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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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対暴力

一か月に一度の定期試験は毎月25日に行われる。

1年生から3年生まで、結果は校内に目立つ場所に貼り出され誰が何点取ったかは全校生徒が知る。

クラスメイトの顔と名前が一致した頃に試験結果が知らされるので生徒間の人間関係に若干の影響がある。

各学年の主席を全員が知り、同時に劣等生も知らされる事になる。

相手に対して最初に持っていたイメージが変わる事も珍しくない。

普段から恰好付けた事を言っていても実力が伴わないと、その言葉は負け犬の遠吠えの様に聞こえてしまうからだ。


1年の成績1位は淳だった。

貼り出された試験結果を見た生徒達は、派手な容姿をしているがいつも一人で過ごし、友達がいない淳に対して益々近寄り難くなってしまった。

淳に拒んでいる意識は無く、周囲が淳に対して間違った警戒心を抱いてしまったのだ。

無口で、自分から話しかける事をしなかったせいかも知れない。

銀色の髪、緑色の目、真っ白い肌、高い身長で普通に話していても威圧感を感じてしまう。

知らない者に対して本能的な恐怖心もあるのかも知れない。

母親だと思われる綺麗な外人女性に派手なスポーツカーで毎日送り迎えして貰っている事も理由の一つかも知れない。

ただ、注目は浴びているし興味も持たれている。

生徒達が使っている、いわゆる裏サイトには淳の事に対してかなりの書き込みがある事でも分かる。

「怖い」「生意気」「外人」「不気味」等のネガティヴな書き込みが目立つ。

だが、淳はこのサイトの存在を知らないので何の影響も受けずに学校生活を過ごしていた。


月が変わったある日の昼休み、同じクラスの女子生徒が話かけてきた。

「国見くん、廊下で国見君を呼んでる先輩がいるよ」

淳にはそれが誰か全く思い当たらなかった。取り敢えず廊下に出ると知らない男子生徒が3人立っていて淳を取り囲んだ。

「国見だな、ちょっと一緒に来てくれ」

「あなた、誰ですか?何か用事ですか?」

淳が尋ねると生徒の一人が淳の胸ぐらを掴み

「1年生の癖に生意気なんだよ!いいから来い!」

と、大声で怒鳴った。


訳が分からないまま取り敢えず付いて行くと体育館の用具室に着いた。

中には上級生と思われる見た事が無い男子生徒が5,6人いて、そのうちの一人が淳に近寄って来た。

誰なんだろう?と思った瞬間、ミゾオチに強烈なパンチを食らった。

痛みもあったが吐いた息が戻らない、息が吸えなくなった。淳が腹を押さえてうずくまると、

「国見、オマエ生意気なんだよ!」大声で怒鳴りながら今度はわき腹を蹴られた。

何なんだ?と、蹴られ続けながら考えたが何も浮かばない。

1分間程度蹴られ続けた後、

「誰にも言うなよ!言ったらまた同じ目に遭わせるからな」と言って集団は用具室から出て行った。

1人残された淳は理由を考えた。でも何も浮かばない。

見ると制服には白く足跡が付いていた。

「人と関わると理不尽な事があるって亮兄が言ってたけど、コレか?」

「なんだ?これ」

訳が分からないが、次第に怒りが込み上げて来た。

立ち上がって汚れた制服を叩いて埃を払い落し教室へ戻ろうと歩き出した。

わき腹が痛かった。内出血はしてるだろう。だが身体の痛みより心が痛かった。

「屈辱ってこんな気持ちか・・・」

どうやって借りを返すか・・・淳の頭の中にはその事しか無かった。


殴った相手を殴り返してやろうか・・・

いや、自分が暴力でやり返したとすれば学校側は自分を処分するだろう。

先に暴力を振るわれたと訴えても相手がシラを切り通してしまえば自分だけが処分される。

じゃあ、学校側に暴力を振るわれたと訴えるか・・・

いや、学校側はスキャンダルを嫌うだろうから例え相手が悪いと判断しても停学や退学処分程度で終わりにしようとするだろう。それだけじゃ気が済まない。

何よりオレ一人が言うだけじゃ信用性が足りない。

以前、担任からプロ野球の事を学校の端末で調べた事で注意を受けてるし、印象はオレの方が悪い。

証拠を作ろう・・・まずは相手を特定して逃げられない様にする事だ。


