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救世の召喚者  作者: 五月 和月
33/51

33 竜人族の少女

 食後のコピオを飲みながら、今日は帝都に行ってセルジュさんに報告しようと思う、と話した。


「では、そろそろ準備をせねばならんの」


「ルルも支度して来ます!」


 あ、二人も行くのね。普通に俺一人で行くつもりだったけど・・・そうか、そうだよね。ま、別に良いか。


 俺は一人台所で洗い物をしながらそんな事を考えていた。料理を作るのは嫌いじゃないのだが、洗い物含めた後片付けが何年経っても好きになれない。料理を作りながら片付けるというのが出来ないのだ。


 とは言え、女性の方が身支度に時間がかかるのは自然の摂理である。その点は言い争っても不毛なので、片付けは一手に引き受けた。


 俺の身支度なんて、顔を洗い歯を磨いて、寝癖が付いてたら濡らして直し、後は着替えて終わりである。


 案の定、俺の支度が済んでもコピオを飲みながらゆっくりする時間があった。


「「お待たせ」しました」


 帝都に行くと言ったので、二人とも帝都で買った可愛い服に着替えていた。帝都と言っても騎士団本部に行くだけなんだが・・・それは言わないでおこう。


「よし。じゃあ行こうか」





 前回と同じように帝都の騎士団本部前に直接転移した。門を守る二人の兵士は少し後退ったが、俺の顔を見て安心したように笑顔を向けてくれた。


「これはユウト様!今日もランガート副団長にご用でいらっしゃいますか?」


「ああ、うん。いつも悪いね」


「いえいえ!係りの者を寄こしますので少しお待ち下さい!」


 残された門兵と立ち話をしていると、すぐに制服を着た女性が出て来て俺たちを案内してくれた。今日も直接セルジュさんの執務室だ。


「やあ、ユウト殿。ルルとアスタも。まさか、もう例の件が片付いたのかい?」


「ええ。昨夜片付きました」


 俺は、七十五人の子供と二十三人の成人、合わせて九十八人の獣人を助け、今は魔族領で休ませている事を話した。そして、首謀者のリュウという男はやはり召喚者だった事、リュウを殺して二度とこの世界には戻らない事も伝えた。


「そうか。本来なら帝国が救い出すべき所だったが・・・ユウト殿、そしてルル、アスタ、三人ともありがとう」


 セルジュさんが頭を下げてくれる。


「今後、獣人の家族を探し出してもらう必要があるかも知れません。それに、共和国の動きにもこれまで以上に注意して頂きたいです」


「ああ、前回話をしてから陛下に進言して、北方の守備強化を密かに実行している所だよ。それと、誘拐事件が発覚してから騎士団が各地の調査を行っている」


 行方不明の子供の名前と場所のリスト化を行っているそうだ。さすがセルジュさん、仕事が早い。この調子なら、記憶が定かではない獣人の家族を探すのもそれ程難しくないかも知れないな。


「陛下と言えば、謁見の話を覚えてるかい?」


「ええ、まあ」


 そう言えばあったな、そんな話。面倒臭そうだから忘れてたぜ。


「ユウト殿、これを持っていてくれないか」


 セルジュさんはテーブルの上に透明のキューブを置いた。魔族領でジャン婆さんに見せてもらった通信用の魔石とそっくりだ。あれは手の平大だったが、こっちはデカい。炊飯器くらいある。


「これは?」


「通信魔道具だよ。こちらから君に連絡を取りたい時があるからね」


 おおー!さすが帝国騎士団!既に通信手段があったのか。無駄にデカいから携帯には滅茶苦茶不便そうだけど。


「これなら、この大陸に居る限り連絡が取れはずだ。ユウト殿の話を報告がてら、陛下の予定を伺って謁見の日取りを連絡するよ」


「分かりました。こちらも何かあったら連絡します・・・あ、次から来る前に連絡しますね」


「そうしてくれると助かるよ」


 俺は預かった炊飯器、もとい通信魔道具をマジックバッグに入れようとして手を止めた。入れた事を忘れてしまいそうな気もするな・・・着信履歴とか残るんだろうか?


