表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

5分ほどで読む失楽園

作者: 龍崎操真

小説家になろうの皆様はじめまして。

龍崎操真と申します。

普段はハーメルンとノベルアッププラスで細々と活動している者です。

今回、私の作品ってここではどうなのかなと思い、実験的に両サイトにも投稿したこの短編を投下してみる事に致しました。

よろしくお願いします。

 ワシは創造主である。名前はない。

 ワシは現在、頭を抱えていた。理由はワシの目の前で膝を折り、座っている二人の人間のことである。


「あの……父上……」

「うるさい。今は考え事をしているのだ」

「それは承知しております。ですが……、せめてあなたのようになにか我が身にまとわせる布が欲しいのです。このままでは恥ずかしくて羞恥心に火がつき、わたしたちは燃えてしまいそうになる気持ちなのです」


 そう言いイチジクの葉で下半身を隠す全裸の男、アダムが訴えた。その言葉で隣でアダムと同じように膝を折り、イチジクの葉で胸と下半身を隠そうと試みる全裸の女、イヴが恥ずかしそうに身を捩りながらアダムに続く。


「そうですわお父様。どうかこのイヴにも身体を隠す布をくださいませ」

「だから今考えておるのだ。静かにしておれ」


 もう一度言う。ワシは現在、頭を抱えている。()()()()()()()()()()()のアダムとイヴが()()()()()()()()()()()()()()()()事に頭を痛めていた。

 事の発端はすこし前まで遡る。急に何か食べたくなったので知恵の実がなる木を生やし、実が熟すのを待っていた。

 そして、あともう少しで熟すという所で追放した堕天使たちが、我が楽園を攻撃するための爆弾を作っているという知らせが飛び込んできたのだ。仕方がないのでワシはその対応をするためにこの場を離れることにした。

 その際、近くで遊んでいたこの二人に「この果実は食してはならない禁断の果実だ。ぜったいに食べてはならぬぞ」と言っておいたはずなのに、いざ戻ってきて見るとなにか様子がおかしい事に気づいた。まさかと思い、果実が熟しているはずの木のもとへ向かうと案の定、アダムとイヴが木の葉で己の身体を隠せないかと試行錯誤している最中だった。それでワシは事を察してしまった。


「この果実は食べてはならぬ禁断の果実と言ったはずだぞ! なぜ食べた!?」


 それはもう地獄の業火もかくやという勢いで怒りに身を任せ、ワシは二人を糾弾した。するとイヴが答えたのだ。


「お父様、これはすべて蛇が仕組んだ事なのです。わたしたちはまんまと蛇の企みに利用されてしまったのです」

「何? 蛇だと?」


 そう言えば見張りをアイツに命じていたような……。そういえば蛇のヤツはどこ行った?

 辺りを見回しても蛇の姿は見つからない。なるほど。つまりイヴの言うことは正しいのだろう。蛇の奴はトンズラかましたらしい。

 この絵図を作るために二人は利用されたのだ。だが過ぎてしまった事はどうにもならない。今は二人の問題について考えることにしよう。

 禁断の果実を口にし知恵を手に入れたことにより、ワシが作った人間という作品から無垢さという評価点が失われてしまった。

 あの疑いを知らぬ純粋な眼差しが可愛かったのに蛇の奴め……!!こんな事になるのなら二人を追い払い、周りを地をえぐり取っておくべきだった。

 己の至らなさを悔いているとアダムがおずおずと口を開いた。


「あの……。父上。そろそろわたしたちに我が身を覆う布を与えてくださいませぬか」

「このまま恥ずかしくて死んでしまいそうなのです。後生ですから……!!」


 知恵の果実を口にしたことにより身につけた語彙力でどうか布切れをと要求するアダムとイヴ。そもそもイヴが蛇の言うことを聞いた事が悪いよな……。


「なぁ、お前たち。なぜ蛇の言うことに従った?

ワシはこの果実は食べてはならぬと言ったはずだが?」

「それは蛇が『あの果実はお前の父が一人で食べようとしている物だ。常に分け合うように教えられてきたお前にとってそれは許せないことなのではないか?』と言われたのです。わたしはその言葉に納得してしまい不満を抱いたのです」


 淀みなくワシの質問に答えるイヴはさらに理由の続きを語った。


「そして、そこに付け込んだ蛇が言ったのです。『それならばこの果実をアダムと一緒に食すのだ。アダムもきっと喜んでくれる』……、と。わたしはそれもそうだと納得し、アダムにも食べてもらおうとあの果実を二人で分け合ったのです。それでこのようなことに……」


 そして時は現在へ戻る。抱えていた頭を上げ、頭痛がするのもそっちのけでワシはイヴへ尋ねた。


「なぜ蛇の言葉に疑わなかった。あいつは散々お前たちを惑わし、あざ笑ってきたではないか」


 ちょっとお使いに行ってこいみたいな調子(ノリ)で地獄に落としたりなど散々な目に遭わせられてきたはずのお前たちがなぜ。その問に対し、淀みなくイヴは答えた。


「それはお父様、あなたがそういう風に作られたからでしょう。お忘れですか?」


 そ、そうだった……。ぐうの音も出ない正論。知恵を手にしたおかげか、イヴもアダムがこの短時間の間に自我が確立しつつあった。そしてそれ故か、子供が純粋に思った事を口にするかのように発したアダムの言葉がワシの逆鱗に触れた。


「そもそもの話、そんなに大切なものだったのなら何故わたしたちを阻むものをお作りにならなかったのですか? 周りの大地をえぐり大地を切り離すとか、石を積み上げ塀を築くとか、何かあったでしょう」


 その言葉を聞いた瞬間、ワシの中で、何かがキレた。


「し、知ってんだよおおおおおおお!! んなこたぁわかってたんだよおおおおっ!! あー! もうあったまきた!! お前らはこの楽園から追放だ!!」

「えぇ!?」

「そんな理不尽な!?」

「恨むのならオツムの足りない自分を恨むのだな!! あばよォ!! 死に晒せぇッ!!」


 二人が何やら抗議の叫びを上げているが関係ない。ワシは容赦なく足元に地上へ落ちる穴を開け、アダムとイヴを天上の楽園より地上へ叩き落としてやった。

 

* * *

 これが引き金となり、神は幾多の試練を人類に与え嫌がらせを行ったとか行わなかったとか……。

 そして黙示録が示す最後の審判の日に神は自らの行いを恥じ、人類の罪を全てを許したそうな……。

 めでたしめでたし。

いかがでしたでしょうか?

面白かったら草とでも送って頂ければと思います。

ではまたどこかでお会いしましょう。

さよなら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