義理
国見家での酒宴は続いていた。
ケータリングは終了し片付けを終えて出張スタッフは撤収して行った。
場所はリビングに移り6本目のワインが開けられた。
「アキラが世界初の量子コンピューターを完成させた時も驚いたが、リョウがフォーブスの表紙に載っているのを見た時はもっと驚いたよ」
セオが亮の顔を見ながらつくづくといった様子で話した。
するとマリアが
「そのフォーブスにケイも載っていて2度ビックリよ」
亮と慧が照れた様に苦笑いしている。
「アメリカでは一時期クニミファミリーが話題になった事もあったのよ」
ミアがマリアの顔を驚いて見た。マリアが続ける。
「父親が天才科学者、母親が人気絶頂で引退した美人女優、息子が世界の長者番付にランクされる実業家、娘は将来のトップと言われている超有望な保守系の政治家、で末っ子が神の子と言われる天才児・・・どんな人間でも興味は持つわ」
「でも、その家族の貧しい時代を支え家族全員から尊敬されている夫婦を取材しないなんてアメリカのメディアは大した事無いわね」
ミアがセオとマリアを見て言い、亮と慧は頷いた。
「だいたい俺がITで起業できたのもセオ叔父の言葉がきっかけだったんだぜ
これから世界はインターネットによって劇的な変化を遂げる。産業革命以来の大きなチャンスだ、って」
亮が言うと慧も
「私が政治家になった時に相談したマリア叔母さんの言葉もまだ覚えてる
自分のできる事を一生懸命にする事が人間社会で必要な事だって」
今度はセオとマリアが照れ笑いしていた。
話の輪にイマイチ入っていけない淳が視線を漂わせていると、いきなりミランダと目が合った。
よく見れば目が大きく鼻も綺麗で美人だなぁ、と思った。
ハーバートにいた2年でもこれだけの美人は見た事が無かった。
と、ぼんやりと考えているとミランダがいきなり立ち上がり、
「ママ、ちょっとジュンの部屋へ行ってくるわ。ジーニアス(天才)の部屋に興味があるの」
いきなりの宣言に淳は驚いてビクンと身体が反応した。
「分かったわ、行ってらっしゃい。でも・・・」」
マリアはミランダの目を見た。
「I,m OK!」
ミランダは笑って答え淳に向かって
「行きましょ?」
と言って微笑んだ。
淳は訳が分からなかったが、この場を抜け出すには良いタイミングだったのでミランダに乗った。
階段を上がり、淳の部屋に入るとミランダは辺りを見渡しパソコンに注目した。
自作である事を告げ、ある程度のスペックを言うとナルホドという感じで頷いていた。
「良いパソコンだわ。ワタシ趣味がパソコンだから、どうしても注目しちゃうのよね・・・」
「趣味がパソコンって?どんな事してるの?」
「色々な物を見る事が楽しくてね・・・」
「へぇ・・・動画とか?」
「動画もあるわね・・・でもYouTubeとかそんなんじゃないの」
淳は疑問が湧いた。
「どんな物?」
「うーん、企業秘密とか国家機密とか」
淳は言葉が詰まった。驚いているし何と言って良いのか分からない。
「ワタシね、趣味がハッキングなの。
「ハッキングって、対象に潜り込むヤツ?」
「まぁそうなんだけど、正確に言えば対象の権限を奪う、って事かな」
「犯罪じゃん!」
「何もしなければ犯罪には成らないわ。被害が無いのだから」
「プライバシーを覗くのは犯罪だろう?」
「だから定義として被害が無ければ犯罪には成らないのよ。
ワタシは確かに侵入っはするけれど改ざんはしないし、得た情報を漏らしたりしてない、売ってもいない。
やった瞬間にワタシが犯罪者に堕ちるからよ。
知られた事さえ分からない、被害が無いから不利益を被る人はいない。
ただ知るだけ。好奇心を満たしているだけよ。」
ミランダは少し語気を上げた。
だが相手のテンションが上がると自分のテンションが下がる・・・淳の特徴だ。
「なるほど・・・知的欲求か。どんな物を見てるんだ?」
「政府の内部資料や極秘文書が多いかな・・・隠してる過去とかを見ると、本当はそうなんだ!とか思う」
そう言いながらミランダは呆気らかんと笑っている。
「ハッカーか・・・凄いな。」
「簡単だもん、凄くないよ」
国家の機密文書まで辿り着けるなんて簡単では無い。超一流の腕だ。
淳はパソコンを動かした。
席を空け
「腕を見せてよ」
ミランダはニヤリとして「天才に敬意を表して特別ね」と言って席に座った。
