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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
三章―英雄と獣王国編―
62/116

3章

61

――――



「チェザーレ、なんか態度悪かったけど…あの人たちを知ってるの?」


ギルドを出た道すがら、先程まで話していた4人組との事を問うマリに、いいや、と首を振るチェザーレ。


「人間の冒険者に知り合いはいないな。だがアイツらは恐らくドラゴンスレイヤーだ。」


「ドラゴ…?」


聞きなれない言葉にキョトンとするマリ。

それを補足するようにジアンがマリの横に並ぶ。


「竜殺しのことだ。あいつらからその匂いがした。多分殺してそう時間が経ってねぇ。」


ジアンの言葉に、先程見たベフィルの人懐っこい笑顔が浮かぶマリ。

チェザーレにとっては同族を殺されたという認識故にあの態度だったのだろう。むしろまだ理性的な方かもしれないと思う。


「竜殺しといっても、ただそこに居るだけの竜を悪と決めつけて討ったか、闇に飲まれ、堕ちたものを退治したかは分からないからな。一概に責めはしない。ただ、前者と分かったらそれなりの報復はさせてもらいたいがな。」


チェザーレの言葉にしょぼんと項垂れるマリ。内情はわかっても、そういう争いは見たくないものだ。そうならない事を願いつつ、歩を進める。


「今日はこれで用は終わり?」


お昼前のこの時間、もう少しで城の前に着こうというあたりでマリが問いかける。

立ち止まってそうだな、と思考を巡らせるチェザーレに、昼飯食っていこうぜ!とジアンが提案した。

丁度見計らったようにふわりといい匂いが鼻腔を擽る。

匂いのほうに顔を向ければ、通りの向かいにある大きな宿屋だった。

どうも宿屋の一階が食堂になっているらしく、今の時間から結構な賑わいが聞こえる。

特に迷うことなくそこに決めたチェザーレ達は店先で案内していた女性に促されるまま入る。

中は熱気と様々な匂い、喧騒に溢れかえっていた。

素早く周囲を見渡した女性は、今まさに食事を終えた席へと案内し、そのままテーブルの上をすばやく片付ける。

注文が決まったら手をあげれば誰かが聞きに行くと言い残して表へと戻っていった。

薄いメニュー表を見て悩むマリと、周囲の観察をするチェザーレ。ジアンもふんふんと鼻を動かせている。

食べるものを決めたマリがチェザーレに問うと、おすすめでいい、と返し、手を上げる。

テーブルの合間を縫うようにしてウェイトレスが駆けつけて注文を取り、お待ちください、と水を置いて立ち去った。


ほとんど待たずに料理が運ばれ、いざ食べようとした矢先に、相席かまいませんか?と先程案内してくれた女性が声をかけてきた。

特に否やはなく、コクリと頷くマリ。

チェザーレも了承するように頷いた。

礼を言った女性の後ろから姿を見せたのは先程話した(ゴールド)級冒険者パーティーの一人、ギースだった。

キョトンとするマリと、何となく分かっていたチェザーレ。


「先程ぶりだな。どうにも気になってしまった事があってな。」


席に座りながら言うギースに首を傾げる。

黙々と食事を続けるチェザーレではなく、マリに関心があるらしい彼はじっとマリの動向を見つめる。

その視線にいたたまれなくなり、握っていたフォークを置いて、水を飲んでからギースへと視線を向けた。


「あの…私になにか…?」


マリの問いかけに苦笑し、


『エアドーム』


いつもはチェザーレが使うその魔法をギースが使ってから、悪かった、と一言詫びて、


「見ての通り、俺はエルフだ。だからお前の精霊に興味があってな。」


そういうギースの言葉に首を傾げるマリ。

困惑げにチェザーレを見上げるマリに、それで伝わると思っていたギースも虚をつかれた顔をする。

食事の手を止めたチェザーレが胡散臭そうにギースを見てから、


「エルフってのは知的好奇心の塊みたいなやつが多い。特にエルディアの性を名乗るのは湖上都市のでの奴らでな。そいつらは一様に精霊を至上の友とし、敬い、共に生きる。こいつがマリにエンをどう思うか聞いただろ。精霊に対する姿勢を聞いたんだろ。それに…レイノルフだってお前に興味津々だっただろ?」


