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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
三章―英雄と獣王国編―
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3章

65

――――



「まず結論から言うと、イツキという少年はもう王都にはいない。あんたらがギルドにくる前日に、王都を発っている。」


ギースの口からもたらされた話に、自然とチェザーレの表情が険しくなる。

結論だけを聞いて後はこちらで追うつもりでいた為、そのまま席を立とうとして、この間のように止められた。


「まぁ待てって。竜王山の方面には向かったが、こちらもただ追っかけてたわけじゃないぞ。」


続くギースの言葉と不敵な笑みにこくんと息を飲むマリと、座り直したチェザーレ。

とりあえず聞く気になったのを見てとり、ごそごそと鞄を漁って何枚かの紙を取り出してテーブルに並べる。

視線をやったマリが見たのは、城を出てから王都を発つまでのイツキの詳細な足取りと、同行者についてだった。


「すごい…お城の騎士団の人でもほとんど分からなかったのに…。」


ぽつりと呟いたマリに、フッと笑ってトントンと机を叩くギース。その手元に風の玉が生まれ、シルフがちょこんと座って得意げにマリを見上げた。


『風に隠し事なんてできないんだよ!』


フフンと鼻息荒く言うシルフにすごいね、と素直に褒めるマリ。

まぁそれで分かったことだが、とギースが口を開け、


「あの少年に同行してるのは獣人の母娘。名前まではわからんが深い緑の髪と羊の巻角が特徴だ。少年の行方が掴めなかったのは恐らく見せる姿を変えるアクセサリーの類を使ったからだと思われる。で、とりあえず少年はおいといてその母娘を調べたんだが…一切不明だ。獣王国からの商隊の護衛の冒険者の一組として王都入りし、ギルドで少年に声をかけたようだな。王都での足取りは分かったんだが、それ以前のものは全くわからん。」


一旦言葉を切り、果実水で喉を潤すギース。

マリはチェザーレを見上げてどう思うか視線で問う。

マリの視線に、こくりと頷くチェザーレ。

脳裏にはついこの間、マリを攫うためにレイナを利用した金髪の男が浮かぶ。

タイミングが良すぎるのだ。

あれが組織だったものだとして、次にマリの周囲を狙うのに、イツキという少年はドンピシャだと思われた。

そこからどうやってマリにたどり着くのかまでは不明ではあるが、警戒はするに越したことはないと、チェザーレは素早く脳裏で結論づける。

チェザーレたちの視線のやり取りを目を眇めて眺めるギースに、チェザーレが視線を戻す。


「それで、その母娘とイツキは竜王山に向かったのだな?」


チェザーレの確認のような言葉に、行先は間違いなくそうだ、とギースが返す。

首を傾げるチェザーレだったが、マリには分からずキョトンとする。


「王都から最短で竜王山の麓に行こうと思えば、1日半って所だ。だが、人が通れるような所には大抵国の兵士が詰めてるんだよ。で、んたらに頼まれた俺はまずそこに人相書きを送った。まぁその時点で抜けてたら終わりだったんだが、その話は聞いちゃいない。」


ギースの話を一生懸命時系列に当てはめて考えるマリ。

その横でそれをマリよりもずっと素早く理解したチェザーレが薄く笑う。


「その時点で間に合ったということは、凡そ人が通る道を、アイツらは通れないということだ。人相書きが届いた時点で、魔道具の類を見破る措置をするだろうからな。ギルドの差し金か?」


チェザーレの確信めいた問いかけに自信たっぷりに頷くギース。

だがすぐに真面目な顔になり、もう1枚の、今度は羊皮紙を取り出す。

くるんと巻いているそれを広げると、それはどうやらこの世界の詳細な地図のようで、あちこちに細かな字であれこれと書き足してある手製の地図だった。


「これは俺が書いた書いた地図なんだが、ここと、ここからここまでは国の兵士が詰めている。それで、ここは砦になっていてここにも騎士がいる。んで、警戒区域を逃れて竜王山に行こうとすれば、ここしかない訳だが…。この場所は俺の知り合いが常に張っていてな…。先日、人相の似た3人組が通ったらしい。で、少し小細工をさせてもらってな。」


