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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
三章―英雄と獣王国編―
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3章

68

――――



翌朝、空の色が薄らと明るくなる頃合に、べフィル達が起き出してきて、朝食の用意を始める。周囲が十分に明るくなった頃に、チェザーレがマリのいるテントに赴き、朝を伝えてから、それほど時間を置くことなくマリが起き出してきて、ルピナから温かなスープを貰い、朝食をとりながら行く先の確認をし、テントを畳んで野営の跡地を片付けてから砦へと歩き出した。


薄く白い煙が立ち上る砦の門の前で、べフィルたちは各々胸元に吊った冒険者のプレートを、マリ達は王城許可証を見せて、あっさりと通り抜けることができた。

そこから更に半日ほど歩き、太陽が真上に差し掛かる頃に竜王山の麓にある村とも集落とも呼べないような家が数軒寄っている場所を見つけた。

ギース曰く、この場所に彼の知り合いがいて、この奥から山に入れるとのことだった。

視線の先に家が見え始め、もうすぐだ、とべフィルが声をかけた時、ふわりと吹いた風に、ジアンとチェザーレがぴたりと動きを止めて、家の方を見つめる。


「どうしたの?」


2人の様子にマリが思わず声をかければ、嫌そうに眉を寄せたチェザーレがギースを呼んだ。


「もしかしたら手遅れかも知れないが…お前の知り合いに、今すぐ連絡は出来るか?」


その言葉にべフィル達の表情が引き締まる。

ギースはシルフに頼んで風を届けてもらい、暫し待った後に、ぐっと眉を寄せて首を振る。


「返事がない…。シルフはみんな昼寝していると言っているが…。」


ギースの言葉に、急ぐぞ。とべフィルが皆に声をかけ、ジアンがマリに背に乗るよう促して、乗せると、一気に駆けだした。

マリを乗せているとはいえ、ジアンの足が最も早く、次いでチェザーレ。驚くことに、人外の彼らに遅れない程度にべフィル達の足も早い。

特にフルプレートを纏ったべフィルは一番重量があるはずなのに、足取りに全く重みがない。それを感心しなが数軒の家が並ぶ場所へとたどり着いた。

どうやらこれでも集落として成り立っているようで、家の周囲には小さいながらも畑があり、中心には井戸もあった。

だが人1人居らず、不気味に静まり返っていた。

ギースは迷わず1軒の家に入り、ソファで寝ているように見えるエルフの男を揺さぶる。


「おい、ナッゾ!おい!」


声をかけ、しつこく揺さぶっても彼は目を覚まさないどころかピクリとも動かない。

ルピナが近づき、横たわる男性の手をとって僅かに驚きつつも、脈を見てから首を振る。


「亡くなっています。」


ルピナの言葉に、ギースはぐっと唇を噛み締める。

彼らの背後、今入って来たドアからチェザーレが入ってきた。振り返ったべフィル達に、チェザーレも首を振って、


「他の家にいた人達も同じだ。眠っているようだが全員死んでいる。ただ、1人だけ血まみれの部屋で死んでいる。」


皆が同じような死因の中、1人だけ状況が違うとなれば不審ではある。急ぐ身の上ではあるが、放置する訳にも行かず、それを調べると同時に、彼らを埋葬してやるべく、運び出す。

ルピナの祈りの下、アンデッド化しないように丁寧に埋葬し、ひとつ残った血まみれの部屋にあるであろう死体の元へと赴く。

1軒の家の中にあったらしく、ドアを開けた途端にむせ返るような血の匂いが鼻につく。

マリは見なくていい、とチェザーレに押し止められたが、大丈夫、とそれを押し切って中に入る。

チェザーレの案内の元、簡素な家の一番奥、恐らく寝室だったであろう部屋のドアを開ければ、そこは正に血の海だった。壁だけではなく天井にまで飛び散った血は、乾いて黒く変色している。

