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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
32/51

虐め防止対策推進法

月曜、登校すると正面玄関にある掲示板の前で大勢の生徒がザワザワしていた。

留学生にも読めるように英語で書かれてある。


内容は

【犯罪防止の為、従来の物に加えて教室を含む校内各所に防犯カメラを増設した】という告知だ。


マックスは「犯罪防止?強盗でも入るのか?」と笑った。

ミランダは「今更な感じね」と呟いた。

淳は「なるほど・・・」とニヤっとした。

自分に対して約束したイジメ行為防止策の一つだと分かったからだ。

璃子センセって約束守ってくれるんだな、と心の中で見直した。


ただ、もしイジメで被害者が自殺し保護者が学校を民事で訴えた場合、管理責任を問われる可能性が出てきたからだ・・・とも思った。

イジメによって自殺し保護者に対しての損害賠償請求を認めた判例がある。

つまり学校側の管理責任に対して対策が不十分だと同じ様に請求される可能性もある。

璃子のリスク管理は常に先手を打つもので、周囲の状況に対して常にアンテナを張っているのだ、と淳は感じた。

四葉重蔵が璃子を評価している一端だ。


クラスが違うマックスと別れ、教室に入るとミランダが淳に質問してきた。

席が隣だから、分からない事はすぐに聞いてくる。


「ねぇジュン、イジメって刑法には触れないの?」

「なんだよ・・・急に・・。

「いや、学校内の犯罪って喧嘩と盗難、あとイジメくらいでしょ?でもイジメの法律知らないからさ」

「なるほどね・・・じゃ行為の種類によるけど、ざっと挙げてみる?」

淳はノートを出しペンで羅列しだした。


殴る・蹴る・・・暴力行為法 暴行罪 3年以下の懲役

暴力で相手を傷つける・・・204条傷害罪 15年以下の懲役

生命・身体等に危害を与える脅し・・・222条脅迫罪 2年以下の懲役

自殺の練習をさせる・・・202条自殺関与罪 7年以下の懲役

脅して嫌がる事をさせる・・・223条強要罪 3年以下の懲役

脅して金銭を奪う・・・249条恐喝罪 10年以下の懲役

所持品を破壊、汚す・・・261条器物破損罪 3年以下の懲役

悪口を言ったり書いたりする、ネットでの誹謗中傷・・・230条名誉棄損罪・231条侮辱罪 3年以下の懲役・拘留、または罰金


「とりあえず、こんなモンかな・・・?」

「ほう・・・流石帝国大法学部卒!」

ミランダが茶化しながら、ノートを覗き込み・・・

「SHIKATOは罰せられないの?

「現在、無視に関しての刑法は無い」

「そうなんだ・・・」

「ただ民事裁判で判断材料にはなると思う。

それに、新しいケースもガンガン出てきてるから新しいイジメに関する刑法は出来ると思う」

「なるほど・・イジメは無くならないって事ね」

「より悪質化してるし、複雑化してるのが現状なんじゃないかな?」

「ジュンも色々イジメられてるもんね」

ミランダが淳を茶化す。

「ほんと、色々とな」

淳も自嘲した様に小さく笑った。


「虐め事件は刑事訴訟じゃなく民事が大変で、その複雑さと様々な見方があり意見も色々あるからマスコミも取り上げる事が多いんだ。」

淳が刑法を羅列したノートを閉じ鞄にしまいながら言う。

「具体的な例だとどんなの?」


「去年大阪であった事件なんだけど・・・

仲良し3人組で遊んでいる内に1人だけ他の2人からイジられる様になって、それがエスカレートし教科書を破かれたり顔に悪戯書きされたりして・・それでも弄られキャラの1人は笑ってて・・なぜなら【弄られキャラ】だから。更にエスカレート、し両手両足を縛られ袋叩きにされたり、財布を隠され、時計を盗まれたり・・父親から色々言われ体罰を受けたり、父親と不仲で別居していた母親からは離婚の可能性を伝えられたりしてその弄られキャラは自殺したんだ。」


「酷い話なんだけど・・・本当の話?」


「本当だ。 弄られキャラの両親は、自殺の原因は一緒に遊んでいた2人にある、学校にもイジメを放置したとして7700万円の賠償請求訴訟を起こした。訴えられた2人の弁護士は『弄られキャラだから弄っていただけだ』『家庭環境が悪かったから自殺したんだ』と反論した。」


「うわ・・・凄いね・・・」


ミランダが驚いているのを横目に淳は更に話を進める


「裁判の争点は、イジメはあったのか?家庭環境は自殺と関係あるのか?の2点。

キーワードは【苦痛】だ。

弄られるのは楽しいからイジメじゃない、しかし苦痛を伴うならイジメになるのではないか?と・・・」


「判決はどうなったの?」


「まず状況を整理だ。弄られキャラの家庭は父親が暴力を振るいがち、母親から離婚を告げられた翌日に自殺という点が一つ。

それから学校を運営する大津市がイジメを認めた点から虐めだと言えそうだが、虐めと弄りの明確な規定は無い点だ。

ただ弄られて楽しいと言える範疇から飛び抜けてしまっていると言うには行為が一方的過ぎる。」


「なるほど・・・」


「大阪高等裁判所、3人の裁判官の合議で出した判決なんだけど・・・

細かい経過を見ると1学期は殴られたり蹴られたりしてもお互いの家に泊まりに行ったり、一緒に遊園地にへ遊びに行ったりしているだけで普通の仲が良い友人関係だったの言えるが、2学期に入ると行為がエスカレートし首を絞めたり、ズボンを降ろして尻を露出させたり、周囲から見ても『やり過ぎでは?』と感じる生徒が増えていき弄られていた本人も暗くなっていっている時に眼鏡や文房具を破壊されたりしたが、弄っている2人はされていなかった。

