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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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慧の戦い 3

大手メディアは矢部が口説いているという候補を完全には判明出来なかった。

外務大臣の倖田は出馬が確実なのだが、彼は矢部と派閥が違う。

矢部が言う人物では無かった。

数名の名前が挙がるもののどれも決め手に欠けていた。


慧が出馬する事を知っているのは、矢部、党の幹事長、それに慧本人と慧の第一秘書の4名だけで、情報は一切漏れていない。

マスコミは連日その特定不明な候補を推理する内容を報道していて、世の中も自民党総裁選に注目する様になっている。

誰が何をしたのか、それは総裁選に出馬する布石ではないのか、という内容だ。

結果として政治に関心が薄かった層にも自民党や政治といった物をアピールする事となった。



出馬受付の締め切り2日前の夜、

慧はリビングに家族を集め、総裁選出馬を報告した。

いつも旭が見ている報道番組でも総裁選の候補を憶測する内容で、慧はニヤりと笑いテレビを消してから話始めた。


「いま話題になってる正体不明の候補って実は私なんだ。明日出馬会見を開くわ。」

慧が両親の顔を見ながら言った。


「オマエが?その若さで?」

普段はあまり感情を表に出さない旭が驚き、目を見開いて慧を見た。

ビールを片手によそ見をしていた亮も、その横に座っていた綾子も、スマホを弄っていた淳も全員驚いて慧を二度見している。

ただミアだけはニヤリと笑い

「なるほど・・最近いやに難しい顔してるなぁとは思っていたんだけど、そういう事だったのね。」


「実は総理が記者会意見する前の日、総理に呼び出されて話をされたの。

その場で出馬を決めてたんだけど、発表は控える様に言われてて言えなかった・・・ゴメン。」

慧が頭を下げた。


「勝算はあるの?」

淳が真っすぐに慧の顔を見て尋ねてきた。


「10中8~9の確率で負けるよ」

「負けると分かっているのに何故出るの?」


すると綾子が

「淳クン、これは準備なのよ。総理大臣になる為の第一歩ってところかな。」


慧が微笑んで綾子を見た。さすが元民放のトップキャスターだ。

綾子が話を続ける。


「偉大と言われている総理大臣でも総裁選の初出馬で勝った人なんて、派閥談合の無投票選挙以外では殆どいないの。確か5人か6人・・・あとは皆1回か2回の落選を経験してからやっと総理になった人ばっかだよ」


「じゃ、慧姉も将来的な事を考えて今回は負け戦に出るって事なの?」

淳が綾子の説明を聞いて慧に尋ねる。


「将来、自分は総理大臣になりたいと思っていますよ、20人以上推薦してくれてる人間もいますよ!って党の議員や地方の党員、それに国民にアピールするってのは勿論だけど・・・

それ以上に、自分がやりたい事・考えてる事や、現在練っている政策を全国ネットで話せる機会なんて総裁選でもないと機会が無いの。

まして現職の総理が応援してくれる状況なんて特殊なケースだもん。

ノータイムで決めたわよ。」


すると、亮が・・・

「チャンスの神様って知ってるか?

見つけて髪を掴めば成功って言われてるんだけど、そいつは前髪しかない上に凄いすばしっこいんだ。ウカウカしてたらアッと言う間に逃げてしまう。

これだ!と思ったら飛びつくのが正解だ。チャンスの神様が戻って来る事なんて無いからな。」


ミアは笑顔で聞いて頷いているが、旭は笑っていない。


「それでもまだ早い・・・オマエは若過ぎる。」

言われた慧は苦笑いをしながらミアの顔を見て首を振って肩をすくめた。

反対という雰囲気の旭に慧が言う。


「確かに、ワタシはまだ29歳で若過ぎると自分でも思う。

当選も3回しかしてないし、議員になってやっと5年目だし経験も圧倒的に少ないって分かってる。

でも、私が出る事によって世間の目は更に総裁選に注目する。民自党に注目する。

候補者同士の政策論争にも賛否がでて政治に関心が集まる。

それだけでも私が出馬する意味があると思う。

若い私が出る事によって同じ世代の人間にも政治意識を喚起できるかも知れないし。」


「確かにそうだが・・・」

慧の言葉に旭は言い返す事が出来ない。


「パパ・・・いま若い世代が政治に対して持っているイメージって知ってる?

有権者に高齢者が多いから、政治も高齢者に優しい政策ばっかりだ!って・・・

私はそんな低いレベルで政治をしていないって言いたい。

未来に希望が無いなんて馬鹿な勘違いを止めさせたい。

それを分かって欲しい。」


旭は苦い顔をして下を向いた。

若くして大臣に抜擢される程優秀なのに経歴に傷が付かないか心配なのだ。

しかも、出る杭は打たれる。

注目される度合いが大きくなるほど、否定的な見方も増える。

誹謗中傷も多くなり、それによって精神的に疲労する事も心配だった。

今回の総裁選で勝目は万が一にも無い。

それによって将来を否定的に見る人間が出てくる事が一番の懸念だ。

顔を上げて、もう一度娘の顔を見る。


「腹は括った、という事か。」

「大丈夫、ネガティヴな事は一つも無いから」


ミアが慧の後ろに立ち、

「There is something you should do you best ! Keep it up ! 」

(頑張ればきっと良い事がある。頑張りなさい)

そう言って肩を強く抱いた。


「親愛なる姉に老婆心ながらアドバイスしよう。」

亮が飲み干したビールの缶を潰しながら言った。


「池上明彦って元国営放送のニュースキャスター知ってるか?