簡素なベッドの上には仰向けで寝転がる男性。

彼も、他のものと同様に眠っているような死体だった。

なにより、外傷がどこにも無い。

死体を調べようとしたギースに、


「離れて!!」


叫ぶように重なった声は、ルピナとマリのものだった。

2人の声に迷うことなく従ったギースは、そのお陰で次に来る異常を免れた。

びくりと跳ね起きた死体の口から、ぎょろりと1つ目が覗く。

咄嗟にべフィルは背中にあった大剣を引き抜き、狭い部屋でもお構い無しにその勢いを持って振り抜く。

縦に振り抜いた剣は、起き上がった男性の頭から股までを真っ二つにし、びくりと震えて2つ続けて崩れ落ちる音がする。

彼の口の中から見えた目玉はどうやってあの体に入っていたのか、人の頭ほどもある目玉に小さな羽と尖った尻尾、ギザギザの牙が覗く口がくっついた様な姿で、どうやったのか真っ二つの体から抜け出して部屋の高い所を漂って彼らを視界に収めていた。

その視線が、チェザーレに向こうとした瞬間、

その体が炎に包まれる。

聞くに耐えないような悲鳴を上げてのたうち回り、ぼとりと床に落ちて動かなくなった所をチェザーレの足が蹴り潰す。

完全に炭になっていたのか、ぼろぼろと崩れ落ちたのを見てとりあえず出ようと促す。


「あれはゲイザーだ。闇と魔の気配が濃いところに生まれる魔物で、飼い主に視界から得た情報を送るよう命令されていたんだと思われる。」


先程の目玉についてチェザーレが説明し、あの母娘のどちらかの差し金のような気がする、と付け足す。

真っ二つにした死体はアンデッド化することはないだろうがこのままでは哀れだということでチェザーレが荼毘に付して、集落の奥にあったけもの道へと足を踏み入れた。


「しかし、なんだってあんな真似を…?」


「恐らくだけど、あたしたちの監視のためじゃないかしら…。あそこにいた人たちの精気を餌にしてゲイザーを喚んだ。それで契約してあたしたちを待たせてたんじゃないかと思うわ。」


べフィルの問いかけに答えたのはメイニィだった。

彼女も魔法使いとして多くの知識を有している。先程の状況から経緯を読み取ることも可能だった。


「部屋が血まみれだったのは…?まさか、やまぐ、イツキ君の…?」


青ざめたマリの問いかけに、メイニィは安心させるようにマリの頭を優しく撫でて首を振る。


「あれは恐らく、あの人間を調べさせるための演出みたいなものね。現に、ギースが引っかかったでしょう?(ゴールド)級とは思えない失態だけれど。」


ちくりと針を刺すようなメイニィの言葉にぐっと押し黙るギース。

だがそれがイツキのものではないのか、と問うマリに、メイニィの反対方向から柔らかな声がかかる。


「違うと思いますよ、せっかく同行者を得たのに、そんなに直ぐに手放したりはしないでしょう。ましてや血だけ撒いて残りの肉体は持っていくなどという面倒な事もね…?食事の跡などもなかったですし。」


にこやかな笑顔でさらりと言ってのけるルピナに、若干引きながらもマリは納得した。


ざくざくとけもの道を登っていれば先に誰か通ったであろうことがよく分かる。

踏みしめて折れた草はまだ新しく、道を邪魔するように伸びていたであろう折れた枝の切り口もまだ新しいものだった。

このまま進めば、そう遠からずイツキたちに追いつくのではというべフィル達の予想を裏切るかのように、ギースが声を上げた。


「止まれ!なんかくる…!まだ結構遠いがかなりの速度だ…。シルフ!」


長い耳をぴくりと跳ねさせて言う彼の声に答えるように風がまう。

その風を頬に浴びてチェザーレの目が眇られ、ジアンが低く唸る。


「レッサードラゴンの群れだ…。」


ぽつりと呟いたギースの顔には、白磁の肌でも分かるほどに青ざめていた。


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