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救世の召喚者  作者: 五月 和月
25/51

25 調査の結果

「つまりお主は、魔王を殺そうと思えばもっと早く殺せた訳じゃな?」


 俺が話し終えると、アスタが真っ先に口を開いた。


「いや、そんな事はないよ。召喚回数は俺の方が二回多かった。計算通りなら俺の方が四倍強い筈だ。でも奴は強かった。元々持ってる力の差か、戦い慣れの差か分からないけど、本当にギリギリだったんだ」


 謙遜ではなく、俺は今でも本当にそう思っている。そしてこう考えた事もある。戦う事が、もっと言えば相手を殺す事が、好きか嫌いか、その差ではないかと。


「ユウト様は・・・ルルと同じ歳でご両親を亡くしたんですね・・・」


「ああ、ルル。今となってはもう随分昔の事だよ。両親の事は忘れてないけど、今では悲しい気持ちになる事もない。心配してくれてありがとう」


 俺は、両親から貰ったペンダントを知らないうちに握りながら答えていた。


「ユウト様、その首飾りは・・・?」


「うん?ああ、これは小さい頃に両親から貰ってずっと着けてたんだけど、こっちの世界にも持って来れたんだよ。形見みたいなものだ」


「ユウト様のご両親・・・ルルもお会いしたかった」


 ルルは俺に寄り添い、ペンダントを触りながら呟いた。ああ。俺も会わせたかった。俺の両親なら、きっとルルのことを気に入って、実の娘のように可愛がってくれただろう。例えケモミミと尻尾があっても。


 久しぶりに両親の事を思い出したなぁ。俺は二人が亡くなるまで、遂に異世界召喚の事は話せなかった。さすがに頭がおかしくなったと心配されるんじゃないかと思って。


「ルル、これからは、聞きたい事があれば何でも聞いてくれ。俺はあまり自分から話す方じゃない。でも別に話すのが嫌な訳じゃない。今まで聞いてくれる人がいなかっただけなんだ」


「はい、ルルが何でも聞いてあげます!嫌なことも、辛いことも、楽しいことも、嬉しいことも」


「そうだね。ルルも何でも話してくれ。つまらないことでも。俺はルルの話が聞きたい」


 二人の世界に入った俺たちを、アスタがジト目で見ていた。


「どうやら我はお邪魔なようじゃの!酒でも飲んで寝るとしよう」


 残ったボトルを引っ掴み、隣の部屋に行くアスタ。扉が閉まった途端、俺はルルを抱き寄せた。





 次の日は、一日帝都観光をした。召喚で訪れた事があるとは言っても、帝都でゆっくり過ごすのは初めてだ。たまには良いよね?


 途中で一度アルさんの家に戻り、現状報告をしてすぐに帝都に戻る。義理の家族を心配させる訳にいかないからね。


 さすがに大陸一の大国、ガルムンド帝国の帝都だ。動物園ならぬ魔物園なんてものまである。魔物の中でも比較的大人しく、人族の従魔術師でも従わせる事が出来る小型の魔物が集められていた。驚く事に芸までしていた。アスタも大喜びだ。


 他の店で食事もしてみたのだが、こっちの世界で初めてチーズ料理を食べることが出来た。こっちでは「ラクース」と言うらしい。色んな家畜の乳を発酵させているそうだ。これは魔族領でもぜひ作ってみたい。ルルも気に入ったようだ。


 冒険者ギルドにも行ってみた。獣人の子供たちの誘拐事件について何か情報が得られないかと思ったのだ。騎士団本部ほどではないが、それでも立派な建物だった。残念ながら、ここで情報は得られなかった。


 そして定番のお買い物。アスタは手持ちの服が全くなかったので、両手で抱えきれないくらい買ってあげた。ルルにも服を何着かと、家族へのおみやげ(これは俺とルルの二人からという事で)を買った。


 そんな事をしていると、あっという間に夜になる。赤竜亭に戻り夕食に舌鼓を打つ。そして昨夜と同じようにはちみつ入り果実酒のボトルを買い、部屋で飲み会だ。


「今日は楽しい一日であったな!ユウト、ルル、お主等に感謝するぞ!」


 乾杯しながらアスタが宣う。この神様、たまに調子に乗るけど、根は良いヤツなんだよな。見た目と喋り方のギャップにも慣れて来たし。


「いやぁ、アスタにも楽しんで貰えて良かったよ」


「アスタ様、ルルもご一緒に楽しみましたよ!」


「そうか!それは何よりじゃな!」


 干し肉やドライフルーツ、ナッツをつまみながら酒が進んで行く。こんな楽しい飲み会なら毎日でも良いなぁ。まあ、昨日もしたんだけど。


 昔、ブラックな会社で働いてた時、仕事が終わるのが毎日二十一時過ぎで、独身の同期はそのまま居酒屋に行って会社や上司の愚痴を言い合っていた。ストレス発散の為に酒を飲み、翌朝は七時二十分に出勤。


 給料はそこそこ良かったけど、毎日の飲み代で消えていくという負のスパイラル。結局心が壊れる前に退職したっけ。


 世の中には、もっと酷い境遇の人もいると思うけどね。いずれにしても今は天国だよ。


「ルルよ!そう言えば、お主に礼をするのを忘れておった」


「お礼?何のお礼です?」


「捕らえられた我と子供たちを助けてくれた礼じゃよ」


 まさか、ハリセンでルルの頭を叩くのか?


