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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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カウンセリング

細身ながら適当な筋肉が付き、長身で脚が長く小顔。

銀色の髪で瞳は緑。

街を歩くと必ず芸能関係のスカウトから声を掛けられる。

世界的な売れっ子モデルだった母の遺伝子が濃く受け継がれている。

更に天才と呼ばれる程の頭脳を持つ。

世界的な科学者である父の遺伝子が作用しているのかも知れない。


だが・・・・

モテない、しかも全然・・・。



国見淳である。


外見が理由で他校の生徒や上級生の女子からは人気があるが、

必要以外で淳に話かける女子クラスメイトはいない。

女子どころか男子さえも話かけない。


なぜか・・・

淳は無口な上に、滅多に笑顔を見せない。

いつも苛立っている様に見える。


入学して、上級生とモメた事を皆が知っている事も理由であろう。

怖がられているのだ。

乱暴な奴が苛立っている状態で必要な時以外にワザワザ話しかける人間などいない。



友達が出来ない状態を放置できないと思った担任のマクレガーは淳にカウンセリングを受けさせる事にし、

常駐していないカウンセラーと予定を調整し、その日淳にカウンセリングルームの部屋に行く様に告げた。

同時に理事長である璃子にも校長を通じてカウンセリングの日時が報告された。

淳は文科省が注目する天才であり、学校側がその子供がどんな事を考え、どんな感情を持つのかをモニターする事を依頼されていたからだ。

今後も誕生するであろう天才児に対する教育ノウハウを作るつもりなのだろう。


実際アメリカでは天才をGIFTEDギフテッドと呼び、既に天才児に対するメンタル面の研究が始まっている。

大きな才能を潰す事無く、将来の国益に貢献して貰おうという考えだ。

日本の文科省もここ数年からギフテッドに関心を持ち、少しづつ資料として知識を得ようとし始めた。



ギフテッドとは、生まれつき大きな才能を神様から授かって産まれてきた人間を指す。

決して勉強や努力で得られるといった類では無い。

先天的に、極端に高い知性と共感的理解・倫理観・正義感・博愛精神の何れかを持っている人間だ。

THREE RING(3つの輪)理論が定義され、【平均以上の能力・高い目的達成意識・高い創造性がそれぞれ干渉しあい、それを反映した行動がギフテッドの行動である】という物だ。


アメリカに比べ日本は圧倒的にこの分野におけるモニター対象が少ない。

研究開始が遅かったせいで対象にできる人材の発掘も遅れたのだ。

そんな状態で発見された国見淳はギフテッドと分類される人種の中でもズバ抜けて知能が高かった。

文科省は父親である国見旭に飛び級を提案し、13歳で帝国大を卒業した淳に海外留学

を薦めた。

イギリスのオクスフォードとアメリカのハーバートが候補に挙がり、両親の母校であるハーバートに決めた。ハーバート側も喜んで淳を迎え入れた。

アメリカ留学中に興味の湧く対象を見つけ、研究者になると予想していた文科省官僚だったが、まさか日本で高校生になるとは予想外だった。

再び淳をモニターし資料としてデータを積み重ねて行く方針となった。

成城院高校に入学する際、理事長の璃子にモニターを依頼し、成績や学習・生活態度等を細かく報告するのが義務となったが、学校側は文科省に【貸し】を作った事で要求を通しやすくなっている。

璃子もカウンセラーとの会話を別室からカメラを通して聞く事にしているので、報告を受けた後速やかにスケジュールの調整をして時間を空けた。




当日・・・

淳の授業は免除され午前9時からカウンセリングが始まった。

担当するのは四葉グループが契約している臨床心理士で30代前半の女性だ。

着ている濃紺のスーツが良く似合っている。

臨床心理士ってより、企業の管理職といった方が合っている雰囲気だ。


「初めまして、国見淳クン。

私は柏木美里、今日は学校の依頼でキミのカウンセリングをしに来ました。」

今時ツーポイントの眼鏡をかけているが、顔立ちが綺麗なせいで似合っている。


「カウンセリングというと、ボクの話を聞いて心情や状況を理解し、抱えている問題を解決する為のサポートって事ですよね?」

淳は穏やかな笑顔で柏木に尋ねた。


「一般的なカウンセリングを定義するなら、そういう事ね。

でも、キミって天才なんでしょ?問題の解決どころか状況の理解さえも難しいかも知れないから、今日は私が貴方にインタビューする気持ちで来たのよ。」

そう言ってブリーフケースからボイスレコーダーを取り出した。

録音して後から文字に興すのだろう。


「じゃ、始めよう!

まず、最近特に印象に残ってる事から話してちょうだい。」


印象に残っているのは、幾つかあるのだが・・・

上級生と拳銃沙汰のモメ事が合った事や韓国のPMCからミランダが拉致されそうになった事は他人に話して良い事とは思えない。拳銃の事を聞かれるに決まっているからだ。

矢部や四葉重蔵と関わり合いを持った事も大きい事だが、それもあの人達は広く口外されたくないだろう。

エッガー一家と同居する事になった事・・・いや何よりも日本に帰国して高校生になった事が一番大きな出来事だったかも知れない。


「帰国して、成城院の学生になった事かな・・・印象に残る出来事ってより大きな出来事って方がピッタリだけど」


「なるほど・・・世界ランク1位の大学を履修した後に高校生になる人間なんていないもんね」

淳の言葉に柏木がフッと笑った。


「何するか決めて無かったもので・・・やりたい事も無かったんですよ。

それで母が人生決められないなら高校生からやり直せ!って言われて・・」


「なるほど・・・ちゃんと悩んで決断しろって事ね。良いお母さんじゃない!」


「そうですね。母に限らず家族は皆大好きだし尊敬しています。」


柏木はブリーフケースからタブレットを取り出し、国見家の家族構成を見た。

「確かに、凄い家族だもんね。じゃ家族に対して特別なストレスは無いのね?

