第6話 クラスLINE
昼休みになると、クラスの男子の大半は学食へと走り出す。
教室に残ってるのは女子がほとんどで、弁当を持ち合わせ机をくっつけていた。
「ねえねえB組のあの人かっこよくない?」
「あいつまじうざいわ」
などなど、女子たちの愚痴やら恋愛話やらが耳に入ってくる。
なかには同じクラスの男子への悪口なんかも聞こえてくるため、いつ僕の悪口が言われるのか気が気ではないが、悪口言われるほど関わっていないので心配はいらないなと自己完結した。ぼっちは最強である。
まだ教室には僕を含めて三人の男子がいるけれど……気にしてないところを見るに、まあそういうことだ。
僕はいないも同然の存在で、みんなの青春にとって重要な人物ではない。
そのことが嬉しくて、今日も教室の隅っこで、自作の弁当をノリノリで食べる僕だった。
ちなみに中身はハンバーグにから揚げに卵焼き、タコさんウインナーで、まさしく男なら誰でも大好きな食べ物のオンパレードである。
そしてデザートとしてこの世で一番大好きないちご付き。愛してると言ってもいい。
果肉を噛んだ瞬間の酸味とそのあとにやってくる甘みが、たまらない。
あ、いちごはひらがな表記しか認めないのでよろしくな。
「ねえねえ」
とんとん、と僕の机を叩く人差し指が視界の端にうつった。
おいおい、僕の至高の時間を邪魔するやつは誰だああん? と顔を持ち上げれば、そこにいたのはクラスの女子学級委員だった。
「え、と……」
まさかすぎる人物だったため(というか誰だったとしてもまさかではあるけれど)、うまく声が出ない。
学級委員がなんの用だ? 僕がなんが悪いことしただろうか?
「倉持、くん……だっけ?」
「あ、はい」
わざわざ僕の名前を覚えてるなんて。あれ、クラスメイトの名前って覚えてるもんだっけ?
僕は名前出てこないが。
うーん、と僕は彼女の名前をなんとかひねり出そうとする。
「あ、私は朝宮佳央。学級委員してるのは、さすがに分かるよね?」
まるで僕の心を読んだかのように名前を告げる。
これが学級委員の力か。
最近のネット小説でよく見る心が読める系ヒロインか。
「よろしくね」
朝宮はそのまま右手を差し出してきた。
出た出た。挨拶で握手交わそうとするやつ。
カースト上位の陽キャのよくやる挨拶だが、女子に握手求められたらそこらの男子は勘違いしちゃうぜ。
僕だからよかったものの、ぜひ注意していただきたい。
ついでに、握手の上位互換はハグやらキスがあるが、海外の方々は日常的にやるらしい。
つまり必然的に外国人は陽キャである。
あれこの理論だと日本人は世界カースト下位層だわ。
HAHA、まだまだ日本の学生は甘いなあ、と評論家ぶりながら、
「よろしく……」
と苦笑いを浮かべながら僕は右手で頭の後ろを掻いた。
ささやかな反抗心である。ぼっちは陽キャに屈しない。
それに対し朝宮はニコッと笑い右手を下ろした。え、なにその反応逆に怖い。
黒髪ショートスタイルの朝宮は、清楚系の雰囲気を醸し出しているけど、その笑顔に僕は恐怖を覚えたのだった。
「クラスのLINEグループに入ってほしいんだけど」
ところで何しに来たんだと、目で訴えれば、それが伝わったのか朝宮は本題に入った。
僕をLINEのグループに招待しようというのだ。
「ほら、この前、親睦会あったでしょ? その時にみんなでLINEを交換してグループ作ったんだけど、会に参加しなかった人もいたから、今そのひとたちにお願いしに回ってるの」
言って朝宮は僕以外に教室に残っていた男子を含め何人か見遣る。
視線をそちらに移せば、男子二人はひとりでスマホを見つめなんかニヤニヤしていた。
グループに入る前に朝宮のLINEを手に入れたからだろう。普通に気持ち悪い。
陽キャに屈した姿だった。
「あとは倉持くんを入れれば、全員揃うってわけ」
目の前にLINEのQRコードが差し出された。
……ぶっちゃけ嫌だなあ。
ぼっちとかそういうのは置いておいて、クラスLINEって絶対どうでもいいことで盛り上がるんだよな。
連絡事項だけを淡々と送ってくれれば別にいいんだけど、そのあとに変にウケを狙った返信をするやつがいて、それに反応するやつがいて、どんどん話が逸れていって最終的に遊びの約束までしちゃうし、陽キャたちに私物化されるんだ、どうせ。
通知溜まるこっちの身にもなれ。
「ちょっとスマホの充電切れてて……」
とりあえず定番の断り方をする僕。
もちろん嘘だ。
「あ、さっきスマホ触ってたみたいだけど、ちょうど切れちゃったんだ?」
「…………………………」
いやこええよ。
思わず背筋が震え上がる。
僕はいつから見られていたんだろう。
相変わらず爽やかに微笑む朝宮に、どうしようか悩んでいると……。
「あのお、すいませーん!」
教室の入口から誰かが訪ねてきた。
朝宮はそっちを振り向く。
「ふう」
僕と朝宮の間に不穏な空気が流れそうだったので、胸を撫でおろした。
助かっ――
「倉持せんぱいいますかあ?」
……。
分かりきってはいるが、僕も扉の方を見る。
金色の髪をさらりと揺らし、彼女はひょこっと顔を出していた。
「あ、いたいた」
来たのはもちろん、南咲良ちゃんです。