 一通り通信魔道具の使い方を教えてもらった。着信履歴というか、ボイスメッセージが残せるらしい。魔素を動力源にしてるから電池切れもないと言う。これなら、リアルタイムで応答出来なくても折り返し連絡が出来る。


 今度こそマジックバッグに収納し、俺たちは騎士団本部を後にした。すぐに魔族領に帰ろうとする俺の袖を、ルルがくいくい引っ張る。


「ん?どうしたの?」


「せっかく帝都に来たんだから、少しお店を見て回りませんか?」


「そ、そう?アスタも行きたいの?」


「こういう賑やかな街は、どれだけ見ても飽きんからの!急いで帰る必要もないじゃろ?少しブラついても罰は当たるまいよ」


「う、うん。じゃあそうしようか」


 女性陣からの意見に従い、俺たちは赤竜亭の近くに転移した。午後二時を回ったくらいだろうから、陽が暮れるまでにはまだたっぷりと時間がある。


 時間はあるのだが、俺はその、目的なく歩き回るというのが苦手なのだ。観光、買い物、食事といった目的があればそこへの移動は全く苦にならないのだが、ウインドウショッピングや単にぶらぶらするというのは苦手である。


 日本にいた頃、付き合ってる女性とあてもなく散策していると、よく「楽しくないの?」と聞かれて慌てて否定したものだった。


 それで、自分なりの対処法として自分で目的を「作り出す」事を生み出した。赤い服を着た人の数を数える、次の電柱まで何歩か数える、最初はそんな下らない事で、そのうちもっと建設的な目的を作るようになった。


 一緒に居る女性に贈りたいと思える、ちょっとしたプレゼントを探す、とか。


 そこで本日の目的は、ルルに似合いそうなアクセサリーを探す事、アスタが喜びそうなスイーツを探す事、この二点に決めた。


 目的があれば足取りも軽くなるし、楽しくもなってくる。目的は絶対に果たさなければならない訳ではなく、あくまで「あれば良いな」程度のものだ。一緒に居る相手を不快にさせる心配もないし、まさに一石二鳥である。


 赤竜亭は城を中心として南東のやや平民街に近い所にある。今日は、今まで行った事がない西の方へ行ってみる事にした。


 ルルとアスタは面白そうな店を見付けるとずんずん入って行くので、歩みは遅々として進まない。途中でお茶をすると、その店のショーケースに入っているアップルパイのような物を、アスタが食い入るように見つめていた。


「買って帰ろうか?」


「良いのか?」


 少し上気した顔で目をキラキラさせながら聞いて来る。店員さんが少しだけ試食させてくれたが、正しくアップルパイであった。しかも美味い。


 アルさんの家族と皆で食べるため、二ホール買った。アスタはご機嫌だ。


「アスタ、皆で食べようね?」


 念のため言っておく。


「分かっておるわい!どれだけ我を食いしん坊だと思っておるのじゃ!」


 そこからしばらく歩くと、雑貨やアクセサリーが沢山ある店が目に付いた。落ち着いた暗めの赤い石を銀細工で囲んだペンダントに目が留まる。ルルの瞳の色に似ていて、小振りな所も品があって良い感じだ。


