第三話 抱かれし者の未来
夜の更新です。
人見知りが結構ある事が判明した赤ん坊!
だがこのままでは魔王との決戦は行えない!
落ち込んだ僧侶と賢者の心のケアも必要だ!
どうする勇者! どうする魔王!
それでは第三話「抱かれし者の未来」お楽しみください。
魔王の玉座には異様な光景が広がっていた。
勇者が落ち込んだ仲間に声をかける後ろで、赤ん坊を腕に抱いた魔王が、武闘家と差し向かいで話を詰める。
数多ある英雄譚にも、こんな光景はおそらく無いだろう。
「状況を整理する。赤ん坊は現時点で貴方を親と認識している」
「うむ」
「古来魔物が人の子を育てる例は数多く、人間の偏見以外に大きな問題は見あたらない」
「うむ……!」
「しかし貴方は魔王。魔物を統括するにも絶望を集めるにも、赤ん坊は障碍になる可能性が高い」
「……うむ」
「よって赤ん坊を我々に慣れさせ、人の世に戻すのが最良だと……、済んだのミライト?」
近づいて来たミライトに、ナクルは顔を向ける。
「……あぁナクル、凄いなお前……」
ミライトの後ろでは、
「あの子に人の温もりを伝えるのは私……!」
「この知識、あの子の為に如何様にでも……!」
立ち直り、燃えるキュアリとフーリの姿。
あまりの変化に、魔王が眉を顰める。
「……勇者よ、仲間に精神操作とは見損なったぞ」
「違うわ! 俺はナクルからもらったこの紙の通ぐふぁ!」
「紙の事は内密にと言ったはず」
弁明を試みるミライトに蹴りを入れて黙らせるナクル。
「この紙……? 千里眼……!」
魔王は目に魔力を込め、ミライトが手にした紙を透視した。
『【キュアリ用】親に捨てられたあの子に人の温もりを伝えられるのはお前だけだ! 頼むぜ、俺のキュアリ……!』
『【フーリ用】こんな状況、俺には何をどうすればいいのか分からない……。でもお前の豊富な知識なら話は別だ……! 頼りにしてるぜ、俺のフーリ……!』
千里眼を解除して、キュアリとフーリに目を向ける魔王。
「ミライト様の為に……!」
「ミライトの為に……!」
燃える二人の姿に、魔王は再び眉を顰める。
「勇者よ、これはどういう呪文だ?」
「俺に分かる訳ないだろ」
「鈍感もここまで来れば芸術」
そんなやり取りを知らないキュアリとフーリは、赤ん坊へと目を向ける。
「ま、まずはコミュニケーションですね!」
「かつて読んだ文献によると、人見知りの子を慣らすには、安心できる存在が近くにいる状態で、危険が無い存在と認識させるのが良いそうだ」
「つまり!」
「魔王!」
「な、何だ」
二人の熱意に魔王が気圧される。
「赤ちゃんを抱っこしたまま、こっちに来てください!」
「にこやかに、ゆっくりとな」
「にこやかには分からんが、とりあえず近づこう」
「ぅゆ……?」
魔王と赤ん坊は、二人の手の届く所までやって来た。
赤ん坊は目を大きく見開いて二人を交互に見つめる。
「赤ちゃ」
「待てキュアリ。そのまま赤ん坊が興味を持つのを待つんだ」
「……ぁぶ」
赤ん坊は、二人を見つめるのと魔王を見上げるのを交互に繰り返す。
「……ふふっ」
「……へへっ」
とりあえず泣かれない事に気を良くし、微笑む二人。
「……うー?」
「……やっほー」
「……私は危険な人間では無いぞー」
きょとんとする赤ん坊に、二人は手を振ったり握ったり開いたりして、必死にアピールを試みる。
「何か孫に好かれたいおばあちゃぐはっ!?」
「沈黙を要求する」
ミライトの余計な一言は、ナクルの脇腹への一撃で風に消えた。
読了ありがとうございます。
見知らぬ人に接する時、赤ちゃんは大抵慣れている人と顔を交互に見ます。
その表情で警戒すべきか安心かを見分けているのだそうです。
なので親に嫌われると大変です。ほぼ確実に子どもにもそれが伝わるので。
保育士の仕事の半分は保護者対応でできています。
頭痛の種になるか、優しさになるかは結構大きな差ですね。
次話もよろしくお願いいたします。