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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
三章―英雄と獣王国編―
60/116

3章

59

――――


チェザーレとマリが並んで座り、足元にジアンが寝そべる。

マリの前にはにっこりと笑ったリュナが座り、チェザーレとシュルードは言葉でなく視線で腹の探り合いをしているのか、お互い視線を外さない。

ちらりとテーブルを見れば、王の手紙にはざっくりと、国の賓客だからできるだけ便宜はかって宜しく。という内容が小難しい言葉と共に書いてある。

チェザーレ自身の身分のことには触れておらず、目の前のギルド長は見ただけでチェザーレが竜だと見抜いたことになる。

徐々に重く張り詰めていく室内の空気に身を縮こまらせながら、それは凄いことなんじゃないかな、と思うマリ。


「さて、どう言ったご要件でしょうかな?」


睨み合いのなか、ようやく口を開いたシュルードに、小さく鼻を鳴らして足を組みながら、


「明るい茶髪に黒い瞳の、イツキ、という少年がここ数日で登録に来たはずだ。その少年の動向が知りたい。」


チェザーレの言った内容にぴくりと反応したのはリュナだったが、シュルードは一切表情を変えずに、たっぷりと間を置いてから、


「お答え出来かねますな。冒険者の身柄を守るのもギルドの務めです。おいそれと情報を吐く訳にはまいりませぬ。」


きっぱりとチェザーレの要求を突っぱねる。

思わずチェザーレを見上げるマリだったが、チェザーレはその対応が分かっていたのか、口元の笑みを絶やさない。


「まぁそうだろうな。だが此方としても聞かねばならん事情がある。かの少年が竜王山を越えようとしている、と言ってもか?」


その情報に、シュルードの鉄壁の表情筋が動いた。

僅かの逡巡の後に、咳払いをしてからリュナを見る。

リュナはギルド長の意志を汲んで席をたち、部屋を出ていった。


「なぜその少年が竜王山を越えると?」


シュルードの尤もな問いかけに、さっき突っぱねられた意趣返しのように口を噤むチェザーレ。

その膝をぺちりと叩いてからマリがここに来て初めて口を開いた。


「やま…じゃない、えっとイツキ君は、私と同じ異世界から来た人間なんです。彼は、獣王国に行きたいらしくてお城を抜け出しました。その足でここに来たみたいなんです。」


マリの説明に、流石のシュルードの表情も驚きを表す。異世界からの来訪者に、生きているうちに会うことなどないと思っていたからだ。

彼女の言葉が真実かどうかなど、多くの人を見てきたシュルードには手に取るように分かる。

なるほど、と頷いた時に、ノックとともにドアが開いてリュナが戻ってきた。

手には何やら紙の束を持っていて、それをシュルードへと手渡してから、ソファへと戻った。


「王様は、獣王国へ行くのはだめだと、危険だと言ってイツキ君を止めました。それに反発する形で、冒険者ギルドならば、国の影響を受けないと聞いて、ここに来たはずなんです。」


続くマリの言葉に、居なかったリュナは大凡の事態を把握してちらりとシュルードの顔を見る。


「わかりました…。特例ではありますが、お教え致しましょう。」


肩の力を抜いたシュルードが、書類から顔を上げて頷く。

彼としても、少年の事が気になったのもある。


「まずイツキという少年ですが、先日確かに登録されています。代筆はリュナでしたね?」


一枚の書類をテーブルに置いたシュルードに言われ、こくりと頷くリュナ。

書類には綺麗な字で名前と職業が書かれていた。


「活発そうな少年でしたが、文字は読めるし話せるけど書けないと言われて代筆致しました。名前は確かにイツキ、と。職業を聞いた時に、少し悩んだ素振りでしたが、剣士と言っておりました。」