 はらはらして見てると、アスタは徐にルルの頭に両手をかざした。その手から、明るいピンク色の光の粒子が零れ、ルルを包み込んだ。


「これは・・・?」


「子宝と安産の加護じゃ」


「ちょっと待てーーい!ハリセンはどうした?」


「ハリセーンじゃ!何度言ったら分かるんじゃ、このうつけめ。この加護を与えるのには、別に神器は使わんでも良いのじゃよ」


 本当かよ?俺とアスタのやり取りをルルが顔を真っ赤にしながら見ていた。そうか・・・子宝と安産か・・・いや、気が早いだろ、アスタよ。


「アスタ様、ありがとうございます。ルル・・・頑張ります!」


 ルルが宣言する。そして「ね?」という感じで俺を見ている。


 そ、そうだね。どちらかと言うと、頑張らないといけないのは俺かも知れない。


「そう言えばアスタ、何か俺に頼みたい事があるって言ってなかったっけ?」


「ん?頼み事?うーむ。ま、難しい話は酒の席では無粋というもの。また今度で良いではないか!」


 こいつ、覚えてないな。まぁ本人が覚えてないんなら別にいっか。そうやって楽しい夜は更けて行ったのだった。





 翌日。あまり早く行くのもどうかと思ったので、昼食を食べてから騎士団本部に向かうことにした。


 貴族街入口の門では話が通っていたらしく、迎えの馬車を呼んでくれる。騎士団本部に到着すると、この前と同じ応接室に通され、この前とは違う女性がお茶を出してくれた。


 ちゃんと訪れる時間まで約束しておけば良かったな。セルジュさんも忙しいだろうし。そう思って待っていると、三十分程でセルジュさんが来てくれた。


「ユウト殿、お待たせした」


「いえ、お忙しいのにすみません」


 並んで座る俺たちの向かいに腰を降ろしながら、セルジュさんは資料を広げる。


「ユウト殿の話を聞いてから、部下を使って獣人の子供たちが行方不明になる事件について、過去五年に遡って調べさせた」


 さすがセルジュさん、仕事が早い!


「それで、何か分かりましたか?」


「うーむ。知っての通り、騎士団が駐屯しているのは帝都周辺に限られる。それで、周辺の地域は騎士団員が定期的に巡回している程度なんだ。そこで何か問題があれば聞き取り、報告書として纏められている」


「やはり、あまり情報はありませんでしたか」


「獣人の子供たちが行方不明になったという報告自体はちらほらとあったんだ。しかし、これまではお互いの事件の関連性に誰も気付かなかった。それが事件であるという認識すらなかったからね」


 確かにそうだろう。確たる証拠もなく、これを何らかの事件として扱っていたとしたら、その方が驚きだ。


 その犯人が目立ちたくなかったのだとすれば、思惑通りに行っていたと言う訳だ。


 これまでは。


「この五年間で、子供の行方不明は報告が上がっているだけで七十人を超えている」


 その全てが誘拐されたものではないかも知れない。逆に、報告に上がっていない子もいるだろう。


「我々は、騎士団として正式にこの件の調査を始める決定をした。帝国北部の辺境区に本部を設け、周辺の調査を開始する。明日から騎士団員二百名を派遣するよ」


「それは大変有り難いお話です」


「しかし、調査を始めたからと言って、行方不明の子供たちが見つかる可能性は低い。犯人を見つけるのにも時間がかかるだろう。ユウト殿、申し訳ない」


「いえ!そこまでして頂けるとは正直思っていなかったので・・・セルジュさん、俺の方でも勝手に調べても構いませんか?」


「それは構わないけど・・・共和国と揉める可能性があるのかい?」


「ええ。あの馬車は間違いなく共和国の方角に向かっていました。国が絡んでいるのか、そうではない個人や組織なのか、それはまだ分かりませんが」


「昨日ユウト殿が言っていた女召喚者の件もあるしなぁ。ユウト殿にその気がなくても、共和国の機嫌を損ねる可能性はある、という訳だね」


「帝国に迷惑が掛からないよう、なるべく気を付けます・・・」


「はっはっは!まあ、何か問題が起きたとしても、伝説の英雄を敵に回す方が余程恐ろしいよ。いざとなったら力を貸してくれるだろうし」


 俺はポリポリと頭を掻いた。セルジュさんの敵になる気なんて毛頭ないんだけどなぁ。


「我々は我々の出来る事をするよ。ユウト殿は、帝国の事は気にせずやりたいようにやってくれ」


「分かりました。ありがとうございます」


「あぁ、ユウト殿。大切な事を忘れる所だった。皇帝陛下が君に会いたいそうだよ」


「えぇー・・・」


「まぁ、そう嫌な顔をしなくても。代替わりした陛下は、先代や周囲の者から散々魔王討伐の話を聞かされていてね。かく言う私も、何度も呼ばれて話をしたものだよ。伝説の英雄が帝都に来たと聞いて、是が非でも会いたいそうだ」


