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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
三章―英雄と獣王国編―
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3章

77

――――



窮屈な会議を終え、精神的に疲れて痛むこめかみを揉みながら帰宅したケトーを出迎えたのは、いつものメイドたちと、べフィル達だった。

ルピナの、ここにお邪魔したい、宿泊費は払う、との申し出に鷹揚に頷き、有難く適度な金額をメイドに渡してもらい、食費にすると明言してから、ぶすくれた様子のべフィルの前に立つ。

メイニィに脇腹を肘で小突かれ、渋った様だったがぺこりと頭をさげるべフィル。


「いきなり斬りかかって済まなかった…。」


その謝罪にうむうむと頷き、良い太刀筋であった!と褒めてから大きな手でわしわしとべフィルの下がった頭を撫でくり回す。

ぐわんぐわんと揺れる頭に身体ごと揺すられて転けそうになりながらも甘んじて受け、ぐちゃぐちゃになった髪を直しながら顔を上げる。そして壁に掛けられたバジリスクを睨みつけながら、


「メイニィは俺の後ろにいたからなんも見てないだろうけど、俺は一瞬だけ後ろ姿を見た。黒い角と、緑の髪だった。生憎、それ以外の容姿はモヤがかかったみたいにうろ覚えなんだ…。」


べフィルの言葉に深く頷くケトー。少しでも情報がわかった事に感謝する。

そうこうしているうちにケトー達がいたロビーにマリ達も集まってきた。相変わらずケイローはマリにベッタリで、チェザーレが何度引き離しても直ぐにマリに駆け寄っていくのだ。

何度も引き離され、涙目でチェザーレを睨むケイローに、マリも大人気ない、とチェザーレを窘めていた。

そんな事をマリの口から聞きつつ、食事にしよう、とケトーが促す。

控えていたメイドを一瞥すれば万端滞りなく、と返って来る。

チェザーレらを伴って広い食堂に行けば、テーブル狭しと並べられた料理に、ケトー以外の一同が小さく声を上げる。


「竜王陛下がいらっしゃるのだ、粗末な食事などだせますまい。」


当たり前のように一番の上座をチェザーレに案内するケトーに、眉を寄せたチェザーレがお前が家長なのだからお前が座れと無理やりケトーの巨体を座らせ、自分はマリの横の席を陣取る。


「さ、ケイロー坊っちゃま。お食事に致しましょう?」


マリの膝の上にいるケイローに視線を合わせるように屈みこんだメイドが声をかけるが、イヤイヤと首を振ってマリから離れないケイロー。

困ったメイドに見かねたマリが、


「ケイローは普段どうやって食事をしていますか?」


「私共の膝に座って食べさせて差しあげております。」


マリの問いにそう答えたメイドに、ならば代わってやります、と笑うマリ。

慌てふためくメイドに食事の用意だけお願いします、と言い切って膝に陣取るケイローの頭を撫でる。

機嫌がいいのか、クゥクゥと鳴くケイローに、申し訳ありません、と頭を下げて下がるメイド。ケイローの食事もマリの前に用意され、成り行きを優しい眼差しで見守っていたケトーが一声上げて食事が始まる。

