第27話 ぼっちvs陽キャ②
負けたい。
そのために僕は、利き手と反対の手で試合に臨む。
大勢に見られているこの状況……露骨に手を抜くことは不可能だからだった。
これまでの高校生活でなんとかぼっちに紛れてきた僕でも、周りの全員に違和感のないように手を抜くことなんてできない。
だから、左手で全力でプレーすることにしたのだ。
まあ右手なら勝てるという自信があるわけではないけれど、念には念をというやつだ。
相手の男鹿さんは確か運動部に所属しているはずなので(何部かまでは知らない)、運動神経は高いだろう。
左手で挑めばさすがに負けるに違いない。
そういえば、と思う。
全力でスポーツをするなんて、中学三年生振りじゃないだろうか?
トラウマが蘇りそうでここから逃げたい気持ちに駆られるけれど、耐えよう。
逃げる方が目立つ。
しかも卓球といえば、コートスポーツの一種である。
ほかにテニスやバスケ、バレーなんかもあるが、これらの種目は左右へのステップ——反復横跳びのような動作——が重要で、中学の頃はそれを身に着けるために努力したものだった。
懐かしい。
全力で、なんて言ってるけれど、過去の僕から見られたら笑われるだろうな。
この一瞬で感情が複雑に混ざり合いながら、僕は。
「……いきます」
利き手でトスを上げた。
「——チッ、運がいいヤツめ」
台の角に当たるエッジボールで、たまたま得点。
1-0。
「ネットに助けられたなあ?」
男鹿さんのレシーブがネットを超えず。
2-0。
「ちょっと男鹿、しっかりしなさいよ~」
「わあってるよ!」
よく一緒のグループにいる金髪ロングの蜂谷(体育なので今はポニーテールだけど)に茶化され、男鹿さんは声を荒げた。
サーブ権交代。
「そろそろあったまってきたゼ」
ぐるぐると肩を回して「おらァ!」と勢いよくサーブを打ってくる。
しかしあくまでもサーブ。僕は余裕を持って返す。
「——うおっ、クソ、届かねえ」
「…………」
二本目のラリーで、運よく男鹿さんのバックに出て得点。
3-0。
「——ちっくしょ、上手く返せねえ」
「…………」
4-0。
「そ、そろそろ本気でいくゼ」
「…………」
5-0。
「男鹿ー! 負けちゃうっしょー!」
「ち、ちげえ! 手ェ抜いてただけだ! 一点も取れないで終わるのは可哀そうだと思ってよ!」
「…………」
6-0。
まずい。
「お、男鹿ぁ……」
「だ、黙ってろ」
7-0。
まずいまずいまずいまずい!
「……なんか負けそうじゃない?」「まだ一点も取れてないけど大丈夫?」「あの陰キャつよ」
この点差にギャラリーがざわめきだした。
おかしい。
僕が圧倒してしまっている。
そんなわけあるか? それとも男鹿さんはほんとに手加減してるのか?
そんなふうには見えないけれど……。
「が、がんばれ倉田くーん! デュフ!」
「リリキュアが君を見ているぞー!」
後ろからそんな応援がはっきりと聞こえてくる。
お前らは自分たちの風向きがよくなったらイキり出すのやめろ。
なんかこっちまで恥ずかしくなるだろ。
あと僕は倉持だ。
それより、このままだと勝っちゃうぞ……。
しかも完封できそうな気がするのが余計にまずい。
どうする……。
「そろそろガチでマジでいく」
本気になるの何回目だよ。
さっさとやってくれよ男鹿さん。
僕が応援しちゃうまであるよ。
「オラー!」
8-0。
なんというか、スマッシュとか打たれても目でも身体でも追えちゃうんだよな……。
もしかして、男鹿さんってあんまり卓球得意じゃない?
「あの人強くない……?」「逆に男鹿は……」「なんか見てられないんだけど……」
「チッ、お前経験者だったのかよ……」
言って、あごに垂れた汗をぬぐう男鹿さん。
やめて、そのチンピラみたいなセリフはやめて!
さすがに、これ以上はまずい。
もうこの時点で目立っている感は否めないけれど……まだ巻き返せるはずだ。
これじゃ試合に勝っても勝負に負けちゃう。
仕方ない、ちょっとリスクはあるけれど、やるしかないか……。
若干戦意が喪失しつつある男鹿さんに、僕はサーブを打つ。
「オラ!」
そんな叫びと一緒にボールが返ってくる。
まず、僕はそれを……わざとネットに引っ掛けた。
「よっしゃぁぁぁあああああ!!!」
男鹿さんは両手でガッツポーズをして雄たけびをあげる。
周囲の反応はちょっと冷めているけれど、それを尻目に、次に僕は両膝に手をついた。
「ハアハアハアハアハアハア……」
全力で、肩で呼吸してみせる。
タイミングよく(冷や)汗をかいているので、それっぽく見えるだろう。
「んだ? 疲れてきたのかァ? ハッ!」
そんな僕を見て、男鹿さんは勢いよく嗤う。
よかった、戦意復活したみたいだ。
その後……。
「っしゃー! オレの勝ちだ! あんま運動部の体力舐めんじゃねえぞ」
疲れ切った振りをしつつ、わざとネットに引っ掛けたりラケットをすかしたりして点数を取られまくり、
8-10。
なんとか、負けることができた。
「……っぶな」
思わずそんな声が漏れてしまう。
「なんだよ男鹿! 手加減しすぎっしょ!」
「相手の体力を地の底まで削る作戦だったんだな」
「それは盛りすぎだが、まあ、そういうこった」
陽キャたちは一勝目を喜んでいた。
ギャラリーも「まあ負けるわけないよな」みたいな雰囲気で一息ついている。
よかった。なんとか切り抜けられたみたいだ。
「……ごめん、負けちゃった」
「……ま、まあしかたない、と、思います、デュフ……」
「……き、きっとリリキュアが励ましてくれます、です……」
僕が言えば、二人は聞き取りにくい小さな声で応えた。
二人には申し訳ないけど、僕は元々卓球は辞退するつもりだったのだ。
勝ち取りたいのなら二人で勝利を掴み取ってもらいたい。
そんな思いで、次の試合を見守った。
結果は0-10。
完敗だった。
「……やっぱリア充には勝てないね~デュフ……」
「……抗おうとしたのが間違いだったね~はやくリリキュアに会お……」
「…………」
こうして陽キャ三人が卓球のメンバーになり、僕たちぼっちーズは空いてる種目に適当に割り当てられたのだった。