淳は教室に戻る最中、大袈裟にわき腹を痛がりながら歩いた。

それを見かけた教師の一人が担任のマクレガーに伝え、マクレガーが教室に淳の様子を見に来た。

理由を聞かれたので、素直に「知らない生徒に呼び出されて体育館の用具室で殴られたり蹴られたりした、と答えた。

マクレガーは淳を連れて保健室に行き、応急処置をさせた。

その後、職員室に淳を連れていき事情を聴き出そうとしたが、淳は相手も理由も分からないと答えた。

怪我は軽傷だったが早退して帰宅するかと提案されたのだが、淳が希望したので授業に戻る事が許された。

教室に戻った淳は相変わらず大袈裟に痛がる振りをして、周囲の目を集めた。

それから授業の間にある休み時間にミアに「今日は少し遅くなるので迎えは要らない」連絡をした。


エサは撒いた。

あとは釣れるのを待つだけだ。


授業が終わり下校時間になった。

淳は校門の前で立っていると、昼休みに自分を呼びにきた3人の生徒が近寄ってきた。

「オマエ、学校にチクったな!ちょっと来いよ!」

と言って、淳の腕を掴み歩き出した。

校舎の影に連れ込まれると、やはり昼休みに淳を殴った生徒がいて、淳を見るなり殴りかかってきた。

予想していたので、1発目はかわす事が出来たがその後捕まり顔を殴られた。

「誰にも言うなって言っただろううが!」

昼休みと同じようにうずくまっている所を何回か蹴られた。

「今度、チクったらこんなもんじゃ済まないからな!」

と言って生徒達は引き上げて行った。


淳の制服は蹴られたりうずくまってしていたせいで汚れていたが、そのまま職員室にい向かいマクレガーに再度暴行を受けた事を伝えた。

ただし、今回は携帯電話で録音した音声を添えて・・・。

マクレガーーの他に生徒指導の教師が来て一緒に録音した音声を聞き、校門に設置してある防犯カメラの録画映像を確認し淳を呼び出した生徒を特定した。

淳はマクレガーに近くの病院に連れていかれ診察を受けた。

診断書は「打撲、全治10日間」


学校に戻り、マクレガーの車で家まで送ると言われたが断った。

「先生、これから警察に行って被害届を出します。ですから送っていただかなくても結構です」

「ちょっと待て!警察?」

慌てるマクレガーを見ながら淳は

「はい、傷害事件ですから。逮捕して貰います。ちゃんと自分がした犯罪を償って貰わないと」

「ちょっとここで待ってろ!」

そう言うとマクレガーは急いで校長室へ行き、今度は校長室に淳を連れて行った。

促されて校長の向かい側に座った。

「警察に行くと聞きましたが・・・」

「はい被害届を出して障害事件で告発するつもりです。」

「思い留まってくれませんか?」

「どうしてですか?殴られたり蹴られたりして凄く痛かったんですよ。警察に訴えるのが当然だと思いますが。」

「処分は学校でしますから、大丈夫です。なので警察まで行く必要は有りません」

「暴力を振るわれたボクはどうなるんですか?ごめんなさい、で終わりですか?こんなに痛いのに」

そう言って淳っはわき腹を手で押さえた。

「相手には謝罪させます。ですから・・・・」

「納得できませんね。要は校長はボクに相手の謝罪だけで納めろと言ってるんですか?」

「相手からの十分な謝罪があれば良いじゃないですか」

「他の人の事は知りませんが、僕は収まりません」

「では、どうしろと・・・」

「ですから警察に行って逮捕して貰い家庭裁判所の判断でそれなりの処分をしてもらいます。

相手は3年生ですか?18歳なら初犯として執行猶予が付きますから大丈夫だと思いますよ。

18歳未満だと保護観察処分で済みます。」

「わざわざ大事にしなくても・・・」

「ご存じでしょうが、僕は帝国大法学部を卒業しています。その辺は詳しいですよ」

「いや、そうではなくて・・・」

「校長先生、告発を邪魔するんですか?ならそれなりの対抗措置を講じますが?」

「私は邪魔しようとしているのではなく、思い留まる様にと助言しているだけだ!」

校長の声が次第に大きくなってきた。横にいるマクレガーは黙って聞いている。

「告発を止めさせようとしてる事には間違いありません。校長の行為を内部告発として文科省の出向機関に届ける事もできますが・・・どうしますか?」

校長は懐から携帯を取り出した。

理事長のリコに連絡している。



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