3章 闘技大会
読んでくれてありがとうございます!
1万PVを喜びまくった勢いで書いた小話です!
いつもの倍ぐらい長い上に、オチがみえみえのアレですが…。
これからもちまちま頑張ります、よろしくお願いします!
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『さぁやって参りました毎年恒例!最強を求めて!武闘大会の開幕です!司会、進行は私、獣王国が誇る絶対司会者こと、鳥人族ヨウム界の1番星!ジータでございます!』
陽気な声が広い会場一杯に広がる。
大々的に映し出されたスクリーンには灰色のとさかがトレードマークのヨウムの青年がいつ息継ぎしているのかという速度で喋り続けている。
湧き上がる歓声に応えながらトーナメント形式であることを伝え、今日はタッグトーナメントの予選から始まるのだそうだ。
コロシアムのような会場の中腹にある、前面を強固なガラスに、それ以外の壁を魔法処理した石の壁で固めた皇室専用観覧席の隅っこで、マリははしゃぐケイローを抱きしめながら青い顔でその様子を見ていた。
「マリ、そう緊張せずとも…、王はなにもお前を取って食ったりはしないぞ?」
マリの様子を見かねたケトーの声に、うめき声のような声で返事をする。
取って食うなどと心外だと拗ねる若き王も要らぬお節介だったかと後悔していた。
事の起こりは、マリの何気ない一言だった。
「チェザーレとジアンは出ないの?」
このセリフに火がついたのか、チェザーレが出場してやると獣王に直談判したのだ。
ソロの部門は既に埋まっており、ねじ込むことが難しいが、タッグ部門ならば、ということで渋るジアンの首根っこを捕まえ、亜人部門タッグにエントリーしたのだった。
本来ならば挑戦者を待ち受けるべき存在にも関わらず、予選から出場すると言い張る彼に、獣王も折れるしかなく、せめてとばかりにマリの警護を買って出、その結果がこの皇室専用観覧席、という訳だった。
『さてまずは振るいに掛けさせてもらおうじゃないか!エントリーは計16組、32人による乱・闘だぁぁあ!』
びしっとマイクを持った手を上に掲げ、観客を煽るようにいうジータに、大声援が応える。
それに後押しされるように、コロシアムの中央にあるフィールドに向けて、ぞろぞろと亜人たちが出てくる。
フィールドには分かりやすく四方に白い棒が立っており、そこを超える、降参を表す、審判が止める、の3つで決着がつく。
なお、故意に殺すことは禁じられており、万が一そうした事を行ったものは武闘大会が終わった後に命をもって償うのだとか。
棒だけでは分からないのでは?というマリの疑問は、全員が中央に集まった直後に解けた。
棒の先端が光ったと同時に、棒と棒を結ぶように光の帯が四角く形成されたからだ。
十分な広さをもつフィールドの中で、ほとんど人間と区別がつかないチェザーレは酷く目立っていた。
傍らのジアンも面倒くさそうに欠伸をしている。
好奇の目に晒されながらも全く気にすることなく、ジータの説明を聞いている。
やがて説明を終えたジータがフィールドから離れ、専用観覧席にいた王がすっと立ち上がる。
部屋に備え付けられたマイクを手にし、声高々に開幕を宣言した。
その瞬間、フィールドにいた半数が、チェザーレ目掛けて飛びかかった。
残り半数は、チェザーレがどう見てもただの人間の見た目であることに警戒し、様子を見ていた。
果たして、彼らの予想は的中する。
飛びかかった全員が、何かに弾き飛ばされ、綺麗に弧を描いてフィールドの外に放り出されたのだ。
しん、と静まり返る会場。
ジータでさえ、状況が掴めずにぽかんとしている。
掛かってきた全員をはじき飛ばしたのは、チェザーレの腰から生える赤い尻尾だった。
びたん、と床を打つ尻尾の音で我に返るジータ。
丁度半数。予選で振るいに掛けられて残る8組が、フィールドに残っていた為、マイクを握りしめて手を上げる。
『こ、これは大番狂わせだぁああ!並み居る強敵を尾の一撃で吹き飛ばしたのは、…えーっと…?あ、はい。失礼いたしました、最後にエントリーされた一組ですね!』
