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救世の召喚者  作者: 五月 和月
35/51

35 共和国の召喚者

更新が遅れてしまいました・・・

申し訳ございませんm(__)m

SIDE:コンクエリア共和国


「陛下!」


 王の執務室には、王その人と、二人の男が居た。


 執務室は広々として、清潔で整頓されており、壁には見事な絵画がいくつも飾られ、部屋の至る所に高価そうな彫刻や陶磁器が置かれている。もちろん調度品も最上級品だ。


 しかし、何代にも渡る王族や貴族の目から見れば、そこは調和が取れていないと感じるに違いない。有体に言えば品がないのだ。


 凝った彫刻が施された執務机の後ろ、これまた凝った装飾の椅子にふんぞり返るように座る男、それがコンクエリア共和国の国王だ。上質だがシンプルな服を身に纏っている。


 執務机の前に置かれた応接セット。そこには剣呑な雰囲気を漂わせる二人の男が座っている。


 一人は金髪を腰まで伸ばした細身の男。もう一人は筋肉が異様に発達した短い茶髪の男だ。


 茶髪の男が鬱陶しそうに立ち上がり、執務室のドアに向かう。


「何事だ?」


「陛下にご報告がございます!至急、お耳に入れねばならない話かと」


 ドアに向かった男が、目で国王に問う。国王は鷹揚に頷いた。


「入れ」


「はっ!」


 入って来たのは、執務室の三人もよく顔を知る文官だった。名は憶えていない。と言うか憶える気が無い。


 文官はドアの傍で跪き、頭を下げている。


「面を上げよ。何事か申せ」


「はっ!ジブラルのアンナ・リヒター様、及びガラムのリュウ様と連絡が取れなくなっております。何者かに襲われた可能性もあるかと」


「そうか。分かった、下がれ」


「はっ!」


 二人の男は国王が口を開くのを待った。


「アンナとリュウか・・・死んだと思うか?」


「そう決めるのは早計かと」


 金髪の男が静かな声で返事する。


「そうだな。エスペン、お前はアンナの方を調べろ」


 エスペンと呼ばれた金髪の男は恭しく頷く。


「アトラス、お前はリュウの方だ」


 国王がドアの傍に居る筋骨逞しい男に命じる。


「行け」


「「御意」」


 国王は椅子から立ち上がり、窓の外を見る。白髪交じりの黒髪を掻き上げる。黒い瞳は厳しい光を宿していた。


 たしか、アンナは十五回目、リュウは十六回目だったか?召喚したよしみでちょっとした地位を与えてやっていたが・・・


 アンナはいつもびくびくしているし、リュウは眉を顰めるような趣味をしている。そして二人とも弱い。誰か、或いは何かに殺されても不思議ではない。


 エスペンとアトラスに調べさせれば、一週間以内にアンナとリュウの安否は分かるだろう。まあ、殺されたのならまた召喚してやれば良いだけの話だ。


 国王がそんな事を考えていると、他に誰も居ない筈の執務室の隅、陽の当らない陰の中に、人の気配がした。


「いきなりここに来るなと言ってるだろう?」


 陰から歩み出てきたのは、黒髪をオールバックにした金色の瞳の男だった。


「考えは変わらぬか?」


「何度来ても変わらん。俺は、俺が死んだ後の事なんか心底どうでも良い」


「そうか・・・また来る」


 男は再び陰の中に戻り、霞のように消え去った。


「もう来なくて良いんだけどな」


 男が居なくなった虚空に向けて独り言つ。


 あの男と初めて会ってから・・・二十七年経つ。俺はこの世界で最強を自負しているが、あいつには勝てないような気がしている。


 それでも俺がのんびり構えているのは、あいつが俺に敵意を向けて来ないからだ。


 本気でやれば勝てるかも知れない。もし負けても、あと二~三回・・・いや五~六回召喚を繰り返せば確実に勝てるだろう。


 だが、それだけ召喚を繰り返すには数十年掛かりそうだ。その前に寿命が来てしまう。


 敵意がない相手の事を心配するくらいなら、寿命を迎えるまで面白おかしく生きる事を考えた方がマシだ。




 三十年前。俺が周りから魔王と呼ばれていた頃。俺は同じ日本人の召喚者に負けた。


 別に悔しくはなかった。復讐しようという気もなかった。あいつに倒されるまで、俺は散々好きに暴れた。数えきれない程人を殺した。いつか、自分より強い者が俺を殺しに来るだろうと思っていた。


