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救世の召喚者  作者: 五月 和月
34/51

34 アイデンティティの危機

 俺が竜人族なら、両親も竜人族って事になる。えっ?って事は、両親はこのユルムントから地球に行ったのか?


「そうそう。自己紹介がまだだったわね。私はユナよ。ユウト、あなたの事は知ってる。そちらの二人は?」


「ルルはルルアージュです。ルルって呼んで下さい。ユウト様の、つ、妻です」


「えー!?ちょっとユウト、あんたまだこっちの世界に来て二か月くらいでしょ?それなのに、け、結婚!?早過ぎない?」


 ユルムントには地球から召喚された者がたくさん居るのは知っている。だが、こっちからどうやって行くんだ?そもそも地球には魔素がないから、召喚など出来ない筈だ。だとしたら、転移・・・?


「・・・様!ユウト様!」


 ルルに肩を揺すられる。


「ん?どうしたの?」


「ルルがユウト様の妻だ、って言ったら、ユナさんが早過ぎるって!そんな事ないですよね!?」


「あ、ああ。ルルは俺の奥さんだし、早いか遅いかで言えば早いけど、結婚なんてタイミング・・・って何の話だ?」


「わーはっはっはー!ユウト、お主は普段もちと抜けておるが、今は完全に心ここに在らずじゃったの!」


 アスタがいつもの大笑いをかますと、オレンジの少女が口をあんぐり開けてアスタを見つめていた。


「我はディアスタシス。次元を司る神と言われておる。アスタと呼んでも良いぞ?」


「え?え?え?ディアスタシス様?創世に関わられた、あのディアスタシス様ですか?」


「そうとも言うのー!うわーはっはっはっはっはぅゲホっゲホっ!」


 ルルがアスタの背中をさすっている。ソウセイ?早逝・創成・創製・・・まぁいっか。今度アスタに聞いてみよう。


「そのディアスタシス様が、なぜこのような所に・・・?」


「まあ良いではないか。機会があれば語ろうぞ」


 アスタは自分の事はあまり話さない。神様だから色々と事情があるのだろうと思って、俺もあえて聞かないようにしている。


「それで君は誰だっけ?」


「ちょっとあんた!全然聞いてなかったのね!?ユナよ。ユナ・マキシミリア。よろしくね、ユウト・マキシミリア」


「マキシミリア?俺の姓はマキシマだけど」


「そうね。その辺りの事は、明日族長が教えてくれると思うわ」


「俺がマキシミリアだとして、ユナも同じ姓ってことは、親戚なの?」


「そうね、遠い親戚よ。って言うか、里の半分くらいはマキシミリアよ」


 へぇ・・・そうなのか。両親が死んでからずっと一人だったからな。今更親戚と言われてもあまりピンと来ないけど。


「いずれにしても、竜人族の里に行けば色々分かるって事だな」


「うん。聞きたい事があったら何でも聞いて良いと思うわ」


 そこへリンさんが「あらまあ!」と言いながら入って来た。


「さあ、食事が出来ましたよ!難しい話は後にして、召し上がって下さいな」





 大きなダイニングテーブルに全員が揃う。アルさん、リンさん、ルル。ルルの弟のカルとトル。妹のリリ。アスタ。ユナ。そして俺。


 九人が集まって窮屈さを感じないダイニングテーブルって良いな。スティーブに頼んで、俺の家もこんな感じにしてもらおうか。


 ルルは、俺がプレゼントしたペンダントを家族に自慢している。アスタは、俺が今朝(というか昼近くに)作った料理がいかに美味かったかをユナに語っている。


 ほとんど一人で夕食を食べていた俺にとって、誰かと、しかもこんなに大勢で食べる夕食は未だに慣れないものだ。そこには新鮮な心地良さがあった。そして、同じ料理でも何故かより美味しく感じられる。


 さっきまで自分のアイデンティティの危機を感じていたが、ここには俺が何族だろうが温かく接してくれる人たちがいる。もう、人族だろうが竜人族だろうが構うもんか。別に何かが変わる訳じゃないんだし。そう思ったら気が楽になった。


