お風呂
淳は風呂の浸かりながら、色々な事に考えを巡らせていた。
内出血して紫になったわき腹を見て、なぜ意味も無く暴力に訴えるのか、という事もそうだ。
根本的に対象があるから暴力を振るえるのだ。対象となる人間の物理的距離が離れていれば殴れないし蹴れない。
つまり暴力は人と人との距離が近い場合に限定される。
ならば、暴力の防止には人間の距離を離せば起きないのだ。
『校内でイジメが多発するなら、個別オンライン授業が解決策になるかもしれないな・・・』
群れるからトラブルになるのだ。世界に人間が一人しか存在しないなら争いは起きない。
そう考えると動物の縄張りというのは、同種族の争いを避けるのには理屈に合ってると思った。
複数の人間がいるなら、争いを避ける為に縄張りを設けて他者との接近を防止すれば良い。
その為の個別オンライン授業だ。
ただ、そうなると若い時に人間関係の基礎を学び社会的な常識やルールを肌で感じ覚えさせる事は難しい。
自分もそれが目的で再度学生をしているのだ。
『やはり何処かの段階で集団生活を経験しなくてはならないんだろうな・・・』
集団を統率するのは規則でなくては成らない。その為に法律があり刑法があるのだ。
今回の一件は社会的なルール違反である暴力が原因だ。
集団の中でルールに違反した場合は隔離し罰を与え再犯防止の措置を取るのが現代社会だが、
今回は排除措置だった。本来は周囲に対する警告の意味が強いのだが、今回は学校というコミュニティに属する個人の将来を保護するといった意味の方が大きいと思った。
勿論それは学校本来の意味である人材育成において、個人の切り捨ては矛盾と取れない事も無いが、集団の利益を尊重したと言う事であろう。
それにしても璃子の判断は速かった。
トラブル処理は時間が少なければよりベターなのは事実だが、判断するには様々なリスクを背負わなくてはならない。
『亮兄より速かったかもな・・・』
経営者としての資質なのか、それとも別の理由なのか、自分が判断するには情報が少なすぎた。
『璃子はどんな風に自分の将来を決めたのだろう?その要因は何だったんだろう?』
興味が湧いた。
『璃子は父親より祖父に影響されたのではないか?』
最後に四葉龍造を見た印象が大きかったのかも知れない。
日本の財界・政界に大きな影響力を持つ人間だ。国の未来にまで関わっているのだろう。
利益を目的とする会社組織は従業員の生活を保証する責任もある。
まして何万人の従業員を従える組織の頂点だ。
あの圧倒的な存在感は、長い時間その重圧に耐えて来た人間だけが持つ物かも知れない。
その人間の傍で育ってきた人間だと考えると、璃子の判断の速さを何となく納得できる。
なら、その龍造はどうして今の巨大組織の頂点に立つ様になったのか?
自分には想像も出来ない。
そういえば、先日姉から言われた戦闘機に関する一件もテレビのニュースだと政府が四葉重工と契約する確率が高いと言っていた。
国家が持つ最先端科学技術の結晶が主力戦闘機である一面を考えると、四葉重工は日本でトップの科学技術を持っているのだろう。
『四葉という集団は凄いんだな・・・』
企業が大きくなれば、企業イメージのアピールが目的でスポーツ事業に乗り出す場合も多いが、四葉は何かやっているのだろうか?
兄はプロ野球とサッカーチームのオーナーであるが、四葉は目にした事が無い。
そういえば、先日兄に提案した事はどうなんだろう。
結局は兄が決める事だが、長期的な強さを持つチームを作るには根本的な編成部の改革が必要だと結論づけた。
『俺なら、強いチームの編成部の人間を高額でヘッドハントするけどな・・・』
その立場にいる人間の給料の相場は調べなかったが、現状の給料の4倍程度を最初から提示すれば引き留める側も諦めるだろうと思ったからだ。
人材の引き抜きは、抜く側と抜かれる側のパワーバランスで決まると思っている。
どちらも必要度合いは同じだからだ。
そこに人情やシガラミ、環境や状況というファクターが絡んでくる。
ただ提示金額は自分の評価と同じ意味であるプロの世界であれば、金額によってより簡単に話の決着は着くと思っている。あとは育成スタッフを含む育成環境だ。
科学を根拠とした正しいトレーニングをして必要な能力を向上させれば良い。
試合前に対戦相手のデーターを分析するスカウティング部門や、相手を攻略する手段を立案する懇篤やコーチ陣は一番最後で良い。
『亮兄のチームが強くなるといいな・・・』
淳は湯舟に浸かっている時が一番リラックスできる。
取り留めの無い事をずっと考えていられるからだ。
誰かに強制されて考えるのではない。自分では自分の好きな事に意識を集中できるせいだと思っている。
だから淳が風呂に入っている時間は割と長い。
「ジューン!そろそろ私もお風呂入りたいんだけど、一緒でかまわないー?」
慧姉だ。
「待って、今出るから!」
淳は大急ぎで湯舟から出た。