カタカタとキーボードを打ち込み、成城大学の事を調べ始めた。
創立記念日、理事長の名前・生年月日等の学校に関係する人間に関係する数字を拾ってメモを取った。ある程度量がたまると、その数字を組み合わせて適当なパスワードをあっと言う間に5万通り作り出した。
2分後、「ビンゴ!」
成城大学グループの経営会議議事録が出て来た。
「凄いな・・・5分程度で出来ちゃうのか」
「今回はたまたま当たりが早くでた。」
「天才ハッカーだな」
「あら、プラウデュジー(神童)に天才と呼ばれるなんて光栄だわ」
淳は心の底から舌を巻いていた。
もし、CIAが知っていたら拉致されて軟禁されるレベルだと思った。
「この技術を知ってる人間は誰かいる?」
「ママだけよ。パパには言ってない」
「バレたらヤバい状況になる自覚ある?」
「ママから散々言われてる。国防総省でも動くって」
そりゃそうだろ、と思った。軍事機密でさえ時間さえあれば知ってしまうだろう。
実際彼女は見たと言っている。
「なぜオレにこんな秘密を?」
「ワタシを守って貰う為よ。本当の事を打ち明けないとノーチャンスだから。」
「なぜオレに守ってもらおうと?」
「神の子でしょ?現代は体力より知力よ」
そう言うと笑って淳を見た。
「正悪は別にして話の方向は分かった。で・・・オレにメリットはあるの?」
ニヤリとしてミランダが
「あるわよ。ワタシといつも一緒にいれる。」
「それは・・・メリットなのか?」
「メリットよ!アメリカの学校でも男子生徒にモテモテだった私といつも一緒にいれるなんて最高じゃない?アメリカの男子生徒が聞いたら喜んで天にも登るわよ!」
「でも、俺がそう思わないとキミが言うメリットは無い。そして俺はそう感じない。」
「大丈夫。きっとジュンは私のナイトになるよ」
「それはなぜ?根拠は?」
淳が尋ねると、ミランダはニヤリとして
「Its a my top secret! 秘密よ」
そう言い残してミランダは部屋から出て行った。
ミランダ・エッガーでサーチしてみた。
アッと言う間にモニターが英語で埋まった。
Cute pretty lovely precious といった文字が目立つ。
ミランダ・エッガー
エリート養成学校である工学系のブルックリンテック主席卒業、12歳の時に人気YouTubeチャンネル「アメリカティーンアイドル」で紹介され話題になり10代の男女から絶大な人気を得る。
それ以来、芸能界からのオファーが殺到しているが、学業優先という理由で断り続けている。
13歳の時に誘拐未遂事件の被害者になる。犯人は20歳の熱狂であったが、これによって更に全米で認知される。
15歳で卒業式でストーカー被害に遭っている事を公表、以後メディアの前から姿を消す。
現在は消息不明。
言ってた事は嘘でも無いんだな・・・と淳は思った。
確かに可愛い。でも今までをみる限り少し面倒な個性があると思った。
ドアをノックする音がしたので、振り向くと旭が立っていた。
「どうしたのパパ?エッガーさん達は帰ったの?」
旭は部屋に入ってくると椅子に座っている淳の前に屈み目の高さを淳と同じにした。
「淳、ちょっと相談したい事が出来た」
淳は黙って聞いている。
「セオ達の事なんだが・・・
さっきも言った様に昔俺もママもあいつ等には世話になってて義理みたいな事を感じてるのだ。
話を聴けば、奴等は今ホテル暮らしで家を探しているのだが中々良い物件が見つからなくて苦労しているそうで・・・
そこで亮がこの家で暮らしたらどうかと提案して結局オマエが良いならそうする事でまとまったのだが・・・
どうだろう?」
「綾姉は?今日いない綾姉は何て?」
綾子は今日実家に帰っていていないのだ。
「アヤちゃんは構わないと言っている。」
「パパもママも亮兄も慧姉もいいなら俺も良いよ。」
旭は淳の両肩に手を置き、
「そうか、ありがとう。でも何か嫌な事があったら言え。オマエを嫌な気分にさせたくない」
「大丈夫だよ。パパもママも大事にしてる人で亮兄も慧姉も嬉しそうに話してるんだから嫌な人では無いと思う。オレは平気だよ」
淳が笑顔で答え、それを聞いた旭も微笑んだ。
家に人が増えて賑やかになりそうだ。
だが、人が増えるとその分人間関係は複雑になる。
淳は少しだけ不安に感じた。




