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駅を出て一月四日午前九時とまどう牛の綱手かなしも
駅を出て一月四日午前九時とまどう牛の綱手かなしも
一月四日は仕事始めの企業もあるが、まだ町の人はまばらだ。三箇日より人通りは少ないかも知れない。駅前に綱で引かれる牛がいれば、平時ならば戸惑う人も多かろうが、四日の朝であれば大きな騒ぎにはならないだろう。戸惑っているのは、売られてゆく牛だけである。
一月四日は正月休みと通常営業の境界、駅はプライベートとビジネスの境界。そこに広がる、どこか非現実的な光景。
牛としての気楽な生活から、肉となる非情な未来へ引かれて行く姿は、彼岸と此岸を直截に暗示している。その様に暗い愉びを覚える歌の主人公もまた、労働者として売られてゆく最中にある。