ケトー曰く、食事のマナーなど気にせずに食べて欲しいという計らいに感謝しつつケイローに匙を持っていきながらマリも美味しい食事に舌づつみを打つ。

チェザーレは勿論だが、べフィル達も予想外に食事の作法が整っていることに驚くマリ。

一般人の自分はフォークとスプーンで手一杯だと言うのに…。

マリの視線に気づいたギースが意図を理解して笑う。


「冒険者なのにお行儀がいいだろ?(ゴールド)級にもなれば、貴族や王族の依頼もあるからな。それなりにマナーが出来ないとダメなんだよ。」


綺麗にフォークを使うギースはエルフというのも相まってとても絵になる。

それをぽけっと見ていれば、その隣で肉を頬張るべフィルを冷めた目で見つつ、メイニィが苦笑し、


「とは言っても、このとおり、べフィルに人並みのマナー叩き込むの苦労したのよ?」


この通りだもの。とグラスにゆっくり口を付けるメイニィに、肉を頬張ったままのべフィルが何事か言うが、それすらも彼女に窘められていた。




――――

「して、陛下。私に何かお話があるとお伺い致しましたが…」


粗方食事を終え、お茶を飲んでいたチェザーレに、ケトーが問いかける。

カップを置き、それに頷いてから、自分たちがなんの目的でここに来たのかを話すと、ケトーはゆっくりと頷いた。


「ふむ…。その少年の行方を探るご協力は惜しみませぬ。しかし、武闘大会に出場…。失礼ですが、その少年は、そこの彼らと同程度の手練なのでしょうか?」


ケトーの視線の先には食べすぎたのか若干あおい顔でお腹を摩るべフィル。

話を振られたのを感じて顔を上げ、キョトンと首を傾げる。


「そうだな…万に1つの勝ち目もない上に、一太刀浴びせるのも奇跡なんじゃないか?」


辛辣なチェザーレの言葉であったが、ついこの間まではこの世界ではない平和な世界で過ごしていた少年と、歴戦の戦士を比べることの方がおかしいのだ。


「ふぅむ…ならば武闘大会に出たとて、予選の乱闘で落とされるのではなかろうか…。」


顎に手をやり、もふもふと擦りながら言うケトーに、出場すれば確実に捕まえれるとチェザーレが返す。


「俺達もそれ目的で来てる。他の奴らのリサーチもしておく必要があるからな、ついでにその少年も探っておく。依頼でもあるしな。」


ギースの口添えに頷き、明日以降は各々情報収集に務めるという方向で話が纏まり、各自宛てがわれた部屋へと引き上げていった。



マリに宛てがわれた部屋へと入り、船を漕ぐケイローをどうしようかと思っていれば、控えめなノックの音で振り返る。

ドアを開ければ猫のメイドがケイローの愛用だという毛布を持ってきてくれた。

本来なら寝かさなければならない仕事だが、ケイローが大人しくしているのは久しぶりだと微笑む。迷惑でなければご一緒に過ごして欲しいと頼まれて快諾したマリは、毛布を預かってメイドを見送り、本格的に寝てしまった寝てしまったケイローをベッドに寝かせた。

下ろした瞬間はぐずっていたが、毛布を掛けると大人しくなって気持ちよさそうに眠るケイローを何度か撫でてから、大きな窓に近づく。

まん丸のお月様が淡く輝く夜空を見上げ、椅子が置かれたベランダへと足を向けた。

優しい月明かりを浴びつつ屋敷から見える街並みを眺めていると、ふわりと影が落ちる。次いで月明かりを跳ね返す赤毛が目に飛び込み、


「風邪をひくぞ。」


低めの声でそう言われて、大丈夫と返すが、納得していないのか影の主、チェザーレは自身が羽織っていた深い紅の上着をマリの肩にかけつつ、断ることなくその隣に腰掛けた。

小さく礼を言いながら、ちらりとチェザーレの顔を伺えば、普段通りの綺麗な横顔。


「いくら王様でも、世界中の全ての事を知ってなきゃダメだなんて事はないと思うよ?」


チェザーレの横顔を見ながら、浮かんできた言葉をそのまま口にしたマリに、目を見開いて顔を向けるチェザーレ。

表面に出していたのか、と思わず口元を手で覆うが、マリは苦笑して精一杯手を伸ばし、高い位置にある手触りのいい赤毛を撫で回す。

今日一日ケイローを撫で回していたのもあって、無意識のそれに、チェザーレの力が抜けて、ことん、と細いマリの肩に頭を預けた。

マリ同様、街の光を見ながら、


「母上が俺を送り出した理由がよくわかった…。俺は、統治するにしても知らなすぎる…。」


ぽつんと呟いたチェザーレの言葉をマリは静かに聞く。

昼間、ケトーの話を聞いて、彼なりに落ち込んでいるのだろうと思ったマリは慰めの言葉よりもただ傍で聞くことの方がチェザーレにとっていい事だと考え、ただ静かに、肩の重みを感じていた。

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