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救世の召喚者  作者: 五月 和月
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3 ケモナーの楽園と狼の少女

 その晩は、ジャン婆さんが「ぜひ家に」と仰るので、甘えさせてもらうことになった。

 

「お孫さんとかいらっしゃいます?」


「ええ、それはもうたくさん。少し騒がしいかもしれませんが、精一杯おもてなしさせていただきますね」


 お婆ちゃんでこの可愛さである。小さいお孫さんの可愛さは言わずもがな。


 ケモナーの血が騒ぎまくるぜ。


 先導するジャン婆さんのケモミミと尻尾をもふもふしたい衝動を必死に押さえつつ家に向かった。その家は、俺が想像していたより遥かに立派な家だった。


 木や葉っぱを組んだような家、最悪洞穴とか想像していたのだが、目の前にはデカいログハウスがあった。しかも二階建てである。


 この世界のケモミミさん達の技術ってどうなってるんだろう?さっきの集会場といい、このお家といい、文明レベルが高い。三十年前はこれ程でもなかった気がするのだが。


「粗末な家ですが、どうぞご遠慮なくお入りください」


 ジャン婆さんに促されてお邪魔したお家は、ランプの優しい灯に照らされとても暖かい雰囲気に満ちていた。


 そして!狐人族の小さな子供たち!


 見た目年齢五~六歳の子供たちがわさわさ居る!


 知らないおっさんに興味津々で、ケモミミと尻尾がピン!と立っている!


 小さな子供たちは、顔の大きさに対して目とミミが大きいから、可愛さが何倍にも増しているんだよなぁ。


「こんばんは!おじさんはユウトって言うんだ。皆よろしくね!」


 ジャン婆さんが気を利かして子供たちを促してくれる。


「ほら皆!ご挨拶は?」


「「「こんばんはー!魔王様ー!」」」


 俺は派手にズッコケた。こんな子供たちにまで魔王が浸透しているとは。


 でももう魔王でいいや。可愛いから。


 お孫ちゃん達は懐っこい子ばかりで、一斉に俺を取り囲んでくれた。恐る恐るミミをもふってみると、嬉しそうな、少しくすぐったそうな顔をしている。


 纏わりつくチビ達に床に転がされる俺。楽しそうにじゃれるチビ達。揺れるケモミミ。顔を打つ柔らかな尻尾。


 天国はここにあった。


 いい歳をして、俺の趣味は動画配信サービスでアニメ、特に異世界ものを見る事。そして、ネットで無料で読めるラノベを読む事だったのだ。


 だって、十四歳でケモミミの実物を見ていたからね。その魅力は、異世界ものが流行る前に経験済みだったのさ。それを懐かしむが如く、異世界ものが趣味になるのは致し方無いではないか。


 これまで二次元と文字の世界で満足せざるを得なかったケモミミが、今ここにあるのだ。


 それをもふらないでどうする。俺は心ゆくまでもふりまくった。


 ふと気が付くと、妙齢のお母さんらしき人、お父さんらしき人がいて、生温い目で見られていた。


「ウォホン!これは失礼、ご挨拶が遅れました。俺はユウト・マキシマ。ユウトと呼んで下さい」


 立ち上がって挨拶する俺の両脚には、合計五人のチビ達が纏わりついていた。挨拶の間も俺の両手はチビ達をもふっていた。だって自分の意思じゃ止められないんだもん。


「魔王様、どうかお気になさらず。子供たちも大喜びですから」


 イケメン狐人の若いお父さんが言ってくれたので、俺は晩御飯の声がかかるまでチビ達とじゃれまくったのだった。


 ちなみに晩御飯もとても美味しかった。獣の兎肉が入ったシチュー、サラダ、パンという組み合わせ。異世界にありがちなガチガチなパンではなく、ふっくらしたパンだった。どうやって作ってるんだろう?食のレベルも高い。


 さらに驚くべき事に、お風呂まであった。ちゃんと温かいお湯が張られた湯船は十人ぐらい一度に入れそうな広さだ。


 湯船に浸かって「ふぅ~」と声を出す。おっさんは無意識に声が出てしまうのだ。


 風呂から上がると寝巻のような、柔らかな素材の部屋着が用意されていた。どこまで至れり尽くせりなのか。この快適さは日本と変わらない。いや、ケモミミに溢れている分、日本より優れていると言っても過言ではない(当社比)。


