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栄光なんて必要ない  作者: Izumi
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帰国

「人生において重要なのは生きる事であって、生きた結果ではない」ゲーテ



様々な人種でごったがえす成田空港の海外線到着ロビーで、その男子は軽く手を上げて迎えに来た相手に応えた。

日本の街中では少し目立つかもしれない細身の長身で、顔が小さく髪が銀色。目は緑がかった青色。

大抵の人間が何処かの国のファッションモデルだと思うだろう。


「おかえりなさい。ご苦労さまだったわ」

その男子にハグをしながらブロンドの白人女性が言った。

「ただいま!ママ。わざわざ迎えに来てくれてありがとう」

満面の笑みを浮かべている母親も長身だった。

見ると確かに似ている。親子だと言われると納得はするが、女性は母親という年齢には見えなかった為に二人は年の離れたカップルと勘違いする人間がいるかもしれない。


「さぁ、帰りましょう。家にはご馳走が待っているわ」

二人は腕を組んで歩き始めた。


母親の名前は MIA-KUNIMIクニミミア

ニューヨーク生まれのアメリカ人だったが、結婚して苗字がキングから国見に変わった。

結婚前はコロンビア大学に通いながらモデルをしていたが、同い年の日本人科学者である国見アキラと恋愛結婚した。

卒業後にモデルを廃業し日本で生活している。


父親の国見旭クニミアキラは量子物理学の世界的科学者で世界初の量子コンピュターを制作したグループのリーダーだ。若い頃から天才と呼ばれ30歳で基礎理論を構築し日本の最先端科学技術研究所で極秘の内に完成させた。現在はナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の主席研究員で世界的な名声を誇る。


ミアは車で来ていた。

カーマニアであるミアのお気に入りでホンマ自動車製の白い二人乗りハイブリッド4WDスポーツカーだ。

3500CCのエンジンと2つの電気モーターの組み合わせで、公道で走るなら世界でも最速の一台だ。

「この車で来たの?」

「そうよ、速いし燃費良いしカッコ良いし最高でしょ?内装はちょっとチープだけど」


だが東京の道路は相変わらずの渋滞で、暇潰しにテレビをつけて見ると、ワイドショーで女性議員の記者会見が中継されていた。

モデルの様な容姿で白いセットアップされたスーツに身を包み、穏やかな表情で記者の質問に答えている。


「元気そうだね」

「元気は元気なんだけど、とにかく忙しいみたい。」

ミアが笑いながら答えた。


中継されていたのは姉だ。

国見慧クニミケイは国会議員で20代という年齢でありながら現在は防衛大臣に就任している。

帝国大在学中に書いた国際情勢についての論文が与党幹部の目にとまりスカウトされた。

成績が主席だった事を幹事長が知り、熱烈に入党を薦められ本人が折れた形だ。

将来の日本初の女性総理大臣の候補の一人であり地元選挙区では圧倒的な人気を誇る。、国民の間でも主婦層と若年層で特に支持が高い。

政治記者からは保守本流の中核という位置づけで見られ、国際情勢にも明るい。

国見アキラの娘という事も人気の一因だが、アメリカ人とのハーフという理由で高齢層になると不支持者が多い。


姉の元気そうな姿を見て

「兄貴は?相変わらず?」

「元気よ。でも前より貫禄が付いたというか、ボスって雰囲気になったわ」


国見亮クニミリョウは慧の双子の弟だ。一卵性であり非常に珍しいケースだ。

高校在学中からインターネットで起業し、独自のポイント制を考案し一気に業界のトップ層に食い込んだ。今ではそこから派生した金融業をメインに投資会社・証券取引・ネット銀行・保険・携帯電話会社・野球とサッカー球団・貿易・テレビ局・・あらゆる業種に食い込み現代ビジネスの寵児と言われている。

個人資産は日本でもトップ級でマスコミにも取り上げられる事が多い。

ただ超大金持ちだが、未だに実家で親と共に婚約者と共に暮らしている。

婚約者は元女子アナウンサーで人気だった藤堂綾子トウドウアヤコ

帝国大法学部出身であらゆる一流企業に求められながらアナウンサーになった異色の経歴を持っている。

その容姿からアイドル扱いされ大人気だったが、婚約を発表しあっさり退社した。


「アヤちゃんがね、アナタがどんな風になって帰ってくるか楽しみだって言ってたわ」

「たった2年でそんなに変わらないよ」

「あら、変わるわよ。実際に背だって伸びたじゃない?それに少しだけ男らしくなったわ」

「思い過ごしだよ。外側は少し変わったかも知れないけど、好きな物も嫌いな物も変わってない」


この男の子の名前は国見淳クニミジュン

15歳で今年高校生になる年齢だが、5歳の時にIQテストで驚異的な結果を出し文科省から飛び級を認められ、13歳で帝国大学法学部を卒業しハーバート大学に入学、そして卒業し今日帰国したのだ。

アメリカでも日本でも人類最高の天才と言われ、どんな進路も可能だったが法律への興味が薄れ今後の将来を考える為に帰ってきた。

アメリカでは誰もジュンの事を日本人だと思っていなかった。

15歳ながら身長は180㎝近くあるし、肌は白く髪は銀色、目はグリーン、話す英語も違和感が無い。

北欧系の人間だと思われていた様だ。

母親のミアがアメリカとスウェーデンのハーフで兄弟ではジュンが一番ミアの血を濃く受け継いでいるせいだ。


もうすぐ秋が始まる季節だが、東京は相変わらず蒸し暑い。

それでもジュンは帰って来た事で何とも言えない安心感の様な物を感じていた。


「今日はみんな揃うわよ。家族全員での夕食は2年振りだから皆楽しみにしてるわ」



ようやく道が走り易くなってきた。

車は南麻布の実家に向かってスピードを上げた。






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