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第4話 体育

 ――タンッ! コンコン、タァン! コンコン。


 僕は卓球台を往復するピンポン玉をぼーっと目で追っていた。

 体育の授業である。


 二年生になり最初の体育ということで、周りが心なしか一層賑やかな気がする。

 卓球とバドミントンの選択式で、体育館の奥の方ではバドミントンが行われていた。

 最初ということもあり、二種目の行き来は自由、ルールも各自で任されており、各々のやり方で楽しんでいた。


「ひっさーつ! カット戦ぽ――って、あれえ⁉」

「どこ飛ばしてんだー?」

「頑張って――!」

 

 体育は他クラスと合同で行われている。

 僕の所属する二年A組は、B組との合同だった。

 僕は始め、B組の暇してる(ぼっち)と無言でのそろのそろとラリーをしていたのだが……。


「カット難しいんだけど――⁉」

「どうせそれ昨日のテレビでやってたやつだろ」

「あ、それ俺も見たっしょ!」

「そう! これ極めれば一生負けねえぜ?」

「いや、それは盛りすぎ」

「かかってこい、すべて受け流してやる!」


 今や陽キャたちの巣窟となっていた。


 やめてくれよ、卓球はぼっち陰キャの居場所なんだからよ。

 とは思ったものの、まあ言えませんよね。


 陽キャグループの中心にいるのは我らがA組学級委員のイケメン君で、他クラスでもよほど人気があるのかB組のイケイケなやつらまでついてきてるし、その男子たちを見るために女子たちも集まってくるしで、もうもはやなんの合コン? 学校で玉転がししてはいけません。

 

 ちなみに一緒にラリーやってたぼっち君は、陽キャたちが来るや否や「ぁ……なんかおなか痛いな……」とか誰に言ってんのか分からない声で呟き、それから帰ってきていない。

 あれが歴戦のぼっちの手腕なんだと尊敬の念を覚えた僕だった。


 というわけで、目玉を左右に振るだけのロボットになってる僕。


 ならバドミントンやれば、と思うかもしれないが、あっちはあっちでスクールカースト中間層のやつらが集合し、中間層のなかの上位のやつらが騒いでいるので、僕の居場所は体育館の隅っこってわけだ。

 つまり今外れにいる人たちは、学内でもそういう立ち位置にいるわけで……と。


 数人しかいないその中に、彼女の姿を見る。


 人工めいた艶やかな黒の短髪に、遠目からでもわかるほどの整った顔立ち。

 綾瀬葵愛も、壁際に立っていた。


 ……なんだ、あいつもぼっちか。


 あれだけの美少女、友達の一人や二人いるもんだと思ってたが。

 よほど嫌われているのか、雰囲気的に近づけないのか。まあ両方かもしれないけど。


 綾瀬は目を伏せ儚さを感じさせるような表情をしている。

 あんな顔するやつがキツイ言葉を使うなんて考えられないけど……見た目じゃ内面は分からないってことだ。

 

 クラスの様子を見てきた感じ、綾瀬は喋る人ではないようだったし、委員会で一緒だからといっても僕が関わらなければ問題なさそうだな。


 なんて考えていると、ころころとピンポン玉が転がってきた。

 足元にきたそれを拾い上げ、落とし主を探すと、金髪ポニーテールの女子がこっちに近づいてくる。


 よく見ると、いつもイケメン君グループにいる女子だった。

 名前は……蜂谷はちや? だったか。

 普段は髪を下ろしてるから気づかなかった。結び上げているのは体育だからか。


「あ、どうぞ」

「……フン」


 蜂谷は鼻をならし、僕の手のひらにあった玉をぶんどり戻っていく。


聖也せいや~! あたしとダブルスしよお~!」


 なんて甘えた声を上げながら。

 あからさまに見下されてたな……。

 なんというか、ああいう女子ってカーストを重視しそうだし、僕みたいなぼっちはゴミとしか思ってないんだろう。

 そういう顔だったし。


 まあ全然いいんだけど。群がれるよりよっぽどマシだ。


 思考が中学時代に飛びかけたが、置いておいて。

 金髪を見たからか、昨日出会った彼女が思い浮かぶ。


 南咲良。

 蜂谷よりも明るい金髪の彼女とLINEを交換し、早速夜LINEが送られてきたのだった。


 妹――柚希ちゃんの良いところなんかが(写真付きで)送られてきたが、あれだ……妹の好きな色と一緒にその色の下着の写真が送られてきたのにはさすがにビビった。

 妹思いのお姉ちゃんなんだな……と一瞬感心した僕の気持ちを返してほしい。やっぱりバカだ。

 柚希ちゃんが可哀そうだった。でも、赤色が好きなのはいいと思います。


 『柚希が恥ずかしがってるので先輩から連絡してください♡』とメッセージが来たのを最後にやり取りは終わっている。

 さすがにそれはしたくないので既読無視した。


 どうにか安寧としたぼっち生活を送らねば。


 授業終わりのチャイムを聞きながら僕は思うのだった。


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