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第19話 彼女の夢は誰かを映す③

 デート。

 思い返せば、自分の十七年にも満たない人生において、女子とデートをした記憶がない。


 つまりは今日が初めてである。


「お兄ちゃん、ちゃんとエスカレーターするんだよ!」

「それを言うならエスコートな。……え、なに、大人の階段上れよっていう比喩?」


 昨日の帰り際に言われた、「柚希とデートしてください」という南のお願い。

 最初はもちろん断ろうとしたけれど、できなかった。

 だって南ママの前で娘さんの頼みを断るなんてできないんだもん。卑怯だぜ。


 もしかしたら南ママも協力者だったかもしれない。

 いや、あの人が考案者の可能性すらある。

 とんだ策士め。


「んじゃ、行ってくるわ……」

「いってら~!」


 優加理に告げ、家を出る。

 ちなみに優加理は今日、南と遊ぶらしい。

 家にひとりにさせるのも気が引けるので助かるのだが……。

 妹の誰とでも仲良くできる力には、驚かされる。

 感心を通り越して呆れるレベルだ。


 それにしても。

 僕はもちろん乗り気ではない。

 二年生になってからこの方、ぼっちのあり方がおかしくなっている気がする。

 いや、気のせいだ。

 ぼっちだって女子中学生とデートするはずだきっと。うん。


 とはいえ、女子中学生と男子高校生。

 周りからロリコンに見られないといいなあ。

 しかも柚希ちゃんは中学一年生らしい。

 せめて妹に見間違えてほしいけど、優加理ですらカノジョだと思われるんだから無理だろう。

 

 いちおう、顔を隠せるように帽子をかぶってきたが、どうなることやら……。



 


「あっ……」

「あ、こ、こんにちは!」


 待ち合わせである公園に着くと、すでに柚希ちゃんはいた。

 これでも十五分前に着いたんだけど、彼女はどれくらい待っていたのか。


「ごめん待った?」

「い、いえ! 全然! わざわざ、こんな私のために、ありがとうございます……」


 ぶんぶん手を振る柚希ちゃんに、僕は苦笑する。


 柚希ちゃんは白のワンピースに麦わら帽子の格好をしていた。

 太陽の光で、ワンピースがキラキラ輝いている。

 

「………似合ってるね」

「あ、あう、ありが……ごにょごにょ」


 柚希ちゃんは耳を赤くして顔を伏せる。

 まさか暑さにやられたわけではあるまい。

 

 こんな清純な女の子に好かれるなんて、とても心苦しい思いだ。


 どうか彼女のためにも、このデートは——




 

 まずはじめに向かったのは映画館だった。

「ひ、ひとおおいですね……」

 館内は人が多く柚希ちゃんは怯えていたけれど、いざ映画を見始めれば(甘々な恋愛映画。優加理に勧められた)終わったころには号泣していた。

「恋が報われて良かったです……っ」




 次に向かったのは近くのカフェ。

 映画の感想などを交換しながら、適当に雑談。

 コーヒーを飲んで苦そうな顔をしたり、チーズケーキを食べて美味しそうな顔をしたりと、柚希ちゃんはいろんな表情を見せてくれた。

 


 

 最後に向かったのは、ゲームセンター。

 女子中学生にここはどうなんだろうと疑問に思った僕だったけど、意外にも柚希ちゃんはガラス越しにあるぬいぐるみに目を輝かせていた。

「どれも可愛いですね……! あれ欲しいな~……」

 自分の財布を見てはまゆ尻を下げる柚希ちゃんに、僕はぬいぐるみを取ってプレゼントした。

「あっ、ありがとうございます……!」

「いえいえ」

 柚希ちゃんはそれを大事そうに抱えた。




「疲れました~」

「そうだね~」

 

 柚希ちゃんはふぅ~と息を吐いた。


 いくつか回っただけで、もう夕方になってしまった。

 時間が経つのは早い。

 デートプランは特に決めてはいなかったけれど、ここらへんは大体行く当てが限られていた。

 ちなみにどこに行っても普通にカップルのように接客された。僕が幼く見られていないことを祈る。

 

 デートの間、柚希ちゃんは積極的に話しかけてくれて、最初はもごもごしていた話し方も、今は楽しそうな笑顔に変わっていた。

 


「今日は楽しかったです」

「……こちらこそ」


 帰ってきた待ち合わせの公園。

 ベンチで隣に座る柚希ちゃんは口元を綻ばせながら言う。

 

「私、お姉ちゃん以外に今まで誰かとこんな風に遊べたことがなかったので……」

「……そっか」


 ある日の南の言葉が思い出される。

 ——関わってみてください。


 その言葉の背景がなにかは知らないけど。

 彼女のその言葉で、僕はこの子とデートをするまでになってしまった。

 その中で、たどたどしく内気なところはあるけれど、ころころ変える表情は可愛らしいことを知ることができた。


 もったいないなと思う。

 僕も柚希ちゃんと同じ中学一年生だったら、今の二人きりのこの時間に青春を感じていたかもしれないのに。


「あの、それで、その……」

「……………」


 柚希ちゃんは何かを言いたそうに体をもじもじさせている。

 デートの終盤。

 こんなときに何を言われるか、わからない僕ではない。

 この先僕が告げなければならない言葉に、少し罪悪感を覚える。

 

 頬が赤いのは、夕焼け空のせいではないだろう。

 彼女はゆっくりと口を開いた。



「——お姉ちゃんを、助けてあげてほしいんですっ」



「ごめん、僕は柚希ちゃんとは…………って、え? なんて?」


 てっきり告白されると思い身構えていたけれど、出てきたのはそんな言葉だった。



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