「さあ!食後のお楽しみですよー!」


 リンさんが、帝都で買って来たアップルパイを切り分けてくれる。石窯で少し温めてくれたようだ。湯気が立ってて、焼き立てみたいに美味そうに見える。


「美味しいー!お兄ちゃん、これ美味しいよ!」


 リリが小さな手で自分の皿から俺の口に運んでくれる。義理の妹と言うより娘、いや孫と言ってもおかしくない歳のリリが俺をお兄ちゃんと呼ぶのにはまだ慣れない。嬉しいけど。


「あーん・・・うん、美味いね!ありがとう、リリ!」


 リリの頭をわしゃわしゃ撫でる。リリはそれが嬉しくて、また俺に食べさせようとしてくれる。有り難く頂き、俺の分をリリに食べさせるという謎のプレイが続いた。


「本当に美味しいわ、これ・・・」


「そうじゃろ!?我が見初めた一品じゃからの!」


 ユナが漏らした言葉に、アスタが鬼の首を取ったように自慢する。お前はショーケースを食い入るように見てただけじゃないか・・・


 はっ!アスタには、食べなくても美味しい物が分かる能力があるのかも?


 いずれにせよ、アスタが見付けてくれたからこのアップルパイを買ったのだから、アスタの手柄と言って間違いではないな。


「これだけ美味いアップルパイが食えるのは、アスタのおかげだな!」


「うわーはっはっはっはー!存分に感謝するが良い!」


 食後のデザートを堪能し、順番に風呂に入った後、俺とルルの部屋にアスタとユナが集まって来た。


 ルルが手早くはちみつ入り果実酒のボトルとグラスを準備してくれる。


「あれ?ユナはお酒飲んでも大丈夫なの?」


「何言ってるのよ!?大丈夫に決まってるじゃない!」


 ふぅ~ん。女性に年齢を聞くのは野暮ってもんだ。本人が大丈夫って言うんだから大丈夫なんだろう。


 ルルとアスタは大きめのTシャツにショートパンツのリラックススタイル。ユナはリンさんが貸してくれたパジャマのような姿である。俺もTシャツ・短パンだ。


 ルルはまだ、今日プレゼントしたペンダントを着けていた。時々指先で弄んでいる。


「ルル、それ外さなくて良いの?」


「外しません!ずっと着けてたいんですもん」


 そんなに気に入ってくれたのか。もっと高級な物にすれば良かったかな。


「ユウト様が初めて買ってくれた首飾りだから」


「そうか・・・嬉しいよ」


 俺とルルが見つめ合っていると、「もしもーし!」とユナが割って来る。


「ちょっと!仲が良くて結構なことね!ねぇ、ルルちゃんっていくつ?」


「十六です」


「そっか・・・じゃあ結婚してもおかしくないわね」


「年甲斐もなく若い奥さんをもらう事になって、未だに罪悪感があるよ」


「ん?ユウトまだ五十でしょ?えーと・・・見た目は竜人族にしては少し老けてるけど、丁度良いくらいなんじゃない?」


 俺の頭に「?」が果てしなく並んだ。何言ってんだ、こいつ?


「ユナ、どういう意味だい?」


「そのまんまの意味だけど?」


「まだ五十って、もう五十なんだが」


 人生八十年としたらとっくに半分過ぎてる。


「ふぅ。そこからなのね・・・ユウト、竜人族の寿命は三百~五百年よ」


「へ?」


「だから、五十なんてまだ全然よ。見た目が老けてるのは、長く地球に居たせいかしら?向こうには魔素がないって聞くから」


「ユウト様は、こちらに来た頃に比べたらかなり若返ってると思います」


「我にもそう見えるな。初めて会った頃より若々しいぞ?」


「ほらね?こっちの魔素を身体が吸収して、細胞が若返ってるんだと思うわよ?ルルちゃんも、ユウトが本当はまだ若いって知ってて結婚したんでしょ?」


「いえ、ルルはユウト様が竜人族なのは知ってましたけど、寿命が長いのは知りませんでした・・・今聞いて、凄く嬉しいです!だってルル、ユウト様が先に死んじゃったら嫌ですもん・・・」


 ルルが目をうるうるさせながら俺を見上げて来る。いや、俺だってルルが先に死ぬのは嫌だ。しかし寿命が三百年だと?


