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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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デイベート

日本の高等学校で最高水準の教育をを自負している成城大付属では、国会議員や文科省の職員、他国の教育機関に携わる人間の視察は珍しく無い。

公立の教育機関では文科省が定める教育指導要領通りのプログラムが行われるが、私立の最高ランク校での授業内容とその雰囲気、生徒の質、生徒の反応に対して興味があるのだ。

この日は国際連合教育科学文化機関(通称ユネスコ)でパリ本部から国際教育計画研究所から職員が視察に訪れていた。

学校側がサンプルに選択したのは1年A組、語学の授業であるデイベートの授業である。

全員が英語でスピーチし、それに対して英語で反論するという内容だ。

討論内容は前もって告知され、生徒達は予備知識を頭に入れてから討論に望む。

知識を学びそれを生かすのが目的で、ただ単に本を読んで暗記するだけでは、これからの社会に対応する人間を育てられないという理事長である四葉璃子の提案で始まったカリキュラムだ。

日本人が多いとはいえ、成城は様々な国から優秀な留学生を受け入れているので、

その討論内容もユネスコ職員にとっても大いに興味が湧くものだった。

職員や研究員は璃子の案内で教室の後ろに用意された椅子に座って視察する事にした。


討論の題材は、敗戦と経済


海外の人間が視察に来るという事で、それを十分に意識した題材だ。

日本は第2次世界大戦の当事国であり、しかも核兵器を使用され無条件降伏をした国である。

敗戦から70年経過し、戦争を知らない世代が戦争に対してどんな意識を持っているのか、それを他国の学生はどう感じるのか、大人達にとって無関心ではいられない事だ。


担任のマクレガーが司会者になり、最初のパイロットスピーチを話す。


「今日のデイベートは戦争と経済について話してもらう。

日本は先の大戦で敗戦し歴史に残る復興を成し遂げた。

その復興はいかなる理由で為されたのか、それに対しての反動は無いのか?

今後、戦争が起こらない為にはどうすればよいのか、

この内容でそれぞれの意見を述べて欲しい。」


高校1年に対して難しい内容だとユネスコ職員は思った。

従って、出る意見は極端な内容になるだろうと予測した。


マクレガーまず学級委員である青山という男子生徒に意見を求めた。

青山は立ち上がり、マクレガーの言った敗戦後の復興る理由について自分の意見を述べた。

「敗戦後の日本は確かに悲惨な状況で戦前の状態まで立ち直るには100年かかる、とまで言われていました。

ですが僅か20年、1968年には世界GDPで2位になれた理由をボクなりに考えたので発表します。

考えられる理由は4つあって・・・

まず、敗戦はしましたが国家の根本である土地は失わなかった事です。

戦勝国による分割統治する案が見送られ、沖縄や千島・樺太は失ったものの本土の殆どが残った事で

国民全員が恨む感情より復興に対する意識が高かった事。

それに、国土と共にやはり国家の根幹である人が残った事です。

つまり高い技術を持った人間が国外に流出しなかった事です。

保有していた特許や新技術の多くはアメリカに接収されましたが、それを生み出した人材は接収されなかった事です。

それから・・・GHQによる全面的な改革が行われ完全な資本主義社会制度を確立できた事です。

一から作り始める経済構造より、良いモデルケースが沢山あり、それを参考に出来た事は大きな理由だと思います。

最後に、安全保障における国防をアメリカが担ってくれた事が大きな要因であると考えます。

警察予備隊から自衛隊設立はしましたが、やはり強大なアメリカ軍がバックアップした事により経済活動・外交に大きな良い影響があったと思います。

ボクの意見は以上です」


ユネスコの職員達は無言で頷きながらも、内心は驚いていた。

アメリカのテレビで話している評論家より簡単で分かりやすい。


マクレガーが笑顔で

「Do you have any other opinions?」(他に意見は無いか?)

そう言いながら教室を渡した。


「天皇制の継続は良かっと思います。イメージとして統治機構が変わらないという安心感につながったと思います」

意見を言ったのはアメリカからの女子留学生だった。


マクレガーはこれにも頷いた。そして

「アオヤマの意見に反対意見はないか? クニミ?どうだ?」


淳は無表情で立ち上がり

「いま出た意見には総て賛同します。天皇制の継続も然りです。

ですが、ボクはもう一つ・・・

戦後教育だと思います。

アメリカによる間接統治機関GHQの特別参謀部であるCIEが教育・文化を担当しましたが、教育における戦後処理と旧体制の清算が速やかに行われ、次に新教育制度の基礎となる重要な法案が矢継ぎ早に制定・実施されましたが、その教育が戦後日本の根幹になったと思います。

総ての国は領土と人民によって形成され、その認識や価値観を共通させる事が教育の大原則であると思ってますので」


これを見ていた視察団のメンバーは思わず「Oh!」と声を上げた。

発言した淳の顔を見た後、璃子に顔を向けた。

「彼は本当に高校1年生なのか?」

「れっきとした15歳の高校1年生ですが・・・実はハーバート大を卒業した天才児です。」

「というと、彼が神の子ジュン・クニミ?」

璃子は笑顔で頷いた。

「彼の言った事は私が常々思っている事と同じだ。機会があれば話してみたいものだ」

視察団の男は笑顔で頷きながら璃子に言った。


マクレガーは話を進める。

「それでは、今後戦争を起こさない為の方法について意見を求めたい

戦争の原因は様々だが、そもそも戦争とは人間の集団が対立する事によって起きる国家単位の物理的暴力である。原因を無くしてしまえば良いのだが人類有史以来何度も繰り返されてきた割に原因は未だ特定されていない。従って、ここでは戦争を回避できる可能性が高い手段を論じて欲しい」


