第20話 彼女の夢は誰かを映す④
「私は、ちっちゃいころから人と話すのが苦手でした。
あ、もともとは好きだったと思うんですけど……、勇気が出なくて。
幼稚園でも、小学校でも、誰かに話しかけることがなかなかできなくて、いつも一人だったんです。
一緒のクラスになる人たちはみんな、元気いっぱいで仲が良かったので、疎外感を感じる毎日でした。
それを感じれば感じるほど、みんなと仲良くなれる気がどんどんしなくなって……。
それがきっと顔に出ていたのだと思います。
いつからか、周りから気味悪がられるようになって、明確に距離を置かれるようになりました。
あ、いや! みんなが悪いだとか、責めているわけじゃ、ないです。
誰にも話しかけられない自分が悪いので……。仲良くなれない自分がダメダメなので。
あ、こういうこと言うと、いつもお姉ちゃんに怒られるので、お姉ちゃんには内緒にしてください。
そんな、ひとりだった私を気にかけてくれたのが、そう、お姉ちゃんでした。
教室も階も違うのに、休み時間とか、なにもない時間は私のところに来てくれました。
たしか……私が小学三年生になったあたりだと思います。
私のことについて、何か勘づいたんだと思います。
お姉ちゃんと一緒にいるときは、そんな素振り見せていなかったつもりだったんですけど……。
お姉ちゃんは私がみんなと仲良くなれるように、いろんな人に話しかけてくれました。
グイグイ行き過ぎて、逆に引かれてましたけどね。高校ではどうなんでしょうか?
お姉ちゃんのおかげで、引っ込み思案な性格はマシになったと思うんですけど、中学校でもまだ友達がいなくて……。
つまり、お姉ちゃんが積極的な感じなのは、多分私のせいなんです。
あ、で、でも私、倉持さんとはなぜか話せてますねっ! 不思議です……。
あ、前置きが長くなってしまいましたね。
それで本題なんですけど……お姉ちゃんには夢がありました。
料理人になって、お父さんたちの跡を継ぐことです。
私たちは小さいころから、美味しい料理をお客さんに届けている姿を見てきましたから、それで憧れたんだと思います。
最初に言い出したのは八年くらい前らしいです。お父さんたちは喜んでいたとも聞きました。
お姉ちゃんに、料理のあれこれを訊かれるたびに、嬉しそうに教えていたんです。
私と部屋で遊んでるときもよく料理人の話をしてくれました。
でも……。
お姉ちゃん、なかなか上手にならなくて……。
実は、目玉焼きもうまくできなくて……。
だからか、次第にお父さんもお母さんも諦めるように諭すようになりました。
お姉ちゃんが教えてほしいと言っても、忙しいとか違うことに挑戦してみるのもいいとか、そう言うようになったんです。
それで今では、家で料理人の話は一切することがなくなりました。私にもです。
倉持さんがうちに来たときは、家族はあんな感じでしたけど、去年とか、お姉ちゃんとお母さんものすごい喧嘩をしたんですよ。
まあ、そういう話をしなくなったので、最近は仲もいい感じみたいですけど。
だから多分、お姉ちゃん諦めちゃったんだと思います……。
料理人になることを。
なので、私はそれをなんとかしたくて……。
今までお姉ちゃんにいろいろ面倒かけたので、恩返しがしたいんです。
お姉ちゃんにとって、余計なお世話かもしれないんですけど……。
それでも私には、楽しそうに夢を語るお姉ちゃんが忘れられません。
だからお願いです倉持さん。
お姉ちゃんを助けてほしいんです。
倉持さん、お姉ちゃんとすごく仲良さそうなので……。
どうか、お願いします」
言い終えて、柚希ちゃんは息を吐き出す。
やり切ったような表情だった。
はからずも、姉妹の背景を聞いてしまった……。胸の奥がざわざわするのを感じる。
なるほどたしかに、自分は夢を諦めて妹のために行動している南は、なんというか、お人好しなやつだろう。
仲が良いは語弊があるけどな。勝手に構ってくるだけだ。
まあ、あれだな、南も南だけれど、柚希ちゃんも柚希ちゃんだ。
デートの締めに、姉を助けてほしいだなんて。
僕は思わず苦笑してしまった。
「あっ! すみません、急になんだって話ですよね、すみません……」
「ん~まあ……」
「ごめんなさい、今のは忘れてください。そ、そろそろ帰らないとですね!」
「——いや」
夢。
夢かあ……。
「——考えてみるよ」
気づけばそう答えていた。
「えっ……あ、ありがとうございます!」
柚希ちゃんは目を見開く。
どうして二人とも、過去を思い出させることを言うんだろうか。
というか、あまりにも僕を買いかぶりすぎだ。
二人から見たら、僕なんてただの地味な先輩じゃないか。
柚希ちゃんと別れ、帰路につく。
まったく、二年生になってから、周囲に巻き込まれてばかりだ。
ぼっちになりたくてこの高校に来たんだけどな……。
まあまずは、そうだな。
柚希ちゃんと違って、可愛くもなんともない妹にでも相談しよう。
胸のなかでたくさんの感情が混ざり合うのを感じながら、僕は歩みを進めたのだった。




