公安レポート
結衣と淳が話してる場所に矢部と重蔵が加わった。
「楽しそうじゃないか」
矢部が淳に言う。淳はニコリと笑顔で返すが言葉の返事はしなかった。
「ところで・・・淳クン?キミ拳銃所持してるらしいね?」
淳は息を飲んだ。心臓が止まりそうな驚きだった。
血の気が引いていくのが分かる。
マネキン人形の様に固まった淳を見ながら矢部は話を続ける。
「公安委員長が先日ワタシに教えてくれて知ったんだ。」
国家公安委員会!
社会・公衆の安全・安寧、そしてあらゆる組織の中立性を確保する目的で作られた委員長を含む6名で構成される合議制の行政機関だ。
そして警察行政の大網方針を定め正しく機能しているか等の監査を行う機関でもある。
そのトップの人間が自分の犯している犯罪を知っている。
淳にとっては予想もしていなかった事だ。
淳は犯罪者として逮捕される事を覚悟した。
同時に家族に対して申し訳ないとも思う。
特に総理大臣を目指す姉の芽を摘んでしまう事に罪の思いが深い。
「いや、委員長はCIAからキミの事を頼まれたと言っていた。
拳銃所持も検挙するつもりは無いと言っている。
ただ、キミの事を調べ交友関係にワタシの名前があったから知らせてきたんだ。」
固まったままの淳に矢部は説明する。
「そうでしたか・・・」
淳はやっと声を絞り出した。
「そうだ。だから先日のミランダ・エッガー嬢に対する拉致未遂事件でのキミの行動に関しても報告を聞いている。 大したモノだったよ。」
矢部は淳の肩を叩いてそう言った。
「なんじゃ?それは?」
重蔵が矢部に事の次第を尋ね、矢部は簡単に説明した。
ミランダの事も・・・
日本・韓国、それにアメリカの政治外交に関わるトラブルに巻き込まれたという背景も。
話を聞いた重蔵は
「ヤワだと思っていたが、意外とヤル奴じゃったのか」
そう言って笑っている。結衣も微笑みながら重蔵の隣で淳を見ていた。
「ボクの銃刀法違反については見逃してくれると?」
「そうなる。CIAから要請された案件だし、
それを警察の管理機関である公安委員会の委員長が認めた。
だからといって公にして良い事では無い。下手をするとキミの姉さんの夢をキミが潰す事になる」
淳はホッとしたが、気持ちは複雑だった。
自分の行動が大好きな姉にとって弱みにならない様にと願った。
「先程、公安がキミの事を調べたと言ったが・・・
生い立ちからレポートされていてキミという人間を知る上で非常に参考になったよ」
矢部はそう言いながら大判の封筒を淳に渡した。
「これは・・・?」
「レポートだよ。自分の事を客観視する良い材料になる。読んでみたまえ」
すると重蔵と結衣も興味を示した。
公安のレポートという物がどんな物かという興味と、淳の経歴に対する興味だ。
「一緒に見てみますか?」
淳が二人に言うと、早くしろと言わんばかりに淳の両隣に並んだ。
レポートはB5サイズの紙が数枚になって閉じられていた。
最初に淳のパスポートの時に撮った顔写真がカラーでプリントされていた。
『こんな物、どっから引っ張って来たんだ?』
淳は驚き公安の諜報能力を見直した。
まず同居している家族構成から始まった。
父親 国見旭54歳 東京都出身
現ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構主席研究員
米ハーバード大学 コンピューター科学、応用数学専攻
帰国後富士電機に入社 スーパーコンピューター『富国』制作チーム
30歳時に退社し、38歳時に現勤務研究所にて世界初の量子コンピューター『暁』制作
現在は主席研究員として第二世代量子コンピューター制作を研究中
母親 国見ミア(クニミ・ミア)54歳 (旧姓 キング)米 ニューヨーク州ニューヨーク出身
父親はスェーデン系アメリカ人 母親はスェーデン人のハーフ
有名ファッション雑誌、ショー等の元ファッションモデル
現在は専業主婦
長女 国見慧30歳 東京都出身
現内閣防衛大臣(衆議院議員 東京一区連続二期当選)
帝国大学法学部法学政治学研究家 主席卒業
長男 国見亮30歳 東京都出身
現 株式会社パラディソグループホールディングス代表取締役会長
17歳時インターネットサイト『パラディソ』開設
18歳時東京私立開星高校主席卒業(開校以来最高の成績優秀者だと評価されている)
その後進学せずに自分が創った会社で本格的に始動しインターネットオークションサイトで急成長した後、プロ野球団、プロサッカー球団、テレビ放送局、ラジオ放送局等を買収しグループ傘下に収める。
ネット銀行開設クレジット業務を開始、保険会社買収・・・
日本高額納税者第二位
義姉《内縁》 藤堂綾子28歳 北海道札幌市出身
帝国大学法学部卒 元毎日放送アナウンサー
現無職
同居
セオドア・エッガー 54歳 米マサチューセッツ州ボストン出身
ハーバード大学コンピューター科学、工学専攻
現システムサービス社最高経営責任者
(主に国防兵器のプログラミング、新規武器・兵器開発)
大学時代にアキラと交友関係を持ち現在に至る
マリア・エッガー 54歳 米カリフォルニア州ロサンゼルス出身
ハーバード大学社会科学、心理学専攻
