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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
三章―英雄と獣王国編―
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3章

72

――――



各々テントに潜り込み、見張りの一番のべフィルと、寝ることのないチェザーレが焚き火の火を眺めながら静かに過ごしている中、ぽつりとべフィルがチェザーレに尋ねる。


「なぁ、さっきラダ翁が、この場には自分より高位の竜がいる、って言ってたよな…。エンシェントドラゴンより高位の竜って…チェザーレ、お前一体…」


手に握ったコップに注がれたお茶の揺れる琥珀色を眺めながら言うべフィルに、深くため息をついたチェザーレは、言うと面倒だから言わなかったが、と前置きして、


「当代竜王だ。統治してから50年ぐらいしか経ってない若輩竜王だがな。」


「…まぁ、それぐらい高位だよな、当然…。戦い方もとんでもねぇと思ってたが…。ルピナが卒倒してないのが奇跡だな…。」


かの神官の信仰心は篤く、教会のシンボルでもある竜の神とはまさしくチェザーレの母、星竜ジルヴァーナを指す。

彼女の息子の事など、教会では幼少の頃から叩き込まれ、星竜の子ともなれば神にも等しい存在でもある。

今のところ、信仰心による暴走こそしていないが、近いうちに拝み出しかねないと言えば、勘弁してくれと嫌そうに首を振るチェザーレ。

竜王と言われ、驚きはあるが、何故かストンと納得してしまい、敬うべきなのだろうが、嫌そうな顔のチェザーレと、最初にそれを言わなかったことを思い出して、今までのままの方がいいか?と問えば、そうしてほしいと返される。

それににかっと笑い、コップを持ち上げてチェザーレに差し出すべフィル。

意図がわからず、キョトンとするチェザーレに、コップを揺らして差し出すよう催促し、差し出されたそれにコツンと自身のコップをぶつける。


「これも何かの縁だ、人間のダチなんざ必要ねぇかもだが、なんかあったら頼ってくれ!安くしとくぜ!」


冗談めかした言葉だが、チェザーレの薄い紫の瞳が見開かれる。

次いでじわじわと胸を占める感情に苦笑を漏らし、頷いた。


「人間の友人はお前で2人目だ。宜しくな。」


「お、じゃあ俺は3人目になろうかな。」


チェザーレの言葉に続くように、ぬっと差し出された空のコップの先には、仮眠から起きてきたギースがいた。

交代だぜ、とべフィルに告げながら焚き火に掛けていたポットからお茶を入れる。

べフィルに代わって腰を下ろしながら温かなお茶を飲んで眠気を覚まし、一息つく。


「竜王陛下の友だなんて、最高の名誉だなぁ…。俺らは特にこれといった特殊な能力なんざないからな…。」


(ゴールド)級にまで登りつめておいてか?」


茶化すようなチェザーレの返しに、温かなお茶で臓腑を温めながら笑うギース。

転がっていた小枝を手にし、焚き火に近づけながら、その火を見つめる。


「そんなもん、死にたくない一心で意地汚く生きてきた結果だ。べフィルは、剣士の腕は一流だが魔力が少ない、ブーストも長時間は持たない。メイニィは精霊が全く見えない、存在はかろうじて分かるが、姿を見たことは無い。魔法は有り余る魔力で現象として行使してる。ルピナはシルベアナのいいとこのお嬢様だったんだが、星竜信仰に目覚めたせいで、親に殺されかけて友だった精霊とも話せなくなった。んで、俺は魔力もあるし精霊とも話せる、だが魔法を行使できない。俺の魔法はほとんどがシルフが肩代わりしている。俺が使っているように見せているだけだ。」