 しかし、あれから三月も経たないうちに、俺は大陸最北端のロズリンド王国で召喚された。ロズリンドは、国中から集めた数万人の召喚士と魔術師の魔力を込めた召喚陣を作り上げ、自国の戦力として俺を召喚した。


 その召喚陣に魔力を込める過程で、かなり多くの者が魔力を使い果たして命を落としたらしい。魔力が尽きると死ぬ事があるとその時初めて知った。そうまでして召喚したのが俺だったとは、皮肉としか言いようがない。


 魔王と呼ばれていた頃に、やりたい事はやり尽くしていた。とは言え、日本に戻った所で俺は何の力も持たない社会不適合者だ。


 せっかく召喚されたのだから、今度はこっちの世界で上手く立ち回りたいと考えた。召喚者の力があれば、金や名誉、女も労せず手に入る筈だ。


 俺はまず、召喚について学んだ。ロズリンドで生き残った最年長の召喚士から、聞きたい事を聞き出した。その結果、「特定の者」を召喚する方法がある事が分かった。


 こっちの世界で面白おかしく生きて行くためには、誰かに殺されないようにしなきゃならない。その為に手っ取り早い方法は、自分を繰り返し召喚させて強くなる事だ。


 その頃、大陸では召喚者同士を戦わせるという下らない戦争が起こっていた。俺にとっては都合が良かった。


 実験の為、他の召喚者を使った。特定の者を召喚するには、その者に見合った魔力量、そして似通った系統の魔力を召喚陣に込めると言うのがポイントだった。


 似通った系統の魔力。それなら、本人に魔力を込めさせれば良い。どれくらいの魔力量が必要か分からなかったが、そこは試行錯誤だ。


 召喚陣に魔力を込めさせ、その召喚者を殺す。そしてその召喚陣を使って再び同じ召喚者を召喚する。


 何十人と試したが、上手く行ったのは最後の四人だけだった。


 どうやら死を恐れる者は再び召喚に応じないという事が分かったので、出来るだけ痛みや恐怖を与えずに殺すやり方を考えた。


 何人も試してようやくコツが掴めた。それでも、死を恐れない者しか召喚を繰り返す事に耐えられなかった。


 そうして残ったのが、アンナ、リュウ、アトラス、エスペンの四人だ。


 実験が成功したので俺は自分を繰り返し召喚する事にした。それ自体は成功したのだが、大きな弊害があった。


 俺のような膨大な魔力を持つ者を召喚するには、自分の魔力をもってしてもかなり長い時間を掛けて召喚陣に魔力を込める必要があったのだ。それは召喚回数が増えるごとに長く掛かった。


 最後、二十七回目の召喚を成功させるのに十か月掛かった。


 俺は、万が一殺された時に備えて自分を召喚するための陣を準備しているのだが、その準備には三年掛かった。もしその次を、と考えると、次は十年くらい掛かりそうだ。


 もちろん他の四人の召喚者たちにも、殺された時に備えてそれぞれ別の召喚陣に己の魔力を込めさせている。アンナとリュウが殺されていたとしても、それを使えば再びこの世界に召喚できる。





 黒髪オールバックに金色の瞳の男と初めて会ったのは、二十七回目の召喚を終え、試しに隣国の軍を一掃した後だった。ロズリンドに侵攻しようと集結していた十万の軍勢を、一発の炎魔法でその大地ごと消し炭に変えたのだった。


