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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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兄に野望を持たせてみよう

「NO!」


テレビを見ていたミアが声を上げて首を横に振った。

ホンマ自動車が自動車レースの最高峰カテゴリーであるF1から撤退を決定したというニュースだった。


ホンマ自動車の正式名称は本間技術研究所株式会社。

戦後の動乱期に自転車に小さなエンジンを取り付け売り出した【バタチャリ】と呼ばれた乗り物がヒットして名前を売り、その後二輪の世界GPに出場した。優秀な成績を収め四輪事業にも進出し更に無謀だと言われたF1にも挑戦した。

会社の名前になっている技術研究とは内炎機関に対する技術を研究・開発するという意味であるが、その結果を発揮する場としてレースは最高の場所だった。

二輪・四輪共に世界の舞台で王者になりタイトルをとった回数は数えきれない程だ。

日本が誇る会社の一つであり世界中の人間が知る会社である。


世界中の国家が一つの目標を掲げ、それに向かってどの業界も変革を求められていた。

地球温暖化を防ぐための運動である。

日本ではカーボンニュートラルという言葉で総理大臣が政策の一つとして発表してる。

人類が排出する二酸化炭素の量を植物が排出する酸素を同じにする、という理念だ。

火を使用する工場を持つ製造業、火力発電所を持つ電力会社、排気ガスを排出する自動車産業は最も影響を受ける。当然、ホンマ自動車にも大きな影響がある。


【カーボンニュートラルを実現する為の人的資源を確保し投入する】

ホンマの発表に、仕方無いがとても残念だとミアは嘆いていた。

ミアの隣に座って一緒にニュースを見ていた亮も残念がっていた。


ホンマ製のスポーツカーに乗っているミアは勿論、亮も車好きだ。

亮はトヨダ自動車製のスーパーカーで、もう入手不可能な5000ccの二人乗りスポーツカーを所有している。販売は終わっておりプレミアが付いて現在では1億円でも手に入れるのは難しいと言われている車だ。


ミアが亮を見て尋ねた。

「亮は自動車会社作らないの?F1とか出れば良いのに」

「自動車会社?製造って事?それなら日本の法律で車を製造する会社は認可されないから無理だね」

「法律でダメなの?」

「そう。自動車製造事業法ってのがあってホンマがギリギリで最後の自動車メーカーになれた。それ以降で新規のメーカーは許可されないんだ」

「詳しいのね・・・もしかしたら考えた事あったの?」

「自分の理想の車を作ってみたくてね、色々考えた事は有ったんだ。例えば小さな工場を日本じゃなく海外で車を作って逆輸入しようか、とか」

「やればいいじゃない!亮なら大丈夫よ!」

ミアは亮の肩を叩いた。

「コストの面で無理だよ・・・1台でも億超えちゃうもん」

そう言って笑った。


ところが淳が突然口を出した。

「それなら既存の自動車会社を買収するとかだったら?例えば日興自動車なんか」

亮は驚き、不意を突かれた顔を見せた。


日興自動車は大戦前の日本コンツェルンのグループ会社であった。

アメリカの車を日本でライセンス生産する為に設計図を購入したり、戦争中はイギリスの会社と技術提携をしたりして技術を高めた。

そのお陰で技術力に高い定評はあったが、マーケティングが下手でトヨダには遅れをとり、後発のホンマにも抜かれ、バブル景気の終焉と共に経営危機び陥り、フランスのノーブル自動車の資本提携を受け入れ、株式の半数近くを握られる。

その後、安全面における設計上のミスを隠蔽し経営危機に陥った四葉自動車の株式も経産省主導で取得し傘下に加えたがノーブルから派遣された社長が背任行為で逮捕され、これをきっかけに日興が独立に向けて動きだした。

日興はノーブルの資本を受けて完全に立ち直り今ではノーブルの稼ぎ頭にまでになっていたからだ。

とこらが、筆頭株主であるノーブル自動車はフランス国営企業であり、フランス政府は日興をフランス企業にしたいと考えて動いていて、日本政府は日興を渡すまいと対抗しているのが現在の状況であり、経産省と財務省に良いプレゼンをすれば国策として超大型融資を受けて日興の株式を入手できると淳は考えたのだ。

亮も一瞬で淳の考えを読み取り理解したのだが、自分の盲点を突かれた様な感覚になり驚いてしまったのだ。


「そうだな・・・ノーチャンスじゃないよな」

そう言って亮は淳に微笑んだ。



「F1は?プライベーターのチームを作って参入するとか」

ミアはたたみかける様に亮を嗾ける。淳も興味深く聞いている。

亮の答えはNOだった。

「本音を言えばやってみたいけど、今のオレには無理だ。」

「WHY?何故?」

「コストだよ。今シーズン、トップのメルソデスの年間予算って知ってる?600億だよ!

一番下のウィルアンズでさえ160億。今の俺には夢だよ」

すると淳が亮に質問した。

「でもブランドイメージは高くなるでしょ?海外事業の売上は伸びると思うけど?」

亮が少し驚いた顔で淳を見て

「淳の言う事はもっともだが、実は想像より実益は少ない。

レースに勝ったから車が売れるという時代はもう過ぎたたんだ。

以前、F1のタイヤを独占供給していた日本のブリギストンタイヤを見れば良く分かる。徐々にレースから撤退しつつあるからな。思ったほど効果は無いんだ。」


亮は過去に参入を考えていた事があると淳は思った。細かい事情をよく知っている。

その亮がダメだと言っているのだから無理なのだろうと、ミアも淳も思ってそれ以上の事は言わなかった。

だが、淳はノーブル自動車がアンフュニという日興自動車の持つ海外ブランド名でF1のプライベーターにエンジンを供給している事を知っている。

技術も日興の物がふんだんに盛り込まれている事は明白だ。


『日興を落とせば、亮兄の野望は現実にグっと近づくぜ』

言葉には出さなかったが考えは表情に出た。

それを亮は黙って見ながら

『こいつは本当に色々と考えさせてくれる』

と思った。

『今の学校を中退して自分の会社に入社させたい!』

とも思ったが、絶対にミアは許さないだろうな、と思いニヤニヤしてしまった。






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