ぽつぽつと語られた内情に目を剥くチェザーレだが、先程見た彼らの戦いはそれらを全く悟らせないほどに力強かった。

そうか、と一言だけ返し、あとは静かに時間が過ぎるのに任せる。



体内時計でおおよそ朝らしい時間になっても、この森は薄暗かった。

日が当たるまではまだかかりそうだなと思いながら、小さくなり始めた焚き火に指を鳴らして火を足すチェザーレ。

ぱちりと弾けた火花の音に、ぴくりとルピナの肩が震える。

少し前まではぽつぽつと話していたが、静かになっていたのでウトウトしていたのだろう。

周囲を見渡してまだ薄暗いことに納得しつつ、焚き火にかけたポットの中身を確認して皮袋から水を足す。

沸くまでの間、じっとチェザーレを見つめるルピナ。

見張りを交代してから、すこしうとうとしてしまっていた間以外、ずっとこの調子で、チェザーレとしても居心地があまりよくない。


「ルピナといったか、いくら俺を見ても加護など与えられないぞ?」


「そんな恐れ多い事は…!お姿をこの目に焼き付けているだけです…!」


放っておいたら祈りだしそうな勢いの彼女に、自然と浅くため息をつく。

その様もうっとりと見られて余計に辟易するが、彼女の信仰心に文句を言う気は無い。

ただ自分ではなくここにはいない母に向かって頼む、とボヤきたかった。


「ふぁああ…あー、腹減った…。」


もぞもぞとマリのテントから履い出てきたジアンのあくび混じりの一言に、視線が集まる。

ルピナはまだ温い白湯をお皿に入れてジアンの前に差し出し、有難く舐めるジアン。


「そういえばお前は獣王国から来たんだったな。」


ふと思い出したようにチェザーレが言えば、皿から顔を上げたジアンがおう、と頷く。


「って言ってもオレのいたトコはこっから更に東の精霊国との国境に近いとこだぜ?それにオレは混じりだからあんまよく思われてなかったし、身寄りもねぇしな。」


ジアンの言葉に、それは済まなかった、と素直に謝るチェザーレだったが、ジアン自身さして気にしていない上に、今のこの生活が楽しいと付け加え、マリを起こしてくる、とテントへと入っていった。

その背を見送っていれば入れ替わるようにべフィル達が起き出してくる。

ルピナに白湯を貰い、布に浸して顔を拭きながら焚き火の前に腰を下ろし、各々朝食の用意を始めた。

やがて寝ぼけ眼のマリモ起き出してきて、身支度を整えて朝食を口にする。


「獣王国には今日中には着くはずだ、着いたらまずは冒険者ギルドに行きたい。イツキ達がもしたどり着いてるなら一度は立ち寄ってるはずだからな。」


ギースの言葉に全員がこくりと頷き、テントを畳んで野営地を崩し、取り囲んでいた石を適当に散らすと、手に草を狩るための短刀を握ってギースが先導し始める。

背の高い草を切り分け、たかってくる虫を払いながら進むと、森の様相が変わり出す。

草は下草程度の長さになり、木々が生い茂って空を隠す。

ざわざわと風に揺れる枝の音に混じって獣の鳴き声が時折聞こえる様になり、澄み切った空気を肺いっぱいに吸い込んだマリが楽しそうにあちこちを眺めていた。

そんなマリの様子にメイニィやルピナは頬を緩ませ、森に生える草や花の話などを教えてやる。

そうやって進んでいると、目線の先に森の終わりが見え、その先には石畳と強固な門が目の前にそびえ立っていた。

門の前には犬の顔をした二足歩行の獣人が2人立っており、マリ達の方へと視線をやっていた。

彼らの元へと歩み寄り、べフィル達は冒険者のプレートを、マリ達は王城許可証が有効なのか不安に思いつつ取り出そうとしてチェザーレがそれを遮って前に出る。

兵士の1人と向き合ったチェザーレはミシリという音ともにその紫の瞳を竜のそれに変え、牙の覗く口元に笑みを浮かべて、


「 戦士ケトーに、チェザーレが会いに来た。そう伝えろ。」


低くそう言えば、兵士は尻尾を足にまきつけ、ガタガタと震えながらしきりに頷く。

そしてもう一人の方を見て頷くと、猛然と門の中にかけこんでいった。


「えぇ…ケトーって言ったら獣族屈指の歴戦の猛者じゃねぇかよ…。どういう繋がりだよ…。」


「昔、あれがまだ鼻たれだった頃に、ちょっとな。」


ドン引きしたべフィルに、元の瞳に戻したチェザーレが笑いながら言う。

ちょっとってなんだよ、と言おうとした矢先に重厚な音を立てて門が開かれ、その中央には自身の背丈ほどもある大きな斧を地に刺し、その後ろで片膝をついて礼をとる真っ黒な熊の獣人がいた。


「お久しぶりでございます、義兄上。」


熊の戦士が顔を上げていう。その顔の左目は赤い革の眼帯に覆われ、残る右目は、青紫だった。

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