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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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慧の戦い

国見慧が所属する政権与党である民主自由党の総裁選挙が近づいて来た。

単純な3年の任期切れである。

単に党内のトップを決める党内選挙であるが、民自党総裁が総理大臣に就任するので実質的な総理大臣を選ぶ選挙なので注目度は総選挙並に高い。

大手新聞社やテレビ局の政治部は3年に一度の党内権力闘争の結果を予想し、新聞紙面も報道番組も総裁選一色になった。

だが相変わらずの矢部人気で、おそらく現職の矢部晋三の再選が有力だとどのメディアも報じている。

そんな中で注目の矢部が記者会見を開くというので、『どうせ出馬表明だろ』と思っていても報道各社は会見場である民自党本部に記者やカメラマンを送っていた。


120名を超える報道陣の中で、矢部が一人で姿を現した。

眩いカメラのフラッシュの嵐の中で矢部は周囲を見渡し、椅子に座って水を一杯飲んでから話始めた。


「私、矢部晋三は今回のっ総裁選に出馬致しません。健康的な理由によるものです。」


その一言で報道陣がどよめき、一斉にフラッシュが焚かれた。


矢部は自分が【潰瘍性大腸炎】という持病を持っている事を告げた。

大腸に炎症が起き粘膜が傷つき、ただれたり潰瘍が出来る病気だ。

腹痛・下痢・血便が主な症状である。

国内では推定22万人が苦しんでいる病気であるが原因は不明で、食生活の欧米化や遺伝子等の複数の要素が絡んで発症すると言われている。

ストレスが大敵で症状を悪化させる。


この発表は報道各社を驚かせた。

矢部の悲願である憲法改正を達成するまで総理に留まるというのが共通の認識だったからだ。

テレビ局は速報を流し、新聞社は号外を出した。





実はこの発表の前日、慧は矢部に呼び出され国会議事堂の2階にある内閣総理大臣執務室に呼び出されていた。

今日の会見内容を事前に聞かされていたのだ。


「単刀直入に言おう。ワタシは以前言った様に今回の総裁選には出ない。

キミを呼んだのは総裁選の出馬要請をする為だ。」

矢部は慧の顔を伺いながら言った。


慧は驚いた。

確かに総理就任は慧の大きな目標だ。


慧は帝国大在籍時にブログに載せた【これからの日本、外交と安全保障】という記事が当時の民自党幹事長の秘書の目に留まり、民自党の人事からリクルートされた。

面接は幹事長と当時官房長官を務めていた矢部によって行われた。

面接を党の重役が直に行う事は異例であったが、核兵器装備の必要性とそこからの経済や外交におけるリスクを予想した内容が外務省と内閣調査室・公安・ジェトロの分析と一緒だったからだ。

その場で入党が決まり、矢部の政策秘書として働く事も検討されたが、まず党の構成や行政の仕組み・構造を学ぶ時間を作る為に職員として働く事になった。

1年である程度を学び、最初の衆議院選挙に出馬した。

応援演説に総理大臣になった矢部や党の三役が来た事で大勢の人が集まり、結果として東京一区で断トツのトップ当選となった。

矢部が属する派閥に入り、将来の総理候補として英才教育を受ける。

そのせいで1年生議員だが予算委員会で質疑する時間を与えられ、日米ハーフという容姿でありながら質問内容が国防に関する事で話題に上り全国ニュースとして報道された事で国見慧は一躍全国区となった。

若い女の子が国防を語る事で民自党の岩盤支持層と言われる保守層から大きな支持を集める。

更に次の選挙では矢部や党の重鎮の応援は無かったものの、やはりトップ当選を果たし20代でありながら第三次矢部内閣の目玉人事で防衛大臣として招集されたのだ。


「何故わたしに・・・? 年齢だって若過ぎませんか? 経験もまだ・・・」

慧には青天の霹靂だった。


「理由が欲しいかね?

