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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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素人からの提案

亮にレポートが渡って何日は経った頃、珍しく早く帰宅した亮が夕食後に淳をリビングに呼んだ。

行くと、ソファに深く身を預け缶ビールを飲んでいた。

テーブルの上には先日淳が作ったレポートが置いてあり、この件について何か言われるのかな?と思った。


「レポート読んだぞ。色々聞きたい事があるんだが・・・いいか?」

淳が向かい側に座った瞬間に亮が切り出してきた。


「まず・・・随分と突っ込んだ内容になっているが資料はなんだ?」

「YouTubeにアップされていた野球に関する動画を片っ端から見ていったんっだけど、その中に国営放送で放送された博多フォックスのドキュメント番組があってさ、そこから興味を持ってウェブで検索ワードを色々変えて調べた物だよ。資料と言っても色々な所からの引用数字だから覚えてない」

「なるほど・・・。博多フォックスの設備投資の額もそうなのか?」

「それこそ、国営放送のドキュメントで言ってた事だよ。三軍選手の日常を追う内容だったけど、国営放送が政治関連以外でフェイクするって事はないでしょ?」

「その番組面白かったか?ウチの局でもそんなの作らせようかな・・・スポンサー付きそうだし」

亮が思わず呟いた言葉を後ろにいた綾子が聞いて笑った。


「すまん、話が逸れたな。だが、スカウトの人数についても指摘があるが、質という点に留意しなければ数を増やしても効率的じゃない」

「ドラフトってあるでしょ?チーム編成の根幹だと思うから、そう書いたんだ。

亮兄はスカウトで一番結果出してるチーム知ってる?埼玉ライオネルズだよ。

ドラフトの1位から3位で3年に2人は何らかのタイトルを取らせてるんだ。」

「それは知らなかった!凄いな埼玉・・・。」

「ボクならライオネルズの編成部長をヘッドハンティングするよ」

「確かに、手っ取り早いな。」

言った亮も、綾子も淳も笑った。

「なにかのコツみたいな注目すべきポイントがあるんだと思う。

大阪ダイオーズでタイトル取る選手は10%しかいないけど、ライオネルズは30%超えてるんだから。

因みに東京ジェントルマンと博多フォックスも30%はかろうじて超えるんだけど、強いチームに共通する点だよ」

「なるほどな・・・だが編成の努力で良い選手が取れても育成が良くないと育たないな」

「だから博多フォックスは若い選手の育成に大きな投資をしてるんだと思う。

多分これが毎年優勝争いする強さの原因だと思う。」


亮は次第に真剣な表情に変わり片手で持っているレポートを睨む様に見ていた。

「三軍制か・・・資金に余裕が無いと無理だな」

「現状で博多フォックス、東京ジェントルマン、それに広島カブスの三球団しか持ってないけどね」

「全部強いチームだな・・・三軍持ってると強くなれるのか。それにしてもカブスも持っているとは・・・あそこはそんなに余裕は無いと思ってたんだが・・・」

「メリットとして育成メニューを充実できるんじゃないかと思う。カブスは素質がありそうなキューバの選手に技術を教える場所になってるらしいよ」

亮は淳の言葉に頷いた。


「あとは人事か・・・監督だな。だがレポートでは詳しく書いていない」

「監督って微妙なんだよね・・・手腕が良いから勝てるのか、選手が良いから勝てるのかハッキリしない。」

「そうだな・・・」

「でも、弱小チームを強くした実績を持ってる監督なら何人かいるよ。その人は確かだと思う。」

「それ誰だ?」

亮が淳の顔を真剣な顔で見た。


「三冠王を三度取った前名古屋バイオレンスの大内監督、それに以前ブルージェイズ監督だったラミアス監督」

「なるほど・・・言われると納得する二人だな」


淳が立ち上がった

「ボクがする提案はコレだけだよ。実際には費用対効果の問題もあると思うけど、頭の片隅にでも置いておいてね」

「そうだな・・・分かりやすかったけど、やっぱり大金かかるんだ・・・簡単じゃないな」

「そりゃそうでしょ、草野球じゃないんだから」

「でもレポートありがとうな、オマエって野球の事全然詳しくないのに良くここまで調べたわ。愛を感じるぜ!」


亮は優しい笑顔を浮かべて礼を言った。いつもと違う雰囲気に淳は噴き出して笑いながら自分の部屋に戻った。


淳が亮の為に骨を折ったのは、普段から優しくして貰っている事に感謝してるからだ。

自分が困った時に必ず助けてくれる。

