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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
四章―精霊の国と霧の悪魔編―
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4章

95

――――



部屋をでたマリが案内されたのは大きな窓と人いバルコニーが特徴的な部屋だった。

大きなベッドが目立ち、それ以外にあるのは本棚と一組の机と椅に、とソファセットぐらい、というシンプルさ。

すたすたとその部屋のベッドの前までいったウルが、よいしょ、と声を上げながらひょい、とマリを抱えあげてベッドへとぽすんと寝かせた。

突然の事に目を白黒させるマリを放置して、せっせと布団をかけ、枕の位置を調整する。

一通りお世話が終わって、傍らに椅子を引っ張ってきて腰掛ける。


「ジーナの事、怒らないでくださいね。あの方は、我々とは見えるものが違うのです。」


苦笑しながら言うウルに、先程感じた言いようのない不安がぶり返しそうになってぎゅっと掛布を掴むマリ。ふわりと香る匂いに思わず掛布を引き寄せてくんくんと嗅いでしまう。


「ふふ…。気が付きましたか?ここはチェザーレ様が以前使われていた部屋なのですよ。何せ人間が使えるような部屋なんてここかジーナの部屋か私たちの部屋しかなくてですね?ジーナの部屋は論外だし、私たちの部屋もお客様を通すには無礼ですから…。消去法です。大丈夫、きちんと毎日掃除と洗濯しておりますので。」


掛布を掴んだまま固まるマリににっこりと笑って言うウル。

マリの脳裏に以前、自分の不注意?で添い寝してもらった事を思い出し、顔から火が出るんじゃないかと言うほど真っ赤になって掛布に潜り込んだ。

布団にくるまって丸くなるマリにクスクスと笑いながら腰を上げ、背中と思しき辺りをポンポンと叩きつつ、ウルが楽しげに言う。


「あんまり篭っていると窒息してしまいますよ?人間は我らよりずっと弱いのですから。もう言いませんから顔を出して?」


最初はからかう様に、後半は少しの心配を含んだ声で言えば、おずおずと布団の中からまだ赤い顔が覗く。

潤んだマリの瞳に苦笑し、再び椅子に腰を下ろすウル。

マリも姿勢を反転させて仰向けになる。

真っ白な天井をぼんやりと見つめながら、先程ジーナに言われたことを思い出す。


「私自身の問題、か…。図書室以外のことを思い出そうとしたらね、すっごく不安になって胸が締め付けられそうになった。前にも、どこかで同じような思いをした、って思ったんだけど…。」


そこまで言って思い出そうと言葉を止めたマリの額に、細い指先が触れる。

チェザーレのものとは違って、細くしなやかな指先はウルの物で、そっと額を撫でられる。

ひんやりとした手の温度がとても気持ちよく、思わず目を閉じたマリの瞼の上をその白い手が覆う。


「ジーナは思い出さなくていいと言っていました。少なくとも今はまだ、無理やりに思い出す事をしなくて良いでしょう。今はゆっくり眠りなさい。精神が疲弊しているのでしょう、あなたの魂が少し揺らいで見えます。」


静かなウルの声と、ひんやりとした手が気持ちよく、柔らかで寝心地のいいベッドが睡魔を運んでくる。

抗うこともなく、マリはすとんと眠りに落ちた。

睡眠特有のゆっくりとした呼吸を聞き取ったウルはそっと瞼から手を離し、椅子の背もたれに背を預けながらマリの寝顔を見つめる。

今頃ジーナ達は外界の王について話しているだろうか、などと思案していれば、ベッドの傍らに無造作に置かれた本が目に入った。

マリが目覚めるまでの、もしくはジーナが自分を呼びに来るまでの手慰みに、とウルはその本を手に取り、ページを捲って読み始めるのだった。



――――

マリが眠りに落ちる頃、応接室ではジーナの言葉にジアンが金の瞳を眇めていた。


「星の外に居たもの、ってのは?」


「それが外界の、という意味よ。あれらは星の外、暗くて寒い空の彼方で生まれ落ちるの。彼らは肉体を持たない。思念だけで暗い海を彷徨い、やがて星にたどり着く。とだけしか妾は知りえないの。」


