第1章 霜月光という男
処女作です
人生とはなんだろうと聞かれたらあなたは何と答えるだろうか。漠然としすぎていて考えられないかもしれない。では、俺の例を出そう。人生とは自身の幸福を願い、そのために考え、行動し、実現させることが人生だと思う。しかし、自身の幸福、そのためにはどんな手段を使ってもよいかと聞かれるとそうではない。他人を傷つけないとか、ルールを守るとか、おおよその人が正しいであろうと考える正義。俺はそれに従って自身の幸福を追い求める、それが人生だと答えるだろう。
俺こと霜月光は風に乗った春の香りを感じながら散歩をし、そのようなことを考えている。季節ガラ新たな始まりということで、自分自身の価値観の再確認をしていた、というわけだ。とはいっても学年は高校三年生に上がったが二年生から三年生に上がる際はクラス替えが行われないので特に何かが変わったわけではない。
しかし、クラスが変わらないといっても自分自身の幸福への一歩として、科学者になりたいという夢を叶える、それにかかわる大学受験をする年になった。ここで価値観の再確認をすることで自身の幸福をつかむためのモチベーションをあげようとしていた。
俺は私立名峰高校に通っている。名峰高校はかなり偏差値の高い高校で進学校として県内では通っている。毎年難関大学の合格者を輩出している名門であり、当然俺が目指している大学もレベルが高い大学である。俺は志望校合格のために一年生のころから部活動と勉強を両立させ定期試験や模擬試験でも高い成績を上げてきた。幸福をつかむために当たり前のことをしている。人生がかかっているのだ。勉強は好きだ。効率よく努力を重ねれば結果が出る。ある程度努力が報われることが約束されたコンテンツ。俺は勉強のその点が好きだ。
しかし、世の中には努力ではどうしようもできないこと、報われないことがある。その代表例は人間関係、つまり人付き合いだと思う。いくら意中の相手に好かれようとしても恋愛対象にならないことや、そもそも性格が合わない、合ったとしてもこじれてしまって修復できなくなってしまうということがある。俺は人付き合いが苦手で努力してもどうにもならないことを知っているからか友人が少ない。
だからと言って交友関係の狭さを嘆いているわけではなく、むしろちょうどいいと思っている。性格が合わない人と無理に付き合うことはないし、合う人とのみ付き合えばよろしい。今友人と呼べる人は皆波長が合っている。俺は交友関係に関しては狭く深くなのだ。
交友関係は大満足しているわけだがだからといって人間関係に満足しているかと言われたらうなずくことはできない。問題はクラスメイトだ。
俺の所属する三年六組は理系クラスである。特に問題児もいなく、かと言って成績トップの優秀なクラスかといえばそうではない。名峰高校の中では真ん中の成績と言ったクラスだ。問題児がいないのならそれでいいのでは、と言う人もいるだろう。何が問題なのかわからない、と言う人もいるだろう。簡単にお答えしよう。性格が合わないのだ。俺は自分の正義に従い人生のために走っているのだが、クラスメイト達は特に信念があるように見えず、ただ流されて生きている、自分の考えや正義がおおよそあるように見えない、歩いてすらいないのだ。そのような人たちと考え方、価値観が合うはずもなくストレスを感じている。
俺の正義、考え方、価値観にあわない生き方をしている。そんな人たちを許容できずにいるのだ。友達が理系クラスを選んだから自分も理系クラスを選択したという大馬鹿者がいる。大学受験の時期が迫っているのに進路もろくに決めない愚か者がいる。どうしてそのような人達と仲良くできるであろうか。だからかクラス内に友人は全くいない。それでいい。俺は自分の幸福がつかめればそれでいいのだ。友人が少なかろうがそれは関係のないことだ。邪魔さえしなければそれでいい。
春風を感じる。心地のいい風だ。しかし、俺は相性の合わないクラスメイト達のことを考えたせいかなんとなくいらだちを感じてきた。せっかくの散歩が台無しだ。
俺は考えを変えようとしが不愉快な声、不愉快な顔つきが次々と浮かんでくる。ああ、とらわれてしまっているな。そう感じた俺は気分を変えるためにコンビニに立ち寄った。甘いものを摂取して気分転換というわけだ。俺は甘党なので菓子類が好きで、特にケーキには目がない。こだわりがあるのでコンビニでケーキは買わないがとにかく甘党なのだ。
のども乾いているので甘いジュースでも買おう。俺はお気に入りのマンゴージュースを手に取り、会計を済ませてコンビニを出た。
柔らかくあたたかい日差し、甘いジュース、いい気分だ。そこに気持ちのいい風にのった春の匂いが鼻腔をくすぐる。春は好きだ。豊かな季節は心も豊かにする効果があるようだ。すでに先ほどまであった苛立ちは消え、散歩をする足も軽い。スキップでもしたくなるような気分だ。心なしか自分の表情が緩んだ気もする。
楽しい気持ちで散歩を進めると自宅の近くにある神社についた。神社に植えらた桜は満開を迎え、花吹雪の中俺は昔見た吉野の桜を思い出していた。俺が見た吉野の桜は霧がかっていてその桃色の花びらがかすみ幻想的な風景だった。今見ているものは霧もかかっていないどこにでもあるような桜だがそれでも美しい。俗なことではあるがやはり散り際は美しい。
俺には、死ぬときは満月に桜の木の下で死にたいという願望があった。俺の人生は美しいものではない。したくないこともした、泥水もすすってきた。でも、死ぬ時くらいは美しくありたい。たとえ誰に看取られなくてもいい。俺を心から愛してくれる人などきっといない。そんな考えからかいつしかそう思うようになっていた。
まだ死にたくない。俺はまだ幸せになっていない。夢を叶えていない。したいことだってたくさんあるはずだ。だから生きる。散っていく花びらを見つめる。たとえ散った後の花びらのように汚れてしまってもつかみ取りたい。まずは大学受験を頑張ろう。そして夢に一歩近づこう。握られたこぶしはより固くなる。
俺は桃色の景色の中歩き出した。燃え上がる闘志を胸に。
初めまして。幽谷葵と申します。処女作ということで拙い文章ではありますが何とか一章分書き終えることができました。続きを出せるように頑張りたいです。よろしくお願いいたします。