「ちょっと入って良い?」


 二人を伴って店に入る。店員さんに、店先で見たペンダントを持って来てもらった。近くで見ると更に良い。


「ルル?ちょっとこれ着けてみて?」


 ルルの後ろからペンダントを回し、首の後ろで留め金を付ける。鏡越しにルルを見ると、よく似合っていた。


「これ下さい!」


 代金を支払い、ルルにはそのまま着けてもらった。


「ユウト様・・・良いんですか?」


「もちろん!似合ってると思うんだけど・・・気に入らない?」


 ルルは首がもげそうな勢いで横に振る。


「いいえ!とっても可愛いです・・・大切にします!」


 ルルにだけ買うとアスタが拗ねそうなので、アスタには髪留めをプレゼントした。小指くらいの金色の台座に、丸く加工した小さな青色の石が三つ嵌った物だ。


「おおぅ!なかなか上品ではないか!」


「アスタ様、可愛いですよ!」


「そうか!我の美少女っぷりが更に上がったようじゃの!」


 店員さんはアスタの見た目にそぐわない喋り方に目を白黒させていたが、そんな事は構わない。喜んでくれれば俺だって嬉しい。


 これで俺の本日のミッションはコンプリートだ。陽も傾いて来たし、時間も丁度良いだろう。


「そろそろ帰ろうか」


「そうじゃの!」


「はい!」


 女性陣の賛同が得られて一安心だ。俺たちはアルさんの家に転移で帰った。




「ただいま~」


 こっちの世界に来てから、随分とアルさんの家でお世話になっている。もう我が家のようなものである。


 ルルは家に入った瞬間に「ん?」という顔をした。


「ルル、どうしたの?」


「知らない匂いが・・・お客様かな?」


 リビングに行くと、見知らぬ人族の少女がいた。ルルより年下に見える。十四~十五歳くらいだろうか。


 一番目に付くのは、その綺麗なオレンジ色のショートヘアー。そして、髪より少し暗い色の大きな瞳。この髪の色なら、渋谷の有名な待ち合わせ場所でもすぐに見付ける事が出来そうだ。