書類にもそう書いてある。

マリ達はこの世界の文字が読め、話すことには不自由はない。だが書くとなると話は別で、マリも今でこそ少しは書けるが、習得に四苦八苦したものだった。


「登録してからクエストボードを見に行き、色々と悩んでいるようでしたが…すみません、私も他の方の対応をしていまして…そこから先は姿を見ておりません。」


リュナの申し訳なさそうな声に、首を振るマリ。


「なら、下でたむろってる冒険者の誰かに聞いてみるか?」


今まで無言で話を聞いていたジアンが口を開けば、ぎょっとしたシュルードとリュナがジアンへ視線を向ける。


「あ?あ、そうか。オレ人型だったな、登録した時。ジアンだ。あんたら二人、会っただろ。ここに登録した時に、クマ持ってきたらあんたらに呼び出された。」


しれっとそう言ったジアンに更に驚く。

ふすんと不機嫌に鼻を鳴らすジアンに、はっとした顔で手を叩くリュナ。


「人狼族の!竜王山の麓の村に出たウォーベアの上位個体を倒して頂いた…!」


リュナの言葉に今度はマリがぎょっとしてジアンをみやる。

ウォーベアがどんなものかは知らないが、熊という生き物の強さは朧気もわかる。改めてこのパーティの戦力はおかしい。と痛感した。

リュナの言葉に、頷いたシュルードは、その節は助かりました、と礼を言ってから、先程ジアンが言ったことに関して、それをお勧めするという。

だが、冒険者とて情報の大切さは知っているため、聞く時は十分に注意するようにと釘を刺す。


「冒険者の喧嘩は死に損。喧嘩を売ろうが買おうがギルドは取り合いませぬ。それが決闘であろうが闇討であろうが、ね。あなた方なら心配はいらないでしょうが、そこのお嬢さんはしっかりと護ってあげた方がいい。」


そう言うシュルードに当然とばかりに頷くチェザーレとジアン。


「こちらもなにか情報を掴めばお知らせ致しましょう。こういうのは筋違いではありますが、どうかイツキという少年をお願いします。私個人としても、まだ幼い子供一人を死なせたくは無いのでね。」


そう締めくくって礼をするシュルードに、再び頷いて席を立つ。

リュナの先導の元、階下に戻れば再びざわめくギルド内。

リュナはカウンターの中に戻り、澄ました笑顔で冒険者たちの対応をする。


マリ達はぐるりとギルド内を見回してから、テーブル席でこちらを見ている3人組のパーティーと視線があった。

迷うことなくその3人に近づいていくチェザーレに、慌てて後を追うマリ。

だが、マリとチェザーレの間に、いかにも、と言った風体の男二人が立ち塞がってマリを見下ろす。

傍らにいるジアンなど、ただのペットのように思っているのか、気にも留めない。


「おっとぉ、お嬢ちゃんなかなか可愛い顔じゃないか?こっちにきて俺らの話を聞いてくれよ。」


いかにもな風体、いかにもな誘い文句にマリは露骨に嫌そうな顔で見上げる。

まさかこんなテンプレートのような輩がいるのか、といった視線に2人組はどう思ったのか、にやにやしながら片割れがマリの手を取ろうとして、突然手首に巻いたブレスレットが火を吹いた。


「おぅわ!?な、なんだ!?」


一瞬で消えたものの、手に残るちょっとした熱に驚いてその手を引っ込める。

何もしなかった片割れは眉を寄せてマリの肩を指さした。


「おいこいつ!サラマンダー憑きだ!」


叫ぶように言った声はギルド内に広がり、一気に視線を集めるマリ。

その視線に萎縮しつつも、肩で2人組を睨むエンの頭をそっと指先で撫でる。

さらになにか言い募ろうとした片割れの肩に、ぽんと背後から手が置かれた。

その感触に振り返った冒険者が見たのは、絶世と言っていいほどの美貌に全く笑顔に見えない笑顔を張り付かせたチェザーレだった。

ひっ、と出すつもりのなかった悲鳴が自然と喉から出る。手首を押さえたもう一人も、ぽかんとチェザーレを見ていた。

筋骨隆々の男二人が、細身の青年の笑顔に気圧される図は、ギルド全体を緊張感で包む。


「まぁまぁ、お嬢ちゃんも何ともねぇし、こいつらのバカは見逃してやってくれや。」


そんな空気の中、チェザーレたちが目指していたテーブルから立ち上がった1人の男がチェザーレへと声をかけた。

がちゃりと鎧を鳴らしながら歩くその男性は、身長はチェザーレと同じぐらい高く、全身を覆うフルプレートを苦もなく着こなしていることから、相当に鍛えられているのだろう。何より、彼が座っていた席の横には、身の丈ほどの刃を持つ大剣が立てかけられていた。


「あ、あいつ…。(ゴールド)級冒険者のベフィルじゃねーか。」


ぽつりと漏らした誰かの声は、しんとしたギルド内でひどく響く。

べフィルと呼ばれた男は、気さくにチェザーレへと話しかけ、固まった二人組を引き離す。


「俺らに用があったんだろ?聞くからまぁ落ち着けよ。」


歯を見せてぱっと笑うべフィルに、肩に置いた手を離して頷くチェザーレ。

今度はマリを伴ってベフィル達がいたテーブルへと向かった。

連載開始2ヶ月!2回目の肉の日です!

本日はこの更新分と、22時にもう1話更新します!

是非よろしくお願いします!


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