「えっとルル?狼人族の寿命ってどれくらいなの?」


「だいたい百五十年くらいですかね?」


「えーっ!?じゃあルルが先に死んじゃうじゃん!そんなのやだよ!」


 ルルは俺の頭を胸に抱き、優しく撫でてくれた。「大丈夫、まだ百三十年以上、ずっと一緒ですよ~」とか言いながら。


「ディアスタシス様、いつもこんな茶番を見せられてるのですか?」


「ああ、今日はマシな方じゃな。ユウト、いつまでじゃれておるのじゃ!」


 部屋に「スパンっ!」と良い音が響く。ツッコミのハリセーンが俺の頭に炸裂した。


「ユナさんはおいくつなんですか?」


「私は三十七よ」


「ぶほぅっ!」


 俺ははちみつ入り果実酒を盛大に吹いた。


「きったないわね!何すんのよ!?」


 ルルが慌ててユナにタオルを渡す。三十七?どう見ても中学二年か三年生だぞ?


「いや、ごめん。見た目とギャップが凄くて」


「だから、竜人族は人族に比べたら若く見えるのよ!慣れなさいよね?ユウトもずっとこっちに居たら、今頃は人族の十八歳くらいの見た目の筈よ?個人差はあるけど」


 だから丁度良いって言ったのか。うーむ、何と言うか、恐るべし異世界。地球の常識は全く通用しないな。当たり前かも知れないけど。


 その後は、酒が進むにつれてユナの恋愛事情をルルとアスタがしつこく聞いていた。見た目が幼くても三十七なら結婚してても全くおかしくないが、結婚どころか付き合ってる相手もいないらしい。おっさんは女子の恋バナにはノータッチだ。


 自分の事を「おっさん」と呼ぶのも最早おかしいのだろうか?いや、これまで日本での生活が圧倒的に長かったのだ。そこでの自分は紛れもなく「おっさん」だった。その考えは簡単には変わらない。


 しかし人生三百年とは・・・下手すると五百年?これは人生設計を根本から見直さなければならないなぁ。





 翌朝。隣で眠るルルの温もりと匂いを存分に味わい、幸せ気分をチャージして台所に向かうと、リンさんがコピオを淹れてくれた。先に起きていたアルさんに救出した獣人たちの様子を聞く。


「身体の傷は、治療師たちが治せるものは治しました。ただ、失った部分はどうする事も出来ず・・・」


「それは仕方ないです。アルさん、ありがとうございます」


「いえいえ!後は心の傷ですなぁ。獣人は元々強い心を持っております。彼女たちも、いずれは元気になると思いますよ!」


「そうですか・・・俺に出来る事があれば言って下さい。今日は各種族が迎えに来てくれるんですよね?」


 事前に頼んでいた通り、救出した獣人と同じ種族がしばらくの間面倒を見てくれる事になっている。


「そうです。皆心得ておりますから、どうぞご安心を」


「アルさんにも、ここの皆にも、お世話になりっ放しで・・・」


「ユウト様?それは違いますぞ。皆喜んでおるのです。ユウト様が同族を救い出し、我等に任せて下さる。ユウト様の我等への思い、信頼。それが我等の喜びなのですよ」


 そうは言っても、魔族領のために何かしたいよな・・・出来る事があれば良いんだけど。


「俺は魔王とかそういうのは良く分からないんですが、ここの皆のために出来る事があったらするつもりです。だから何かあったら遠慮なく言って下さい」


「では、やはりこの集落に城を・・・」


「いや、それはいりません」


「はっは!これだけ共に過ごせば、ユウト様がどのようなお人か分かっておりますよ」


 アルさんは、狼人族の族長であり、魔族のまとめ役であり、義理の父になる人だ。思えば、召喚された時に最初に言葉を交わした人でもある。これがえにしというのだろうか。ならば、俺は縁に感謝したい。


 そんな話をしていると、ルル、ユナ、アスタの順で起きてきた。ちなみにルルの弟妹たちはとっくに朝食を済ませ、どこかに遊びに行っている。


 さて、今日は竜人族の里に行く。向こうが会って話をしたいと言っているくらいだから、まさかいきなり襲って来たりはしないだろう。


 とは思うが、何があるか分からない。俺はいつも通りの簡単な身支度を済ませ、念のため黒刀を腰に差した。なんだかんだ言って、武器らしい武器はこれしか持ってないのだ。もちろんリュック型マジックバッグも背負って行く。通信魔道具が入ってるからな。


 全員の身支度が完了した。俺たちはユナに掴まり、竜人族の里に転移した。


いつもお読み下さり本当にありがとうございます!

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