 小さな顔に尖った顎。可愛らしい顔なのに、キっ!と結んだ口元と俺を真っ直ぐ睨み付ける眼差しがそれを台無しにしている。


 何だろう?俺、何か悪い事したかな?それにしても、アルさんの家に人族の客なんて珍しい。いや、俺もなんだけど。


「ユウト様!お戻りになられましたか。こちらの方がユウト様を訪ねていらっしゃったので、お待ち頂いていたのですよ」


 アルさんの声に、オレンジの少女が立ち上がって腰に手を当て仁王立ちになる。白のタンクトップに黒いレザーのジャケット、ショートパンツ、膝まであるブーツも黒だ。


「え?俺を訪ねて?」


「そうよ!散々あちこち探し回って、やっとここに居るって分かって来たのに、どれだけ待たせるのよ!」


 台所でリンさんを手伝っているルルの耳がピンっ!となってこちらを窺っている。アスタはさっきからリビングの入口の陰で聞き耳を立てている。


 どれだけ待たせるのと言われても、こっちは誰かが待ってる事なんて知らないからさ。優雅にお茶やショッピングをして楽しんでました。


「ああ、そうだったんだ。それは悪かったね。それで何のご用かな?」


「何の用?じゃあないわよ!私と一緒に『里』に行くのよ!」


 里?俺が知ってる里って言えば、た〇のこの里くらいだが・・・あれ美味しいんだよねぇ。たまに無性に食べたくなるんだよなぁ。


「えーと、里って?」


「竜人族の里に決まってるでしょ!?」


 竜人族・・・どこかで聞いた気がするな。


「で、何で俺がその『竜人族の里』に行かなきゃならないのかな?」


「まったく!何も聞いてないのかしら?あなたの召喚に手を貸したのは竜人族。それで族長が、あなたに会って直接話したい事があるそうよ」


「へぇ・・・何の話だろう」


「知らないわよ!私は連れて来るように言われただけなんだから」


 そうか。まあ、行って話を聞くだけなら別に構わないけど。召喚に手を貸してくれたのなら義理もあるしな。


「その里って遠いの?」


「遠いけど、転移で行くから問題ないわ。あなたも使えるでしょ?転移」


 おぉ。この子も転移を使えるのか。俺以外で転移を使える人に初めて会った。


「じゃあ、夕飯前だけど、今から行けば夕飯に間に合うように戻って来れるかな。ルル、アスタ、ちょっと行って来るよ」


「ちょ、ちょっと待って!たぶんだけど、挨拶程度で終わる話じゃないと思うわ。今から行くなら泊まりじゃないと」


「ええぇ・・・」


「なんでそんなに嫌そうな顔するのよ!?」


「だって・・・なあ、アスタ?」


「食後に皆でアップルパイを食べるのじゃ!せっかくだからお主も食って行け!」


 そう。今夜は皆で美味しい紅茶を飲み、アップルパイを食べてまったりしたいのだ。


「はぁ?」


「とんでもなく美味いアップルパイじゃぞ?」


 アスタが悪戯っぽい顔で囁く。


「そ、そんなに言うならご相伴に預かっても良いわ!里に行くのは明日でも良いしね」


 チョロい。このオレンジの少女、意外とチョロいぞ。


「ユウト様がその『里』に行くのなら、ルルも一緒に行きます」


 いつの間にかルルが隣に来ていた。この子は気配を消せるからな・・・


「我も行くぞ!」


 アスタも便乗して来た。


「だそうだけど、一緒でも構わないかな?」


「うーん・・・念のため聞くけど、その子たちは転移は使えないわよね?」


「ああ」


「気を悪くしないで。一応、里の場所は秘密だから」


 オレンジの少女は、俺ではなくルルとアスタに向かって言った。


「俺は良いのか?転移使えるけど」


「あなたは良いのよ。同じ竜人族なんだから」


「へ?」


「え?」


「俺が・・・何だって?」


「だから、あなたは良いのよ!」


「そうじゃなくて、俺が『竜人族』って聞こえた気がするんだけど」


「ええ。そうだけど?」


「待て待て。俺の両親は日本人、こことは別の『地球』って世界の人間だぞ?」


「ちょっと待って。あなた、もしかして自分を人族だと思ってるの?」


 当たり前ではないか。生まれも育ちも純日本人。戸籍だってちゃんとある。


「人族と言うか、厳密にはこの世界の人族とは違うかも知れないが、そうだな、人族っちゃ人族だ」


「「「「「えええぇーー!?」」」」」


 全員から驚きの声があがる。何故?


「え?え?何で?」


「ルルはてっきりユウト様はご存じだと・・・」


「う、うむ。さすがの我も驚いたぞ。お主が知らんかったとは」


 ルルは俺の肩に手を置き、アスタも俺の腕に手を乗せて、慰めるような優しい声を掛けてくれるが、別に慰められるような覚えはない。


「ユウト様・・・我々魔族は皆分かっておりました故・・・わざわざ申す者もいなかったと言うか、何と言うか・・・」


 アルさんは何だか申し訳なさそうだが、別に責める気なんてないし、謝ってもらう必要もない。


「えーと、つまり俺は竜人族で、それを皆は知っていて、知らないのは俺だけだったってことで合ってる?」


 皆がコクコクと頷く。


 おれはこんらんした!


 え?だって俺の父さんと母さん、日本人だったよ?いやそりゃ、わざわざ本人たちに聞いた事はないけど、普通聞かないよね?「父さん、母さん、あなた方は日本人ですか?」って。日本に住んでて、日本人っぽい顔で日本語を喋ってたら疑わないよね?


 それに、戸籍もちゃんとあったよ?父さんと母さんの死亡届も出したし。俺も普通に住民票取れてたし、免許証だって持ってたし。


「あなた、火魔法使えるでしょ?こんな色の」


 オレンジの少女が、手の平の上に小さな青白い火球を出して見せる。


「これ、竜人族の特徴なの。この色は竜人族しか出せないのよ」


 そうなのか。赤やオレンジの火炎系魔法が出せないのは俺が竜人族だからなのか。


「まぁ、今まで自分を異世界の人族だと思ってたんだったら、混乱するのも無理ないと思う。とにかく、明日一緒に里に行きましょう。里に来れば色々分かると思うから」


 最初の勢いが嘘のような優しい声。顔からもキツさが消えて、本来の可愛らしい顔に戻った少女にそう言われた。


 だが俺はそれどころではなかった。色んな考えがぐるぐると頭を駆け巡っていた。


五十年間、自分は日本人だと思ってたのに・・・!

次回、ユウトさんのアイデンティティーが危機を迎える!

また明日の19時に公開します。

宜しくお願い致します!

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