奴が人気なのは何故か分かるか?

難しい言葉を使わず、事例を子供にも分かりやすく説明できるからだ。

難しい言葉を使えば、それなりの印象を与える事は出来るかもしれない。

でも印象だけだ。積極的な支持を得るまでは難しい

消去法で選ばれるのが精一杯だ。

だから党員にも一般国民にも理解しやすい話をして支持を得ろ!

それが出来たなら、ただの敗戦にはならない筈だ。

頑張れ!」


「出来る事があったら、何でも言ってね。応援したいから」

綾子も笑顔で声を掛けた。

「ありがとう。頼らせてね」

慧は嬉しそうだ。



「総裁選って、やっぱり現金とか裏金とか賄賂みたいな物が飛び交うの?」

淳が聞いた。


「どうだろ?ワタシってそういうの無縁だったし、今回も矢部総理から根回しは自分達に任せろ!って言われてるし。 分からないわ」

といって笑った。


出馬を決めた時に思った家族の反応は思い描いた通りだった。

慧はホッとした気持ちになった。

そういえば、あの時淳の反応が想像出来なかっただが・・・


「淳は応援してくれないの?」


「負けるつもりでやるなら応援に意味無いじゃん」

淳が言う事はもっともだ。慧も納得する。


「でも、勝つ為ならオレに出来る事は何でもするよ」


「勝ち負けか・・・実はコレまで言うつもりは無かったんだけど・・・

実は負けるにしても意地はあるのよ。

自分の中に勝ち負けのラインがあってね・・・私の中では決選投票まで勝ち上がる事。

あっさり終わらせるつもりは無いし、最低でも2位に滑り込んで決選投票まで勝ち上がる。

決戦投票に持ち込めれば29歳、当選3回、議員生活5年目の政治家としてなら将来有望で日本初の女性総理に王手をかける事が出来る。

もしそれが出来なかったら、私にその資格は無いと思う。

もちろん簡単では無いと思ってる。

だから、自分の使えるモノは何でも使おうと思ってる。

淳もそう。使えるモノは淳でも使う。

滅多に無い姉のお願いよ。

協力してよ。」


「この前の、少子化対策レポートと対中国政策のレポートとか?」


「そう。あれは所見演説を作る資料に欲しかったんだ。」


「できたの?原稿?」


「出来てたけど、亮に言われた事を頭に置いて作り直そうと思った」

慧は笑って答えた。


「取り敢えず分かった。何かあったら言って。」

淳も笑顔になった。



家族の了承は得た。

明日の記者会見にはスッキリとした気持ちで臨める。








翌日、マスコミに民自党本部で国見慧の総裁選出馬に関する記者会見が矢部同席で開催される告知された。

国内外合わせて130人もの報道陣が集まって開始を待っている。


慧が控室に入ってすぐ、矢部も秘書を連れて入って来た。

軽く挨拶したあと


「国見クン、家族には話したのかい?」

「はい、昨夜家族を集めて発表会をしました。」

慧が笑って言うと、矢部も笑った。


「ご家族は何か仰っていた?」

「いえ、特に・・・」

「淳クンは?何も言わなかった?」

「ハッパ掛けられました。負けるつもりで出馬するなら応援する意味も無いって」

「彼らしいね」

矢部が笑うと慧も苦笑いで返した。


「実はギフテッドについて色々と勉強してるんだが・・・

彼等は政治対して強い関心を持つ場合が多いそうで、歴史的思想家や偉人にはギフテッドが多いそうだ。」

「確かに、文句を言って来る事はありますが・・・」


矢部の笑顔が消え、慧の顔を見て

「使えるモノは何でも使いたまえ。天才が後ろに控えているなら心強い。」


慧はなるほど、と思った。

自分の出馬には淳の事も計算に入っていたのだ。

確かに淳は時代の状況において常人では発想できない思考である為、または自分の考えを表に出したがらなかったりして周囲から浮いた存在になる事が多い。

だから、淳の頭脳を使い衝撃的な提案し周囲を驚かせて議論を活性化させろ、という事だろう。


少しプライドに障ったが、淳が自分の弟である事に感謝しようと思い直した。

「親ガチャ」という言葉が頭をよぎり、関連して淳の少子対策レポートを思い出した。


確かに衝撃的だ・・・。

でも関係各位への調整が途方もない事になるのが分かり切っている。



「先生、そろそろ・・・」

秘書が慧に記者会見の開始時間を告げた。


いよいよ慧の戦いの幕開けである。



















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