 しかし激動の一日だった。ほんの数時間前まで、後輩の山本君と焼き鳥屋で飲んでたのだ。


 それが今、異世界に来て、異世界とは思えない程快適な寝床に横になっている。久しぶりに会ったウリエルさん。召喚されたら魔王に祀り上げられ、マエルさんから歓迎の一撃を貰い、魔族の皆さんと話し合い、ケモミミのチビ達に囲まれ。


 この数時間の出来事を振り返り、チビ達のケモミミの感触を思い出しながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。





 翌朝。窓から差し込む眩しい光で自然と目が覚めた。目覚ましに起こされない朝って最高。本来なら、今日も仕事に出かけていたのだな。


 そう言えば、昨日マエルさんにリワインドを使って思い付いたのだが、自分自身に再生魔法を掛けられないか試してみた。もちろん若返りを狙っての事だ。結果は効果なし。というか、もしかしたら少しくらい効果があるのかもしれないが、目に見えるような効果はなかった。そう上手く行かないもんだね。


 俺は身支度を済ませ、二階に与えられた寝室から一階に降りた。朝ご飯の良い匂いが立ち込めている。


 匂いに釣られてダイニングキッチンの方に行くと、チビ達とそのお母さんに迎えられた。


「「「魔王様ー!おはよー!」」」


「おはようございます、魔王様。良くお休みになられましたか?」


 昨晩は可愛いケモミミに我を忘れ、このお母さんとは喋った記憶がないな。ちょっと気まずい。


「おはようございます。ありがとう、良く眠れましたよ!チビ達もおはよう」


 テーブルに座るチビ達に混じり、毛色の違うケモミミが一組。とび色の目でこっちをジッと見ている。見事な銀髪は昨夜のアルさんを思い出させる。


「魔王様、こちらはルルアージュさん。アルさんの娘さんですよ」


 ルルアージュと呼ばれた子は、ちょこんと黙礼する。俺も軽く会釈を返した。


 アルさんの娘、ということは狼人族か。見た目の年齢は高校生くらいだろうか。厳ついアルさんとは違い可愛らしい顔をしてる。きっとお母さんに似たのだろう。良かったね、お父さんに似なくて。


 それから俺たちは一緒に朝食を食べた。チビ達は食べる間もワイワイやっていたが、ルルアージュは黙々と食べていた。時折俺の方をチラッと見るが、話し掛けては来ない。俺も若い女の子とどんな話をすれば良いかさっぱり分からないのでスルーする。


 昨夜はバタバタしていたが、一晩ぐっすり眠って落ち着いたので、色々な疑問をジャン婆さんに聞いてみる事にした。


 ジャン婆さんは快く私室に誘ってくれた。チビ達のお母さんが紅茶を淹れてくれる。そしてなぜかルルアージュも付いてきた。テーブルを挟んで一人掛けのソファに座るジャン婆さん、その向かいに俺とルルアージュが二人掛けソファに並んで座る。


 俺は堪らずルルアージュに話し掛けた。


「えーっと、ルルアージュ、だっけ?君はなぜ俺に付いてくるのかな?」


 ルルアージュはこてんっ、と首を傾げる。


「父からお聞きになられていませんか?」


「うん、何も聞いてない」


 あんのバカ親父、と小さな悪態が聞こえる。


「それは失礼しました。改めまして、狼人族族長アルナージュの娘、ルルアージュと申します。ルルの事は『ルル』とお呼び下さい。父から、魔王様の旅のお供を命じられております」


 えー。人生の七割近くが一人暮らしのおっさんにとって、誰かと寝食を共にするのはちょっと・・・しかもケモミミ美少女・・・ハードル高過ぎだろ。


「あー、ルルさん、気持ちは有り難いのだけど、俺は一人旅の方が気楽で良いかなーって」


 ジャン婆さんはニコニコしながら俺たちを見てる。さては知ってやがったな。


「ユウト様。これは我々魔族の総意なのです。いかな魔王様と言えども、慣れぬ世界にお一人で放り出す訳に参りませぬ」


 確かにあてもなく歩き回るより、ガイド的な人がいるのは良いかも知れないけど・・・


「魔王様!ルルはこれでも狼人族の中で父に次ぐ剣の使い手です!必ずお役に立ちますので、どうかお供させてください!」


 ルルがちょっと涙目になっている。ていうか狼人族って剣を使うんだね。ワイルドに素手で戦ったりするイメージだったわ。


 ルルによると、本来は族長のアルさんがお供すべきところ、族長としてこの地を離れる訳にもいかないし、娘には魔王様をお守りしながら次期族長候補として経験を積んで欲しいとの願いがあるのだとか。


