クラスメイト
帝国大やハーバート大を履修している淳でも成城院では試験で学年トップを取れていない。
もっとも、取る気も無いし特別な試験勉強もしないのだが・・・。
一か月に一度ある定期試験では2回とも2位だった。
トップは山崎修という男子で、入学試験を首席で通過して以来ずっとトップを守り通している。
ガリ勉タイプでは無いが、部活には入っていない。
授業が終わるとすぐ帰ってしまう。
特別裕福な家庭ではないが、成城院の中等部からエスカレーターで進学してきたようだ。
進学塾には通わず、家庭教師が週2回来ていたくらいだったという。
家が学校の近所である事と中東部時代の成績が超優秀で特待生制度の資格があり授業料が免除になるという事が志望動機らしい。
明るくソコソコのイケメンなのだが、何故か周囲から浮いている感じがある。
理由は分からない。
淳が編入してきた時に学校の事を色々教えてくれたのが修で、話した感じは気さくな良い奴だと淳は思っている。
その修が中学生をブン殴っているのを目撃してしまった。
週末の学校帰り、ミランダが寄り道したいと言ったので淳とマックスが付き合ったのだが、
その帰り路で、修の凶行を目撃したのだ。
「オサム!」
淳とマックスは声を上げて修の所へ走り寄り、修を相手から引き離し地面に組み伏せて拘束した。
修は抵抗しなかった。
ミランダは殴られた中学生に声を掛けて様子を見た。
口が切れて出血しているが、大事無さそうだ。
介抱しようとするミランダの手を払い、口元の血を手で拭った中学生は押さえられている修に向かって突進して来た。
マックスは修を押さえたままで、淳が中学生を捕まえやはり地面に組み伏せた。
これで二人とも動けない。
「話は出来そうか?」
淳が中学生を抑え込みながら修に言った。
「大丈夫だ。メイア君だっけ?暴れないから離してくれ。」
修は冷静に答えた。
立ち上がり服に付いた土を払っている修に淳が
「どうしたんだ?優等生の修らしくないじゃないか。」
「優等生?そんなものどうだっていい・・・クソくらえだ。」
「ともかく暴力に頼るのはどうかと思うぜ。なぜこうしたのか話してみろよ。」
「そいつがいなくなったら言うよ。」
修の言葉で淳が中学生を離した。
中学生はこちらを睨みながら歩いて去っていった。
修は薄笑いというか、自嘲している様な笑顔を浮かべながら話始めた。
「これで終わりだから話すけど、復讐なんだよな。
中学から俺を虐めてきた奴等が5人いるんだけど、そいつらへの。
中学生の弟を殴ったり、そいつの父親をバットで襲撃したり、マンションに毎日の様に石を投げて窓ガラス割ってやったり、無言電話しつこく掛けたりしてやった。
で、それぞれの家に『息子が虐めしてるので本人ではなく貴方に復讐します』って手紙送っといた。
殴る相手にもそう言ってから殴ってた。」
「虐めって?」
ミランダが聞いた。
「カツアゲ、暴力、持ってる物を壊されたり、家の窓ガラス割られたり、無言電話とか色々だ。」
話を聞いたマックスは苦笑いしていた。
「なんで虐めた本人にやらねーんだ?」
すると修は
「本人より周囲を巻き込む方が問題大きくなるだろ?」
「けど、傷害で逮捕じゃねーか。」
「それでもいいんだ。
無言電話や投石で窓ガラス割られたりしてな、母親が鬱になっちまった。
自殺未遂だよ・・・。その時に、決めた事なんだ。
警察はもう来たよ。でもバックレてなんとかここまでやれた。」
「お母さんは大丈夫なの?」
ミランダが聞いた。
「まあまあかな・・・でも本番はこれからだよ。」
修が不敵に笑った。
「まだ何かするつもりなのか?」
「相手は5人だけじゃないからな・・・」
「でも警察に捕まったら何も出来なくなるだろ?」
「直接オレがやる訳じゃない。おそらく味方は大勢出てくるだろうし、もしかしたらももっと大きな事にできるかも知れない。」
「なにをするんだ?」
淳が聞くと、修が携帯を取り出した。
「これを聞けよ。 中学の時、虐められてる事を担任の先生に話した時の録音だ。」
【虐められている事は知っている。だが虐めは自分にも問題があるから虐められるんだ。
自分で何とかしてみろ】
「俺はおそらく家庭裁判所に送られるだろう。その時の動機にこれを提示する。
俺は担任に言われた事を俺なりに考えて実行した。
入る前にSNSに投稿し拡散させるけどな。」
修は一時的な感情や思い付きで犯行に及んだのではない。
かなり計画的だと淳は思った。ただ実際に実行するのは自己喪失気味だと思う。
「何も分からない母親を鬱にされてるし、担任はアテにならんし・・・やる気持ちは理解できるけどな。」
マックスが言った。
その点は淳も同意する。
「けど、そんなくだらない奴等と自分の将来と引き換えか? バカ野郎。」
淳が修を睨み付けた。
「母親が鬱になって父親も仕事に支障が出て辞めなきゃならなくなった。
俺も学校辞めて働こうかと考えてる、妹だっているんだ!