 あいつは黒煙の中から突然姿を現した。自分の力に酔い痴れていた俺は、男に向かって同じ炎魔法を放った。しかしあいつは、それを片手で往なした。俺に向けて翳した手の平に、炎魔法が一瞬で吸い込まれたように見えた。


 そして俺に攻撃するでもなく、ただ「力を貸せ」と言って来た。


 もちろん俺は断ったのだが、それ以来、数年に一度の割合で、先程のように何の前触れもなくやって来る。まあ、特に害はないので放っているが。


 二十七年前、俺が十万の大軍を一瞬で焼き払ったので、周辺国は戦わずして俺にひれ伏した。ロズリンド王国でさえ俺を恐れ、国王の一族は自ら身を退き、俺を国王に据えた。


 ロズリンド王国はコンクエリア共和国と名を変え、周辺国は俺の庇護を受けるため共和国に加わり、王女や皇女、上位貴族の娘を挙って差し出した。


 こうして俺は、女と金と地位を手に入れた。この二十七年間、上手く立ち回ったと思っている。


 この生活に不満はない。不満はないが、飽きたのは事実だ。


 とにかく刺激がないのだ。普通の人間をどれだけ殺したところで、弱過ぎて話にならない。南のガルムンド帝国に攻め入ったとして何になると言うのだ?一時の暇つぶしにしかならないではないか。滅ぼすくらいなら国同士で上手く付き合った方が金になる。


 あの男と一戦交えてみるか。あいつは俺に敵意を持ってないようだが、俺が仕掛ければ話は別だろう。あいつとやり合えば、それは大層刺激的な筈だ・・・そんな妄想をしていた矢先、アンナとリュウの話である。


 少しぐらいは面白い事になるかも知れない。





SIDE:ユウト


 ユナに掴まって転移した先は、眼下に見事な景色を一望出来る高台だった。


 魔族領の森と少し違って、葉の色が微妙に異なる木々や、花を付けた木々が生い茂り、その間をいくつもの川が流れている。いくつか湖もあり、水面が朝日を受けてきらきらと輝いている。


 森が途切れた先に見えるのは海だろうか。と言う事は、ここは島なのかな?