ジーナの言葉に揃えた前足の間に顎を乗せて唸るジアン。イマイチよく分からずにちらりとチェザーレを見上げた。


「そのたどり着いた星で、肉体を得るのだろうな…。ならばマリを狙う理由はマリの肉体、ということか?しかしなぜマリ?」


チェザーレはチェザーレでぶつぶつと持論を呟いたあとは自分の思考に没頭してしまう。

置いてけぼりを食らったジアンはふすんと鼻を鳴らしてジーナへと視線を戻す。

ジーナもジーナで、ジアンをまじまじと見つめていたので、視線が噛み合った。


「星竜王陛下に見つめられるなんざ、末代まで語り継ぎてぇわ。」


冗談めいて言うジアンの態度に、ラルがそっと腰を浮かせるが、ジーナの細い腕がそれを制する。


「あなた、炎の契約を受けているのね。」


紫の瞳が一瞬だけ暗く輝き、そう呟くジーナに、前足に載せていた顔を上げて肯定するジアン。

その時に、未だ考え込んでいるチェザーレを一瞥したので、誰がその契約を強いたか、がジーナに伝わる。


「なにがどうなってその契約をすることになったのかしら?良ければ聞きたいわ。」


ぱっと笑顔になったジーナに、全く反応しないチェザーレの応援を諦めたジアンは今までの事を自分なりの解釈で話し始めた。




ジアンの話が終わる頃、目が覚めたマリがウルに連れられて戻ってきた。

戻ってきたマリを抱きしめて心配するジーナに、星竜王国へ戻ることを告げたチェザーレ。

だがジーナはせっかくの実家なのだから1泊ぐらい泊まっていきなさい、とマリを離さなかった為になし崩し的に泊まることになり、呆れ返るほどに広い食堂の隅の方に置かれたテーブルを囲んで食事をし、湯を借りてほかほかになった所で、マリの寝るところの話となって、親子が譲り合わず、ジアンと共にぽかんとその様を見つめているマリ。

その肩にそっとショールが掛けられ、振り返るとウルがにっこりと笑っていた。

そしてパンパンと手を叩いてラルと共に親子の仲裁に入る。


「ジーナもチェザーレ様も、いい加減にしないとマリが風邪をひくでしょう?ジーナにはラルが添い寝しますから、マリはチェザーレ様の部屋で寝てください。さっきもぐっすり眠れたし、大丈夫でしょう?チェザーレ様は同意もなくマリを襲わないようにお願いしますよ?」


ぱっぱと決めてしまったウルに、文句を言う暇もなく、ラルに引きずっていかれるジーナ。大きくて硬いのなんか嫌よ!と聞こえたがマリとジアンは聞かないふりを貫く。

一方のチェザーレもまた、ラルにむすっとして返す。


「こんな子供襲うわけが無い。同意を得られたとしてもなにもしない。」


ジアンに寄り添われ、ショールがずり落ちてきているマリを指して言えば、ショールを直しつついくぞ、と促す。

聞き捨てならないとばかりにマリが顔を上げ、子供っていう歳じゃないと怒っているがチェザーレは聞き流す。

それを見送ったウルはおやすみなさい、と彼らの背に頭を下げて、今頃不機嫌になっている主の元へと急いだ。



先程まで眠っていたチェザーレのベッドは綺麗に整えられていて、ジアンは広々としてはいるがほとんど物のない部屋にお前らしいなぁ、と笑ってソファに寝そべる。


「ほら、マリ。もう寝るぞ。」


ベッドに上がったチェザーレに呼ばれて目を見開いて固まるマリ。また肩からショールがずり落ちた。


「なにもしないと言っただろう。俺もベッドで寝たい。広いんだからいいだろう?」


確かにベッドは広く、チェザーレが3人は余裕で寝れる。

そもそもこのベッドの所有者はチェザーレなのだから、彼が寝るのは当然と言える。

しばしの葛藤の後、ぎゅっとショールを握ってベッドに上がったマリに優しく掛布を掛けてから少し離れて背を向けて眠るチェザーレ。

ベッドの端で仰向けで眠ろうとしたマリはその背中を見るともなしに横目で見つつ、そろりと手を伸ばした。

指先が背中に触れ、ぴくりと跳ねてこちらに顔が向けられる。どうした、と低く問いかけてくる声で、自分が手を伸ばしたことに気づいたマリは慌てて手を引っ込めてなんでもない、と首を振って掛布に潜り込んだ。

僅かに布が擦れる音と、温かな気配に、そっと顔を出すと、すぐそばにチェザーレの顔があり、再び掛布に潜り込む。

その様を見て笑っていれば、ひょいっとジアンまでもがベッドに上がってくる。

ぐいぐいと鼻先でマリをチェザーレに押し付け、自分のスペースを確保したジアンはそこで丸くなって目を閉じる。

マリが息苦しくなって掛布から顔を出すと、両サイドを挟まれていて、キョトンとした後に苦笑してまぶたを下ろす。

おやすみ、と呟けば2つの低い声がおやすみ、と返ってきて、それが酷く安心できるように感じて、マリの意識は眠りに落ちた。

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