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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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慧の憂鬱

最近は夕食後に旭とセオドアがリビングで酒を飲むのが日課の様になっていた。

二人ともバーボンが好きで、それを水で割らずにロックグラス氷でけで飲んでいる。

ボトルが一本空くと終了で、それぞれの部屋に帰って休むのだが今日は淳と慧も一緒にいて話に付き合っている。

淳は未成年で酒は飲めないし、慧は仕事柄いつ緊急事態が起きても良い様に普段から酒は飲まない。

二人はノンアルコールを飲んで話に付き合っていた。

旭とセオドアは毎晩酒を飲みながら色々な事を話す。

日常の事、日本やアメリカの政治の事、宗教の事、国際情勢、科学、文化・・・

淳も慧もよくこれだけ話題があるモノだと感心している。



テレビのニュース番組からロシア軍の最新兵器の発射実験が成功したと伝えられた時、

慧が苦々しく画面を見ているのをセオドアと淳は横目で見ていた。

セオドアは何も言わなかったが、淳が呑気に慧に話かけた。


「あのロシアのミサイルってヤバいの?」

聞き方が淳らしくてセオドアが苦笑いしている。旭は黙ってテレビを見ていた。

「アメリカから導入したミサイル防衛システムでは対応できないのよね・・・」

慧がため息をつきながら答えた。

「そうなんだ・・・。どうするの?」

「今、全力で対応を協議中よ。つまりまだどうするか決まってない」

「そんなにヤバいんだ・・・」

「だって、日本にミサイル落ちちゃうんだよ!人が死んじゃうじゃん?ヤバいでしょ!」

「まぁ、そうだけど・・・・どんなミサイルなの?」

そこで淳と慧の会話にセオドアが悪り込んで来た。


「今回、ロシアが実験したのは極超音速ミサイルという世界中で開発を急いでいる兵器だよ。

簡単に言うと、マッハ5で飛び発射されてから自由にコースも高度も変えて目標に向かう。

従来のミサイル防衛システムでは時間的に迎撃不可能なんだ。」

すると慧が

「今回はロシアだったけど、先日は北朝鮮が試験発射したと発表したのよ。

もっともフェイクだったけど」


セオが説明を続ける

「元々は弾道ミサイル防衛を突破する目的で開発されて来たんだ。

存在定義から言えば、極超音速滑空ミサイルと極超音速巡行ミサイルといった方が理解しやすい。

従来の弾道ミサイルだと飛行経路と着弾位置を簡単に予測計算されて迎撃されやすかったのだが、

コイツは迂回行動を行える機能も備わっている為に迎撃は困難。

大気圏外までは行かないから弾道ミサイル防衛用の大気圏外迎撃ミサイルも全て無力化するんだ。

速度が遅いと従来使用している迎撃ミサイルで対応されてしまうからマッハ5で飛ぶ設計なのさ」

淳が頷いて聞いている。旭も興味深々で聞いていた。

セオが説明を続ける

「発射と加速は弾道ミサイルと同じロケットで行い、弾頭部分をグライダーの様な滑空翼体とする事で軌道を変える。

簡単に聞こえるかも知れないが、研究レベルは弾道ミサイルよりも遥かに上のレベルだぞ」


すると旭も言葉を出した。

「大気の上層部をマッハ20で滑空し続けると空気圧縮で高温化する時間は弾道ミサイルよりも長くなるし、高温プラズマ化した空気は外部通信を遮断するから誘導が段違いに難しくなるだろうな」


これを聞いた淳は

「パパ凄い!量子科学だけじゃ無かったんだ・・」

「オマエは天才と呼ばれているが、オレはその天才の父親だぞ!」

その言葉に皆笑った。


その後、慧が

「今、アメリカ・ロシア・中国で開発競争していて使えるメドが立って配備を宣言したのはロシアだけ。マッハ20で1万キロの射程を持つと推測されているわ。

あとはロシアの最高マッハ5~8で射程1000キロと言われる戦術用のミサイルね」


「さすが防衛大臣!勉強してるな」

セオが茶化したあと、話を続ける


「現在考え得る対抗手段だが・・・

大気圏外における対抗措置として空気が薄い状態でも軌道を変化させられる砲弾型形状の迎撃体ならなんとかできそうだ。

具体的にはTHAADサードが該当する。

しかし、大陸間弾道ミサイル級のスピードで飛ぶロシア製アヴァンガールドには時間的な猶予が無い為にほぼ無理だ。

そこでアメリカ国防省の出した答えは改良型2段式THAAD、通称THAAD-ERだ。

ただコイツは迂回軌道をとってくる相手を迎撃するのは無理で、確実に迎撃するなら対象を可能な限り引き付けてから発射しなくてはならない。

つまり迎撃可能範囲が狭い。広範囲を守備するには数で対抗するしか無い。」


それを聞いた淳は

「なんだ、ちゃんと防衛手段あるんじゃん!」

と笑ったが慧はそうでは無かった。


「前の防衛大臣がイージスアショア配備を中止したんだけど、実は日本はイージスとサードのどちらを採用するか迷っていて、決まったのがイージスの方だったのよ。

いま新規でイージス艦2隻を配備したけど更にサードを複数配備だなんて・・予算通す自信ないよ」


「矢部総理なら財務大臣に言って必要な補正予算は国債を発行してでも出させるだろう。増してや本土防衛に関する装備だ。

それにサードなら日本のジャッジシステムに組み込めそうだ、心配無いよケイ」

セオドアが慧を諭す様に言った。


すると淳が

「オレ思うんだけど・・・相手は日本がやられたら嫌がる場所に絞って攻撃して来るんじゃない?

人口密集地帯を狙っても、敵の戦力を削るって意味では効果少ないし。

狙われるのはエネルギー発生場所、工業地帯、軍事施設くらいで、戦闘継続を困難にする様に考えるのが普通だよね?

そこに絞って配備すれば予算も多少は少なくできると思うんだけど・・」


確かに淳の言う通りだ、と慧は思った。

淳が話を続ける

「それに、飛行経路って外部通信が難しいなら、どうせ内臓されたAIが気象条件や地形を感知して演算処理しながら決定するんでしょ?だったらコッチ側だってコンピュータの計算で標的に対する侵入経路を予想しやすくない?」


なるほど・・・

明日にでも幕僚長達と防衛官僚を集めて検討してみよう、と思った。



「淳が言うと本当に簡単だね。」

慧がやっと少し笑顔になった。

とはいっても、

現在稼働してないとはいえ、日本海側にある原発だけでも8か所。

慧は配備する機器の試算の結果を聞くのが既に憂鬱になっていた。


淳は別の事を考えていた。

先日、亮から言われた「1億円は仕事で返せ」という言葉だ。

もし、自分がアメリカに頼らず日本独自の防衛システムを構築できれば、それを四葉に提案し四葉重工と四葉電子で共同制作できたら大きな利益になるだろうな、と考えたのだ。

だが、先程旭が言ったほんの数点の問題を聞いただけでも凄い研究時間と実験が必要で、とても今の自分に出来る内容では無いとも思う。


違うネタ探そう・・・淳は切り替えが早い。


















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