が竜人族だと言うのも昨日知ったくらいです。


竜人族の事も、この里の事も何も知りません。そんな俺が族長候補なんて・・・それに俺はどこかのトップになるような柄じゃないので」


「そうですか・・・まあ急ぐ必要はありませんから、この話は一度忘れて下さいな。ではもう一つのお願いを聞いてくれますか?」


「はい、何でしょう?」


「そこのユナと、子を成して下さい」


「「「はい?」」」


 俺とユナ、そしてルルが同時に疑問の声を上げた。


「だから、ユナと子供を作って欲しいと言ったのです」


「いや、俺はルルというれっきとした妻がいますから・・・」


「族長!?私、そんな話聞いてませんけど!?」


「まあ、二人とも落ち着きなさい。ルルさんも気を悪くしないでね?何も結婚しろと言ってる訳じゃありません。竜人族の為に子供を作って欲しいと言っているのです」


 それが問題だって言ってんだよ!どこの世界に、妻の前で他の女と子作りしろって言うお婆ちゃんが居るんだよ!


「気を悪くするどころか、ルルは嬉しいです!」


「「ちょっと!?ルル?」ちゃん?」


「だって、ユウト様が族長様から認められたって事じゃないですか、ユナさんの番の相手に。強い雄が雌を何人も養うのはむしろ当たり前の事です」


 そうなの?それがユルムントでは常識なの?ふとユナを見ると俺と目が合った。途端に顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「ユナ。今すぐと言ってる訳ではないですよ?これからユウトと行動を共にしなさい。しばらく一緒に過ごして、それでもどうしても駄目と言うなら考えます。これは族長命令です」


「・・・はい」


 俺の気持ちは?ねえ、俺の気持ちとかはどうでも良い感じですか?


 俺が何も言えないまま口をパクパクさせ、キーラとユナを見ているうちに、大勢の人が食事を運び込み始めた。


 座っていたソファが運び出され、日本の旅館の広間での宴会のように、コの字にお膳が並べられていく。


 キーラが上座の真ん中に、その右側に俺、ルル、アスタ、ユナが並べられる。キーラの左側はずっとキーラの左右に立っていた男たち、そしてその妻と思われる何人もの女性たち。そしてコの字の上と下の棒に当たる所にも、たくさんの人々が集まる。


 幸いにも、里に入った途端難癖を付けてきた八人の顔は見当たらない。


「皆、よく集まってくれました。今日はとても目出度い日です。始祖様の血は絶える事なく、この里に帰って来てくれました。憶えている者も多いでしょう。そこに座っているのが、あのリクトとユイの息子。ユウトです」


 キーラが座ったままだったので、俺も立つことなく座ったまま一礼した。竜人族の皆も礼を返してくれる。


「更に、次元の神ディアスタシス様もおいでです。ユウトの妻、ルルさんも来てくれました。我々の家族として迎えましょう。では乾杯!」


 かんぱーい!と言って盃に口を付ける。日本酒のような、フルーティな香りがする酒。


 なんだか飲まなきゃやってられない気がしてきた。ルルとアスタも飲んでるし、俺も飲んじゃおう。


 料理も和食に近い。川魚の焼き物は鱒のような白身で淡白な味わい。野菜の煮物などは醤油のような調味料で味付けしてある。


 改めて周りを見回すと、作務衣のような恰好をしている者が多い。顔つきも欧米人よりアジア系、それも日本人に似ている気がする。


 改めてユナの顔を見てみる。うん。やはり日本人っぽい。俺の両親が日本で違和感なく暮らしていた理由の一端が理解できた気がする。


「さ、さ!ユウト殿!どんどん飲んで下さい!」


 近くに居た男性が酒を注ぎに来てくれる。それを皮切りにたくさんの人が俺の傍に集まり、次々に酒を注いで行く。


 ついでとばかりにアスタとルルもどんどん酒を注がれている。ルルなんか、もう真っ赤な顔でちょっとゆらゆら揺れている。


「ユウト。せっかくだから今日は里に泊まって行きなさいな。あなた達が泊まる所くらいちゃんと用意してあげるから」


 キーラの言葉で、俺のタガが外れた。帰る必要がないと思うと、酒が進むこと進むこと!遠慮なく酔っ払わせて頂く事にした。


 いつの間にか、俺の膝の上にアスタが座っている。


「ユウトよ、ここの酒は美味いのう!」


 上機嫌で酒をぐいぐい飲んでいる。俺の右肩にはルルがしなだれ掛かっていた。


「ユウトしゃま・・・ルル、ちょっぴり酔っ払いました・・・」


 うん、ちょっぴりじゃないよね?俺はルルに水を飲ませる。


 ふと左側を見ると、さっきまでキーラが居たはずなのにユナが座っている。


「何よ?」


「い、いや、いつの間にそこに?」


「キーラ様に、ここに座れって言われたのよ」


「そ、そうか・・・さっきの話だけど・・・」


「今は止めて」


「いや、言っておきたいんだ。あんな話は向こうが勝手に言い出した事だから気にするな。しばらく一緒に過ごして、適当な理由で帰れば良いさ」


「ええ。そうさせてもらうつもり」


「ならいい。さ、ユナも飲もうぜ」


 俺はユナの盃に酒を注いだ。ユナはそれを一気に飲み干す。


「ふぅ。あんたも飲みなさいよ」


 ユナが俺の盃を満たす。それを一気に飲み干す。


「我にも酒を寄越さんか!」


「ルルも飲みたいですぅ」


 ルルとアスタにも酒を注ぐ。


 昼間から始まった宴会は、そんな調子で夜まで続いた。


明日は19時~20時に投稿予定です!

宜しくお願い致します!

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