一つは予想だが・・・総裁候補に中道右派がいない事。

おそらく立候補してくる岸川政調会長も倖田外務大臣も左派、それも中道よりやや左よりだ。

このままでは、やっと強固になった日米同盟が後戻りしてしまう。

アメリカ主導の新しい軍事同盟に付随した経済同盟にも入れなくなるかも知れない。

もう一つ。

彼らが党の看板では目前に迫っている衆議院選には勝てても半年後の参議院選には勝てない。

そうなると衆議院と参議院でネジレができて円滑な国家運営が難しくなる。

世界の変革期に柔軟な対応が出来ないと他国と差が出来てしまい外交的にハンデができるからだ。

そしてこれまでキミはワタシの傍でワタシの政策を一番理解出来ている人間だ。

後継として一番の理由がコレだ。ワタシの後でも同じ路線で我が国のスタンスをアピールしていける。

それにキミはいつの時代でも天下を取って来た保守本流にいる人間である事。

更に言うなら、キミが一般党員からの人気で1番だからだ。

理由なら沢山ある。必要ならまだまだ言えるが必要かい?」

笑いながら矢部は目の前の水を飲んだ。


慧は戸惑っている。

総裁選は30代になってからだと考えていたからだ。

20代の自分が出馬したとしても年上の特に高齢の議員には指示して貰えないと思っているからだ。


「出馬しても負けますよ・・・。」

慧が眉尻を下げて情けない顔で答えた。


「そうかな?ワタシは五分の勝負になると思っているのだが?

それにもし今回負けたとしても次回の総裁選の為に出る事は重要だと思うが?

変人と言われながら抜群の支持率で長期政権を敷いた和泉総理だって当選したのは2回目だったよ。」


「ですが、総裁選出馬に必要な20名の推薦人が集まりません」


「あ、それは心配しなくて大丈夫。なりたいと言ってる奴は20人以上いるから。」


「え?・・・」


「選挙選で看板は重要だという事はキミも知っているだろう?

岸川や倖田ではキツと感じている人間が多いという事だ。」


慧は考えていた。

双子の弟、亮なら

『チャンスが又来るなんて思ってたら一生掴めないぞ』と言うだろう。

父親の旭は

『やりたいならヤレ!』

母親のミアからは

『二つの選択肢のどちらを選んでも後悔するんだから、納得して後悔出来る方を選びなさい』と何度も言われている。


『淳は?何て言うかしら?』

心の中で家族の顔が浮かんだ。


『なに悩んでるんだよ?ケイらしくないじゃん!ガンガン行きなよ!私が付いてるじゃん!』

親友の璃子の顔も浮かぶ。


慧が立ち上がった。

「承知致しました。ご期待に添える様に頑張りますので、どうかご指導下さい。

何卒、宜しくお願い致します。」


矢部は満面の笑顔で握手を求めて来た。

国見慧は第26代民主自民党の総裁に立候補するのだ。


「私は明日の記者会見で総裁選に出馬しない事を発表する。

岸川はすぐ立候補を表明するだろう。倖田は派閥の長である阿川さんの了解を得られたら必ず出馬してくる。キミは出馬表明をギリギリまでするな。注目を集めるのと同時に敵と味方を見極めろ」


握手する手が熱くて力強い。

慧は頷いた。

矢部も満足そうに頷き

「総裁選は日本最大の権力闘争だが、民自党のお祭り的な要素もある。

大変だろうが頑張ってくれ。協力は惜しまないので何でも言って欲しい」


「ありがとうございます。頼りにさせて頂きます」

握手に応え矢部の目を見ながら答えた。



慧は最後にお辞儀して執務室から出ると、淳にラインを送る。


《求 アメリカの対中国政策 日本の少子化対策 レポート1枚5000円 4日後の22時まで。》


自分なりの政策提言をする為に資料が欲しかった。

矢部が言っていた、軍事同盟に付随する経済同盟の件は日本の安全保障と貿易の点で重要な事だ。

新たに構築されようとしているサプライチェーンに入らなくては世界経済から置いてきぼりを食らう。

そして少子化は国家の根幹問題である。

100年後に存続が危ぶまれている韓国のような国もあるのだ。

少子高齢化が深刻化している日本でも他人事ではない。



執務室に戻り第一秘書を呼んだ。

1対1で話が他に漏れない事を確認すると小声で、矢部が総裁選に出馬しない事と自分が矢部の後ろ盾を得て総裁選に立候補する事を伝えた。

更に、立候補は既定路線だが意思を明らかにしないように言われた事を言い、他の秘書から漏れるおそれがあるから自分達だけの話とする事を言い渡した。


「いよいよ大勝負ですね!思っていたより早かったです。」

秘書は顔を紅潮させてニヤリとした。

「明日って空いてる時間ある?」

「どうしました?午前7時から1時間くらいなら空いてますが・・・」

「神田明神行こう!必勝祈願して来る!」

「なるほど・・・承知しました。たしかお茶の水でしたね?朝6時お迎えで良いですか?」

「ありがとう!我儘言ってゴメンね。ヨロシクお願い。」

「総理になって靖国行きたいって言われるよりずっと良いですよ」

そう言って秘書は笑った。




産まれてきて29年、人生で一番大きな勝負になるかも知れない。

慧は自分の身体が熱くなるのを感じていた。




その頃・・・淳はラインを見て5000円っていつもより破格じゃネ?と喜んでいた。













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