天才でも貧乏 2
帰宅し部屋で着替えたあと、貯金箱から小銭と札を合わせて2万円を持つとミランダの部屋に行きその2万円を渡した。
「後でトラブルになると嫌だからレシート(領収書)書くね」
ミランダは机に向かうとメモを取り出しサラサラとペンを走らせた。
「日本ではハンコが必要なんだっけ?でも私はガイジンだからサインでOkeyにしてね」
と言ってそのメモを淳に渡した。
淳は受け取りながら要求のイメージを伝える。
「だいたいは学校で話した通り。ただ通知の時間を任意で設定できるようにする事。
場所は文字ではなく地図の絵も同時に目でも確認できる様にした方がイメージしやすいと思う。」
ミランダは話を聴いて頷きながらメモを取っている。
「分かった。長く見積もって制作は1週間程度だと思っておいて」
「そんなもんなの?」
「本当はもっと早くできる自信はあるけど、未来の事は分からないでしょ?」
結局ミランダは4日で完成させた。
流石、中学校といえど世界的に有名な理系の学校の主席だ。
「2台の携帯端末を使って試験をしたけど、トラブルは無かったよ。
もし出てきたら修正するから伝えて欲しい。」
そう言ってアプリのバージョン等を書いた紙を淳に渡した。
携帯からアドレスを打ち込みダウンロードしてみると東京の地図をデフォルメしたアイコンが液晶に追加された。
ミアの携帯に15分おきに通知する様に設定し、リビングに降りてミアが座っているソファの隣に座った。
とその時、珍しく亮が帰って来た。年に何度かしか10時前に帰って来ないのだが、それがたまたま今日になったようだ。
「どうしたの亮クン?凄く早い帰宅じゃない?」
「予定がキャンセルになったんだ。たまには家族で夕食したいし、今日は早く帰ってきた」
そう言いながらネクタイを緩め、上着を脱ぎながら淳の対面に座った。
その時、ミアの携帯の着信音が鳴り、手に取ったミアが
「なに?これ?」と言いながら淳の顔を見た。
〔Jun-Kunimi is in MInami-azabu}の通知をクリックすると地図の画面が開き旗が立っている。
淳はミアの顔を見てニヤリとし
「行動場所通知システム。オレが考えてミランダに作って貰ったんだ。凄いだろ?」
亮は「ほぅ・・・」と身を乗り出してミアの携帯画面を覗き込んだ。
「こうやって通知があれば対象が何処にいるか確認できて安心でしょ?」
淳がやや得意気に言うとミアが
「確かに安心はするわね・・・コレはいいかも!」
すると近くにいたマリアも興味を持ったようでミアの携帯を見に近くまで歩み寄ってきた。
「これ、オマエが作ったのか?」亮が淳の顔を驚いた顔をしながら見た。
「考えたのはオレだけど、プログラミングはミランダに頼んだんだ。」
するとマリアがタイミング良く降りてきたミランダに
「ミランダ!さすが私の娘!相変わらずクールね」
淳はマリアの言う意味がイマイチ理解できなかったが、褒めている事は分かった。
頃合いとみて、淳はいよいよミアに本題を切り出す。
「これがあれば、ボクがアルバイトしても安心でしょ?」
ミアが意表を突かれた顔をして淳を見た。
「その為にこんな物まで作ったの?」
「そうだよ。オレはアルバイトをしてお金を稼いでパソコンのパーツを揃えたいんだ」
ミアの考え込んだ顔を亮はニヤニタしながら見ていた。
だが、マリアはミランダに
「ミランダもこのアプリを携帯に入れてるの?入れてないなら今すぐ入れて!」
綾子も
「私も亮クンにこのアプリを使って欲しいな」
これにはミランダも亮を意表を突かれた。まさか自分に話が振られると予想していなかったからだ。
「ミランダは子供だからマリアママの気持ちは分かるけど、アヤちゃんはなんで?」
亮がやや引きつった笑顔で問いかけた。
「第一に浮気防止!次に安否確認!更に行動の予測からの自分の行動判断!」
綾子は笑顔で答えた。亮は引きつったまま苦笑いしている。
「ジュン、アルバイトの許可は出せない。貴方はそんな事をしちゃダメになる」
「どうして?意味が分からないよ」
親子喧嘩になりそうな雰囲気だ。
しっかしそれを見ていた亮が
「ちょっと待て淳!コッチに来い!」
そう言うと、淳を部屋の隅に連れて行きコソコソと話始めた。
二人は1分程度話すと、戻ってきて淳が
「わかったよ、ママ。バイトは諦める。」
この態度の豹変に、ミアは勿論だが全員が驚いた。
淳はそう言い残して自分の部屋へ戻った。
亮もニヤリとして仕事着を着替えに綾子を連れて自分の部屋に行った。
残された人間はキョトンとしてリビングから出て行った二人を見ていた。
ミアは亮が淳に何をいったのか考えていたが、見当がつかなかった。
亮と部屋に入った綾子も亮が淳とどんな話をしていたか気になっていた。
「淳クンとどんな話をしたの? 喧嘩になりそうだったのに簡単に収めちゃうのは流石!って思ったけど・・・」
「アプリの話をしたんだ。淳の考えたアプリは女子に需要があるみたいだから」
「どういうこと?」
「子供を持つ母親や旦那・彼氏を持つ女の子が必要と感じるのかな?あの場にいた女性4人のうち3人が欲しがる物だった」
「確かに、ミランダちゃん以外の女は全員良い評価だったね」
「商売になりそうだろ?」
「え?どうするつもり?」
「あのアプリを買った。」
「え?システムを買ったって事?」
「そう。この前王志明が翻訳機のアイディアを売って1億儲けたって話をしたろう?
