第十一話 彼の者は倒れ、光は満ちて
こんにちは。
煙と化して消えた魔王。
その最期は勇者達の心に消えない爪痕を残した。
だが赤ん坊はその別れの意味を知る事はない。
その胸に刻まれているのは温もりだけだから。
それでは第十一話「彼の者は倒れ、光は満ちて」お楽しみください。
翌日。
ミライト一行は王に魔王の最期を報告していた。
「そうか! 魔王は滅びたか!」
「……えぇ」
報告したフーリは、王の絶賛にもその緊張を崩さない。
「光が射した時はもしやと思ったが、流石はミライト殿!」
「……はぁ、まぁ……」
ミライトも落ち着かない様子で生返事を返す。
「さぞや大変な戦いであったであろう! 皆が無事で何よりじゃ!」
「……ありがとう、ございます……」
浮かない表情のキュアリ。
「貴殿らは救国の英雄として、勇者一行を歴史に刻むとしよう!」
「お心遣い感謝します」
いつも通りのナクル。
「……してその女性と赤ん坊は一体……?」
「たー!」
四人が一斉に唾を飲み込む。
「じ、実は……」
フーリが意を決して口を開いた。
前日。
「まー? まー?」
「……大丈夫だ。俺達がいるからな……」
魔王が消え、辺りを見回す赤ん坊を、少し強く抱きしめるミライト。
「……うわあああぁぁぁん!」
「泣く必要はないキュアリ。これで私達の旅は終わった」
「……ナクルお前……!」
「落ち着いて賢者ちゃん」
冷淡とも言える態度で言い放つナクルに、フーリが詰め寄ろうとする。
そこに女神が割って入り、ナクルの頭を優しく撫でる。
「武闘家ちゃん。闇ちゃんの遺言、聞いてあげて」
「……」
女神の言葉に、ナクルの目から涙が伝い落ちる。
「ナクル……!」
ナクルの肩を抱き、堪え切れず泣くフーリ。
「魔王が倒れて、こんな気持ちになるなんてな……。お」
「……空が」
「……明るく」
「これで世界は闇から解放された」
涙を拭いて窓に近付き、光射す空を見上げる勇者一行。
その後ろで、
「……この瞬間を、待っていたあああぁぁぁ!」
女神の手がまばゆく光り始めた。
「えっ」
「め、女神様!?」
「一体何を……?」
「光が人の形に、なっている?」
ナクルの言葉通り、女神の手から放たれた光が、虚空に人の姿を作り出していた。
「……ぅぁ……?」
「……闇ちゃん、あなたは私の選択を恨むかも知れない」
「女神、様……?」
今まで見たことのない真剣な表情に、ミライトは戸惑う。しかし、
「でも面白そうだからやっちゃう☆ ごめんねー☆」
「ちょっ」
次の瞬間には崩れた真剣さに、ミライトの口から変な声が漏れた。
「……む?」
人影が声を発する。
「……え、人……?」
「……こ、こんな魔法、今まで聞いた事もない……!」
「敵ではなさそう?」
「女、みたいだけど、誰だ……?」
「……ぅぶぅ……」
皆が光の人から目を離せない。
「ここは……」
光が収まり、その姿が徐々に見えてくる。
「!? ミライト様見ちゃダメ!」
「えっ」
キュアリが大慌てでミライトの目を手で塞ぐ。
「ひ、ひとまず私のマントで!」
フーリが自分のマントを外し、身体を隠した。
「女神様の光で裸の女が出てきた。これは一体……」
さしものナクルもあまりの状況に目を白黒させる。
「服までは再生できなかったみたいねー。まー趣味悪かったし良いかなー」
「さ、再生?」
「今この場で再生、という事は……」
「まさか」
「キュアリ、俺何にも見えないんだけど」
「あっすみません!」
「ふぅ……。えっあいつ誰!?」
ミライト一行の混乱をよそに、赤ん坊は喜びの声を上げた。
「……まー!」
「……赤ん坊……?」
『えええぇぇぇ!? 魔王おおおぉぉぉ!?』
「まー! まー!」
見た目も声も何もかもが変わった魔王。
赤ん坊はそれを疑いなく、自分が最も大好きで安心できる相手だと看破した。
「魔王としての力が完全に失われて、この世界に光が戻ったところで、場に残った記憶と意識を元に闇ちゃんを再構築したのー」
「ふ、フーリさん! 女神様は何をおっしゃっているんですか!?」
「わ、私に聞かれても……! 身体が消滅した者の再構築なんて魔法、存在する訳が……」
「でも、でも! 赤ん坊が、言ってる、魔王が、あそこに、いるって……!」
「ナクルの言う通りだ。こいつが魔王と他の奴を間違える訳ない。だよな?」
「まー!」
嬉しそうに伸ばす手に指を絡める魔王。
「……またお前と触れ合えるとはな……」
魔王と赤ん坊を中心に、幸せな空気があふれる。
「勇者ちゃんに倒された後、闇と夜の精霊として復活させようと思ってたけど、赤ちゃんとの絡みが面白そうだったから人間の女のコにしちゃったー。皆喜んでるからいいよねー」
女神の無茶苦茶な発言すら、一時は聞き流せる位に。
読了ありがとうございます。
……シリアス、君は良い作品要素であったが、君の出た作品が悪かったのだよ。
シリアス「……作者ァ! 騙したな! 作者ァ!」
という訳でシリアスさんはご都合展開の犠牲になって倒れました。
ごめんね☆
次話で第一部は完結となります。
よろしくお願いいたします。