「ここは転移ポイントの一つよ。里には結界が張られていて、直接は転移出来ないようになってるの。中に入れば里での移動は転移が使えるわ」


 そう言って丘を下りて行くユナの後に続く。アスタの足では少々きつそうだったので、おんぶしてユナを追いかける。


「お姫様抱っこでも良いのじゃぞ?」


「お姫様抱っこされたいの?」


「当たり前じゃ!全女子の憧れじゃろうが」


 女子っていうか、あなた神様でしょ?天界ではお姫様抱っこしてくれる相手が・・・いや、口にするのは止めよう。相手が居ても居なくても碌な事にならない気がする。


「ルルもお姫様抱っこされたい?」


「ルルは・・・一度して頂きました。でも何回でもされたいです」


 そうか。じゃあ今度ルルにしてあげよう。まあ憶えていたら、アスタにも。機会があればだけど。


「一体何の話をしてるのかしら。喋ってると迷うわよ!」


「ユナよ。そう言うお主だって、お姫様抱っこされたいじゃろ?」


 アスタが俺の肩越しに悪戯っぽい声で尋ねる。


「そ、それは・・・相手さえ居れば・・・い、いえ!私は結構です!」


 ユナはもうこちらを振り向きもせずにズンズン進んでいる。


 木々の間を迷わず進んでいるが、道があるようには見えない。もしかしたらルルには道が見えてるかも知れないが、俺にはさっぱり分からないな。


 しばらく行くと、ユナが何の変哲もない樹の幹に手を添えた。


「ユナ・マキシミリア」


 ユナがそう告げると、樹が一瞬で門に変化した。


「おおぅ!?何だこれは!?」


 唯一の男である俺が一番びっくりして変な声が出てしまった。


「ふふふっ!そんなに驚かないで。見ての通り、里の入口よ。さ、入りましょう」


 ユナに促されて門を潜る。すると景色が一変した。鬱蒼とした森の中に居た筈なのに、陽の光が眩しい開けた場所に出た。おんぶしていたアスタを降ろす。


「これは・・・今まで見えていたのは偽装なのか?」


「そう。この中が竜人族の里よ」


 ユナが答えた次の瞬間、俺たちは八人の男に囲まれていた。どこから来たか分からなかったので、恐らく転移で現れたのだろう。一番体格の良い男が口を開く。


「ユナ。そいつらは誰だ?」


「待って!族長に言われて連れて来たのよ。ユウト・マキシミリアとその妻のルル、そして次元の神ディアスタシス様よ」


「ここに来るのはユウト・マキシミリアだけのはずだ。他の二人は入れる訳には行かない」


 男の言葉に、俺はカチンときた。


「そうか。じゃ、帰るわ。ルル、アスタ、帰ろう。ユナ、悪いな」


 そう言って踵を返すと、また男が声を上げる。


「待て!お前は帰す訳にはいかん。後の二人は帰ってもらって良い」


「この二人が一緒じゃないなら俺も帰るけど?」


「お前は女子供が一緒じゃないと怖いのか?」


 別の男が揶揄するように口を出して来た。


「言っておくが、俺は来たくて来たんじゃない。ユナが来て欲しいと言うから来たんだ。気に入らなければ帰る。俺はここには用は無いからな」


「ユウト!この人たちは里の守り人なの。竜人族でも手練れ揃いなのよ!」


「だから大人しく言う事を聞けって?ユナには申し訳ないけど、俺は初対面で失礼な態度を取る奴は嫌いなんだよ」


 俺がそう言うと、八人全員が腰の剣を抜いた。それを見た瞬間、そいつらにグラビティを掛けた。気持ち強めで。


 八人の足が地面に三十センチ程めり込む。アンチ・グラビティで対抗しているようだ。普通なら立っていられないからな。


 グラビティをもっと強めても良いが、下手すると全員脚の骨が砕ける。別にこいつらが憎い訳ではないので、腰の黒刀を抜いて瞬時に八本の剣を折った。


「まだやるかい?」


 八人は俺のグラビティに対抗するだけで精一杯のようだ。折れた剣をまだ握りながら次の手を考えている。何かされてもやっかいだな。


 俺は最初に声を掛けてきた一番体格の良い男の背後に回って太い首に左腕を回し、その手首を右腕の肘の内側で固定する。所謂スリーパーホールドを掛けた。そいつだけグラビティを解く。


「全員動くな。目も動かすな。動いたらこいつの首を折る」


 揶揄して来た男がこちらに踏み出そうとする。俺はグラビティを強め、そいつを身体ごと地面にめり込ませた、骨が折れる音が響く。


「誰か一人、族長に聞いてこい。俺が連れと一緒じゃなきゃ帰ると言ってるがどうしたら良いか」


 目が合った男に向かって言い、そいつのグラビティを解く。男は転移で消えた。


 一分経たないうちに、俺がスリーパーホールドを掛けていた男が落ちてしまった。別の男の背後に転移して同じ事を繰り返す。


 三人目の男が落ちて次の男の背後に転移した時、先程消えた男が五十歳くらいの女性を連れて戻って来た。


「ユウト殿。この者たちが大変失礼しました。お詫びいたします。私は竜人族の族長、キーラ・マキシミリア。お連れの方々と一緒にどうか私の話を聞いて頂けないでしょうか?」


 ようやく常識のある人が来たようだ。


「分かりました。俺の方も怪我をさせてしまって申し訳ない」


 骨が折れた者にリワインドを掛ける。その男は瞬く間に怪我が治った。ギラギラした目で俺を睨み付けて来るが、無視した。


 俺とルル、アスタ、そしてユナは、キーラと名乗った女性の後に続いた。


いつもお読み下さりありがとうございます!

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