弄る側と弄られる側が互いに許可してふざけ合うというケースはままあるが、弄る側と弄られる側の関係が入れ替わらず一方的になり、弄られる側がそれを苦痛と感じるならふざけ合う域を超え、イジメる側と虐められる側という関係に変わる、と・・・

夏休みが明けても、首絞めや上に乗って殴る等の行為は2人共に続き、更に顔に落書きや蹴ったりする事もあって、明らかな虐め行為と断定でき、親しい友人同士のふざけ合いとは認め難い、と・・・

更に制汗スプレーを大量に吹き付け痛いと言わせたり、成績表を目の前でビリビリに破いたり、教科書を破ったりしていて、これらの行為は明らか身の安全を脅かすモノであり、特に首を絞める行為は生命さえも脅かすモノであると・・・

教科書を引き裂いたり成績表を破り捨てる行為は相当に陰湿で悪質であり、体育祭の罰ゲームではその1人だけが辛い事をさせられていて周囲が止めに入るほど強烈なモノであった事からも、その二人の行為はイジメ以外の何物でも無い!という判断を下した。

更に翌月に入っても行為はエスカレートしながら続いたが、本人が『大丈夫』『友達でいたい』と言った事に関して、本人のプライドによるモノか、教師に密告する事で行為が更に悪質になる事を恐れたかで誰にも言わなかったという事は十分考えられる。

担任が『とうとうやりましたか』と言ったりしてたから、以前からこの問題を知っていて放置、更に異状ないと報告したのは虐めをもみ消す為だ、と・・・」


「判決の理由ね・・・」


「そうだ。 次に家庭環境と自殺の関連性だが・・・

虐めがエスカレートした事によって精神的苦痛を感じ、友人関係の崩壊と新たな上下関係の構築で強い孤立感・無価値観を持ち肉親である祖母や周囲にも『死にたい』と漏らすまでになった。

つまり自殺の原因は虐めにあると、ここでも断言できる。

父親から体罰を受けた事で自殺を考えてはいなかったし、いざとなれば別居している母親の元へ避難する事も出来た。

確かに母親の離婚通告がショックに感じて追い込む事にはなったが、離婚して母親に会えなくなる事は無い。

したがって家庭環境の問題は無視できないが、だからと言って虐めのせだという事には成らない。

これが裁判所の判決で、自殺は虐めによって追い込まれた事が原因だとした。」


ここまで一気に話したが、ミランダに「おはよう」を言いに来た生徒が淳の話に聞き入り、淳とミランダを囲む様にして小さな人垣ができていた。


淳は構わずミランダに話を進める。


「最後に賠償請求額の正当性だが・・・

自殺した弄られキャラの損害額は逸失利益が約4000万、慰謝料で2000万、合計約6000、

相続した父母の二人で割ると一人約3000万、そこに遺族固有慰謝料でそれぞれ300万を足す

葬儀費用はそれぞれ30万づつ、つまり約3300万づつの損害になる。

ただし、そこから過失相殺、つまり両親が悪かった分を考慮する。

自殺であって虐めた2人に全責任を負わせるのは公平では無い。

中学2年生の被害者が完全に親離れしているとは考えられず、円満な家庭環境は傷心を癒す上で重要な役割を果たした筈であり、体罰を与える父親と同居し甘えられる母親がいなかった結果、心を癒す場所が家庭に無かった事が自殺の大きな要因・背景である事は否定できない。

特に自殺前日に母から離婚の可能性を伝えられ、家族三人で同居する事を切望していた被害者には

大きな不安材料となり現実逃避からの自殺となったは不思議ではない。

親権者として被害者の精神を適切に支えられる環境を構築出来なかった事は、損害の公平な分担の見地から原告側の過失として過失相殺の類推適用を基礎付ける、というのが裁判所の判断だ。」


「るいすいてきよう・・・?なにそれ・・・?」


確かにミランダに分かる言葉じゃないと淳は反省した


「問題解決に最適な法規が無い場合、しかも法規が想定した場面に似ているケースで、法の趣旨に従い解釈を広げて解決を図ろうって方法だよ。」


「厳密にいうと違うけど、間違ってはいないだろって事?」


「そうそう、そんな感じ」


ミランダなりに納得した様だ。


「で裁判所は、家庭環境と虐めとを総合的に考えて、損害賠償の額を40%減らす事が妥当だと結審した。

つまりそれぞれ約2000万、

ただし既に受け取っていた遅延損害金、組合からの災害共済支援金1400万、学校を運営する大津氏からの和解金650万は引くように申し渡した。

結局原告の父母が請求できる賠償請求額をそれぞれ約200万として、虐めた二人に連帯して支払う命令を出した。 原告勝訴だよ。」


「おお!」ミランダが思わず声を上げた。


「ついでに言うとこの事件をきっかけにして、【虐め防止対策推進法】ってのが出来た。

ある程度、虐め行為を定義した内容だよ。 そして、虐めを正式に違法行為とした。」


「なるほど・・・捕まるのね」

「そう、だから今回の学校側の対応もより法に沿ったものなんだ。 Do you get it?」

「All right!」


ここで担任のマクレガーが教室に入ってきた。

ホームルームの始まりだ。












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