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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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クラヴ・マガ

放課後、3年の上級生から呼び出されて行った場所は3方が壁に囲まれ人気も少なく、何かあっても発見しずらい所だった。

5人いる男子生徒は全員が淳を見ているが、ある者は目を吊り上げて睨んでいるし、またある者はニヤニヤしながら馬鹿にした様に見ている。

お決まりのドラマの1シーンの様だった。

辺りを見渡しても監視カメラは無い。

淳は軽くため息をついた。


「先輩、あなた達の事は名前も知らないけど何の用ですかー」

淳は能天気な言い方をした。

「オレ達の事は知らなくていい、俺たちはオマエの事を知っているからな」

そう言い終わらないうちに目を吊り上げて淳を睨んでいた生徒が淳に走り寄り右手で殴り掛って来た。


殴ろうと伸ばした右手を淳は左手で払うと同時に右手で相手のミゾオチを右拳で殴った。

相手の身体が前のめりになり顔が下がって来た所を膝で相手の顔面を蹴る。鼻に当たった。

前側に倒れようとする所に膝が顔面に入ったのだ。鼻の骨は折れているかも知れない。

相手は膝を付き顔が上を向いた所で今度は右肘をスイングして鼻に当てた。

もんどりうって手で顔を覆いながら仰向けに倒れた瞬間に足で顔を踏みつけた。

あっという間に殴り掛った生徒が地べたを転がって悶えている。

それを見た生徒が2人、一緒に突っ込んで来た。

軍隊や警察の機動隊なら別だが、素人は2人一緒に突っ込んできても時間差はあるし落ち着いて対応すれば問題なく対処できる。

最初に殴ってきた生徒の腕を左手で掴み、脇の下に潜り込む様にくぐって後ろ側に回る。

背中の後ろで間接を逆に決めそのまま折った。

「ギャー!」と声を上げたがお構いなしに後ろから襟首をつかみ、脚を払いながら襟首を引いて頭を地面に叩きつけた。

それを見て一緒に突っ込んできた生徒の動きが止まった。

距離を取ってこちらを睨んでいる。


「どけよ、俺がやる」

その生徒の後ろから別の生徒が淳の前に立った。

手にナイフを持っている。

淳はナイフを見て、

「ナイフで喧嘩する奴は頭おかしくなってる病気の人間だから、殺すつもりでいかなきゃ」

それを聞いた相手は増々逆上しナイフをかざして突っ込んで来た。

淳はナイフを避けると同時にナイフを持った相手の腕を絡める様に掴み、手首間接を決めると簡単にナイフを奪い取った。逆手に持ち替え肩の筋肉にナイフを振り下ろした。

自分では抜くには角度を変えなくてはならない。

痛がっている相手の背中を蹴り飛ばし、地面に伏せた。


「で?用はなに?」

残った一人に淳が言った。


すると無言で右手を淳に向けた。

手には拳銃が握られている。

上に向けて引き金を引くと銃声が響いた。モデルガンではない。本物の銃だ。


「オマエ、やり過ぎだよ」

銃を持った右手を前に出して近寄ってくる。


「グロック19か。有名だし使いやすい銃だ。アメリカでもよく売れてる」

淳が銃を見て両手を肩の高さまで上げた。


「生意気なんだよ。オマエ。」

銃を向けながら近づいてくる。


「ただの喧嘩に銃を?凄いなアンタ」

淳が呆れた様に言う。しかし相手は銃を構えたまま無言で歩いて近寄り続ける。

威嚇に一発撃っただけで、無駄に撃って来ないのは銃に慣れているせいだと思った。

おそらく、確実に当たる距離に近づいてからやりたい事をするのだろう。

「撃たれるかもな・・・」

淳がそう思った瞬間に


「Knock it off !」

誰かの声が響いた。


その瞬間、淳は相手の銃を持った腕を取り、手首間接を決めて銃を奪い取ると引き金を引いた。

弾は相手の身体をかすめて地面を弾く。


「どうする?まだやるか?  止めるなら両手を頭の後ろで組んで、うつ伏せに寝ろ」

男は淳に言われた通り、地面にうつ伏せになった。


後ろから近づいて来る足音が聞こえる。


「どうなる事かと思ったぜ」

声の主はマックスだった。

淳の肩をポンと叩き、ニヤニヤしながら伏せている生徒を見下ろしている。


淳は銃をマックスに預けると、伏せている相手の前に回り、

「アンタ、名前は?」

相手は無言だった。


淳は携帯を取り出すと、四葉璃子に電話をした。

「璃子先生?国見です。

ちょっと大変な事が起きたので大至急来て欲しいんです。

絶対に公にしない方が良い案件なので一人で来て下さい。

場所は・・・」


「こいつら何者なんだ?淳は知ってるのか?」

マックスが銃を相手に向けたまま淳に聞いた。

「知らん。こいつらが1年生に伝言させてオレを此処まで呼び出したんだ。

それにしても、マックスはどの辺りから見物してたんだ?」

携帯をポケットに入れながら淳が答えた。

「1人目からだ。危なくなったら加勢しようと思ってたんだが」

「最初から来いよ」

「いや、ジュン強いじゃん。実際こんな風にしちゃうんだし・・・。やっぱりアレの成果か?」

「そうだ。アレ・・・」

そう言うと二人ともニヤリと笑いあった。


アレとは・・・

実は先月から、マックスと一緒に毎朝ランニングをし、その後マックスの父親であるエゼル・メイアからクラヴ・マガという近接格闘技のコーチを受けていた。

クラヴ・マガは戦争を何度も経験しているイスラエルで考案された格闘術である。

