3章
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冒険者達には、独自の階級がある。
その階級に応じた依頼を受けることができ、階級以上はもちろん、階級以下の依頼にも制限がかかる。
昇格には試験を必要とし、素行が悪ければ降格もありうる。
試験はギルドが指定する依頼の完遂で、依頼主はギルドが選んだ試験官でもある為、ただ強いだけでは昇格出来ない。
階級は上から
白金
金
銀
鉄
銅
木
の6階級。
この内白金は、金の冒険者が国を救うレベルの偉業を成し遂げた時に与えられる称号で、現状は一人もいない。
一般的に鉄か銀まで昇格すれば、生活できるぐらいの稼ぎになる。
あとは老後の貯金を貯めて悠々自適な生活を送る、というのが冒険者の多くが目指す未来だ。
その上の金級というのは、人の姿をした人の常識から外れたもの、という認識が多い。
そしてもれなく2つ名を名乗る。
おおよそ人の到達できる頂点の強さを有するのが彼らで、この世界にひと握り程しかいない。
そのひと握りのなかのひとつが、今王都へと来ていたのだった。
「よっと。まぁ座れよ。今一人席を外してるが、直に戻ってくるからよ。っと、ルピナ!」
テーブルに戻ったフルプレートの男性からの声に、椅子を引いて座るマリとチェザーレ。
座りながらマリ達の背後、階段から降りてきた女性に声をかける。
こちらに気づいた彼女は、見慣れた仲間と、見慣れない2人と1匹に困惑しながら席に座った。
「話す前に自己紹介しとくか。俺らは金級冒険者で、俺は剣士のベフィル・ドザイア。二つ名は大剣だ。」
そう言って気さくに笑うベフィル。20代後半の見た目で、くすんだ金髪に青い目が印象的な整った面立ちの青年で、笑顔になると随分と若く見える。
「レンジャーのギース・エルディアだ。二つ名は一矢。」
続いて名乗ったのは動きやすそうな革鎧を随所に纏い、綺麗な金髪をポニーテールに結い上げ、濡れたように輝く碧眼を不機嫌そうに歪め、尖った耳が印象的なエルフの男性だった。
「メイニィよ。苗字はないわ。魔法使いをしているの。二つ名は暴風よ。」
次いで名乗ったのは艶やかな声が耳に心地いい女性で、波打つ豊かな黒髪を背中まで伸ばし、鮮やかな翠の瞳が楽しそうにマリたちを見つめている。
ゆったりとした黒いローブの上からでもわかる胸の膨らみに、マリの視線が吸い寄せられる。
「神官のルピナ・フォン・アスノルと申します。二つ名は癒風を賜っております。」
最後に名乗ったのは白を基調に、金の複雑な刺繍が見事な僧服を纏った女性で、綺麗な金髪を肩の辺りで切り揃え、赤茶色の瞳を興味深そうに瞬かせていた。
「チェザーレだ。冒険者ではないから、階級とやらもない。こっちのちっっこいのはマリ。そこの犬っころはジアンだ。」
名乗ってくれた彼らを順繰りに見ていたマリはチェザーレの声に慌ててぺこりと頭を下げる。
犬と言われたジアンはぶすくれていたが。
「お前たちに聞きたいのはここ数日で登録した少年のことを知っているかどうか、だ。」
チェザーレの物言いに、ぴくりとギースの耳が跳ねるが、ベフィルは気にした風もなく顎に手をやって悩む素振りを見せる。
「そいつを聞いてどうする?冒険者ってのも一応仲間意識みたいなのはあるんでな。身内の情報をおいそれとは言えねぇな。」
顔は笑っているが、瞳を剣呑に光らせるベフィルに、ふん、と鼻を鳴らすチェザーレ。
段々と悪くなっていく空気にいたたまれなくなり、俯くマリの肩で顕現したままのエンが心配そうに首を傾げている。
「とっ捕まえて説教する。己の実力も弁えずに暴走するような馬鹿には妥当な仕置きだと思うが?」
剣呑な視線を薄い紫の瞳が跳ね返して言う。
