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救世の召喚者  作者: 五月 和月
14/51

14 守りたい人、守られたかった人

 アルさんの家は、狐人族のジャン婆さんの家と同じようなログハウスだ。平屋だがその分大きい。あー、やっぱり家って良いな・・・


 家に入ると、アルさんの奥さん、つまりルルのお母さんが出迎えてくれた。お母さんの名前はリンさん。そして、ルルの二人の弟たちと妹が一人、お母さんの陰に隠れてこちらを訝しげに窺っていた。


 これまで獣人族の子供たちは結構人懐っこい子が多かったけど、この子たちは警戒心が強いのかな?


「はじめまして。おじさんはユウトだよ。ルルお姉ちゃんと旅をしてるんだ。こっちのお姉さんはシエラだよ」


「はじめまして、シエラです」


 子供たちはお母さんの陰から出てこない。しかし、ルルが顔を出すと「お姉ちゃん!」と言って飛びついて行った。当然俺たちのことはガン無視だ。寂しい。


「ただいまー!いい子にしてた?」


 ルルは抱きついてきた子たちの頭をわしゃわしゃ撫でている。子供たちは尻尾をブンブン振っていた。リンさんはルルの頭を優しく撫でている。はぁ、家族っていいねぇ。ルルは家族みんなから愛されてるんだね。心がほんわかするよ。


 アルさんに促され、応接間のソファに座らせて頂く。俺の隣にはシエラがちょこんと座る。向かい側がアルさんだ。


 ルルの家族を見てふと思った。シエラの家族の誰かも、捕えられてしまったのだろうか?大切な誰かを救いたくて、こんな遠くまでやって来たのだろうか?


 シエラは何も言わないが、そうなのかも知れない。


 俺だって、ルルやアーロン、魔族領の誰かが攫われたら、シエラのように取り乱すことだろう。


 今になってようやく、シエラの気持ちが理解できたような気がする。


「アルさん、この子はシエラ。ここから随分離れた所から来た竜族の子です。ちょっとこの子に手を貸したいので、ルルを置いて行っても良いですか?」


 手を貸すとはっきり言ったので、シエラがびっくりした顔で俺の横顔を見ている。


「ユウト様、それは危険な事なんですね?」


「分からないんですよ。危険かも知れないし、危険じゃないかも知れない。だけど、相手は恐らく召喚者です。しかも竜族を上回る程の魔力を持っている。強い召喚者が相手だと何が起こるか分からない。ルルを守れないかもしれない」


 シエラは膝の上で両手を握り合わせ、その手に目を落としている。竜とは思えない華奢な肩にも力が入っていた。出会ったばかりの俺やルルを危険な事に巻き込んでしまったと思っているのだろうか。俺はシエラの肩に優しく手を置いた。


「まあ、危ないって決まった訳じゃない。本当に手に負えなくなったら転移で逃げれば良いし。だからそんなに思い詰めるなよ」


「ユウト様、お気持ちは大変有り難・・・」


 アルさんの言葉を遮って、ルルが声を張り上げながら応接間に駆け込んできた。


「ルルは置いて行かれるなんて絶対に嫌です!ユウト様はルルのこと、足手まといだと思ってるんですか!?」


 初めてルルが怒っている所を見た。狼人族の聴覚がかなり優れている事を忘れていた。全部聞かれてたようだ。


「ルルは自分の事は自分で守れます!それともユウト様はルルの事、嫌いなんですか!?」


「おい、ルル・・・」


「お父様は黙ってて!」


「ルルの事はもちろん好きだよ」


 俺は努めて普通に聞こえるように答えた。娘みたいに、って聞こえるように。


「それに、足手まといなんて思った事はないよ。ルルの強さはこの目で見たからね」


「それなら・・・」


「だからこそ、なんだ。相手がもし召喚者だったら、本当に何が起こるか分からないんだ。ルルは知ってるかい?前の魔王のこと」


 ルルの感情を宥めるように、静かな声で尋ねる。


「え?・・・いいえ、詳しい事は・・・」


「前の魔王は召喚者だったんだよ。俺と同じ『地球』という世界の『日本』という国から召喚された。そして、三十年前にその魔王を倒したのは俺なんだ」


 ルルとシエラが目を丸くした。アルさんはどうやら知っていたようだ。他の族長さんたちも知っているのだろうか。


「何度も召喚された召喚者は強い。それはもう、想像も出来ないくらいだ。強い上に、何をしてくるか分からない。独特の魔法を使うし、汚い手も使ってくるんだよ」


「でもユウト様は、前の魔王様より強いって事ですよね・・・?」


「三十年前、前の魔王は俺より召喚回数が二回少なかった。能力は俺の方が確実に高かった。だけどギリギリだった。危ない所だったんだ」


 そう。奴は本当に強かった。強い上に、俺が想像もしない手を使う奴だった。


「相手が召喚者だった場合、手の内が分かれば対処は出来ると思う。しかし、初見で戦闘になった場合は百パーセント勝てるとは言い切れない。そんな危険な所にルルを連れて行きたくないんだ」