手元の資料を見て確認したジータの声に歓声が重なる。
『予想よりずっと早く予選が終わってしまいましたが、このまま予選の抽選を進めていこうと思います!各チームどちらか1人私の前にある箱の中からボールを取ってください!そのボールに書かれている数字をスクリーンに見えるように掲げてくださいね!』
ジータの声に従って、チェザーレが箱の前に進むと、背後から影に覆われて振り返るように見上げた先にはチェザーレより頭ふたつほど高く、横幅に至っては3人分はありそうな赤茶色の毛皮を纏った狼人がニヤニヤと笑っていた。
「つえぇなぁお前。俺らはそういう奴をぶちのめしたくてこの大会に出てんだよ。精々戦えるように勝ち残ってくれや。」
真っ赤な舌でべろりと舌なめずりしながら言う男に、どうでも良さそうに一瞥をくれてから箱に手を突っ込む。
自分を無視したような形なるチェザーレに、狼人は鼻白むが、時間外の戦闘は一発退場なのを思い出して握りしめた拳を解く。
一方、玉を取り出したチェザーレはそれを高く掲げ、スクリーンに映し出すが、同時にその顔も映し出され、少なからず会場に来ていた女性陣の熱い眼差しを受け止める羽目になっていた。
チェザーレが引いたのは8番。
トーナメント表の1番端に書かれた数字だった。
対戦相手は1番。
そして、その1番を引いたのは、チェザーレのすぐ後ろにいた狼人だった。
「ああ、悪ぃなぁ…。お前さんら、1回戦で退場だ。」
嘲るように笑う狼人に、フン、と鼻で笑って返し、ジアンの待つ場所まで戻る。
「あー、ありゃあワーウルフの中でも有名な兄弟だぜ。赤いのが兄貴のルーガ、青いのが弟のガルーだ。かなり強いって話らしいが…。」
戻ってきたチェザーレを今にも噛み殺しそうな目で睨む彼らを面倒くさそうに見つめながらジアンが呟く。
さして興味もないのかチェザーレは皇室専用観覧席の方を見ながら、
「お前よりか?」
その問いに今度はジアンが鼻を鳴らす。
それで大体は察したのか、フィールドを降りるようにいうジータの声に従ってフィールドの外側に用意された簡素な椅子に腰掛けた。
チェザーレの周囲には誰もおらず、傍らに寝そべるジアンは薄目を開けて周囲の様子を伺う。
(まぁあの兄弟はおいといて、そこまで強そうなのは居ねぇなぁ…。1番強いのはあの星竜国の近衛騎士団長とトントン、ってとこか…。)
ざっくりと強そうな相手に目星を付けていれば、全員のクジが終わったようで、ジータの声が響き渡る。
『さぁて!出揃いました!まずは一回戦!ここ数年タッグチームではベスト4をキープし続けています!ルーガルー兄弟!今年はさらに上を目指せるか!?』
ジータの演説に後押しされるように赤と青の毛並みの狼人がフィールドへと上がる。
湧き上がる歓声に手を上げて応え、軽い準備運動をしてニヤニヤと笑っていた。
『対しましては!さきほど見事な一撃を見せていただきました!今年初参戦!麗しい美貌からは想像もつかないような戦いを見せてくれるのでしょうか!?連れ立って歩くのは影狼でしょうか!ジアンとポチ!』
ジータの紹介を聞き流しながら歩いていたジアンは、名を言われた時にずっこけそうになって慌てて歩みを正す。そして傍らで何食わぬ顔で歩くチェザーレを見上げ、
「ポチってのは、お前の偽名か?」
「そんなわけないだろう?どう見てもお前がポチだ。喜べ、マリが考えてくれたんだぞ。」
即座に返されて鼻筋に皺を寄せて唸るジアン。
確かに彼が本名を名乗れば、それで気づかれる可能性もある。だがよりによって自分の名前をたった挙句にこちらの名前はまるで犬のようなポチという不名誉な名前。
抗議しようにももう既に登録されているし、何より目前に立つ兄弟がやる気満々なのが妙に腹立たしい。
ジアンは、この怒りを彼らにぶつけようと決めた。
「俺は赤い方。さっきの言葉、その身で分からせてやる。」
きにしていなさそうな素振りだったくせに、も前に立ったことで思い出したのか、紫の瞳にやる気が見える。