今回退学になっても丁度良い位だ・・・」
修は目に涙を浮かべながら怒鳴った。
ミランダ何とも言えない苦い表情をしている。
「なるほど。 でも待てよ、もうちょっと詳しく教えろよ。 オサム時間あるだろ? ちょっと俺の家まで来い! ミランダ少し手伝って欲しい。」
そう言って修を強引に家まで連れ込んだ。
家に着くと、速攻でPCを開き修を虐めていた人間の名前を聞き出した。
ミランダにその人間の親の職業を調査して欲しいと頼んだ。
生徒名簿から、学校のデータベースに侵入し、家族構成や親の職業、年収までを調べる。
自室で作業していたミランダは1時間も経たない内に淳の部屋に来て詳細のプリントを持って来た。
「オサムは優秀な人間なんだから、こんな奴等に将来を邪魔させたくないんだよな。」
淳は渡されたプリントに目を通しながらニヤリと笑った。
それを見たオサムが横にいたミランダとマックスに視線を移すと二人とも笑顔で頷いてくれた。
その時、学校から修の携帯に電話が来た。
先程殴った中学生の親から学校に連絡が行ったので連絡してきたのだろうと淳は思った。
修は今すぐ学校の進路相談室まで呼び出しを受けた。
すると淳が電話をする。
「璃子センセ!国見です!お忙しい所にすみません。
実は大事な相談がありまして・・・・・
いや璃子先生にとってもかなり大事な話だと思います。
あ・・・大丈夫ですか?じゃあ、30分後に学校の進路相談室で!」
ニヤリとして淳は電話を切った。
学校に行く途中、淳は修に幾つか確認した。
「オサム、お母さんの診断書とか自分の診断書とか持ってるか?」
「家に帰ったらある。」
「じゃ、学校に行く前に修の家に寄ろう。それ必要になるかも知れないからさ」
「他にも色々あるよ。虐められてる時に録音した物とか、ガラス割って逃げてく姿の録画とか。」
「おお!それ最高! さすがオサム!」
淳はモチベーションが上がっていた。
淳が笑顔で楽しそうにしているのを見て、ミランダとマックスはヤレヤレという顔をしている。
修は自分の為に色々してくれるのは嬉しかったし有難いと思っていたが、なぜここまで?という疑問も湧いていた。
「国見・・・なんで、ここまでしてくれるんだ?」
「なんでだろう?オサムが優秀なのは知ってるし良い奴だって事も知ってる。
そんな奴がイジメみたいな事をするカスのせいでヤリ喰らうのがイライラするからかな・・・
あと、基本的にイジメって嫌いなんだよね。クソじゃん?タイマンとかならオオ!って思うんだけどさ。」
淳は笑って言った。
母親と自分の診断書、病院のレシート等を持って進路相談室に着くと、さっきの中学生が父親を連れて来ていた。
担任教師のマクレガーと璃子も同席している。
淳と修達が入ってくると璃子が
「何となく察しがついた・・・。」
と言ってため息をついた。
「始めましょう!」
淳が椅子に座って話始めた。
すると、中学生の親が
「何を始めるんだ?ワタシはこの暴力を振るった生徒を警察に突き出す話で来ているんだが。」
「佐藤一郎さんですね?関西銀行東京支店の支店長でいらっしゃる。」
淳がミランダのプリント見ながら答えた。
「そうだが?私の仕事が今回の事件と何か関係があるのかな?」
佐藤がイライラしているのを見て、淳は楽しくなっている。
「いえいえ、関西№1地銀の東京支店長ならエリートコースに乗っている優秀な方なんだろうな、と」
「キミはなんという名前かね? 物の言い方が生意気だな・・・
この学校ではこんな生徒もいるのかね?」
佐藤が璃子に向かってイライラしている事を隠さずに言った。声が大きい。
「申し訳ございません」
璃子が頭を下げた。
「ボクは国見淳と言います。この山崎修君と同級生で色々とお世話になっている者です」
淳は丁寧に自己紹介したが、相手を小馬鹿にする態度が滲み出ている。
これは普通の人間なら怒るだろう。
「今回の暴力事件で山崎がした事は勿論悪質です。
自分よりも明らかに弱い者に対して暴力を振るった訳ですから。
その点は反省し心から謝罪しなくてはなりません。」
淳はそう言うと頭を下げ、隣にいる修の首根っこもテーブルに押さえつけた。
オサムも
「すみませんでした」
と謝った。
「本人も反省しているので、この辺で勘弁して頂けないでしょうか?」
淳が言うと
「この程度で済むか!」
佐藤が怒鳴った。
璃子は黙って見ていた。
淳の事だ、絶対に何かあるに決まっている。
だいたい自分達が悪いなんて顔をしていない。
これからくるシーンを想像して璃子の気持ちは少し重かったが、まぁいいか、とも思っていた。
「そうですか・・・この程度で済んだ方が良かったのに・・・・。」
淳が顔を上げた。




