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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
一章―異世界来訪編―
7/116

1章

7

――――


王の執務室を出てから迷うことなく進んでいく元兵士に手を取られたままついて行くマリ。

もはやここがどこだかすら分からない。

王城というものはこんなにも広いのか、などとぼんやり考えながら前を歩く広い背中と綺麗な赤毛を見上げる。


(さっきの陛下とローウェンさんの態度からするに、きっとこの人?は高位の竜なんだろうな…すれ違うメイドさん達も丁寧に頭を下げてるし…)


この星の生き物の頂点にいるのが竜種。

その竜種でも位があるという。

低位の竜はそれこそ魔物と変わらない野生そのままの生き物で、高位になればなる程、様々な事が出来るという。

魔法や体の大きさを変えたり、違う生き物に姿を変えたりと多才にこなす。

得意とする魔法はその鱗に現れ、水魔法が得意な竜は総じて青系統、風ならば緑系統、と言った具合だ。


(さっき火竜って言ったし、この赤毛…きっと火の魔法に特化してるんだろうな…ということは、さっきのあれは…)


思考の波に囚われ、周囲の変化に無頓着になるのはマリの悪い癖だ。さっきの暖かい風もこの竜が?と思い、ふと顔を上げると、バチリと薄紫の瞳と目があった。


「…ついたぞ、って何回も言ったんだが…考え事か?」


呆れたような声音に瞬きで返すマリ。いつの間に…と周囲を見渡すと、豪華な扉の前に立っていた。

先程いた王の執務室とは違い、金で出来たドアノブを気にする素振りも見せずに無造作に開け、身体で押えながらマリに入るように促す元兵士。


過ごしやすさを重視したような物の少ない部屋だった。続きの間になっているのか、入って左右に1つずつドアが見える。正面には大きめの机とその奥は一面の窓、そして広いバルコニーも見える。


まぁ座れ、と手前にあるソファへマリを促してから、元兵士自ら茶でも振舞おうとポットに手をかざす。

そのままポットを持ち上げてティーカップへと中身を注ぎ、マリの間に置いてから向かいへと腰掛けた。


「…暖かい…これも火の魔法ですか?」


置かれたカップを手に取って1口飲み、ほっと息を吐いてから呟くようなマリの問いかけにふっと笑うことで肯定を示す。


「そういえばまだ名乗ってなかったな。チェザーレだ。」


チェザーレと名乗ったその竜はソファの背もたれに背を預け、ゆったりと足を組んで楽しげにマリを眺め、質問をどうぞ、と笑った。


「…さっきの執務室で、幸野さん達が泣いていた時に、ソファの隅に黒いもやが見えました。あれは何だったでしょうか。それに、あの暖かい風。あれが頬を撫でた時に何故かほっとしました。山口くんもそれをきっかけに思い直したように思えたんですが…」


今までの無口はなんだったのかと言うぐらいに気になったことを口にするマリに僅かに目を見開いて聞き、その問いが収まったのを見計らってチェザーレも口を開く。


「まず、その敬語はいらん。共に旅をするならその話し方は煩わしいだろ。」


最も気になっていたことを最初に告げ、ついで先程のことを思い出すようにぱちんと指を鳴らす。途端に頬を撫でるあの暖かい風。


「察しがいいな。というかよくアレが見えたな…普通の人間にはあまり見えないと思っていたんだが…ローウェンのように竜に近いのならともかく…」


さらりとなにか重要なことが紛れていたような気がするが、とりあえずとばかりに黙って聞き入るマリ。敬語云々も後回しだ。


「まずあれは生き物の負の感情を喰らいに来るモノ、になる前の予兆だ。闇と魔の気配、と俺たちは呼んでいる。アレが広がるとやがて生き物は飲まれて魔に堕ちる。所謂魔物になってしまう。魔物になった生き物を戻すことは出来ない、殺してやるのがせめてもの慈悲だ。」


あれをあのまま放っておけば、あの3人は魔に堕ちるところだった、と暗に告げられ、さすがにそれは可哀想だとマリも思う、それに3人では済まなかったかもしれない。いくら自分は悲しんでいなかったとはいえ、目の前で魔物になられるとあの場にいた全員が襲われていた可能性もあった。

今更ながらにぞくりとし、自然と腕に浮かんだ鳥肌を摩る。


「さっきも言ったが俺は火竜だ。火の魔法に特化しているからな、冷えた空気ってのは、俺と相性が悪いんだ。自然と温めちまう。結果的にそれが功を成した、って事だ。」


そうなんでもない事のように言ってのけ、周りが暖かいと気持ちも持ち直しやすくなるだろ?と笑う。


「もしかして貴方は高位の竜なんじゃ…」


チェザーレがマリに読みやすいからと渡した本の中には、竜に関する本もあった。

人になれること、なんでもない様に周囲の温度を変えて闇と魔の気配を払ったこと、そしてジラール王でさえ驚いたほどの存在ならば、相当高位なのでは…と訝しがるマリに自身の顔の前でブンブンと手を振って否定するチェザーレ。


「高位の竜ってのは住処から滅多に出てこないもんだ。俺はどこにでもいる火竜の1匹に過ぎない。それでもまぁ、そこらの人間や魔物には遅れは取らねぇから、護衛は任せな。」


そう言って明るく笑うチェザーレに、やはり失敗した気がする、と3度思うマリだった。

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