チェザーレの言葉に、脳裏にプラチナブロンドが美しいエルフが思い浮かぶ。同時に異常に近かったあの思い出も蘇って顔が引つるマリ。


「同郷の者がすまない…まぁそちらの彼の言うように俺たちは精霊の言葉に常に耳を傾ける。俺はシルフと契約しているから、風を使った諜報を得意としている。そのシルフが、お前から不思議な精霊の気配がすると言っててな…。」


表情から何かを察したギースの言葉に、マリ自身も分からずに首を傾げた。エン以外で共にいる精霊など居ないからだ。

近くにいるチェザーレやジアンの精霊では?と両者を見ると、釣られたようにギースも視線を動かす。


「いや、彼らの精霊ではない。俺も知らない精霊だ…。もしかして、無自覚なのか。」


今度はギースが驚く番だった。

どうやら無自覚らしいその様子にいたく好奇心が刺激される。

どの道、今受けた少年の捜索で何度か会うことになるだろう。

レンジャーとしての勘がそう告げている。

ならばその時に、この少女に宿る精霊を知ることが出来るかもしれないと思う。

知らないものを無理に聞き出せないな、と苦笑する裏にそういった打算を描き、エアドームを解除した。


すぐさま手を上げて、オススメを注文し、食事が止まってしまったマリに一言詫びる。

再び食べ始め、横の恐らくは竜族の男と、にこやかに話す様を見つめるギース。

観察すような視線にチェザーレが気づき、


「そんなに見なくても、正体バラして暴れたりはしない。」


チェザーレの言葉に、運ばれてきた料理の上にフォークを落としかけるギース。

表情にも視線にもそういった気配を載せていなかったにもかかわらず見抜かれたことに驚く。

彼がここに来たのはマリに聞くことが半分、もう半分は人に変じた竜というモンスターに警戒した為でもあった。


「驚いたな…俺たちが疑ってると気づいてたのか。」


呟くようなギースの言葉に、食事を終えてフォークを置き、皿を退けつつ頷くチェザーレ。


「冒険者に知り合いはいないが、お前たちの事は聞いたことがある。有名だしな。俺もお前にききたいんだが、倒した竜はどんな奴だった?」


薄い紫の瞳が、言葉と共に冷ややかに細められてギースを射抜く。

殺気にも似た威圧をぶつけられ、ぴくりと長い耳が震える。

こくりと喉を鳴らしたのはギースではなくマリで。

向かい合う形のチェザーレとギースの間で視線をさ迷わせていた。


「なるほど。アンタが俺らに殺気まみれなのはそれか。俺たちが倒したのは精霊国シルベアナで出会ったグランドドラゴンだ。名を聞いたが答えちゃくれなかった。病魔に侵されてたらしくてな、周囲に病魔を撒き散らしたくないといって、俺たちに倒すよう頼んできた。牙や爪、病魔に蝕まれていない身体を報酬にしてな。」


紫の瞳を碧眼が見返す。その眼差しは、竜を討った喜びではなく、苦痛にゆがめられていた。

その真意を汲み取り、そうか。と頷くチェザーレ。


「それは、星に還してくれてありがとうと言うべきだったな。済まなかった。」


「いや…。事情を話さなかった俺らも悪いしな。それに、グランドドラゴンの肉体はあいつと共に居たノームに任せてきた。俺たちは爪の一本も取ってない。ドラゴンスレイヤーを名乗るつもりもない。」


きっぱりと言い切ったギースに、僅かの間の後に笑うチェザーレ。

改めてありがとうと言えば、すっと左手を差し出す。その意図を汲んでギースも左手を差し出し、固く握手した。


「そういえばアンタは、竜種で言えばどの竜になるんだ?」


食事を再開したギースに、水を口に入れたチェザーレが首を傾げ、そしてニヤリと笑う。


「これは…即位して寝まくっていたツケだろうな。当代竜王、チェザーレだ。改めて宜しくな。出来ればお前のお仲間には言わないでいてくれると助かる。」


そう言ってのけたチェザーレに、声にならない悲鳴がギースの喉から漏れ、今度こそ本当に、フォークを落とした。

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