32 リュウとの戦い
少し残虐シーンがあります。苦手な方はご注意ください。
リュウが大穴にネネと思われる女性を放り込んだ瞬間、俺はアスタをルルに預け、二人にシールドを掛けた。そして、そのまま穴に転移する。
ネネが深い穴に落下している。ネネにグラビティを掛け、ふわりと浮かせて抱きかかえる。と同時に自分にグラビティを掛けて落下を防ぐ。
すると、穴の底から凄い勢いで何かが飛び出して来た。自分とネネを包むシールドを張る。
ぬらぬらと光る粘液に塗れ、円周状に夥しい数の牙が並ぶトンネルのようなデカい口。
内臓のような質感の醜悪なワームが俺とネネを飲み込んだ。
SIDE:ルル&アスタ
リュウは穴に向けて転移したユウトに気付いていなかった。このホールの入口に佇むルルとアスタに向かって口を開く。
「お前ら、誰?」
そう言った次の瞬間、太った身体が霞む速さでルルたちに迫る。自分を見るリュウの目は醜悪な欲望に満ちた目だ。ルルはそう感じ、全身に鳥肌が立つ。
リュウはユウトのシールドに激突した。「バチンっ!」と派手な音を立ててリュウが弾かれる。
「あれ?」
呆けた声を出すリュウを、ルルとアスタは射殺すような目で睨み付ける。
「へぇ。面白いな」
リュウが舌なめずりしたその時、ネネが放り込まれた穴から青白い炎が噴き出し、高さ十メートルの天井を焦がした。瞬く間に部屋が物凄い高温になる。
リュウがたまらず自分にシールドを張った。
SIDE:ユウト
ワームの口の中があまりにも気持ち悪かったので、思わずフレアをぶっ放してしまったよ。ルルとアスタにシールドを張っておいて良かった。
ワームはもう跡形もない。消し炭になっている。
俺は気を失っているネネを小脇に抱え、グラビティと風魔法でルルたちの所に移動した。シールドはまだ張ったままだ。部屋はだいぶ熱くなっているだろう。シールド同士を重ねて一つにする。同じ俺の魔力で張ったシールドだから出来る事だ。
ルルにネネを預けた。ネネは酷い様子だ。顔は腫れあがり、あちこちから血が流れている。両肩は脱臼しているようだ。少しでも楽になるようにリワインドを掛ける。
「少しここで待っててね」
俺はシールドから出た。熱いが肌が灼ける程ではない。そのままシールドを張ったリュウに歩み寄る。
「お前誰?何の用だ?」
リュウの問いに答えず、シールドにパンチをぶちかました。
「はっ!そんなので俺のシールドが破れる訳ないだろうがっ!」
ふむ。もう少し力を込めて二撃目を放つ。「ビキっ!」と音がして、シールドにヒビが入る。
「は?」
リュウの顔から余裕が無くなる。もう少し力を入れた方が良いな。
「よいしょっと!」
三撃目。シールドは粉々になった。魔力がきらきらした光の粒子になって霧散する。こんな奴の魔力でも綺麗なんだな。
「ちいっ!」
リュウが俺の顔目掛けて恐ろしい速さの突きを繰り出して来た。だが十分見えている。拳を左手で受け止め、そのまま握り潰す。
「ぎゃあぁぁぁぁあああ!」
リュウは飛び退り、シールドを重ね掛けして来た。二重、三重に掛けている。俺は一歩踏み込んで一撃で全てのシールドを粉砕する。
その隙にリュウは出口に向かって猛烈な勢いで逃げ出した。俺は奴をグラビティで床に叩き付け、そのまま石の床にめり込ませる。
アンチ・グラビティで相殺し、腕立ての姿勢で身体を起こそうとするリュウ。もう面倒臭いな。俺はリュウの傍に転移し、直接左脚で抑え込んだ。
「ドゴォン!」
石の床がリュウを中心にして半球状に窪む。リュウの背を踏みつけた足の裏から、奴の背骨が砕ける感触が伝わる。
俺は、敵であっても弄ぶ趣味はない。仮に殺す必要があったとしても、相手を苦しませたいと思った事は今までなかった。
だが、コイツは別だ。
ネネの酷い有り様。幼いアイルの傷付いた顔。成人たちの失われた耳、目、手足。生傷だらけのたくさんの子供たち。俺は、コイツがやった事をさっき見たのだ。
「なぁ、痛め付けるのが好きなのか?」
右腕を折る。「ボキィっ!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
「こんな風に?」
左腕を折る。「バキィっ!」
「ぐがぁああ!」
「今まで何人攫った?」
右の太腿を踏みつける。「ぐしゃっ!」
「ひぃぃぃいいいい!」
「今まで何人殺した?」
左の膝の裏を踏みつける。「ゴキィっ!」
「くそっ、くそっ、くそがぁぁぁあああ!」
リュウは叫びながら、自分に治癒魔法を掛けている。そうか。コイツは治癒魔法が使えるのか。
「獣人にも治癒魔法を使ったのか?」
「そうだ!いつも治してやってる!」
