4章
4章!スタートです!!
よろしくお願いします!
また、明日更新分より、更新時間が18時から0時に変わります。
次の更新は4月2日0時、とさせて頂きますことを御容赦ください。
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翌日、王城の広い屋上で強い風に髪を押さえながら晴れ渡った空を見上げるマリ。
見送りに来たローウェンもまた、長い髪を風に遊ばれながらチェザーレと話していた。
話が終わったのか、ローウェンが離れ、代わりに兵士たちが大きな籠を持って出てきた。飛竜便にも使われているそれで、マリ達を運んでいくとの事だった。
炎の柱が立ち昇り、深紅の鱗を纏った炎竜が顔を出し、炎が消え去って全身を現す。
首をめぐらせて紫の瞳を空に向け、行くところを定めるように瞬きしてからマリの方を向き、器用に座った。
改めて陽の光の下で見る紅い竜は、目を奪われるほどに美しい。
ふらふらとチェザーレに歩み寄ってくるマリに向けて長い首を下ろし、頭を寄せる。
そろりと手を伸ばすマリに鼻先を寄せて低く唸るとびくりと震える。
思った以上にすべすべとした鱗を撫でながら、口元に並ぶ牙の数々に、噛まれたら痛そうだな…、などとぼんやり思っていれば、ひとしきり撫でられて満足したのか、チェザーレが顔を上げる。
マリも離れてジアンと共に籠に乗り込み、扉を閉めると、外に巻き起こった風で籠が揺れ、身体を支えるようにソファにしがみついてから小さな窓から外を見た。
紅い竜が屋上の上を旋回し、こちらに手を伸ばす。
ぐらりと少し揺れてから浮遊感がマリ達を襲い、窓の外の景色は見る間に地上が遠ざかっていく。
関心している間もずっと上昇し続け、雲を抜けたあたりで緩やかに方向が変わり、雲を見下ろしながらの空の旅が続いた。
「あ、これ美味しい。ジアンあーん。」
籠の中で朝食がてらに食事を始めたマリとジアン。摘んでいたサンドイッチをジアンの鼻先に差し出すとぱくりと食いつかれ、うまい、と尻尾を振る。
のんびりと食べている矢先にどこからともなく声が降ってきた。
『くつろいでいる所悪いが、そろそろ着くぞ。』
チェザーレの声に、食べていたものを飲み込んでから窓の外を見ると、前方の上の方に白い宮殿のような建物の、底が見える。
かなりの高さを飛んでいるチェザーレだが、それより更に上にあるそれは、ほとんど空の果てに近い所だった。
『お帰りなさいませ、竜王陛下。』
宮殿の庭らしき場所に籠をおろし、人型になったチェザーレとマリが降りると、騎士服を纏い、透き通るような金髪の青年が2人、歩み寄ってきて傅く。
深く頭を垂れた後に顔を上げた彼らは2人ともよく似た顔をしており、唯一の違いはその瞳の色が青か赤か、と言うぐらいだった。
「ああ、ウルとラルか。母上は?」
青い瞳の青年をウル、紅い瞳の青年をラルと呼んだチェザーレが母の居場所を尋ねると、寸分の差もなく2人がそっとチェザーレの背後に視線をずらした。
「?」
キョトンとする3人の背後、マリの両肩にするりと伸びる白い腕。
次いで背中にむにゅっとした柔らかいものが押し付けられ、最後に黒髪に頬ずりしながら降ってくる艶やかな声。
「坊やったらこんな可愛い子を捕まえてたの?」
はしゃぐようなからかう様な弾んだ声音に、どうしたらいいか分からずに固まるマリと、状況を察したチェザーレ。気配なく近づかれたことに驚くジアンと、困ったように笑う青年たち。
「あの…!」
抱きつかれてオロオロし始めたマリを見かねて、チェザーレが抱きついている女性を引き剥がす。
「あんっ、坊やったらひどいじゃない。」
抵抗することなく腕を引かれるままに離れた女性はチェザーレを坊やと呼びながら不満そうに眉を寄せる。
