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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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頂点国民

ネットニュースでは視察授業で起きた事が紹介されていた。

韓国主要新聞の日本版電子新聞の引用記事である。


【日本右翼勢力の若年齢化】

大韓民国と日本が戦争になれば日本が勝つ、という妄言を15歳の高校生が発言した。

日本の右翼教育は深刻であり、自国の勝利を疑わないまるで大戦前の天皇を崇めていた頃に戻っている様だ。

授業の中で出た発言であるが、韓日間の戦争をテーマにする事にも驚きだがハッキリと生徒が自国の勝利を断言する光景は大戦中の学校を回帰させる。

最近の日本は軽空母配備を発表しアメリカ製のステルス戦闘機を多数購入した。

戦力を拡大し野心を露わにしているが、高校生にまで戦争教育をしている事がこれで判明し準備に余念が無い事が表面化した。

我が国も戦力を整え対応を急がねばならない。



ミランダが大笑いしながら淳に教えてくれたのだ。

掲示板には淳の実名が踊っており住所や家族構成、経歴まで晒されている。

家族の安全に関しては、亮が契約している警備保障会社が見回ってくれているし、大臣自宅前に必ず設置されている簡易交番に警官が常駐しているし、なんならセオドアのボディガードだって詰めているから心配いらないのだが、家族の反応や特に防衛大臣をしている慧に迷惑がかからないか心配だった。

戦時中の保障問題になっている、韓国で行われている裁判で渦中にある四葉重工と同じグループに属する組織である事も影響しているかも知れない。当然璃子の事も気になっていた。


1時限目の開始前に、マクレガーが淳を呼び理事長室まで連れて行った。

璃子が待っていて、

「さ、行こ!」

と笑顔で淳に言い

「どこへ行くですか?」

と聞いても笑って答えない。

学校が所有している大型セダンが玄関に横づけされ、二人で後席に乗り込むと運転手がどこかへ走り出した。


着いた場所は永田町2丁目。

首相官邸である。

厳重な身体検査をされた後、秘書と思われる男に案内され部屋に入って暫くすると総理大臣の矢部と外務大臣の河田、それに防衛大臣の慧が入って来た。

さらに、数秒遅れて四葉グループ総帥の四葉重蔵が入って来た。


「姉さん、なに? オレ、ヤバい感じなの?」


部屋にいた全員が笑った。

「逆よ淳。みんな貴方がどんな子供なのか顔が見たくて呼んだんだって。」


矢部が淳に握手を求めながら

「初めまして淳くん、噂は防衛大臣から聞いてるよ。

今回は有名人になって大変なんじゃないかと思ってね、かねてから興味を持っていた少年だったし一度会っておこうと思って璃子ちゃんにお願いしたんだ。」

外務大臣とも握手を交わし挨拶が終わると、龍造が値踏みする様に淳の髪の毛からつま先まで観察している視線に気が付いた。

「「以前、お邪魔した時に拝見しました。」

淳が丁寧に頭を下げて挨拶した。おそらくこの場では立場が首相より上だろうと思ったからだ。


「そうだったな、見た目が派手だから覚えているよ」

龍造は笑顔で返したが、目は笑っていなかった。


「今回の件で韓国の諜報機関である国家情報院がキミの事を探っていると内閣情報室から報告があってね、海外の国から注目されている人物と面識が無いというのは個人的にダメな気がして来て貰ったんだ。」