その言葉に虚をつかれたのか、僅かの沈黙の後に、笑い出すベフィル。
メイニィもそういう考え、好きよ。と笑っている。
「そのお話は、先程私がギルド長からお伺いした話と一致致しますね。ギルドとしてもその少年を探しているようです。」
そう口にしたのは先程階段から降りてきた神官、ルピナだった。
仲間からの口添えにそうか、と頷くベフィル。
「じゃあ黙りって訳にはいかねぇか…が、生憎と俺らも昨日この街に着いたばっかりでな。件の少年とやらは見ていない。って待て待て。話には続きってもんがあるんだよ!」
途中まで聞いたチェザーレが席を立とうとしたのを留めるように手を振るベフィル。
胡散臭さをありありと浮かべて再び座るチェザーレをマリが小声で窘めている。
「今は知らねぇ。だが、ギース。」
ベフィルに水を向けられたギースはむすっとした顔を変えることなく億劫そうに頷く。そして真っ直ぐとマリを見つめた。
「マリといったか。娘。その精霊はお前にとってなんだ?」
唐突にそう問いかける。
自分に話が来るとは思っていなかったマリが弾かれたようにギースを見れば、彼の仲間全てがマリを見ていた。
視線の強さに声が震えそうになるが、のどの辺りにエンが頭を寄せて温めてくれる。撫でながら、ギースの綺麗な碧眼を見つめ返し、
「ぬくもり、です。」
その一言がマリがエンに抱く全てだった。
それを聞いたギースは、先程までの不機嫌な顔が嘘のように優しく笑い、頷く。
「いいだろう。2日だ。2日でその少年の足取りを調べて見せよう。」
ギースの思わぬ言葉に驚く。
彼の仲間たちもその言葉に否やは無いらしく、マリは思わずチェザーレを見上げた。
その彼は相変わらず胡散臭そうな視線を向けていたが、話が進むことに文句はないらしく、浅く息を吐いた。
「なら、2日後の夕刻にここに来よう。」
そう言って今度こそ席を立つ。
釣られるようにマリも立ち上がり、ぺこりとベフィルたちに頭を下げて、既に歩き出していたチェザーレを追っていく。
続いた狼がちらりとベフィルを見るが、マリに呼ばれて駆けていった。
「ギース。」
彼らを見送った後に、ベフィルが声をかける。分かっているとばかりに頷くギース。
『エアドーム』
彼の声と共に薄いドームがテーブルの周囲を覆い、周囲の声が遠ざかる。
「あの赤毛の男、かなりの高位精霊と契約している。恐らくは人間ではない。」
「あの狼、恐らくは影狼ね。純血じゃなさそうだけど、昔見た影狼とよく似ているわ。」
ギース、メイニィと続けて言えば、それに続くようにルピナが口を開く。
「あの赤毛の方は恐らく竜種でしょう。高位精霊と契約できる生き物の筆頭は彼ら竜族ですから。」
仲間たちの感想に重く頷くベフィル。彼自身もあのチェザーレにはただならぬものを感じていた。
「そしてマリというあの娘。サラマンダーの幼生を連れてはいるが、契約をしているような繋がりはない。何よりあの娘、妙な感じがする。」
難しい顔で続けるギースに、一同の視線が集まる。
それを気にすることなく悩むように首を傾げる。
「妙なって、魔物が成り代わってるとかいうようなか?」
ベフィルの問いかけに即座に首を横に振るギース。
「いや、悪い意味ではない。俺の知らない精霊の気配がするんだ。サラマンダーの幼生とは別のな。」
ギースの言葉に首を傾げるが、重ねて悪いことでは無い、と言われる。
そしてルピナによるギルド長からの詳しい話を聞き、諜報に長けたギースが先に、残り3人も泊まっている宿へと戻っていった。
本日2回目の更新になります!
なにか閑話にしようと思ったんですが、話が上手くまとまらず…また別の機会に書きたいです…。
面白い、続きはよ!と思われたら是非ブクマお願いします!
今後ともよろしくお願いします!