 だから魔王じゃないってばよ。


「まあ事情は分かった。付いて来たいなら別に構わない。ただし、俺の事は魔王じゃなくてユウトって呼んでくれる?」


「ありがとうございます、まお、じゃなくてユウト様!」


 ちょっと回り道したけど本題。


 まず、召喚について疑問に思ったことを尋ねた。俺の記憶が正しければ、召喚陣に込める魔力量と、召喚者の魔力量は比例するはず。俺の魔力量はかなり膨大だから、召喚に必要な魔力も膨大なものになったはずだ。


 しかし、魔族は魔力がほとんどないのではなかっただろうか。


「ユウト様、確かに今回の召喚に必要だった魔力の量は甚大でした。ただ、魔族の中にも魔力が豊富な種族もいるのです。その者の協力を得て事を成し得たのです」


「魔力が豊富な種族?」


「はい。竜人族でございます。彼らはこの魔族領とは別の場所に里を設けておりますが、魔王に相応しい方を召喚するため、三年前から召喚陣に魔力を込め、準備に協力してくれたのです」


 竜人族か・・・初めて聞いたな。蜥蜴人族は見たけど、あの人たちよりもっとおっかない感じなのかな?


「ユウト様、竜人族の見た目は普通の人族と変わらないのですよ?」


 どうやら独り言を呟いていたようで、ルルが教えてくれた。


「見た目が変わらないのに、竜人族って分かるの?」


 この疑問にはジャン婆さんが答えてくれる。


「ユウト様、我々魔族は、集中すればその者から放たれる魔力を見ることができるのですよ。その量で見分けが付くのです」


「ちなみに、俺の魔力も見えるんですか?」


「ええ、それはもう。集中して見なくてもダダ洩れでいらっしゃいますよ」


 え・・・なんか恥ずかしいんですけど。


「ユウト様の魔力はすっごく大きく立ち上ってます。黄色味がかった白で、とっても暖かい感じです」


 ルルがすかさずフォローしてくれるが、下ネタっぽく聞こえるのは俺の心が汚れてるからだろうな、きっと。あと、おっさんだからちょっと黄ばんでるんだとしたら嫌だな。


 俺は次の疑問を口にした。昨夜から感じていた文明レベルの高さについて。それにはジャン婆さんが詳しく答えてくれた。


 三十年前に前魔王が討伐された直後、今度は人族の間で戦争が起きたらしい。まったく人ってやつは何でこう、争いが好きなのかね。


 この大陸の各国で競うように召喚が行われ、召喚者は戦争の道具として使われた。拙速な儀式では弱い召喚者しか召喚できない。そのため、召喚者たちは次々命を落としたと言う。


 そのような召喚者の中で、殺し合いを嫌がって命からがら魔族領に逃げ込んで来た者たちがいた。


 魔族はその者たちを保護し、手厚くもてなした。召喚者たちは、その見返りに異世界の知識や技術を魔族に伝えた。


 ここの文明レベルを見ると、建築や土木、料理人、服飾関係など様々な異世界人たちが逃げ込んで来たのだろう。そして、魔族の勤勉な人々がそれを実直に受け継いだのだ。


「多くの召喚者たちは、病や寿命で命を落としましたが、今もお二人、この魔族領にいらっしゃいますよ」


 俺は昔話のつもりで聞いていたのでちょっと衝撃を受けたが、三十年前の話だから生きてる人が居ても全然おかしくない。


 聞けば、その二人は共に犬人族の村にいて、家庭を築いていると言う。このユルムントで長期間生活している地球人。俄然興味がわく。


 召喚者の生き残りに会ってみたくなったので、俺はルルを伴って犬人族の村へ向かうことにした。

ユウトさんは可愛いもの好きなのです!おっさんだけど。


また明日も19時に第四話を投稿する予定です。

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