必然的にジアンの相手は弟になる。
兄と違って静かにしているが、表面を取り繕っているだけで本質的には兄とほとんど変わらない性質なのだろうと予想を付けたあたりで、ジータが両者の間から身を引いた。
『それでは!第1回戦、始め!』
とっとことフィールドの外にかけ出すジータの横を、赤いものが掠って場外まで吹き飛ばされた。
ギョッとして足をとめて振り返る。
フィールドの中央で、赤毛の男が手をぷらぷらと振っていた。
恐る恐る、顔をフィールドの外、自分が行こうとした方向に向けると、赤茶色い毛玉が転がっていた。
『え…?す、すみません!見ていませんでした!映像班!今のをスクリーンでお願いします!!』
キョトンとしたが、直ぐに我に返り、状況の把握とばかりにスクリーンに映し出すために映像として記録していたスタッフに呼びかける。
と、同時にフィールドを見れば、青い毛皮のワーウルフの上で、灰黒色の狼がお座りし、ふすんと鼻を鳴らしている。
しん、と静まり返った会場で、運営側の獣人だけがばたばたと慌ただしく走り回っている。
やや時間を置いてから手元にきた紙をみつつ、ジータが声を上げた。
『お待たせ致しました!映像をご覧下さい!』
彼の言葉と共に大スクリーンには先程の試合の様子が映し出された。
ジータが声を掛け、背を向けて走り出したところで映像はスローモーションのようにゆっくりと流れ出す。
ジータの背を掠めるように地を蹴って飛びかかってきたルーガに、チェザーレは無造作に手を前へ出す。
親指で中指を押さえる、所謂デコピンを構え、拳を振りかぶってきたルーガの鼻面に強烈なデコピンを当てた。
自分の勢いも相まって、仰け反るルーガの頭を掴み、そのままジータの走る背の方に向けてぶん投げたのだ。
ブン投げたと同時に狼の方が、
「司会に当たったらどうすんだ!」
と叱りながら、一足遅れて走ってくるガルーの素早い爪をひょいひょいと避けた後に、ひらりと跳ねてから首筋に噛みつき、その勢いのまま押し倒す。
自重とジアンの重みで顔面を床に強打し、ぐったりするガルーの背によっこいせ、と座る狼を写したところで、映像は止まった。
静まり返った会場で、誰かが息を飲む音がやけに大きく聞こえた。
その沈黙を破ったのは、皇室専用観覧席から響いた声。
『勝者!へい…ゴホッ!ジアンとポチ!』
獣王の宣言により、ジータが我に返る。続いて湧き上がる会場。
大歓声にビビりながらフィールドを出るジアンとは裏腹に、涼しい顔のままのチェザーレの顔がスクリーンに映し出され、歓声の声が黄色いものへと変化する中、担架で運ばれていく兄弟を、他の出場者は顔を顰めて見送る。
皇室専用観覧席では、大きく息を吐いて座り込む獣王と、傍らに控えて笑いを噛み殺すケトーとナズール。
「陛下が倒すまで掛かった時間は5秒以下。賭けは私の勝ちだな?ケトーよ。」
くつくつと喉で笑うナズールに、悔しそうに唸る。
そんな2人を背後に控えさせ、相変わらず部屋の隅っこにいるマリへと視線を向ける獣王。
「そんな端ではよく見えまい。お主が陛下を焚き付けたのだろう?見ずしてどうするのだ。」
呆れを含んだ声にびくりと震えてケイローの背中に埋めていた顔を上げるマリ。
ケイローはよく分かっていない顔で歓声が上がる度にきゃっきゃとはしゃいで、マリの腕から落ちそうになる度にマリが慌てて抱え直している。
「お前が望むなら勿論優勝するが?」
不意に掛けられた声に肩が跳ねてケイローが腕からころりと落ちた。
落ちたことが楽しかったのかプゥプゥと鼻を鳴らしてあちこち歩き回り出すケイローの背を、いつの間に来たのか、ジアンがのっそりと追いかけている。
ジアンがここに居るという事は、マリの後ろから覗き込んでいるのはかの竜王にほかならない訳で。
ギギギ…、と錆び付いたように動かない首を一生懸命回して振り返ると、もう流石に見慣れたが、目に眩しい綺麗な顔が身を屈めてマリを覗き込んでいた。
「え?あれ?試合、は?」
思わず目を逸らしながら言うマリに、ため息をつきつつチェザーレが空いた椅子を手につかんで引き寄せ、腰掛ける。