シンプルで合理的である事からモサドを始めとした国家機関は当然、アメリカのCIAやFBI、SWAT等の世界中の軍事機関や警察が導入している。

日本でも2019年から警視庁によって全国に普及され始めた。

スポーツではない為にルールが無い。

実生活で起きうる状況に対応する為の格闘術なので効率的に相手の急所を狙う。

頭突きもあり、使えるモノは何でも武器にする。

いかに効率的に相手にダメージを与えられるか、を念頭に置いている。

蹴り・パンチ・関節技が主であるが、状況に応じて何でもアリだ。

不利な状況からの脱出は攻撃と並んで重要視され、相手が複数、ナイフ所持に相手、拳銃所持の相手等のレクチャーも受ける。

現在は多用な流派があるが、淳とマックスが習っているのは主流と言われている流派だ。

力は重要視されず、スピードと正確さが求められる。



璃子が淳の言う通りに一人で来た。

着いた瞬間に辺りの惨状に言葉を失っている。

顔面血だらけで呻いている者、腕が折れて骨が見えている者、肩にサバイバルナイフが刺さっている者、へたり込んで動けなくなっている者、そして頭の後ろで両手を組んで地面にうつ伏せになっている者だ。


「クニミ君、どういう事か説明して」

璃子の声は怒気を孕んでいた。

マックスは持っていた銃にセフティロックをかけて璃子に渡した。

「この男が持っていた物です。本物ですから気を付けて下さい」


淳がうつ伏せになっている生徒に

「立て。理事長とオレに動機と経緯を説明してくれ」

冷たい目をして言った。璃子が初めて見る表情だった。


起き上がった生徒の顔を見た璃子の顔から血の気が引いた。

「真也君・・・」


「だれ?」

淳が表情を変えずに璃子に尋ねた。

「私の従弟よ。四葉真也」

「また四葉か・・・。」

璃子と従弟という事は、以前トラブルがあった四葉伸一の従弟でもある。

おそらくその関係だろうな、と淳は思った。


マックスが璃子にスマホを差し出した。

「説明すると長くなるので、見た方が早いかな・・・。

動画を撮ってましたので見た方が分かりやすいかなと」


動画を再生する。丁寧にズームで撮ってある。


璃子はそれを見て絶句していた。

てっきりマックスがやった事だと思い込んでいたが、淳が一人でやった事が信じられない。

前回の淳はただ相手に殴られただけだった。

喧嘩などしない気弱な種類の人間だと思っていたが、いま自分が目にしている光景は気弱な少年が一人で行った事とは思えない。


「で、理由は?拳銃まで持ち出して正気とは思えないのだが」

淳の冷たい視線は軽蔑のソレだった。


「璃子先生の手前、大事にはしたくないが、やった事は殺人未遂、凶器準備集合罪、銃刀法違反、色々つけて執行猶予無しで懲役だ。少年法改正で実刑判決がでる。

名前も家の名前も報道されるだろう。

だが、璃子先生の立場だとそれは困る。四葉龍造氏も同じだろう。

正直に言え。内容によっては水に流してやる。だが保身の為に嘘を言うなら話は変わって来る。」


璃子は下を向いて沈黙している。


「オレと伸一は同い年で子供の頃から仲が良かった。従弟だが親友でもある。

オレはアイツが将来父親と同じ様に四葉製薬の社長になる為に努力してきた事を知ってる。

だが、オマエと関わったが為にその道を絶たれた。

退学になり、家に居れば親や兄弟になじられる・・・そんなアイツを見ていたら・・・」


その時、

「何やってるのよー、帰るわよー!もうミアママが迎えに来て待ってるよー!

早くしないとどうなっても知らないよー」

ミランダ声だ。

おそらくミアが探して早く連れてこいとでも言われたのだろう。


淳とマックスは顔を見合わせた。


「璃子先生、処理はお任せします。ボクの方からは冗談じゃないって気持ちですが、貸2つ目って事で。」

淳はそう言うとマックスに声を掛けミランダの方に向かって走りだした。


璃子は携帯を取り出し、成城大学付属病院に連絡をして救急車を3台要請した。

続いてグループの総裁である祖父の四葉龍造に連絡し今夜のアポイントメントを取った。

事の詳細を説明する為である。

事の次第が龍造の耳に入ってから報告したのでは意味が無いどころか、自分の能力を疑われてしまう。


「真也、まずこの場にいる人間の名前を教えて。親に連絡して病院に来て貰う様にする。

それから、今夜お爺ちゃんと話した後でアンタの家に行くから叔父さんと叔母さんに言っておいて。

覚悟しておきなさい。

拳銃の事もその時に聞く」


璃子の顔は怒りで赤くなるどころか青ざめていた。

この学校で四葉の不祥事は2件目だ。

龍造の反応も気になるし、四葉一族内の人事も気になる。

だが一番は今回も国見淳が被害者で、彼の納得する答えを考えねばならない。

手の中にあるマックスから渡された拳銃がズッシリと重く感じた。




帰りの車の中で淳がマックスに質問していた。

「ところで、なんで動画撮影なんてしてたんだ?」

「いや、オヤジにジュンがどれだけ強くなったのか見て貰おうと思ったのと、オマエと対戦する事になった時の為に弱点を探ろうと思って」

「俺がマックスに勝てる日が来るとは思えないんだが・・・だいたい大会が無いのに対戦なんてヤバいだろ!」

そう言って二人は笑った。


だが、淳は内心で四葉の人間が二度も自分を攻撃してきた事について考えていた。

2度ある事は3度ある・・・。

気持ちは重苦しかった。






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