第三十一話 スライムとスライム
「スライムッスライム」
陽気に口ずさみながらダンジョンへ進んで行くが、一向にモンスターが現れない。
それに加え、行っても行っても同じ道を歩く感覚がある。
「うぅん、ここさっき来た気がするんだよな」
ライムが分からないとラスに言ってみるが、ラスは「キュー」と鳴いて分からないと言っているような素振りを見せた。
「やっぱりここ通ったって」
ライムは確信を持った為、ファイアーボールを自分の少し離れた場所に放つ。
そして、炎が消えないうちにと、猛ダッシュをする。すると、そこに炎は残っていた。無限の道にはまっているのだ。
「何かカラクリがある……はずだよね」
今からゴールをするのは難しく、それでいて戻るのも難しい。
そうなると、カラクリを早く見つけてゴールをする。これが最善だと勝手に思っていた。
横を見ると複数のボタンが設置されている。
「まずは……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「見事にハマってるな」
「そうだな。このカラクリを見つけるのは相当難しいだろう」
ライムの様子を映像で見ていたのは運営の者達。どうやら、このイベントの初参加者の様子を見ているようだ。
「ボタンが設置されていて、まさか壁を押すとゴールへ繋がるなんて思う奴は少ないだろうよ」
「それもそうだな」
少しやりすぎたかと、運営達が心配していると。
「あっ、開いた」
と、気の抜けた声が聞こえてきた。
「「えっ」」
二人揃って声が漏れてしまう。何故なら、ライムが真っ先に壁を押し始めて、ゴールへの道を見つけてしまったからである。
「はっ?」
「どうして、先に壁を押そうと思うんだよ。おかしいだろ」
「どうしたの? 二人揃ってぶつぶつ言ってるけど」
後ろから別の運営の女性が現れる。
「これ見ろよ。ループしてるって気付いてから秒殺だぞ」
女性が目を細めて少女を見つめる。
「これライムじゃないっ!」
「ライム?」
一人は首を傾げるが、もう一人は思い出し、もう一度少女を凝視する。
「マジじゃねぇか」
「おいおい、ライムって誰だよ」
「知らないの? 今、モンペアの運営の中では目が離せない人物よ。なんたって、あの社長が興味を持ったんだから」
ライムの正体を知った男は、ライムを見て納得をする。
「道理ですぐ壁を触るわけだ」
そんな会話が行われていることなど知らずにライムは呑気に道を進んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あっ、開いた」
過去に隠しダンジョンが壁を押したらあったのを思い出し、壁を調査していたところ、見事に壁が開いた。
というのは少しで、本当はボタンを押しても途中で分からなくなるのが本人は分かっていたからである。
少し歩くと、一気に辺りが明るくなる。
「えっ、もうゴール? 早いな〜」
本来なら早くても30分はかかる道をたったの5分程でクリアしてしまったのだから、そう思うのも無理はない。
『おめでとうございます。あなたのお供にスライムを追加します。お供の名前は後程、自分で設定して下さい。それにて、お供追加の完了になります。』
ゴールをすると、どこからか声が聞こえてくる。
「やっぱり終わりか。まぁ早く終わって悪い事はないもんね」
ライムがそう言い終わった直後に入っていたダンジョンの入り口へと転移する。
「わっ! びっくりした〜」
ケンはずっとライムの帰りを待っていたが、突然自分の横に転移してきたことに、驚きを隠せない。
「こっちがびっくりしたよぉ」
ケンの叫び声にライムはビクッと肩を上げていた。
「早かったな」
「それがね、意外と簡単だったの」
ライムは真面目な顔でそう言う。
「そうか、それより名前は考えたのか?」
「考えてないやっ! どうしよう。ケンも一緒に考えてくれない?」
ケンは二つ返事で引き受ける。
「どうしよう……」
ケンはこの時間をまるで赤ちゃんの名前を考えている夫婦のように思っていた。
「あっ、ケン」
「どうした?」
「これじゃあまるで、赤ちゃんの名前を考えてるみたいだね」
ライムがニコッと笑いながら言い、ケンの顔はパッと赤く染まった。
一切悪気のないライムはそんな事に気付かず、必死に名前を考えている。
「ム、ムースとかどうだ?」
ケンが誤魔化すように、されど真剣に考えた名前をライムに言ってみる。すると、ライムは「それいいね!」と元気に言うと、早速そう入力していた。
「良いのか? 本当にそれで」
「うん! これはケンが考えた名前だけど決めたのは私だから」
ライムは元気に、張り切ってそう言った。
読んで下さりありがとうございます!!
ちなみに、ムースとは スライムのスとムをとり、反対にして伸ばし棒をいれると、出来ます。
考えるのが凄い難しかったです!(笑)
面白い、続きが見たいと思ったらブクマを是非お願いします!!