「ほう。痛め付けてから治すのか?」
「そうだ!それの何が悪い!?」
治癒魔法を使えるのに、身体の一部を欠損した者たちが何人も居た。
「こんな風に痛め付けたのか?」
俺はリュウの脇の下に足を乗せ、右手で奴の右腕を掴んだ。そのまま勢いよく引っ張り、奴の腕を肩から引き千切った。
「ぎぃやぁぁぁああああああ!」
リュウは焦って右腕を治そうと治癒魔法を掛けている。
「ユウトよ。もうその辺で止めておけ。後は我に任せるのじゃ」
アスタの声で俺は我に返った。その声は俺を心配するような優しさに満ちていた。
「アスタ・・・俺は・・・」
「良い。誰もお前を責めようとは思わん」
そう言ってアスタは腰の後ろに手を回した。そして、前に持って来た右手には白と黒の縞模様のハリセンが握られていた。
「ほれっ!懲罰のハリセーンじゃ!!」
地下三階に「スッパーーーン!!」と良い音が響いた。アスタが懲罰のハリセーンでリュウの頭をひっぱたいた音だ。リュウはキョトンとしている。
「これでこやつは二度とこの世界には召喚されん。ユウト、とどめを頼めるかの?」
そうか・・・もうコイツはこの世界で悪さが出来ないんだな。
二度と獣人の子供たちや女性たちを苦しめる事はないんだな。
うん。それなら良いか。俺は腰から黒刀を抜いた。
千切れた腕を必死で治そうとしているリュウの首を、黒刀で刎ねた。
白く眩い光に包まれるリュウを尻目に、俺は盛大に反省していた。壁に手を付き、知らず知らず懐かしの反省ポーズを取っていた。
ダークサイドに落ちていたぜ・・・裏ユウトが出てしまった。
ないわー。我ながら引くわー。いくら頭に来てたとは言え、素手で腕を引き千切るとか。
ルルにも引かれたかな・・・
恐る恐るルルの方を見てみると、ネネを抱きかかえながら、キラキラした瞳で俺の方に向かって親指を立てていた!
え?あれで良かったの・・・?
「ユウト様ぁ!みんなの恨みを晴らしてくれたんですね!ルルもスッキリしましたぁ!」
「あ・・・ほ、本当?それなら良かった」
「うむ。あやつはあれくらいされて当然じゃ。むしろ生温いくらいじゃったな!」
アスタが俺の腰をバンバン叩きながら宣う。でもアスタ、俺を止めたよね?
「お主は引きずるタイプじゃからな。あれ位で良いかと思っただけじゃ!」
え・・・アスタってそんな気遣いが出来る子だったっけ・・・?
ま、まぁいっか。神様がこんな調子なら、きっと天罰が下ったりはしないだろう。
「そう言えばアスタ、さっき『二度と召喚されん』とか言ってたけど」
「ああ、我が神器、懲罰のハリセーンの成せる業の事じゃな?あやつの魂に、隷従の刻印が出来んよう細工をしたのじゃ。それでこの世界の召喚には応じられんからの」
「なにそれ凄い」
「そうじゃろそうじゃろー?わーはっはっはっはー!」
アスタの大笑いでふと我に返った。ここ、まだ敵地のど真ん中じゃん。助け出す獣人はネネで最後だな。とっととトンズラしよう。
首輪をそっと外し、転移で魔族領に戻った。
アルさんの家の前は多くの人でごった返していた。助け出した子供や成人を担架に乗せて運ぶ者。抱きかかえて水を飲ませる者。毛布を配る者。温かいスープを振る舞ってる者。
皆がてきぱきと動いている。自分の役割が分かっており、それを果たす為に一生懸命動いてくれている。こんな夜中なのに、疲れた顔や嫌そうな顔をしている者は一人もいなかった。
「おお!ユウト様!その女性が最後の一人ですな?」
陣頭指揮を取っていたアルさんがネネを抱えた俺に気付いて近付いて来る。
「ああ。この人で最後ですよ」
「ご無事で何よりです。本当にご苦労様でした。ユウト様のお陰で、皆生きておりますぞ。今、助け出された者たちを寝床に案内している最中です」
「お姉ちゃん!お姉ちゃん、大丈夫?」
アイルが駆け寄って来る。自分だって酷い状態なのにネネの心配をしている。
「うん。気を失ってるだけだよ。すぐ元気になるさ」
俺はアイルの頭を優しく撫でた。ルルがアイルを抱きかかえ、近くに居る狼人族の女性に預ける。ネネも一緒に預かってもらった。
「ユウト様。ルルはお腹が空いちゃいました。家で何か食べません?」
「おお、そうじゃな!我も小腹が空いたぞ」
「そうだな。ちょっと休憩させてもらってから皆を手伝うとするか。あれ?マーラは?」
辺りを見回すと、マーラは子供たちや成人の女性たちに一人一人声を掛けていた。そのうちの一人の女性と抱き合って涙を流している。今はそっとしておこう。
「お母さーん!ルルたちに何か食べさせてー!」
ルルがリンさんに呼びかけ、リンさんが「あらまあ!」と言いながら俺たちを手招きしてくれた。