元ファッション雑誌、ショーモデル
大学卒業後に国防総省入省 長官秘書
ミランダ・エッガー懐妊と同時に退役
現専業主婦
ミランダ・エッガー 15歳 米マサチューセッツ州 ボストン出身
ブルックリンテック高校主席卒業
12歳時、インターネット配信番組のオーディションにて全米で人気を得る。
インターネットハッキングにおいては天才以上、悪魔的との評価を得ている
現 成城院高校1年
国見淳15歳 東京都出身
身長180㎝ 体重65㎏ 瞳・・緑色 髪・・銀色
6歳時知能テストでIQ420という結果を出し注目される
8歳時飛び級にて中学校進学
10歳時飛び級にて高校進学
11歳時飛び級にて帝国大進学
13歳時帝国大法学部卒業
文科省の日本代表プログラム制度にて返済義務無しの奨学金制度を申請し米ハーバード大留学
経済学、政治学専攻
15歳時ハーバード大卒 帰国 成城院高校編入入学
現 成城院高校1年
趣味 クラヴマガ(実戦格闘技)
主要交流人物 四葉グループ会長四葉重蔵
内閣総理大臣 矢部晋三
成城院高留学生 マックス・メイア(イスラエル テルアビブ出身)
※父親であるエゼル・メイアはイスラエル諜報機関モサドの極東支部長である可能性
が高い
現状報告 高い知性を持つせいか授業態度に関して教師達の評価が良くない
内向的な性格で友達と呼べる程親しいのはミランダ・エッガーとマックス・メイアの
二人しかいない
韓国PMCとの戦闘を考察するに身体能力も高いと推測される
家族に対しての愛情が並外れて高いと思われる。
問題解決に対して非常に効率的な思考をする。
流し読みをしたが、入学してからのトラブルは記載されていない。
璃子の情報漏洩リスク管理は流石だと思った。
だが、内向的で友達が二人しかいないとか、授業態度が良く無いとか・・・他人に見られたくない事も書いてあって、見せなければ良かったと後悔する。
読み終わった結衣が淳に質問してきた。
「なぜ、また高校行く事にしたの?」
やはり全員が同じ事を質問してくる。もう答えるのが面倒になっているのに・・・。
「親が、勉強ばっかりして友達もいないんだから学生をやり直せ!って言われたからですよ」
結衣が
「やり直しても二人なんだから、もっと頑張らないと怒られるぞ」
と言って笑った。そして
「ハーバードって難しいんでしょ?凄いね」
と感心した様子で言う。
「おそらく璃子先生は成城院を日本のハーバードにしようと考えてると思いますよ。」
重蔵が『なるほど』という顔をし、結衣は『へぇ・・・』という顔をした。
「ハーバードの事、少し説明しますか?」
淳が言うと結衣が頷いた。
これは矢部も重蔵も興味がありそうだった。
皆で近くのコテージに入り、重蔵が秘書に頼んだ飲み物が来てから淳は話始めた。
「ハーバードはアメリカで一番古い大学で入るのも一番難しい大学かも知れません。
なんといっても合格率は5.2%しか無いのですから。」
三人は驚いたが、話を進める。
「ただ入学の筆記試験は無いのです。英語力や学力を重視していないのでは無く『できて当然』が前提になっているのです。
入学に際し重要視されるのは願書の内容で、個性や情熱、創造性等がチェックポイントだと言われています。
面接でも書類でも価値観や思考といったEQ(情動指数)が最重要になるみたいです。」
「なるほど・・人間形成教育か。」
矢部が感嘆した。
「個人情報、希望専攻科目、課外活動、海外移住経験、外国語のレベル、高校時代の成績が重視されて選考されるみたいですよ。
で・・・推薦状2通が必要です。高校の担任教師とか部活の顧問とか・・・ボクは帝国大の学長と講師に書いて貰いました。」
「学力はあまり関係ないのか?」
重蔵が不思議そうに言う。
「いえ、全米一般共通テストってやつがあって2100点~2400点取れないとダメみたいですね。」
「なるほど・・淳クンはその全米テスト受けたの?」
結衣が訊ねる。
「いや、ボクは受けてません。そのまま面接に行きました。前もってOBである父から学校に確認して貰ったら、そのまま面接に来いって事だったので。
で、面接で色々聞かれましたが入学希望の理由を言えと言われて・・」
「なんて言ったの?」
「ハーバードは将来世界を引っ張る人間達が集まる場所で、世界最高の大学だから。
そこで未来のスタンダードを一緒に創造し、価値観を共有し自分も何かの分野で世界貢献したい、って答えました。」
「歯の浮く様なセリフね」
結衣が言った言葉に全員が軽く笑った。
「でも、卒業生にはフェイスブック創始者やマイクロソフト創始者もいるし、ノーベル賞受賞者もいますし世界的女優や俳優もいますから、ハッタリとかお世辞でも無いんですよ。」
「そんな優秀な学校出たから友達できないんじゃないの?」
結衣が茶化す。皆笑った。
もしかしたら、結衣はハーバードを狙うかも知れない。
何となく淳はそう感じた。
ともあれ、拳銃の事で心臓が止まる思いはしたが、お咎め無しになり淳っはホッとした。
そして縁談を断ったとはいえ、良く見ると結衣は本当に魅力的だった。
桜の会で自分の見解を言う時も、こうやって冗談を言う時も。
なにより笑顔が。
淳の初恋になるかも知れない。