 ルルは俺の言葉を噛み締めているようだ。俺はルルを失いたくない。


「ユウト様、よろしいですかな?」


 それまで黙っていたアルさんが口を開く。


「ユウト様が娘を大切に思って下さっている事、この上ない喜びでございます。娘を危ない目に遭わせない為に、ここに置いていきたいと仰る事も十分理解しております。


ただ、娘も同じ気持ちなのです。ルルは、ユウト様がそんな危険な地に赴くなら、傍でお守りしたいと思っているのですよ。例え自分の身がどうなろうとも」


 俯いているルルの顎から涙が滴っている。肩が小刻みに震えていた。


 俺は自分の気持ちだけに気を取られていたのだろうか。ルルは守るべき存在だから、完璧に守れるという確信がない以上、万全を期して遠く離れた所で待っていてもらおう、そう考えていた。


『弱い者を守りなさい』


 死んだ両親が幼い時から俺に言い聞かせた言葉。俺はルルを弱い者だと考えていた。守るべき者だと。


 だが、ルルは俺を守りたいと言う。自分の命が危険に晒されても。


 十六で両親を失ってから、俺は誰かに守ってもらった事がなかった。頼れる人がいなかった。それが当たり前だと思っていた。


 俺は誰かに守ってもらう価値がある人間ではない、そう思って生きて来たのだ。その代わり自分にできる範囲で、誰かを守りたいと考えて来た。両親に言われた通りに。


 今、十六の狼人族の女の子が、娘みたいな歳の子が、俺を守りたいと言ってくれている。


 困惑と同時に、心に温かいものが沸き上がって来る。自分でもよく分からない感情だった。ルルが俺の事を弱い存在だと思っている訳ではない。それくらいは分かる。


 でも何故?俺みたいな守る価値のないおっさんを?


 まさかルルは俺の事を?自分の父親くらい歳の差があるのに?いや、そんな事ある訳ないよな・・・でも・・・


「ルル、置いて行くなんて言って済まなかった。一緒に行こう。俺を守ってくれ。ルルの事は俺が守るよ」


 ルルがハッ!と顔を上げる。涙で顔はグシャグシャだ。そしてソファに座った俺に抱きついて来た。


「はっはっは!ユウト様、娘を頼みましたぞ!」


 アルさんが満足げに笑い声を上げた。シエラはどうしたら良いものか、おろおろして俺とルルを交互に見ている。


「シエラ、もう少し待ってくれ。ところでアルさん、突然なんだけど、一つお願いがあるんだが」


「なんでしょう?」


「実は、家が欲しいんだ。こっちに来て、誰かの家にお世話になったり、そこら辺で野宿したり、宿に泊まったりでどうにも落ち着かない。出来れば、ここの集落に空いた土地がないかと思って」


 俺の腕にしがみついたルルの耳が、ピンっ!と立つ。


 家の設計や実際の建築はスティーブに頼もうと思っているが、まずは家を建てる土地がないと始まらない。どうせなら、ルルの家があるこの集落が良いかな、と思っていたのだ。


「なんと!ユウト様が『城』をこの狼人族の集落にお作りになると!」


「いやいや、普通の家が良いんですけど」


 そう言えば、召喚された時に真っ先に面と向かって魔王呼びして来たのはアルさんだったな。最近言われないから忘れてたが、この人にとって俺の家は魔王城なのか。


「それならば集落の半分を潰して・・・」


「ちょっと待って!そんな事しなくて良いから!集落の端っことか、どこか空いてる場所で十分ですよ!」


「つまり仮住まい、という事ですな?」


「違います。普通に住みます」


 アルさんに任せるととんでもない事になる予感がする。やっぱ別の場所にしようか・・・


「お父様!ユウト様は、この家みたいなお家が欲しいって仰ってるんだと思いますよ。そうですよね、ユウト様?」


「あ、ああ、こんなに広くなくて良い。落ち着ける家だったら文句ないかな」


 アルさんは「そうですか・・・」となんだか残念そうだ。何で残念そうなんだよ。


 場所に注文を付ける気は全くなかったが、アルさんの家から百メートルほど離れた空き地を紹介してくれた。もう面倒臭いのでそこに決める。土地代を払おうとすると、土地にお金を払う風習はないらしい。