 面倒な事この上ない。俺は特にその皇帝陛下に用事はないしなぁ。でもセルジュさんにはお世話になってるし、無碍に断るのも大人げないよな・・・


「うーん。それじゃあ、この誘拐事件の目処が立ってからでどうでしょう?一通り調べてみないと俺も気が済まないし」


「うん、そうだね。陛下にはそのように伝えておくよ」


 何か分かったらお互い報告し合おう、と約束の握手を交わし、俺たちは騎士団本部を後にした。





「結局、何も分かりませんでしたね・・・」


 既にお馴染になった門から出て歩きながら、ルルが残念そうに呟く。


「そうだなぁ。二人とも退屈だっただろ?付き合わせて悪かったな」


 騎士団が調査に動いてくれる事になったから、成果が全くなかった訳ではないのだが、これではほとんど帝都の観光に来たようなものである。


「せめて、あの馬車を見つけた時に大人の一人でも居ればなぁ・・・」


 今となってはどうしようもない事を思わず呟いてしまう。


「お主等、我の事を忘れてはおらんか?」


 アスタが面白がっているような口調で聞いて来た。


「ああ、アスタ。勿論忘れる訳ないじゃないか。腹が減ったのか?」


「馬鹿者!さっき昼飯を食ったばかりじゃろうが。そんな食いしん坊ではないわ!」


「前は力を使うたびにおやつ食ってたじゃん」


「あれは仕方なく食ってただけじゃ!」


「ああ、そうだったか。ごめんごめん。それでどうしたんだい?」


「どうしたではない!我が神である事を忘れたのかと聞いとるんじゃ!」


 もうアスタったら。ぷりぷり怒っちゃって可愛いんだから。


「勿論忘れてなんかいませんよ?ルルは昨日、子宝と安産のご加護を頂きましたから」


「ほれユウト!お主もちっとはルルを見習え!」


「という事は、まさかこの件でも力を貸してくれるの?」


「まぁ、お主等が望むのなら、我の力を貸してやらん事もないと言っておるのじゃ」


 おおぅ。三日程前にアスタが力を貸してくれた時は、子供のイメージを俺の頭に送り込み、転移で送り届ける事が出来た。あの時は助かった。


「でもどうやって?」


「お主は獣人の子らを攫った張本人を見つけたいのであろう?」


「ああ。もしかして知ってるの?」


「いや、知らん」


 俺はその場でズッコケた。知らんのかーい!いや、そりゃそうだ。知ってたらとっくに教えてくれてただろう。という事は・・・?


「犯人の手掛かりを見つける方法を知ってる?」


「ああ、そうじゃ。それがその犯人とやらに結び付くかどうかまでは分からんがな」


「えーとつまり、どういう事でしょう?」


 ルルが堪らず尋ねる。偶然だね、ルル。俺も全く同じ気持ちだよ。


「お主はさっき、あの馬車を見つけた時に大人の一人でも居ればと言っておったじゃろ?直接会わせる事は叶わぬが、そやつらがどこに行ったかは分かるかも知れん」


「マジで?」


「かも知れんと言っておるじゃろ?やってみなければ分からんわい」


「で、どうしたら良いの?」


「あの馬車を見つけた場所に我を連れて行け。その前に、甘い物をなるべくたくさん買うのじゃ」


「御意!」


 俺とルルはアスタの手を引いて、近くにある店に行く。ここは帝都の貴族街の近く。貴族が好むような品が良くてべらぼうにお高いスイーツを売る店などそこら中にあった。


 店頭に並んでいる品を、端から端まで大人買いする。ついでに紅茶の茶葉も。なんと小金貨七枚も取られた。さすが貴族向け、七十万円がおやつに消えた。見送る店員さんは大層丁寧にお辞儀してくれた。


「これで良いかい?」


「うむ。十分じゃろう」


 神の許しが得られたので、俺たちは転移でアスタと子供たちを見つけた場所に向かった。


アスタ、口は悪いですけど良い子(神)なんです・・・

次回、アスタの隠された能力が炸裂・・・!?


明日19時に公開します。

いつもお読み下さり本当にありがとうございます!

また宜しくお願い致します。

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