矢部が政治家特有の身振り手振りをしながら淳に言った。

「総理、韓国の諜報機関ですか?」と慧が眉をしかめながら言った。

「防衛省には連絡行ってない?事務次官にはキミに連絡する様に言ったんだけど、済まなかったね」

矢部は悪びれる様子もなくサラっと慧に応えた。


龍造は黙って様子をみていたが、飲み物が運ばれてきたタイミングで淳に話かけた。

「進路は決まっておるのかね?帝国大もハーバートも卒業してるんだから引く手数多だろうて」

「いえ、特に決めてはいません。決まってないから高校生してるんです」

璃子は慧の顔見た。入学の際に電話で話していた人生のやり直しというのはこういった意味も含むのかも知れないと思った。

「昔の子供の夢には総理大臣も含まれてたのに、いまは政治家の人気無いからなぁ」

矢部が笑いながら残念がった。

「総理には姉がなります。なのでボクは姉を応援しようと思ってはいますが自分がなろうとは思っていません」

矢部はニヤリと笑い

「そうだね、慧大臣は総理ができる器だとワタシも思うよ」

慧は下を向いた。璃子は慧を見てやはりニヤリと笑った。


「ウチの会社にこんか?この国の実質最高責任者になれるぞ。最高権力者ではないがな」

龍造がいきなり言葉を出した。

「そんな責任背負いたくありません。だいたい能力が不足し過ぎています」

淳は身体全体を龍造の方に向け直して、顔を見ながら答える。

矢部が注意深く龍造を観察していた。龍造は半分本気で誘っている。璃子も同じくそれを感じていた。

「ちょっと会長!ワタシのライバル増やさないで下さい」

璃子が笑いながら言う。

慧は淳が何かとんでも無い事を言い出さないか内心ハラハラして見ている。


矢部の顔の雰囲気が少し変わった。

「キミが戦争について発言した授業の録画を見たけれど、食料自給率に注目するとは基本を知っているな、と思った。同時になぜそんな基本を知っているのか興味が湧いたのだ。

最初は慧大臣から仕事のグチを聞いてるうちに得た知識なのかとも思ったが・・・」


「第二次世界大戦の時もそうですが、金が無ければ戦争は出来ません。

当時の日本は台湾銀行に超莫大な債権の手形を切らせて戦費を調達していたからアメリカとあそこまで戦えたのだと思います。アメリカが日本の資金調達がアメリカの銀行とリンクした仕組だと見破ってから戦局は大きくアメリカに傾きました。

戦争も経済活動の一つと考えるなら当然の事です。

食料とは言いましたが象徴として例に出しただけで、弾薬や備品に至る総てに言える事だと思います」

全員が淳の言葉を注意深く聞いた。


「キミは良く勉強しているな。陸軍が考えた戦費調達方法だったが、日本の生命線だった」

龍造が空を見上げて低く呟いた。そしてさらに淳に問題を出した。

「現在の日本の国防においてキミが考える最大の弱点はなんだと思う?」


淳は笑いながら「なんか面接されてるみたいです」と前置きしながら答えた。

「大きな弱点は2つあります。

一つはITデジタル分野です。メガバンクのラインがパンクしたりしてるレベルでは話になりません。

ロシアがクリミアに侵攻した際、最初にやったのはネットのハッキングと偽情報の拡散でした。

訓練された軍隊がなにも出来ずに攻略されてしまいました。日本も同様に簡単に攻略可能だと思います。

2つ目は、諜報分野です。

日本の諜報機関は内閣調査室と言われていますが、実際には公安が得た情報を分析しているだけに過ぎません。アメリカのCIAやイスラエルのモサドの様な優秀な諜報機関の設立が必要だと思います。

特に日本は中国・ロシア・北朝鮮と仮想敵国に囲まれ、韓国でさえ日本を仮想敵国に想定している状況です。特に韓国が攻めて来た場合韓国と軍事同盟国であるアメリカが守ってくれる可能性は減る・・・。