地図を指さして小さな点や門のようなマークを押さえながら説明し、最後の丸で囲った部分の説明の後に言われた言葉にチェザーレとマリが首を傾げた。

ニヤリと楽しそうにエルフの美貌からは想像ももつかないような悪い笑顔を浮かべるギース。


「エルフだけが分かる目印を付けさせてもらったのさ。」


わざとらしく首を傾げて先程とは違う種類の、それでも企んでいるのではと思えるような笑みを向けてくる。

それを目にしたチェザーレの眉間に盛大に皺が寄せられ、薄い紫の瞳が剣呑に細められた。


「ほぅ?ならばその知る方法を教えろ。」


チェザーレの不機嫌な返答に、予想済みだったのか、まぁそうなるよな、と気にした素振りもなく呟くギース。その返答を先送りにし、


「少年をみつけて連れ戻した後、あんたらは世界樹、いや聖樹ユグドラシルに行くんだろ?」


続くギースの言葉に、流石のチェザーレも驚く。その話は、国王の執務室でしかしていない話だ。そしてあそこの守りは完璧である。知るはずのない情報を吐いた目の前のエルフを睨むが、彼はにこりと笑うだけだ。


「おおかた、話好きのドライアドだろうぜ?」


ぽつりとテーブルの下から声がして、それにギョッとするギースと、テーブルの下で呑気に欠伸するジアンを覗き込むマリ。

納得したような顔でギースを睨むチェザーレは、国王の契約精霊が樹木の精霊ドライアドで、恐らくは執務室に置いてある観葉植物に宿り、その場で話を聞いていたんだと把握した。

行くかもしれないがそれはこちらの話だとチェザーレが断ろうと口を開きかけ、近づいてくる気配にすっと顔をそちらに向ける。

ギースに向かって手を振りながら近づいてきたのは、彼のパーティーメンバーの3人だった。

彼らは隣のテーブルを動かしてくっつけ、椅子を並べて思い思いに座りながら話は進んだか?と問うてくる。

ざくりとしたあらましを話して聞かせたギースに、べフィルが頷き、満面の笑みをチェザーレに向けた。


「あっちはもう竜王山に入ってる。で、俺たちはエルフもいる(ゴールド)級冒険者だ。」


べフィルの勿体付けた言い方に何となく行方を察するチェザーレ。


「お前らを雇う金なんてないぞ。」


実際金銭の問題ならばアウローラに言えばどうとでもなるが、彼らを断るには1番効果的なのが金銭だ。なにせ(ゴールド)ともなれば、依頼料は目が飛び出るほどに高い。

それを知っての言葉だったが、彼らもそれを分かっているのか、にこりと笑ったまま表情を変えない。


「ギルドが全額負担する。あいつらの体面を保つためってのもあるみたいでな。さっき俺たちに正式に依頼を出てきた。俺たちは俺たちで別に行ってもいいんだが、どうせなら一緒の方が面白そうだしな。」


ぺろん、と依頼書らしき紙を取り出して見せるべフィルが言えば、同行まではギルドの意図したものでは無いと把握するも、もし万が一、イツキと同行している母娘が、ナイアーラトテップのような存在だった場合を考えると、余計な手間でもあるが、反面戦力になるとも言える。

なにせ人間だけの括りで言えば相当に強いのだから。


「それに、どうせその足でユグドラシルまで行くんだろ?なら俺たちは獣王国に用があるからな。一緒に行こうぜ。」


その話はギースが知っているのだからべフィルも知っていて当たり前で、なんの用があるがあでは聞く気になれず、重いため息を吐いたチェザーレは、隣でぽかんとしているマリを見下ろした。


「マリ、お前が決めろ。」


そう言ってのけ、果実水を口にして染み渡る甘みで疲れた脳を癒す。

突然判断を振られたマリはえっ、と呟き、チェザーレとジアンを除く視線を浴びて肩を跳ねさせる。

彼らの申し出はマリとしてはありがたいと思う。

先の騒動で、チェザーレはともかく、ジアンは全身をボロボロに痛めつけられた(半分はチェザーレからの暴行であるがマリには伝わっていない)のを見ている。

彼らの戦力があれば、ジアンも、チェザーレも、怪我をしなくて済むのではないかと思った。

ぐっと息を飲んで決心し、目の前にある彼らの顔を真っ直ぐと見つめ。


「お願い、します。」


ぺこりと頭を下げるマリの頭上でそうこなくっちゃな!と笑う声と、女の子と一緒なんて久しぶりねぇと女性たちの声が重なる。

そして隣をちらりと見れば、そうなるだろうと予測していたのか、果実水を飲みながら地図を眺めるチェザーレ。

ふいにその視線がこちらを向き、コップを置いてぽんぽんと頭を撫でられる。


「俺たちの戦力を疑っての判断じゃないことぐらいわかってるさ。」


ぽそりと囁くように言われ、疑われるかもしれないと僅かに不安だった心が晴れる。

目いっぱい頷き、ようやく笑顔をチェザーレに向けた。

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