マリはふかふかの絨毯が敷かれた床に直接座っているので自然と見上げる形になり、楽しそうに緩んだ紫の瞳から逃げるように周囲を見回してケイローを探すが、小熊はジアンに夢中らしく、ふさふさの尻尾のじゃれついていた。
「他の3組が試合中だ。」
スクリーンを顎でしゃくって指すチェザーレに、マリの顔もそちらへと向く。
先程とは打って変わって、かたずを飲んで見守る、という風な会場の雰囲気の中で、全身を擦り傷や鼻血で汚した2人が大きくガッツポーズをしていた。
湧き上がる歓声に、獣王も満足そうに頷いている。
「マリ。このまま行けば俺たちはまぁ間違いなく優勝だが…。お前が俺の強さを認めるなら、ここで降りるが?」
楽しげに言うチェザーレの言葉にぐっと喉が鳴るマリ。
なぜマリがここまで隅っこで小さくなっているのか、というと。
この皇室専用観覧席。モニターで内部の映像を時折スクリーンに映し出しているのだ。
見慣れた獣王と、その側近。
見慣れない人間の少女。
どちらが注目を集めるかは明白で、基本的に目立ちたくないマリにとって針のむしろ状態だった。
獣王などは気にしなくていいと気さくに声をかけてくれるが、それすらも周囲が気になってしまうマリ。
ほんの軽い気持ちで言った事を、今とても、とても後悔していたのだ。
そんな時に聞いたチェザーレの言葉に、ちらりとジアンを見る。
マリの視線に気づいたジアンは、好きにしろとばかりに尻尾を振り、それにケイローがじゃれつく。
獣王達を見る。
彼らも苦笑しながら頷いてくれた。
最後にチェザーレを見上げ、
「チェザーレが1番、です。」
ぼそぼそと蚊の鳴くような声で言うと、ニヤリと笑ってぽんぽんと頭を撫でられる。わかればいいんだ、と。
「ということだ、トライド。俺たちは2回戦以降棄権する。」
「御意。」
チェザーレの声に立ち上がって敬礼しながら答える獣王。
その様子は、今まさに巨大スクリーンに映し出されてしまった。
しまった、とばかりに顔を上げる獣王。
『これは!どういうことでしょうか!一回戦突破のジアンさんに、獣王陛下が敬礼を!?』
すかさず飛んでくるジータの声に見て分かるほどに動揺する獣王だったが、やれやれとチェザーレが立ち上がる。
そしてごそごそと懐を漁り、白金貨を3枚取り出して獣王の手に握らせた後、マリを抱き上げた。
途端に上がる黄色い歓声に、マリが顔を隠すようにチェザーレの首にしがみつく。
いつの間にかジアンも傍に寄ってきていて、イタズラ心いっぱいの笑顔をチェザーレに向けて、彼もまたそれを理解して頷いた。
『その目に焼き付けろ、獣王国のもの達よ!』
獣王のマイクを奪い取ってそう言ったあと、ガラスの修理費、それな。と握らせた手を指す。
そして、
オォォオオオーーーン…!
ジアンの咆哮と共に、ガラスに向かって火が吹き上がる。
高温のそれはガラスを溶かし、巨大な穴を作った。
そこから飛び出たのは白銀に輝く雪の結晶を纏った巨大な月影狼王。
氷の道を作りながら会場の空を駆ける。
続いて、吹き荒れる炎の竜巻。
不思議と暖かい程度の温度しかないそれの中から、ゆっくりと姿を表したのは深紅の鱗と、萌えるたてがみが美しい、巨大な炎竜。
ガァアアァ…!
大きく咆哮をあげて炎を散らし、前足に大事そうに少女を抱えた竜も、会場の空を舞うように飛んだ。
湧きあげる歓声と、竜王陛下!と呼ぶ声に応えながら、一頻り飛んだ後、会場を離れて適当な森の中で元の姿に戻る。
かなり離れたが、それでもまだ歓声が聞こえてくるのを耳にしつつ、マリを下ろす。
元のサイズに戻ったジアンが、じとっとチェザーレを睨めつけた。
「ちっと大人気ねぇんじゃねぇか?」
ぼそりと呟かれた言葉に、チェザーレはなんのことだ、と肩を竦め、目を回しているマリの頬を叩いて起こしていた。
(いいとこ見せたかっただけ、って素直に言えばいいんじゃねぇの…)
ジアンの心のつぶやきは、誰に聞かれることもなく、森を吹く風にさらわれていった。




