第12話 ぼっちは無力
「クラスマッチキタァ————!」
「うるせえぞ若林」
「本番はまだ先だよ」
「くそ~待ちきれないっしょ!」
「三万光年も待てねえ」
「盛田、それは盛りすぎ」
「しかもそれ距離だし」
イケメン君を中心としたクラスの第一線陽キャグループが盛り上がっている。
授業中である。
そんな騒いでいる様子を、周囲の人たちはただ眺めていた。
この授業の担当である大沼先生は、教室前方の角でボーっと外を見つめている。
相変わらずだ。
どうせ娘のことでも考えているんだろう。親バカめ。
「あはは、まあ一旦落ち着いて。それじゃあ今からクラスマッチの出場種目を決めたいと思います」
教壇に立つイケメン君がクラスに呼びかける。
授業中と言っても今は総合の授業だ。
今回はクラスマッチについての話し合いというわけだ。
「あそこの元気すぎる男子が言ってたように、やるからには優勝を狙いたい。どうかな? 賛成の人は拍手をよろしく」
爽やかな声にこたえるようにあちこちから両手を叩く音が響いた。
「ありがとう。もちろん楽しんだり僕たちの絆を深めたりすることも大事だから、チームワークを大切に、かつ勝利を目指して頑張ろう」
「よっしゃー! 優勝したら先生のおごりで焼肉いくっしょ!」
「あり!」
「いいね、沼センよろ~」
「…………ん? ああ、がんばれがんばれ~」
気だるげに返す先生。
明らかに話聞いてなかったな。
「んじゃ、まずは外種目から決めようか。あ、朝宮さんもこっちに来て」
「おっけ~」
クラスマッチは二日間に分けて行われ、外で行う種目と体育館で行う種目がある。
所属している部活動の種目は参加できないだけで、基本的にはどの種目に出るのも自由だ。
具体的な種目は、まあ……いろいろあるわけだけど、僕が狙うは卓球だ。
地味な種目であるうえに、個人戦だし、同時に何試合もやるからとても目立ちにくい。
他の種目と被っていたら、応援の人数なんかも少ないしな。
ぼっちにはぴったりの種目と言える。
黒板に名前が書き連ねられる。
外の種目が大方決まり、次はなか種目だ。
「はい、卓球に立候補する人~」
きた。
僕はゆっくりと手を挙げる。
これに関しては別に誰と一緒になっても構わない。
個人戦だからな。関わることもほぼないだろう。
しかも卓球に手を挙げるやつは、クラスでも地味なやつって相場が決まってるんだ。
案の定、僕以外に挙げているのはぼっちの二人——
「やるっしょ———!」
…………。
決まった気でいたら、大声とともに力強く伸ばす手が見えた。
さっき騒いでいた陽キャのやつだった。
「卓球やりたいっしょ! あとこの二人も!」
指し示す先には陽キャグループの一員だ。
まじかよ……。
どうせあれだろ、お前ら体育の授業に影響されてるんだろ。
授業だけじゃ飽き足らず、こんなときまでぼっちの場所を奪うってのか。
なんというか、二年になってからずっとこんな感じじゃない?
思い通りに事が進んだ試しがないような気がする。
今なら、神様が僕たちを操ってるって言われても信じるぞ。
それくらい不運だ。
口元を引きつらせていると、イケメン君が立候補した六人を見ながら口を開く。
「ん~今まで順調だったからこうなったときの決め方に困っちゃうな、どうしようか? あ、もし譲ってもいいよって人がいたら言って」
言外にぼっち失せろって伝えたいのか、と思ってしまう僕はひねくれていますか?
「いい案あるっしょ! 勝負! 勝負するっしょ!」
「勝負?」
「ちょうど今体育で卓球してるし、そこで白黒つけるっしょ」
「お、いいんじゃね。三対三ってことだろ?」
「ありあり」
うわあ。
まさかの展開だ。
こうなったら、ぼっちにはどうしようもないだろ。
僕たちをひねりつぶしてクラスマッチに出る気だ。
体育でやることで、確実に女子からも注目されるという特典つき。
踏み台まっしぐらだ……。
嫌だ……。
それなら、おとなしく身を引くほうがマシだ。
僕は口を開きかけて、
「「や、やります……!」」
僕以外のぼっち二人が、決然とした表情でうなずいた。
いやいやいやいや。
なに負けられない戦いがここにはある風な顔してんの?
勝っても誰も待ってないよ?
勝っても負けてもぼっちなんだよ?
こういうときだけ出しゃばるなよ……。
「決まりっしょ!」
「ん~、でも次の体育ってゴールデンウィーク明けだね。先生、メンバーって今日まで決めないといけないんですか?」
「ん? いや別に大丈夫だぞ。中間試験の前くらいまで決めてもらえれば」
「なるほど。んじゃ、そうしよっか。団体戦ってことでいいかな?」
「勝つっしょ——!」
「ぼこぼこにしてやる」
「永遠のカット戦法の出番だ」
「「は、はい……!」」
「……………………」
五人の返事が耳に届いた。
女子たちの「がんばれー」という声もちらほら聞こえる。陽キャたちに向かってだけど。
こうして、体育でのバトルが決まったのだった。
ちなみにここまで、僕は一言も喋っていない。
しかも自然な流れで、陽キャ対ぼっちの構図にさせられた……。
神様、どうかゴールデンウィークが明けないようにしてください。