あんな感じで淳からアプリのシステムを買ったのよ」
「いくらで買ったの?」
「5000万」
「え?そんなに?」
「ウチのシステム開発してる会社に運営させようと思って。利益出ちゃうな」
そう言って亮は笑い、ジーンズにパーカーに着替えてリビングに戻った。
部屋に戻った淳はガッツポーズをしていた。
自分のアイディアが大金に化けた。
経費はミランダに払う製作費の2000ドルのみ!
5000万円をドル換算すれば474200ドル。差額の472200ドルは総て利益になる。
もう何を買おうか色々と考えだしていた。
リビングに戻った亮はミアに淳のアプリを5000万で買った事を伝えた。
「十分なビジネスチャンスだ。けっこうな利益を見込める」
亮は自信を持って言った。
ミランダは黙って話を聴いていたが、5000万と聞いて黙っていられなくなった。
携帯を開いて淳にラインを送る
【あのアプリ5000万で売れたんだって?そうなると話は変わってくる。製作費は500万にする」
ミアには迷惑な話だった。
高校生に大金など悪以外の何物でも無いと思っているのだ。
必要以上の大金は悪い誘惑を呼び込む事を知っていて、過去にそれが原因で潰れていった才能を何人も目の当たりにしているからだ。
母親として無限の可能性を持っている自分の息子の偉大な才能を腐らせたく無いと思うのは当然だ。
だが、亮が自信を持って言い切るなら淳の発明は正当な評価なんだろうとも思っている。
「わかった。そのお金は私が預かる。淳が今の高校を卒業した後で本人と話し話し合って使い道を決めさせる」
亮にそう伝えると綾子に淳を呼んで来る様にお願いした。
淳が困惑した顔で携帯を見ながらリビングに降りて来た。
ミランダからのラインを見ているのだ。
「淳、ここへ座って。」
ミアはちょっとだけ厳しい顔をしていた。淳がミアの正面に座った。
「リョウから受け取る5000万円は私が卒業まで預かります。ただし今回の成功報酬として20万円はアナタに渡します。それで欲しかったパソコンのパーツを買いなさい。
これはアナタを保護する私が決めた事で保護されているアナタの反論は許さない。
Do you get it?」
淳は泣きそうな顔になった。
だが、一晩で思い付いた濡れ手に粟の様な話だし、普段から自分を愛してくれている事が伝わる行為をしてくれる母親からの言いつけだ。納得しなければならない・・・。
「Im get it. Thank you Mama」
マリアはミアの判断を当然だと思っていた。
ミランダがもし同じ状態になったら自分も同じ判断をしていただろうと思う。
ミランダは500万の請求はタイミングが合うまで待とうと決めた。
今、無理に話をすると自分に飛び火するかも知れないと思ったのだ。
亮は淳に現金を渡したかった。
ビジネスという物の楽しさを教えたかったからだ。
稼いだ金を見て実感と自信が湧く事を経験から知っているからだ。
綾子は淳を可愛そうに感じた。
ミアの言う事は理解できるし自分も同意見だ。だが、淳も気持ちも察する事が出来る。
ミアは、買い取った相手が亮で良かったかも知れないと思った。
タチの悪い相手ならもっと面倒な事になっていたかも知れない。
結局、淳は貧乏生活から完全には抜け出せなかった。
ただ、自分は恵まれた生活をしている事は自覚している。
世の名には飢えて死ぬ人間もいるし、幼い頃から親に売られる子供もいる。
戦場で自分が死ぬか相手を殺すかという毎日を送っている者もいる。
分かっているのだ。
ただ理解しているからこそ自分の気持ちを整理する時間が必要だった。
深夜、亮からラインが送られてきた
【すぐに金を受け取れなかったのは残念だったな。だが無くなった訳じゃない。がっかりするなよ】
亮は優しい。
でもミアも優しいのだ。
今日は淳が人生で最初に大金を手にした日になったが心中は複雑なモノになった。