親や家庭環境は子供の精神面に多大な影響があるけど、ソレは皆無だと」


「ありませんよ。両親は勿論、兄や姉にも、同居している義姉にも」


「それじゃ、学校生活に対しての不満は?」


「沢山あります。でも成城院はボクに大きな配慮をしてくれてると思います。」


「ふ~ん・・・。でも具体的な不満点はあるんでしょ?」


「どんな物でも完璧な物なんてないでしょ?一つ一つ挙げた方が良いですか?」


「だって、一応カウンセリングだもの。聞くのは仕事よ」

柏木の言葉に慧は笑った。


「それでは・・・

まず、授業は一度聞いているのでつまらない。退屈なんです。

前に通っていた開星高校では、授業の疑問点を教師に聞いても答えてくれない。

なぜなら知識が無いから・・・。自分の方がレベルの高い知識を持っているからだと気付いたのは帝国大に進学してからです。


それからコレも開星時代の話なんですが、

教師は平均を求める。周囲と同じを求めるんです。

極端な言い方だと、特別な物は良く無いという価値観です。

周囲の生徒と違う価値観だったり、教師個人の価値観と違った言動には感情的なシコリが残ったりします。

実際、教師の言動から疎外感を味わった事もありますからね。」

淳は一気に話した。


モニターで傍聴していた璃子は話を聞いて、納得できた。

確かに日本は集団と協調を大事に思う価値観で、教師個人もそう考える人間が多い。

教師達が淳の授業態度を問題視しているが、この様な事が原因だったのだ。


「成城院でも同じ?」

柏木は淳に尋ねた。笑顔でも目は笑ってない。


「成城院は開星より楽です。担任の先生だけですが個性として許容してくれていますから。

生徒にも留学生として外人が多いからかも知れません。

授業に関しての疑問点は質問していません。自分で調べれば良い事ですから。」


「なるほどね・・・。

それじゃ別の話で・・・情報だと交友関係が極端に狭く、友達が二人しかいないとなっているのだけど、みんなと仲良くしたいとは思わないの?」


「ボクは幼い頃から、外見も思考も変わり者として虐められてきたので仲良くなる、信用するって事が難しいのです。日本でもアメリカでも同じでした。

それに、相手に気を遣って話すのは面倒だし疲れるしストレスになります。」


「相手に気を遣う?どういう事?」


「例えば、自分では普通の言葉だと思って使っても相手にとっては知らない言葉・難しい言葉なんです。そうなると会話をするには簡単な言葉を選んだり、理解しやすい話方をしなくてはならない。

友達にもそうだと面倒に感じて話したく無くなるんです。

クラスで周りにいる奴等の会話を聞いていても何を言いたいのか分からなくてイライラする。

友達を要らないとは言いませんが、ストレスを感じてまで付き合うと自分が惨めに感じてしまうから嫌なんです。」


『いつもイライラしてるのはそのせいか・・・』

璃子は納得した。

【類は友を呼ぶ】という言葉があるが、クラス編成に少し手を加えるべきなのかも知れない。

即ち、超エリートクラスの新設である。

しかし対象が何人いるのか?



「なるほど・・・特に飛び級で年上の人間と付き合う機会しか無かっただろうしね」

柏木は会話を続けた。


「家族と話すのは好きです。みんな分かってくれるし話も早いですから。」


「でもお母さんはアメリカ人でしょ?日本語の細かい所まで理解できるの?

日本語って外国語じゃ訳せない微妙なニュアンスの言葉もあるじゃない?」


「エッガー家と同居してるのはご存じですよね?

それ以来、我が家での会話は全員英語ですよ。」


「普段から英語しか話さないの?」

柏木は驚いた。


「そうです。エッガー家は日本語知りませんし、周りが知らない言語だと不安になるでしょ?」

淳が笑顔で話を続ける。


「でも年齢が原因では無いと思いました。実際高校でも大学でも虐めに近い事や、からかわれたり妬まれたりする事は多かったですし・・・。」


「なるほど・・・何も考えずに話せるのがメイア君とエッガーさんなのね」


「そうです。あいつら頭良いし、嫌いな事が同じなんですよ。」


「嫌いな事?・・・とは?」


「色々あります。

人間関係ってどんな場合でも、好きな事が共通で仲良くなって嫌いな事が違うから喧嘩になるでしょ?友達でも恋人でも。

好きな事が同じじゃないと仲良くなれないし嫌いな事が同じじゃないと永く続かないんです」


【恋人】という言葉が入ったせいで柏木には、目から鱗だった。

モニター越しの璃子でさえメモしておきたいと思った程だ。


柏木は「恋人は?」と言いかけて止めた。

分かり切った答えが返ってくる事は分かっていたし、こんな質問をして淳に呆れられると思ったからだ。


「状況や心情は理解出来たけど、解決の為のサポートとなると難しいわね・・・。

それに自分なりに納得して教師達以外に不満も無さそうだし・・・

これ以上は話す事無さそうね・・・時間たくさん余っちゃった・・・どうしよう・・・」

柏木が苦笑いしながら言った。



カウンセリング終了である。














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