 土地が決まったので、ルルとシエラにはアルさんの家でゆっくりしてもらい、俺は一人でスティーブの所に転移しようとした。


 しかし、ルルがどうしても付いてくるというので、結局シエラも含めて三人でお邪魔した。シエラを置いて行くのもどうかと思ったので。


 スティーブに家が欲しいこと、平屋で2LDKくらいの寛げる家が希望、と日本で家を建てるなら有り得ない程ざっくりと説明をした。スティーブに費用について尋ねるとパエルマの金貨で十枚くらいと言うので、前金で金貨二十枚渡した。


「ユウト、こんなに要らないぜ?」


「ああ、余ったらミアさんや子供たちになんか美味い物でも食わせてくれ。あとアルノーさん家にも」


 どうせ土地がタダなのだ。金貨五十枚の予算があったので大盤振る舞いした。何か、ルルがこそこそとスティーブと相談している。俺はこの世界の家の事を知らないから、俺に変わって色々と希望を言ってくれてるのかも知れない。


 再びアルさんの家に戻る。今夜はアルさんの家にお世話になり、明朝出発する事にした。


 夕食を頂いた後、シエラと作戦会議をする事にした。ルルには家族との時間を楽しむよう言ったのだが会議に参加すると聞かないので、結局三人で話し合う事になった。


「シエラ、俺の都合に付き合わせてしまって申し訳ない。早く助けに行きたいだろうに」


「いえ、私の方こそ、ユウトさんやルルちゃんには関係ないのに、巻き込んでしまってごめんなさい」


「いいんですよ、シエラさん」


「ああ、その点は気にするな。もし召喚者が絡んでるなら、この先どこかでぶつかるかも知れん。向こうから奇襲を受けるより、こっちから仕掛ける方がいい」


「やはり、あの女性は召喚者なのでしょうか?」


「竜族を上回る程の魔力量だからなあ。その可能性は高い」


 そうは言ったが、俺はもう確信していた。召喚者だと思ってかかった方が良い。召喚回数が俺の半分かそれ以下だったらそれほど脅威ではない。問題は、俺と同じくらいか、もっと多い場合だ。その時は、出来るだけ闘いは避けたい。


 だが、俺は割と楽観していた。それは、以前ウリエルさんに聞いた事があるからだ。


 前魔王を倒して転移の間に戻った時、そいつが十八回目の召喚者だったと言ったら、ウリエルさんは「ユウト様以外でそんな回数の方がいらっしゃたとは」と驚いていたのだ。


 地球から召喚される人は、ほとんどが一回。多い人で二~三回なんだそうだ。なぜそうなるのか、ウリエルさんも正確な事は知らなかったが、恐らく本能的に拒否反応が出てしまうのでは、という事だった。


 だいたい一回目って言うのは力の使い方が分からなくて、死んで戻る事がほとんどだから、その恐怖が魂に刻み込まれるのだと。そう聞いて妙に納得したのを覚えている。


 だから、俺のように回数を重ねてチートな能力を持ってる召喚者なんて、そうそう居るはずがないのである。とは言え、油断は禁物。前魔王みたいな奴もいるし。


「どのような作戦を?」


 集団で狩りをする狼人族の本能が疼くのか。ルルが少しワクワクした調子で聞いて来た。


「うん。目的は、シエラの仲間たちを救う事。それにはまず、どこに居るか見つける必要があるね。シエラが最後に見た森から北の方角で間違いないと思うが、手掛かりが少な過ぎるよな。


シエラ、その辺りは竜族以外の集落はないの?」


「はい。その森は強力な魔物が多いので、集落はないはずです。山から北へ二百キロほど行くと、コンクエリア共和国の砦があるって聞いた事はありますが」


 砦か。少なくともそこまで行けば何か掴めるかも知れないな。しかし一気に砦を目指す訳にも行かないだろう。途中で何か見落とす可能性もある。もし共和国が帝国に向けて進軍とかしていたらすれ違いになってしまうかも知れない。


「うーん。時間はかかるが、山から徒歩で砦を目指すべきかな」


 そこでルルが閃く。


「ユウト様、シエラさんの背中に乗せてもらって、空の高い所を飛ぶのはどうでしょう?ルルなら、何かあったら見付けられると思います」


 おお!頼もしいぜ、ルル!ルルは視覚・聴覚ともに抜群に優れているからな。俺なんか老眼だし耳も心許ないもんな。会話してて「え?」ってよく聞き返すし。老眼はあんまり関係なかったか。


「うん、それは良い考えだ。基本、それで行こうか。あとは現場に応じて臨機応変に、って事で」


 作戦会議と言う程の事はなかったのだが、なんか纏まった感じがしたのでそれでお開きにした。明日に備えてゆっくり休もう。

ユウトさん、ルルの気持ちに気付いたのでしょうか・・・

次回、いよいよ竜族の救出に動き出します!明日の19時に公開です。


いつもお読み下さり本当にありがとうございます。

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