リンさんが台所で手早くスープを温め直し、温かいパンと一緒に出してくれる。それを口に運ぶと、ようやく緊張が解けてきた。
一人も死なせず、全員を救う事が出来た。やり遂げたんだな。良かった。
「ルル、ありがとう。お陰で皆を助ける事が出来た。アスタ、ありがとう。アスタが居なければ、こんなに上手く行かなかったよ」
「何を言ってるんですか!ユウト様が皆を助けたんですよ。ルルは、その、ユウト様の、つ、妻なので、お手伝いするのは当たり前ですぅ・・・」
最後は照れて尻つぼみになったルル。
「我が居って良かったじゃろ?存分に感謝するが良いぞ!」
いつも通りのアスタ。
俺は二人の頭をわしゃわしゃ撫でた。俺一人じゃ絶対に無理だった。ルルとアスタが居てくれたからこそ、やり遂げる事が出来たんだ。もちろんマーラも。
「二人とも。ありがとうなぁ!」
「いつまで撫でておるんじゃ、このたわけめ!ほれ、食い終わったら皆を手伝うんじゃろうが!」
アスタが照れて赤面しながら俺の手を払い除けた。珍しいなぁ、赤くなるなんて。でもアスタの言う通り、皆を手伝わなきゃな。
最後の獣人を寝床に送り届け、手伝ってくれた皆に礼を言って家に戻った頃には、空が白みかけていた。
目を覚ましたのは昼前ぐらいだった。結構疲れてたのかな?今日は、まだ隣でルルが寝ている。ルルの温もりを感じ、匂いを嗅ぐ。至福の時間だ。
救出した獣人たちは、明日の朝から各種族が迎えに来てくれる予定だ。出来るだけ同じ種族の元で、しばらくの間面倒を見てくれる事になっている。
身体の回復度合いを見ながら、本人の希望を踏まえて家族の元へ帰す予定だ。これには結構時間が掛かるかも知れない。しかし、俺には特に別の用事がある訳でもないので、時間が掛かっても問題はないのだ。
今日はセルジュさんに報告に行こう。報告をうっかり忘れて帝国騎士団や帝国軍が動いてしまったら洒落にならないからな。
そんな事を考えていると、隣のルルが目を覚ました。
「おはよ」
「う・・・んっ・・・おはようございます・・・」
「今日は俺が何か作るよ。飯が出来るまで寝てて良いよ」
「・・・ふぁぁいぃ・・・」
うん。寝惚けてるルル、今日も可愛いぞ。
台所を借りて料理を始める。これでも、十六で両親が死んでから自分で料理もして来たのだ。誰かのために作る機会は滅多になかったけどな。
しかしここは異世界。乾燥パスタをストックしてたり、冷凍野菜やチンするご飯がある訳ではない。自然と料理も今手に入る素材を使ったダイナミックなものになる。
アスタが大きすぎるTシャツ一枚のような姿でポリポリと頭を掻きながら起きてきた。
「おはよう、アスタ」
「おう、おはよ・・・ユウト?何をしておるのじゃ!?」
「料理だけど?」
「今、青白い炎を出しておったじゃろうが!?」
「ああ、最後にちょっと焦げ目を付けようかと思ってな。ちょうど出来たから、ルルを起こして来てくれる?」
アスタは何度もこちらをちらちらと振り返り、首を捻りながらルルを起こしに行った。
そんなに心配しなくても大丈夫だってば。これでも十六で(以下略)
「ユ、ユウト様!?料理なんてそんな!言ってくれればルルが作るのに!」
ルルも、アスタと同じような大きなTシャツ一枚のような姿で台所に駆け込んで来た。その後ろからアスタが付いて来る。
「まあまあ。別に料理は嫌いじゃないし。たまには良いじゃないか。ほら、出来たから座って座って」
ダイニングテーブルに二人を座らせて料理を出す。
もうお昼だからブランチだな。本日のメニューは、兎肉とキノコのスープ、採れたて野菜(その辺の)のサラダ、冷凍してストックしていたギガ肉のサイコロステーキ、そして石窯で温め直したパン。起き抜けには少々重いかな?
「「いただきまーす!」」
重たいかと思いきや、ルルとアスタは凄い勢いで食べる食べる!
「おいしぃー!」
「これは(もぐもぐ)なかなか(もぐもぐ)美味いではないか!」
俺が、今回の召喚前に何年もかけてかき集めた各種調味料。それを振りかけただけだが、いつもとは一味違う味に仕上がったようだ。ちなみにギガ肉はややレアに焼き上げて、最後に表面だけ焦げ目を付けてみました。
「ユウト様!お店みたいな味がします!」
「お主、意外な特技があるんじゃな!見直したぞ!」
「お気に召したようで何よりだよ」
最後に、ドラゴも大好きなジョールから作ったジュースを出す。これは二人ともおかわりした。今度ドラゴにも飲ませてみよう。
ケモナーのユウトさんとしては、リュウの事がどうしても許せなかったのです・・・
次回、ユウトさんの秘密が・・・!また明日の19時に公開します。
宜しくお願い致します!




