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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
四章―精霊の国と霧の悪魔編―
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4章

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――――



「私たちにとってのジーナ、ですか…。」


マリの問いかけに虚をつかれた様に目を見開いたウルだったが、少しの間を置いて思案する。

答えられないというふうでは無く、ただどう表現するか、で考えているように見えた。


「難しいですね…有り体に言えば全て、というべきなのでしょうが、私たちの命程度でお護りできる存在では無いですし…。」


青い目が細められ、顎にやった手で唇を撫でつついうウルに、ぱちくりと目を瞬かせるマリ。

その様に、クスリと笑い、ゆったりと足を組んで姿勢を崩すウル。


「時間もありますし、ジーナ以外と話すのも久しぶりなので、年寄りの昔話でもしましょうか。」


青年のような見た目で年寄りという事に違和感を覚えながらも、マリは頷く。


「と言ってもあまり面白いものでは無いですあが。1000年ほど前、私たちは一頭の白竜の卵から生まれました。ひとつの卵に2つの命。竜の雌というのは、卵を身篭った時点で、その卵に力の殆どを渡してしまいます。ですので、生涯にただ一つの卵しか産みません。そんな種族なのですが、2つの命がはいった卵に、母は力の全てを渡してしまい、卵を産み、私たちが生まれてすぐに力尽きて死にました。残された私たちは生きていく術もなく、母の後を追う運命でしたが、ジーナが気づき、私たちの命に自分の力を分け与えて生かしてくれました。この身体の大半は、ジーナの星竜としての力によって生かされているんですよ。だから、全て。なのです。」


そこまで話してふっと息を吐き、紅茶を口にするウル。

思った以上に話の内容が重く、マリの顔に痛ましげなものが伺え、ウルは笑う。

カップを手にし、真っ直ぐにマリを見返しながら、


「それでいくと、ジーナ様も、チェザーレを産んだから…。」


「ええ、とても弱くなっていますよ。全盛期からは程遠い。この星で最も強いのはチェザーレ様ですが、ジーナもそれと同等にはまだ強い。正直、私たちが護衛というのも、いざと言う時に壁になるぐらいしか役には立ちません。」


卵を産んで弱ったあとでチェザーレと同じぐらい、ならば全盛期は…?と考えて、ニコニコと笑う笑顔を思い出す。

喉の乾きを潤すようにこくんと紅茶を嚥下したマリに微笑んでいたウルが、すっと立ち上がり、紅茶を端に寄せてからドアを開けると、今まさに入ってこようとしていたジーナ達が立っていた。