少しでも好意を返したいと思っているからだ。

年が14も離れているからだろうか、兄も姉も本当に優しかった。

だから普段から兄や姉の力に成れる事があったら頑張ろうと思っている。


淳が2階の自分の部屋へ戻ったのと入れ替わる様に、慧がリビングに降りて来た。

缶ビールを飲んでいる亮を見て

「私も飲んじゃおうかな・・・アヤちゃんは飲んでないの?一緒に飲もうよー」

そう言いながら冷蔵庫から500mlの缶ビールを2本持って亮の向かい側に座った。

片付けを終えた綾子が亮の隣に座ってから、慧がビールの蓋を開け三人で乾杯してから飲み始めた。

ふとテーブルの上に置いてあった書類を見て

「何?コレ?」と言いながら手に取り、目を通し始めた。

「この間、オレの野球チームについてアヤに愚痴をこぼしたんだが、それを傍で聞いていた淳がチーム強化のレポートを作ってくれたんだ。オレも知らなかった事が書いてあって、簡単だが中々良く出来ている」

片手でビールを持ち、もう片方の手でレポートを読みながら

「うわ、100億?王さん凄いね!」


王志明ワンシメイは台湾系日本人で日本を拠点に活動する投資家であり実業家である。

カルチャーバンクグループ株式会社の代表取締役社長兼会長で、傘下の博多カルチャーバンク・フォックスの取締役オーナーでもある。

カリフォルニア大のバークレーで経済学部を卒業し個人資産は250億ドル。

日本円にすると2兆6000億円で日本の長者番付で2位となる。ちなみに3位が国見亮だ。

亮は王個人をビジネスモデルとして研究し目標としている。


「この前経団連の絡みで王さんに会ったんだが、その時に、野球でも勝負したいが中々苦戦してるようだね、って鼻で笑われてさ」

亮はビールを飲みながら自嘲する様に言った。

綾子は黙ってビールを飲み、慧はレポートを見ながら聞いている。

ザッと読み終えて慧が

「チームの強化は売上強化、利益増収に直結するとはいえ100億を投資するって勇気いるね」

「今年の3月期で売上が6兆2000億あったけど、伝染病の影響で実は9700億の赤字なんだ。

この状態で100億の投資は確かに少し考えなきゃならん」


綾子は亮の会社の数字を始めて聞いたのでビックリして思わず亮を見た。

亮との会話の中で、億単位の話はされた事が何回もあるが流石に兆という単位の金額を聴くのは初めてだったからだ。高給取りと言われた自分の女子アナ時代の年収が1000万だった事を考えると眩暈がしそうな数字だった。しかも赤字!不安を覚えない方がおかしい。

だが、亮も慧も普通の顔で会話している。どんな人種なんだと今更思ってしまった。


慧がニヤリとしながら

「でも、やるんでしょ?アンタの性格なら」


「実は昨日四葉銀行の副頭取と飯を食ったんだが、この不況で融資する所が無くて困ってるから何かあったら声を掛けて欲しいと言われててな・・・。前回の金融政策で日本銀行からの金には利子が付くから以前と比べて銀行も辛くなってると言ってた。」

「四葉から資金調達をすると?」

「それを今悩んでるんだ」

亮もニヤリと笑って話していた。


ビールをグイと飲み、

「それにしても良いレポートだ。野球を殆ど知らないアイツが一晩でこのレベルの考察をするのは凄い」

すると綾子が

「さすが淳くん!!って感じ?」

「ああ、データの選別と発想がユニークで面白い。時間が無かったとはいえ、オレでさえ色々と気づかされる」

亮が感心した。それを見て慧が

「私も言ってみようかな・・・今抱えてる国産の時期主力支援戦闘機の事とか・・・。

2兆円事業だから色々とね・・・」

「あ、ニュースで見た。アメリカとイギリスが売り込んで来てるんだろ?」

「そうなの、今までの事を考えるとアメリカのロッキードと共同開発する方がベターだと思うんだけど、デメリットが多くて・・・。で、今まで弱点だったジェットエンジンを石川のIHI社が世界トップ級の性能を持つエンジンを造っちゃって、それにまたアメリカが興味を持って更に共同開発の誘いが熱くなってきてて・・・」

亮が

「話を聴いてるだけで面倒だ」

黙って聞いていた綾子も笑ってしまった。


慧が淳に国防という重大な問題を相談するとは綾子には思えなかったが、、亮はもしかしたら、と思っていた。







一か月後、横浜ブルージェイズは球団事務所で記者会見を開き

来年度からチーム強化を目的に三軍制を採用する事、二軍・三軍の為に室内練習場を備えた新しい練習グラウンドを用地買収を含めて3年以内に作る事、大胆な組織の構造改革をする事が発表された。




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