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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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家族と家族

「ねぇ淳、もしも知らない人がいきなり美味しい食事をご馳走してくれるって言ったらどうする?」


日曜日の午前10時、リビングの窓から天気を伺う様に空をみていると、後ろから話掛けられた。

振り返ると、完全オフで化粧もせずジーンズと履いた慧が自分にアイスコーヒーの入ったグラスを差し出し立っていた。


「え?なにそれ?」

淳がグラスを受け取り一口飲むと、慧はそれを見てソファに腰かけた。

「知らない人っていっても友達の友達なんだ。その人がご馳走してくれるって言うの。

淳ならどうする?」


慧の斜めに淳も座った。

「その友達の友達ってのがどんな奴なのか分からないよね。

なんでご馳走してくれるのか分からないんでしょ?」

「なんで?って聞いたら答えてくれるんだけど、その理由が本当の事なのか嘘なのか判断できないじゃない」

「え?嘘つきなの?」

「いや、それも良く分からないのよ」

慧は笑って答えた。

「その友達の友達って人は慧姉に何かを期待してご馳走するのかな?」

「どうなんだろね?でも何かあるからご馳走しようって事になるんじゃない?すれ違った通行人に御飯を奢る人なんていないでしょ?」

「ご馳走する目的が不明なら、その友達の友達じゃなく、元になった友達と自分との関係性を考えれば、目的とか友達の友達がどんな人か少しは掴めるんじゃない?オレならそうするけど・・・」

「ほぅ・・・なるほど。・・・・なるほどね・・・」


慧は先日総理の紹介で会ったエスパーの事を考えていた。

亮に相談しようかと思ったが、意外と細かい性格なので細かい説明まで求められ話が長くなりそうだったので単純明快で答えを即決で出す淳に例え話で相談したのだ。


「例えば・・・慧姉の親友の四葉理事長がご飯を奢ってくれるなら喜んで行くけど、慧姉と同じ選挙区の議員が関係してる人間なら行かない!って感じ」

淳も笑いながら話している。それを聞いた慧も笑いながら

「そうだよね・・・そうなるよね。・・・よし!良い答えだから昼ご飯にピザを奢ってやろう!

デリバリーピザに電話しな!」

慧はスッキリした笑顔で淳に命令した。


淳がピザを頼んでいる最中に自分の部屋に戻り、エスパーに電話して返事が遅れた事を詫びた後、援助をお願いしたいと伝えた。エスパーは喜び「共に理想の民主主義世界を作ろう」と言っていた。

程なく矢部総理からも電話っが掛ってきて

「これで安心した。私は次回の総裁選には出馬しない。今回の任期を務め終えたら総理の職も辞する事にした。次の次か我が国初の女性総理大臣を目指して頑張ってくれ。」

と言っていた。エスパーが報告したのだろう。意外とまともな関係で慧は少し驚いた。


リビングに戻ると亮と綾子が増えていた。

亮が慧を見つけ

「なになに?慧の奢りでピザ頼むんだって?珍しいからオレもご馳走になろうと思ってるんだけど?」

「はぁ ?亮も? アヤちゃんはいいけど亮は私の何倍も稼いでるんだから自分の分は出しなさいよ!」

「冷たいなぁ・・・血を分けた双子じゃねーか」

「日本で3本の指に入る資産家に、何故しがない公務員の私が奢ってやらなきゃならないのよ」

すると亮が

「ジュン、適当にみんなの分も頼め!こんな事言ってるけど、慧は女神みたいに優しいんだから」

今度は慧が

「ちょっと、淳!まさか本当に亮の言う通りに頼む訳ないわよねぇ?兄と姉のどっちを取るって話だから良く考えなさい!」

亮と慧のどちらからも迫られて淳は言葉も出せない心理状態に陥った。


「じゃ、オレが払うよ・・・」


淳の答えを聞いてその場にいた全員が笑った。

その大きな笑い声を聞いて旭とミア、エッガーのみんなもリビングに降りてきた。

結局、亮と慧とセオと旭の4人が金を出して、みなでピザを食べる事になった。


全員で食事をしているが、会話は小さなグループに分かれた。

ミランダはアキラに量子コンピューターの構造に付いてレクチャーを受けていた。

現在考案中のAIデバイスの参考にしたいそうでメモ紙にペンを走らせながら熱心に聞いている。

量子コンピューターの最大の利点が演算速度の速さだとしたら、ハッキングの際の対象のパスワードを解析する作業を大幅に短縮できる。

おそらくミランダが制作しようとしている物は合法では無いだろうが淳は黙っていた。


セオドアは慧からCIAの事を詳しく聞いていた。

組織の構造、これまでの実績、現在進行中だと思われる作戦。

セオドアは仕事柄、国家の軍事情勢に詳しい。

淳は慧がなぜCIAに興味を持って色々と聞いているのか分からなかった。


亮と綾子はミアに結婚の事について問い詰められていた。

早く入籍し結婚式を挙げろと言われているのだ。

二人とも入籍するのに躊躇いは無いのだが、結婚制度その物の意味を理解できなかった。

しても良いが拘っていない。

ただ綾子はウエディングドレスをプライベートで着てみたかったし、ミアは二人の子供の顔を見てみたかった。


マリアはこの光景を嬉しそうに眺めていた。

今まで大人数で食事をする機会は皆無だったが、国見に来てからは2人以内で食事をする事が無くなった。それどころか一人でいる時間も殆ど無い。

望めば一人でプライベートを作る事は簡単だが、家族が仕事や学校に出かけてもミアや綾子が常に気にしてくれている事に感謝していた。


話を終えたミランダがコーラを持ってマリアの横に座った。

「ねぇママ、私達っていつまでここで暮らすのかな?」

「ミランダはここが嫌なの?パパトママの3人で暮らす方が良い?」

「違う、逆だよ。家は広いし庭も広い。世界有数の物理博士からコンピューターについてレクチャーも受けられるし、ケイもアヤコもミアママも優しい。亮もナイスガイだし、ジュンもまぁ優しい。

だから、いつまでここに居られるのかな?と思って。」

「そうね、クニミファミリーは私達ができるだけリラックスできる様に全員が英語で話していてくれるし、食べ物も日本ならではの物を出して食べさせてくれる。

本当に良い環境を作ってくれてワタシも感謝してる。日本のオモテナシって凄いわ」

「私は・・・ここに居ればこうして楽しい事も多いし、何よりも自分自身が成長できると思うの」

「成長?どんな?」

「色々な事に成長できると思うんだ。知識もそうだけど人が持つ多様な価値観とか・・」

「知識も重要だけど、他人を知る事はもっと重要ね。ワタシもセオもロースクール時代に日本人のアキラという人間を知って良い意味でショックを受けた経験があるから・・・ただミアは受けたショックが大き過ぎたのか結婚までしちゃったんだけど」

マリアもミアも笑った。

「ミランダの年齢で他人の価値観を知ろうと思うのは良い事だと思う。

ミアだって、その為に勉強しか出来ないジュンをまた学校に通わせ始めたんだから」

「え?そうだったの?」

「ミアが言ってたわ。他人を理解出来なければ自分の能力をフルに発揮する事は出来ないって。

ワタシも同感よ。」

ミランダは神妙な顔をして聞いていた。

「ワタシも此処は好きよ。だからセオが展開する日本でのビジネスが成功する事を祈ってるわ」

「じゃ、私も祈る」



二人は笑った。

そして、目の前にあるピザに手を伸ばした。









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