イスラエルが4回の戦争で生き残って来れたのは間違いなく情報を得ていたからです。

今日本に必須なのはデジタル進化と諜報機関だと思います。」


一気に話した。

矢部はニヤリと笑い、龍造もニヤリと笑った。奇しくも

「その通り」と二人の声がハモった。


慧は何かを観念した様に目を閉じて上を見上げた。

璃子は矢部と龍造の反応に笑顔が消えた。


今度は矢部が悪戯っぽく笑いながら問題をだした。

「では今度は・・・現在我が国の抱える幾多の問題の中で最重要課題を選ぶとすればキミは何を選ぶ? そしてその対策は?」

淳は苦笑いを隠せなくなってきた。

「経済や福祉の問題もありますが一番は少子化問題だと思います。

人口は経済の基本部分です。また国の根幹です。総ての数値に置いて人口数は影響します。

中国・アメリカ・インド・・・経済大国は総て人口が多い。

ですから、まず早急に手を打たなければ数年後には国が疲弊・衰弱してしまう。

対策といわれても・・・原因の一端は収入そのものでは無く収入格差にあると思います。

経済的に厳しいと結婚不可能という思考が蔓延してますし、SNSの投稿記事を見て他人との生活水準と自分を比較してしまうのかも知れません。

結婚し子供ができても経済的に心配の無い、さらに経済が子供の学力に影響しない社会を作れば良いとは思います。

具体的には・・・・例えば海外では一流校の証である全寮制の学校制度ですが、日本でもこれを中学から義務化し無料とする。学習塾には通えなくなりますから経済による格差は付きにくくなりますし、教育に関する費用は家庭からは無くなります。思い付きですがこんな感じでどうでしょう?」


淳は頭を掻きながら自身無さげに言ったが、矢部は驚いた。

説得力はある。あとは20代~30代の人間の雇用を創出すれば結婚は増えるであろう。

璃子は別の意味で驚いた。無料では無いが自分が始めようとしていた事だからだ。

慧は諦めた表情で淳を見つめていた。

このアイディアは実現するにはいくつものハードルがある、しかし発想は現在の諮問機関や研究者、政治家や官僚達には出来ない物だ。

慧は間違いなく、矢部が淳を何かに使うであろう事を予測した。

この若さで政治の裏舞台の汚い部分を見せたくは無い。

龍造

にしても淳に対しての興味は深くなっているのが分かる。

矢部や重蔵の様な大きな事を成し遂げた人間が現場の一線を退いた後で始める事は人材育成なのだ。

自分の能力を伝える人間を探し育てる事が趣味と言っても良い。

慧はそんな老人を何人も見ている。



「総理、そろそろ・・・」

後ろに立って控えていた秘書が矢部に声を掛けた。タイムリミットらしい。

矢部が頷き、立ち上がり

「今日はわざわざ足を運んで貰ってありがとう。なにかワタシにできる事があれば何でも言いなさい」

そう淳に声を掛けた。すると淳は


「では・・・姉を、四葉慧を総理大臣にして頂けるようご助力下さい。どうか何卒、宜しくお願い致します。」

淳は深々と頭を下げ、そのままの姿勢を保っっている。その姿を見て矢部は

「大丈夫だ。ワタシの助けなんか無くても必ず総理になるよ。」

そう言いながら片手をあげて秘書を引き連れ部屋から出ていった。


慧は淳に歩み寄り。頭をパーンと叩いた。

「私の事はいいの!」そう言った後、優しく笑いながら今度は叩いた手で頭を撫ぜた。

その後、璃子に

「璃子!ご苦労さま。総理の我儘だったけど授業もあったんでしょ?大丈夫?」

すると璃子は笑いながら

「オーナーも同席してるんだから全然大丈夫だよ」

すると龍造は

「ジュン君、今度時間を作って家に遊びに来て欲しい。たまに爺イの暇潰しの相手でもしてくれ。

キミが以前考察した第六世代戦闘機の話でもしょうや。

璃子、ワシは帰る。学校は頼んだぞ。それから、ジュン君の単位はちゃんとあげろよ」


淳は驚いた。なぜ戦闘機の事を知っているのか?

勿論、慧も同様に驚いた。



この日は、淳が初めて日本政財界の頂点と交わった日になった。



その頃、矢部は歩きながら秘書に対して極秘の国家諜報機関の設立に関する諮問委員会の設置と、少子化問題に関する財務省と文科省と総務省横断の組織を新設する準備を整える様に少子化担当大臣に通達を出す様に指示を出していた。







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