「流石ねぇ、ウル。驚かせようと思ったのに…。」


拗ねたような口振りで開けられたドアから入ってくるジーナと、後ろからチェザーレ、ラル、と続く。

ドアを閉めて双子がお茶の準備に取り掛かる中、マリの隣に座ろうとしてチェザーレに肩を捕まれ、正面に強制的に座らされるジーナ。

ジーナを座らせてからマリの隣に座るチェザーレに、ずるいわよ、と文句を言っていたが、横から差し出された紅茶を受け取って言葉を収めて飲む。

その間にウルとラルが両隣に座り、


「ほら、これで両手に美男子ですよ、よかったですね、ジーナ?」


からかう様にラルが紅い瞳を緩ませてジーナに言う。

ここで美少女がよかった、などと言えばなりましょうか?とこの2人なら言い出しかねない事を知っているジーナはそうね、とため息をついてカップを置く。


「さて、じゃあ…。マリ、前の世界のこと、覚えているだけでいいから教えてちょうだい。」


すっと視線を上げてマリに紫の瞳を向けて問うジーナ。

何かを言おうとしたチェザーレをそのままずらした鋭い視線で制し、言葉を挟む余地を与えずにマリに視線を戻す。

問われたマリはびくりと震えたが、思い出すように目を伏せ、


「図書室に、いました。」


「それだけ?普段は何をしていたとか、生活はどうだった、とか…。何かほかに思い出せない?」


言い募るジーナに、ぐっと眉を寄せて首を振るマリ。そして、聞きたくないとでも言うように耳を塞いで身を屈める。

ジアンが跳ね起き、ジーナを睨みつけながら唸るが、対してウルとラルが腰を浮かせる。

3人を睨みながらマリのそばに行き、擦り寄った。

チェザーレもまた、動向を見守っていたが、マリの様子に母を睨みつつ、小さな背を摩る。


「なるほどね…。ごめんなさい、妾が見たものが少し信じられなくて…。」


そう言いながら腰を上げ、警戒するジアンとチェザーレに苦笑しつつマリの頭を撫でる。

温かな手の温もりに優しさを感じて膝に埋めていた顔を上げるマリに、そっと頬に手を滑らせて微笑むジーナ。


「思い出さなくてもいいわ…。負担を掛けてしまってごめんなさいね。」


今にも泣きそうな目元を親指の先で撫でてから済まなさそうにそう言い、ちらりと背後を振り返る。

即座に反応して立ち上がる双子に、


「マリを休ませてあげてちょうだい。今ので大凡は分かったから、もういいわ。」


ジーナの言葉に、青い瞳の青年、ウルがそっとマリの傍らに傅く。

唸るジアンなど気にもとめずにマリを促そうとして、乾いた音が響いた。

ウルの手を払ったのはチェザーレで、彼は眉を寄せて母とウルを睨んでいる。


「どういう事だ。マリに何をしたんですか、母上。」


「何もしていないわ。聞いただけ。それに、この事はマリ自身の問題。貴方がしゃしゃり出てきていいものでは無いわ。」


睨むチェザーレに涼しい顔で返すジーナ。我が子の癇癪など今に始まったことではないと聞き流し、ウルにマリを立たせて部屋を出ていくよう指示する。


「母上…!ならばマリに聞くまでです。」


ウルと共に部屋を出ていくその背を追うように立ち上がるチェザーレの額に、細い指先が添えられる。そしてパチン!という小さな音と共に、チェザーレが大きく仰け反ってたたらを踏み、ソファに手を付きながら膝を折る。


「ガッ!?」


息子の額にデコピンをして止めたジーナの視線がジアンに向く。先程とは打って変わった冷えた瞳に、底知れぬ恐怖を感じてぴたりと止まるジアン。

仰け反ったまま額を押さえる息子に視線を戻し、更に冷えた眼差しで、


「なりません。お前が無理やり聞けば、きっとあの子は壊れてしまう。そうなったら、外界の王が手管を駆使せずとも、あの子は自らそこに行くでしょうね。」


冷えた眼差し以上に、冷たい声音で言われたことに、チェザーレの動きが止まる。額を押さえながら目を見開く姿に苦笑し、踵を返してソファに座り直すジーナ。

視線で座り直すように促し、残っていたラルにお茶のお代りを頼んでから長い足を組んで楽しそうに息子を見つめる。


「何に対しても無気力、無関心だった坊やがこんなになって帰ってくるなんてね…。妾は嬉しくてよ?」


ほんの少し前まではだらだらと眠っているばかりだったのが、たった一人の人間に感情を動かし、自分にぶつけてきたことが嬉しく、鈴を転がすように笑うジーナ。

額を擦りながらソファに座り直すチェザーレに、ジアンからの視線が痛く感じるが、見えないふりをして顔を背ける。


「以前のチェザーレ様でしたら、あの少女が泣いていようが、ジーナに楯突くことなど無かったでしょうからね…。私も久しぶりに心地いい殺気を浴びました。」


カチャリと茶器を鳴らしてジーナとチェザーレの前に紅茶を置くラルが追い打ちをかける。

いたたまれなくなったチェザーレは、それを誤魔化すように紅茶を流し込む。


「マリの事はまぁ気になるが置いとくしかないとして、外界の王については、教えてくれるのか?」


マリに寄り添った時のまま、ソファの上に座ったジアンがそう尋ねれば、お茶を飲む手を止めたジーナがすっと視線を向ける。

先程の事もあって、びくりと尻尾が震えたジアンだったが、ぐっと堪えて視線を合わせる。


「教えてあげたいのだけれど、妾もほとんど分からないの。妾はあくまでこの星の調停者。星の外に居たものの事は、分からないとしか言えないわ。」


ふっと息を吐いて言われた言葉に、ジアンの金の瞳が眇られた。


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