赤城という女子が立ち上がり意見を言った。

「戦争の原因は確かに様々ですが、大きく分けて2つの理由があると思います。

一つは経済的な事を含む資源の争奪、もう一つは宗教やイデオロギーの違いです。

その二つとも防止・回避するには話し合いしかないのではないでしょうか?」

するとカナダの男子留学生が発言した。

「国連の平和維持軍という軍隊があるが、完全な戦争抑止力にはなっていない」

周囲の生徒はざわめき始め、みな口々に色々な事を発言しだした。


「核兵器は事実上戦争抑止になっている。強大な武力報復は抑止力になるのではないか」

「いや、それでは核保有国同士で戦争になる可能性は残る」

「国家間の経済格差が問題なのではないか?」

「中東戦争は宗教が原因だろ?」」

「ロシアがクリミアに侵攻したのは何故だ?」

「中国はなぜアメリカを挑発してるんだ?」」


しばらく黙って聞いていたマクレガーだが、時計を見ながらタイミングを計っていた。

そして、メモを取りながら議論を追っていたミランダを見て

「エッガーはどう思う?」

「戦争は単純な理由で起きるのではなく、経済的な野心と愛国心による政治家のプライド、メディア報道と国民世論等が絡み合って勃発するのだと思います。

完全に抑止できるとは思えませんが冷戦時代の様にギリギリで抑止できていた時代もあります。

過去を見ると、必ず勝てると確信した時に大国は侵攻していますので、多国間で同盟を組み武力を均衡化させる事が重要なのではないかと思います」

マクレガーは頷いた。続けて

「クニミはどう考える?」

またオレ?という気持ちが顔に出ていたが、立ち上がって発言する。


「先程も言いましたが、やはり教育が大きなファクターになると思います。

事実を受け入れられない時に人間は対象を否定し、攻撃もしくは無視します。

現状の事実を認めさせ納得させれば紛争は起きません。

そして現状の解決手段が武力しか無いと短絡的に勘違いした時に武力を行使しようと考えるのです。

ですから人類普遍の共通した価値観、暴力に対しての絶対的な否定を植え付ける事が出来れば戦争は根絶できると考えます。

もっとも、戦争も時代と共に変化してますから、もう人間同士が殺し合う戦闘ではなく、AIとAIが戦略を練り無人兵器を壊し合う時代になるかも知れません。

人命が関わらないなら戦争は絶対悪ではなくなり、ただの資本競争になります。

ある意味、戦争暴力の根絶ですね」

そう言って座った。


教室内の全員が黙った。


予想していなかった答えにマクレガーは困ってしまった。

「戦争技術が進化と発達した結果が人命を救う事になるとは皮肉な物だな。」

まだ時間は残っていたので何とか続けたいと思った。

「クニミ・・・もしも中国が攻めてきたら?」

「覇権主義ですか?大戦に発展しそうですが、戦場は中国本土になるでしょう。

アメリカとヨーロッパ、オセアニアが参戦するでしょうから・・・もしかしたら中東のサウジ等も参戦するかも知れません。戦場が中国国内になると国内の管理統制は不可能になるでしょう。

中国は自滅を選択する事は無いと思います

更に、現在のアメリカの経済ルールで経済活動をしている現状では、ほぼアメリカと同盟関係にある日本に攻め入る事は無いでしょうね」

「それでは、韓国は北朝鮮は?」

「韓国は最近の報道を見ると可能性あるかも知れませんね。でも絶対に勝てないと分かる筈です。

戦力格差もありますが、肝心の食料自給率が低すぎます。

日本も低いですが、韓国よりドルを保有しているので買い付けできます。

日本に攻め込む選択は現実的ではありませんが、イスラム原理主義の様な思考回路ですから、わかりませんね」

淳は薄笑いを浮かべながら発言した。

すると視察団の中から

「Shut up! kid!」(黙れ小僧)

という声がして、振り返ると韓国系アメリカ人のようだった。


「自衛隊と韓国兵では質も士気も違う。韓国は日本に負けない」

男は赤い顔をして淳に怒鳴った。

淳は薄笑いを浮かべたまま

「ですから、現実を受け入れる事が出来ない場合、戦争になると言いました。

韓国が勝利する根拠も無いが勝つという思考がつまらない戦争を起こし関係無い人命が犠牲になる」

男は赤い顔をして淳を睨み続けていた。


「言いたい事を言えばいい。所詮高校生の言う事だ。ただこの国の教育には問題がある。

こんな妄想を衆人の前で恥ずかしくも無く言うのだからな」


そう言い捨てて、教室を出ていった。


淳は璃子を一度見た後、肩をすくめて着席した。

隣ではミランダが目に涙を浮かべて笑いを堪えていた。












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