「坊やという歳ではないと何度言えば…。それにいきなり抱きついて驚かれない方がおかしいでしょう?」
普段とは少し違う丁寧な言葉遣いで女性を窘めるチェザーレ。
腕の拘束から逃れれたマリはようやっと振り返って女性の姿を見ることが出来た。
「すごい…。」
ぽかんと口を開け、チェザーレに向かってぷりぷりと文句を言っている女性を眺める。
美しい女性なら、アウローラやメイニィ、ラピスも相当に美しかった。だが目の前の美女はそれとは異なる次元の美しさを放っていた。
緩やかなウェーブを描く赤毛は艶を持って足元まで流され、小さな顔には整った配置で目鼻口があり、紫の瞳は1粒の宝石のように輝き、紅い唇は楽しげに弧を描いている。
真っ白な肌を惜しげも無く晒し、絹のような光沢のある金の薄いドレスを纏った立ち姿はチェザーレより頭1つ分低いが、それでも十分高身長な女性だった。。
ぽけっと見とれるマリに気がついた彼女は、チェザーレを押しのけてマリの前に戻ると、視線を合わせるように膝をつき、マリの瞳を覗き込む。
彼女が膝をついた瞬間にウルとラルが動揺したように身を乗り出すが、チェザーレの視線と、マリ越しに向けられた女性の視線に立ち止まって姿勢を正す。
「初めましてね、マリ。妾はジルヴァーナ。気軽にジーナと呼んでちょうだい。いつも息子がお世話になっているわね?」
かがみ込んだ膝の上に腕を置き、にこりとマリに笑いかける女性は、どうやらチェザーレの母親らしく、確かに見た目の造形はとてもよく似ていた。
「マリ?」
ぽかんとしきりのマリに対し、首を傾げて再び名を呼ぶジーナ。
はっとして慌ててぺこりと頭を下げ、
「ま、マリです…!いつもあの、チェザーレにお世話になっています…。」
尻すぼみになりながら言うマリに、ぷるぷると震えてぎゅっと抱きしめるジーナ。
頬を再び柔らかいものに包まれ、おまけに花のようないい匂いがする。
何度も抱きしめられて目を白黒させて助けを求める様に手を泳がせるマリだったが、すぐにその抱擁が解かれてほっとする。
「お話を聞きに来たのよね?おいでなさい、中で話しましょう?」
すっと立ち上がった彼女に付き従うウルとラル。それに続くようにマリ達も歩き出す。
元は竜が住まう宮殿だからか、そびえ立つ全てが巨大で、申し訳程度に人型サイズのものが並ぶ宮殿の内装に、キョロキョロとするマリ達。
やがて応接室らしき場所に案内され、フカフカのソファに座ったマリだったが、チェザーレとジーナはそのまま少し話すことがある、と出ていってしまった。
残されたマリは部屋の隅に立っている青い瞳の青年、ウルをみるともなしに眺める。
鑑賞するには十分な美しさの彼を見ていると、視線に耐えれなくなったのか、ウルが苦笑して、お茶でも入れましょう。と言ってくれた。
準備してくれる背中を見ながら、ふと思った事が口をついてでる。
「この宮殿にはジーナ様と、ウルさん、ラルさんしかいないんですか?」
「ええ、ジーナは引きこもりですからね、お世話するのは我々で足りるのですよ。」
カップを手にしてマリに差し出しながら言うウルに、礼を言って受け取るマリ。
ジアンは足元でごろりと寝そべっている。
耳はぴくぴくと動いているから、話は聞いているのだろう。
ジーナ、と親しさを込めた呼び方に、従者ではないのかな?などと不思議に思いつつ、カップを傾ける。丁度いい温度の不思議な匂いがする紅茶で、とてもリラックス出来る味だった。
ほっと息をつくマリに微笑んでから、部屋の外へと一度視線をやり、マリの向かいに座るウル。
「チェザーレ様たちの御用は少しかかりそうですし、なにかお聞きしたいことがあれば、私で答えられる範囲でお答えしますよ。」
そう言って微笑むウルに、カップを置いたマリは僅かに思案し、目の前の端正な顔を見つめて、
「ウルさん達にとって、ジーナ様はどんな方なんですか?」




